事務所ビルの基準階レンタブル比って?

必要に迫られて事務所ビルのプランをいろいろ考えています。鉄筋コンクリートの建物は大空間が取れると言われています。大スパンを飛ばすために鉄骨鉄筋コンクリート構造や、プレテンション・鉄筋コンクリートなどさまざまな工法が開発されてきました。しかし、ごく普通の鉄筋コンクリートでごく普通のスパンで構造を考えることが一番コスト的に経済で、構造的にも無理がないのです。これを経済スパンといいます。普通の鉄筋コンクリート・ラーメン構造では、6mから8mのスパンで柱をとるのがよいとされています。事務所のプランニングなどでは、この間の7mでスパンをとると7×7=49㎡となり、プランニング上も都合がよいわけです。これを経済グリッドとか、基本グリッドと呼びます。

肝心のレンタブル比の話に行く前に、もうすこし予習が必要です。3、4階以上の建物を計画するときに、各階にどうしても必要な施設や設備があります。たとえば、4階以上の建物には避難できる階まで通じる階段が2つ以上必要だという法律があります(参照:建築基準法施行令第121条)。あるいは、4階以上だとエレベーターが通っているのも当たり前ですよね。トイレも当然必要です。こういったものをまとめて「コア」と呼んでいます。

さてやっとレンタブル比です。貸事務所ビルを考えてみましょう。貸事務所ビルを建てる事業者は、テナントから面積に応じた賃料をもらうことによって収益をかせぐわけです。月坪1万5千円とか、高いところだと月坪3万円とか5万円とかいうところもあるようです。そこで、その貸事務所ビルがどれくらい収益性がいいかをその階の面積で、事務所部分の面積を割った比で収益性をあらわします。これが「貸出可能面積比率」という意味で、「レンタブル比」と呼ばれます。

事務所ビルのそれぞれの階はほとんど同じ形をしています。また、事務所部分以外といえばコアしかありません。したがって、レンタブル比とはいかにコアの面積を小さくして、事務所を大きくとるかにかかっていると言っていいでしょう。ところが、あまり事務所が大きくなりすぎると火事などの災害があったときに逃げるのが大変難しくなります。このため、先ほどの建築基準法施行令121条の直前の120条に直通の階段までの最大の距離が定められています。通常の場合、40mから50m程度となります。また、せっかく121条で2つの階段を設置しても、隣合わせであっては意味がありません。このためそれぞれの階段にいたる距離の重複距離の最大限も決められています。また、いくら照明がふつうに使われているとはいえ、あまり窓から遠いのも考え物です。これらの要素を考え併せて、通常事務所は最大でも奥行き20m程度、長さも40m程度をひとつのユニットにするケースが多いようです。だいたい200坪から300坪くらいでしょうか。


さて、この図ではレンタブル比はいくつになるでしょうか?予備線をわざと残しているのですが、縦横7mとしてください。さきほどの基本グリッドです。
これでいくと事務所部分が縦3マス、21mと、横4マス28mとなります。したがって21×28=588㎡となります。あるいは、単に4×3=12マスと数えてもよいでしょう。そうすると、全体は4×4=16マスとなります。12マス÷16マス=75%ですね。この場合はレンタブル比が75%ということになります。

コアと事務所の横幅が同じなら、縦の長さでレンタブル比が決まることもこの図からわかりますね。事務所部分の3マスを全体の縦の長さ4マスでわっても、75%のレンタブル比になることがわかります。

いろいろやってみるとわかるのですが、現行の法律でいくと階段やエレベーター、トイレなどをとるとどうしてもコアは200㎡、4コマ程度必要になります。先ほど申し上げたように、事務所の奥行なども制限をうけますので、縦の長さで3マス21mあるいは4マス28m程度が限界ではないでしょうか?これは大規模な事務所ビルではレンタブル比があがらなくてこまってしまいます。そこで、中コアという形態をとることが中規模以上の貸事務所ビルでは多いようです。

Office02
この場合のレンブル比は縦7マスのうち6マスまでが事務所部分となりますので、6マス÷7マス=85.7%となります。だいたい事務所ビルでは85%程度が限界ではないでしょうか?

このほか、最小限のコアとするために、階段のひとつを外階段にしてしまうなどの方法もあります。また、コアの廊下をうまくとって事務所部分を分割するためのテクニックなどもあります。それはまた別の機会に説明させていただきます。

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構造計算の基本ってなに?

諸事情があって建築構造の勉強をし直しています。集中的にやるといままでばらばらであった構造力学と各種構造が一体のものだと感覚的なのですが、見えてきました。

ルート1とか2とか、限界耐力計算とか、梁と柱の接合など、いろいろな構造設計方法とその検証方法はあります。構造力学の基本を考えれば、さまざまな方法も次の3つの応用につきるのではないでしょうか?私は建築関係者とはいえ、構造設計そのものを経験しているわけではありません。以下の記述には間違いがあるかもしれません。その時は、そっとコメントなどでご指摘いただけるとうれしいです。

    A. たわみの公式 = モールの定理
    B. 軸力、せん断力、モーメント = N図、Q図、M図
    C. 全塑性モーメントと降伏ヒンジ = C=T


最初はモールの定理です。Wikipediaの記事は、英語版のWikidpediaから翻訳しました。記事のあたまに注意書きがあるように、まだ翻訳の途中ではあります。

  • モールの定理 @ wikipedia
  • Wikipediaの記述だけではわかりにくいかと思いますが、モールの定理とは基本的に梁に荷重がかかったときにどれくらいその梁たわむかを計算する方法です。Wikipedia に載っている各梁部材にせん断力、モーメント、たわみが順便に書いてあります。基本的にはてこの原理で、力とその作用点からの距離をかければそこにかかるモーメントが求められます。しかし、現実には梁の両端の固定具合によりたわみの仕方も変わります。そこで、力の作用点から各点への距離に応じた力の三角形のようなモーメント図を書くと、あらふしぎその面積がたわみ角になり、その図形の面積と図形の重心からの距離をかけるとたわみになるというのが基本的な考え方です。ほんとうに狐につままれたような話ですよね。たぶん、微分積分に明るい方は式を見るだけでなぜこういう式が求められるのか、おわかりになると思います。

    私のわかりずらい解説よりも、こちらのサイトの非常に懇切丁寧な解説の方がよいと思います。

  • 05 構造(力学計算編) 「モールの定理(その2)」のWEB講義 @ 一級建築士合格物語
  • 柱にしろ、梁にしろ、荷重がかかれば現実の部材はたわむわけです。このたわみをいかに許容範囲にするのかがまず第一の構造設計の課題。そして、地震や雪や風の力も力には違いありません。それらの力を、きちんとニュートンという力の単位であらわしてやればその建物が、たとえば各階別にどれくらいたわむかが求められます。この各階の層間変位といいます。これが何に役立つかというと、かなり複雑な許容応力度等計算とか水平体力計算とか限界体力計算などでも、結局はこの層間変位を200分の1とか、120分の1とかにコントロールするかに尽きるわけです。

    (層間変形角) 第八十二条の二  建築物の地上部分については、第八十八条第一項に規定する地震力(以下この款において「地震力」という。)によつて各階に生ずる水平方向の層間変位を国土交通大臣が定める方法により計算し、当該層間変位の当該各階の高さに対する割合(第八十二条の六第二号イ及び第百九条の二の二において「層間変形角」という。)が二百分の一(地震力による構造耐力上主要な部分の変形によつて建築物の部分に著しい損傷が生ずるおそれのない場合にあつては、百二十分の一)以内であることを確かめなければならない。

    @ 建築基準法施行令

    この意味でモールの定理がすべての構造計算の第一歩なのではないでしょうか?


    次に力をあらわすN図、Q図、M図です。

    Nmq01

    「nqm.xls」をダウンロード

    エクセルでささっとかいたものなので、非常にわかりずらいと思いますが、左から加わる力に対して、各柱にせん断力QがかかりモーメントMが生じるということを表しています。ここですごいのが、柱の上下にかかるモーメントを柱の高さでわるとせん断力Qが求められるということです。

    (125kN・m+125kN・m) ÷ 5m = 50kN

    50kN × 2本 = 100kN

    もちろん実際は逆に力が二本の柱に等分にかかるので50kNのせん断力。そして、このせん断力からモーメントMとなるわけです。根本にかかる力とかいろいろあるのですが、単純化していってしまえばここに尽きます。

    そして、梁に対してもどうように右と左で125kNずつかかるわけですから、梁のせん断力Qが梁の長さで割ってやればもとめられます。これでほぼすべてなのです。仮に梁の長さを8mとします。

    (125kN・m+125kN・m) ÷ 8m = 31.25kN

    ということは、梁に上下にかかるせん断力が31.25kNとなり、この力は接続しているさきほどの右、左の柱に伝わります。柱に伝わった力はそのまま柱の軸の方向に柱を押しますので、軸力となります。

    かなり複雑な建物でも、この門型ラーメンにかかる力が求められればその組み合わせで求められます。先ほどのモールの定理とあわせて、かかった力が相互に作用して、モーメントがせん断力となり、せん断力が軸力となるわけです。あるいは柱と梁で拘束しあっているといってもいいかもしれません。つまりは、建物はお互いに力を掛け合うことによってバランスを保っているといってもいいかもしれません。

    基本的には、この門型ラーメンの組み合わせでほとんどの建物に働く力が解析できるといってもいいかもしれません。そして、力が決まれば先ほどのモールの定理で部材の変形ができ、繰り返しますが層間変形角が求められます。


    そして、最後の全塑性モーメントです。ひずみまでは柱や梁が破壊しないことを前提にしています。塑性状態とは、もはや元にはもどれないまでも接点を結びつけておけるとか、モーメントは伝えられなくとも軸力だけは伝えられるといった状態をいいます。これも外力と内力という門型ラーメンにかかった力とそれぞれの部材の全塑性モーメントを使って求めることができます。先ほどの門型ラーメンの各接点のよな剛な接点は、軸力も、モーメントも、せん断力も柱から梁、梁から柱へ伝えられます。塑性状態では、モーメントやせん断の力はもはや伝えられません。それでも、引っ張りと圧縮はつりあっているというのが大きなポイントです。これが大きな地震がかかった時に建物がどういう性状になるのかを求める二次計算の基本です。

    Sosei

    耐震偽装事件で問題になったのもこの塑性状態になって、剛なままでは吸収し切れなかったエネルギーをヒンジが生成することで建物の骨組みが一時的には耐え、人の命は守るという考え方です。この三角形の部分は剛のままでは突然星印のところで崩壊してしまうところを、途中からヒンジができることによりこの台形の部分に移行して大きな変形にも耐えられるようにするというのが、当初数値ばかりが一人歩きしましたが、必要保有水平耐力、Qu/Qunというものの考え方です。

    いつぞやこのブログでも、リンクを掲載したe-ディフェンスなどの動画を見るとヒンジと全塑性状態というものがどのようなものかご理解いただきやすいと思います。

  • 独立行政法人防災科学技術研究所 兵庫耐震工学研究センター
  • 構造の基本とはこの3つだということがおわかりいただけたでしょうか?あとは、求めたい建物にどのような力や荷重が働くかを求めれば、自然と構造設計、構造計算ができることになります。まだ、この程度だと仮定断面といわれる企画設計レベルをするのに必要な荷重や軸力、せん断力、モーメントまでしかもとめられませんが、複雑な構造計算も基本はここからです。この3つを理解できれば、あとは部材の設計の基本的な考え方も理解でき、構造プログラムの結果も読めるようになるはずです。

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    住宅の平均寿命って?

    少し前から、日本の住宅寿命は本当に短いのだろうかとい考えていました。ある方から、村松秀一先生のプレゼンのお話を聞き、納得できました。

    結論に達する前に自分なりに調べてみたことから説明させていただきます。

    過去の住宅の着工件数と住宅ストック(現存する住宅戸数)の統計をほうぼうからひっぱってきて表にしました。最近のデータが手に入らず、平成10年時点を基準にしています。


    建築年代 経過 H10時点の 戸数 同期間 残存率
    年数 構成比 (千戸) 着工数
    不明 2.30% 1,156
    1944年以前 65 3.80% 1,910 13,700 22%
    45~59年 42 5.90% 2,965 5,018 59%
    60~69年 35 12.50% 6,281 8,382 75%
    70~79年 25 26.20% 13,166 15,310 86%
    80~89年 15 27.30% 13,718 13,600 101%
    90~98年? 10 21.90% 11,005 11,950 92%

    「残存率」とは、それぞれの建築年代に建築された住宅が現在どれくらい残っているかを示しています。矛盾するデータが解決できず、90年代以降の建築物の残存率はどうも間違っているようです。本来限りなく100%に近い数字でなければなりません。

    よく報道される日本人の「平均寿命」とは、その年に各年齢階層ごとの生存率(1-死亡率)を累積してかけていって、50%になる年齢階層を言います。同様にそれぞれの年代で残存している住宅数で言えば、すでに住宅の寿命は40年以上ということになります。

    一般に「住宅の平均寿命は25年程度」と言われるのは、現存する住宅ストック5000万戸あまりを、ついこの間までの好況を背景に建築されていた200万戸で割った年数を言うようです。      

    1960年代以降、特に70年(昭和55年)以降建築された住宅はほとんど壊されていないこともわかります。太平洋戦争直後の質の悪い建物は、昭和50年代にかなり解体されてしまった様子がエクセルファイルを見ていただけるとわかると思います。実際、平成のはじめころまでは年間100万戸単位で解体されていました。しかし、最近では年間40万戸程度しか解体されません。5000万戸を40万戸でわれば、100年を超えます。つまり、このままほっておけば100年住宅は結果的に達成されてしまう状況にあります。

    こうした背景を調べてみた私としては、村松先生の言葉が身にしみます。

    5000万戸以上の住宅のうち、建設年代で区切ると、昭和50年代以降に建てた住宅が60数パーセントになっています。昭和50年代以前の日本はいわゆるオイルショック前の高度経済成長期にあたります。昭和50年以降の生活は、例えば携帯電話が出てきたり、パソコンを持つようになったり、家庭用ビデオの普及などいろいろなことがありましたが、もう戦後的な貧しさから脱却して上昇していこうとする時代ではないわけです。住宅も昭和50年以前は激しく変わっていますが、昭和50年代以降はそんなに大きく変わっていません。こういう問題で論点になるのは、昭和56年に建築基準法の耐震基準が大きく変わったことです。新耐震と言われていますが、それ以前と以後の建物では則っている基準が違うので、昭和55年以前の建物は今の基準法に照らせば、耐震改修をしなくては適法ではないものがあるわけです。ただ、昭和56年以降に建てたものに限っても既にストックの半分以上を占めています。だから概括的に申しますと、過半数を占める住宅は十分な質を持っていると言えます。

    「200年住宅」と住宅産業の未来

    ここ数か月の疑問が氷解しました。村松先生、ありがとうございます。

    ■参照

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    建築構造の常識とは?

    「建築の構造の常識」ってなんなのか日々自問自答しています。自分に問わざるを得ません。finalventさんのエントリーを拝読して、改めてこれは難しい問題だと思いました。

    建築構造がどうあるべきかは、建築基準法に書いてあるだろう、と一般に言われます。確かに、建築基準法に建築構造の「基準」は示されています。しかし、あくまで大きな枠組みが示されているだけであって、特に詳細については今回の改正で多くの規則が導入される以前には、基準の詳細を民間の団体の基準を暖用していていました。官庁の側には建築構造の専門の方があまり在籍されていないこともあって、構造基準の解釈の多くの部分は、構造設計者の「常識」にまかされていました。それではいかんというので、適合性判定という新しい制度を導入してまで構造のチェックを行うようになりました。いまから考えれば、建築確認は確認にすぎないという立場を守るためには、従来の確認制度とは別の制度を作らないと、これまでの「確認」制度とはなんであったのか問われることになるという判断で新制度の導入になったのかもしれません。

    大規模な超高層建築物ならともかく、私ふぜいが建築屋の社長としてかかわる規模の建物に関して、これまで新しい制度で経験してきた感想としては、新しい制度は時間がかかるわりには、建築物の質が格段に向上した感じがしないです。また、建築を依頼される方の多くは、新しい制度で指摘を受けるような構造のごくごく一部分の「こだわり」よりは、コストパフォーマンスのバランスに関心を向けていらっしゃるように感じます。つまりは、建築構造は大騒ぎになったわりには、構造をがちがちに向上させることに関心が向いていません。正直、構造基準をこれ以上厳格化してコストがあがり、建物がたてにくくなり、既存の建物が不適格の烙印をおされるのはもちろん、増改築が不可能になることは社会的な負担以外のなにものでもないのではないでしょうか。まして、今回の不況でますます建築コストへの要望が官庁も含めて強くなっているように感じています。

    東京財団というところが、構造強度などを選択的に選べるようにすればよいという提言を出しています(参照)。質的なランク付けは住宅性能表示制度(参照)ですでに実現されているといえばされているといえます。これも私ふぜいがかかわる建築物では、住宅性能表示を使うことはまれです。質的向上へのインセンティブをという提言ですが、人々の関心がそちらへ向いているのでしょうか?

    昔、構造設計者のトップに立った方が「英国では建築構造の基準について大きな議論と問題があり、結局政府レベルでの規制はやめた」と書かれた文章を読みましたが、その後ネットでいくら探してもそのような話は出てきていません。どちらかというと、英国、米国のregulationとか、codeとかを読んでいて感じるのは、「コストとの見合い」あるいは「コストダウン」というやはりどこへいっても建て主側の関心はコストパフォーマンスなのだということです。

    正直に言いまして、地震という非常に予測しにくく、べき乗則的なふるまいをする現象に対して絶対安全な建物というのは存在しないと私は思っています。地震が右から来るのか、左から来るのか、横揺れか、縦揺れかでも違います。構造設計においても、一定のところから先は建物自体が非線形なふるまいをすることが知られています。先の構造設計者が英国に託して発言したこともよくわかるのです。この事実は、耐震実験の様子を見ていてもよくわかるのではないでしょうか。

    元に戻って朝日新聞の社説のここの部分がなにを言いたいかよくわかります。

    ホテルの1階は強度の強い壁がないピロティ構造だった。阪神大震災でこのタイプの多くのビルがつぶれた。2階から上は、真ん中の廊下を挟んで部屋が向かい合っている。壁が廊下で分断されていれば強度は落ちる。 (参照

    前回の建築士一級の試験でもこのままの構造体が問題として出題されていました。建築行政に関してこの手の建物を「常識はずれ」にする大きな動きがあることをよく示しています。しかし、このごく一部を問題にするよりも、建築全体として数多くの既存不適格建築物の問題や、密集地の問題、あるいは過疎によりメンテナンスできなくなる地域、コストパフォーマンスとしてみた場合の、ユーザーである建築主の利益をもっと大きなフレームで見る必要があるように私には思えてなりません。

    改めて、建築構造の常識とはなんなのでしょうか?私もぜひこの問いをいろいろな方に聞いてみたいです。

    ■参照

    「揺れるマンション」顛末記の中の方が書いていらっしゃることがとても救いです。

    幸いにして、うちの役所は例外のようです。当初から、法規についての問題点を意識し、国の拙速とも思える対応とは一線を画していたように思います。ビジネ スホテルのオーナーと分譲マンションの住民とでは立場が違いますが、役所の担当者の姿勢は、いつも住民に有利とはいえないものの、納得できるものでした。

    守るべきはあくまで市民生活であると私も思います。

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    [書評]"絶滅貴種"日本建設産業

    先日の「建築基準法の再改正を考える集い」で、お会いした草柳俊二先生から「読みにくいだろうけど読んでごらん」と言わて本書を読みました。正直、私の仕事である「地域の建設会社」の仕事の仕方とはかなりかけ離れた国際プロジェクトの世界の話なので、読むのに時間がかかりました。

    本書で書かれている対象の規模とは、単なる建設業の守備範囲を超え、PFIとか、EPC(Engineering, Procurement and Construction)と呼ばれるような大型プラントの受注、デザイン、調達、設置などのターンキープロジェクトクラスのようです。どれくらい大きいかといえば....、たとえば、「EPC」という単語でグーグルで検索するとまっさきに東芝さんの巨大プロジェクトのケースが出てきました。

    本書の著者であるクリス・R・ニールセンさんは、国際プロジェクトのプロジェクトマネジメントや評価をかなり経験してきた方です。

    考えてみれば、すごい肩書きですよね。Ph.Dは博士号、J.D.は法学博士、P.M.P.は本書に出てきましたが「プロジェクト・マネジメント・プロフェッショナル」、MRICSは初めて見ましたがぐぐってみると"Member of the Royal Institution of Chartered Surveyors"のことだとわかります、MJSCEはぐぐってすらわかりませんがたぶん土木工学の修士号だと思います(Master of J*?* in Socia Civil Engineering)。

    本書の主要なメッセージを、箇条書きにすれば以下のような内容だと私は理解しました。

    • 日本の建設業界は96年の政府のWTOの世界標準に調達や入札制度を合致させるという合意にもかかわらず、国内の建築法規体系や契約慣習が改善されていない。
    • しかるに高い技術をもつ日本の建設会社は、本来世界標準の契約制度に習熟すれば、没落していく日本の市場と比較してアジアを中心として今後成長を遂げていく世界の建設市場の大きなプレーヤーとなれる可能性を秘めている。
    • 日本国内の建設プロジェクト推進体制をWTOやFIDICに合わせたものにすることと、日本のゼネラルコントラクターが世界に進出するのは表裏一体である。

    ちなみに、本書であげられている世界の建設市場の予測です。実に魅力的な数字が挙げられています。表の数字の単位である「10億米ドル」とは約一千億円ですから、東アジアの市場だけで5年で1000兆円、年間200兆円という額になります。国内市場の衰退に慣れ親しんだ我々からいえば垂涎ものです。

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    ちなみにちなみに、WTOとFIDICについて調べてみました。

    • FIDICとは @ 日本コンサルティング・エンジニヤ協会

    基本的にはWTOの協定などの国際条約は国と国との約束なので、国内法に優先するとインターナショナル・ビジネス(IB)の授業で教わりました。本書の指摘するとおり、これらの国際標準にかなわない国内の法律や慣習は改変する必要があるのではないでしょうか?この観点に立てば、建設業法と、建築基準法の一部は特にWTOあるいは国際基準と適合しないように本書を読んで思いました。

    そもそも日本の市場の特殊性は「相互信頼」を原則としているところから始まると著者は言います。度重なる施主要求事項の変更や、カントリーリスク、さまざまな要因によりおこる下請け企業(subcontractor)の遅延など、世界市場では「相互不信頼」の要素に満ちています。ただし、相互不信頼の原則に基づくWTOやFIDICのプロジェクトマネジメントの体系に基づいても、信頼関係を築くことができるのだと著者はいいます。いや、英米の感覚で言えば相互不信頼の契約に基づくからこそ、依頼者とコントラクターは相互の平等な関係でいられるのでしょう。信頼関係という名の下で、一方の裁量によりすべてが決められるという不平等、矛盾は、世界標準との接続の中で解決されなければならない課題なのでしょう。

    また、著者は日本の中央政府はまだAGPなどの国際調達慣行に熟達し、建築技術に対しても理解があるとしていますが、これから国内の建設市場への発注の主役となる地方自治体は、大規模な公共工事を監督するに必要な契約管理術を有していないと指摘しています。

    日本が再生するには不可欠だと私も思っているのですが、今後どうしても地方分権をすすめていかなければなりません。しかし、残念ながら横浜市や東京都などのごく少数の例外を除いて、契約技術やプロジェクト管理経験だけでなく、建設工事の管理監督が十分にできる地方政府は少ないのではないでしょうか?こうした背景を元に、世界標準としてはコンサルティング・エンジニア(The Engineerと本書では書かれています)の活用が当たり前なのだと指摘します。いまでも地方で技術コンサルはいるじゃないかとおっしゃる方も多いと思いますが、依頼主とコントラクターでの紛争の仲裁における絶対者として世界標準としてはエンジニアがおかれているのだといいます。

    本書にあげられている国際弁護士協会の仲裁人の独立性の疑義の定義が相互不信頼の原則というのはいかなるものかを表しています。

    1. 仲裁の一方の当事者と仲裁者が同一人物(両者の間のidentityがある)であるか、仲裁の一方の当事者である組織(entity)の法的代理人である場合。
    2. 仲裁者が調停の一方の当事者の管理職または役員であるか、それと同等の影響力を行使しうる立場にある場合
    3. 仲裁者が一方の当事者と経済的に相当の関係がある。

    あまりにあたりまえのことを言っているようですが、日本のコンサルでこの「疑義」をクリアする方はその仕組みと地位上からいらっしゃらないはずです。立場の上で、独立性を保ったエンジニアという地位自体が日本の建設業の中ではありえません。しかし、「相互不信頼」の基盤にたつとどうしてもお互いに「疑義を持たない」存在が絶対不可欠になるというのは理解できます。

    そうそう、本書の後半でえんえんと書かれているプロジェクトマネジメントについての規定があまりに当たり前のものことをしつこく書いているだけだと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、その当たり前さこそが大事なのだと私は思います。こうした諸条件はあまりに当たり前のことで、日本はその「当たり前」を超えた先の話をしているから、契約書も簡にして要を得ていれさえすればいいのだと受け止めうのは、国際プロジェクト・マネジメント的には間違いなのだと本書を読んで思います。中国人ですらWTOを受け入れるために相当の血と汗を流していると聞きます。その血と汗をながしたからこそ、中国には海外からの投資が集中したのではないでしょうか?

    当たり前のことであるなら、当たり前のことを世界中の誰にでも分かる形で明示し、文書であらわし、その解釈に宗教や文化的な差異がはいらないところまでつめることが大事なのではないでしょうか?日本の以心伝心はすでに国内の世代間でも敗れています。もしかすると、若者を仮想的な「外国人」として国内のプロジェクトも進めると意外とスムーズにいくのかもしれません。

    国際プロジェクト・マネジメントの観点からいえば、あまりにあいまいさと裁量を残している日本の建築関連法規と慣習は多くの矛盾をはらんでいます。これは広く認められたことです。本書の後半部分の主張で大きなポイントは、日本の建設市場、建築法規体系を世界の中で孤立したものにしてしまっているのはその矛盾を「現場」でケース・バイ・ケースに応じて解決してきてしまったという悲しい事実の指摘です。著者はこういいます。

    日本では、一般大衆は政府が何を考えているのかを知る機会と政策決定に参加する機会を奪われている。

    このように”行政指導”は日本人の経済生活を政府がコントロールする主要な手段であり、日本の建設業場合は特にその色彩が強い。政府は、今後、公共工事での自らの役割を限定しようおと計画しているので、行政指導をする意味はなくなっていくことになると考える。

    これは自分の首をしめることにもなるのですが、日本国内で行われている建築現場の検査は中間と最終の二回だけで、支払も着手金と最終金の2回だという法規制と慣行も世界標準ではありえないのだそうです。大規模の民間の工事ではすでに行われていますが、毎月に出来高を査定し、検査を行い、その出来高に応じた支払をするのが世界標準なのだそうです。

    計画変更も頻繁に行われるのが「相互不信頼」の世界では当たり前のようです。このグラフにはひっくり返りました。

    Vb3080921s

    一般の方にはわかりずらいのですが、あるプロジェクトで詳細設計の93パーセントが終わった時点で政府から70項目以上の変更の要求が行われ、いかに期日とすりあわせるかに苦労したかがわかるグラフです。

    実は本書にはこれ以外にも施主側の理由でプロジェクトが遅れた場合の数十億に上る遅延損害の計算の例がでてきます。確信はないのですが、本書のテーマが日本の建設業にあるということは、これらの例は日本のゼネコンさんたちの「兵どもの夢の跡」なのでしょうか?

    本書にはこう書いてありました。

    日本の大手コントラクターは”バブル経済”の崩壊後、国際市場に参入するという重大な試みを行ったが、悲惨な結果に終わった。施工の損害は天文学的な数字となり各社はその処理に何年も苦労しなければならなかった。

    草柳先生も「大手コントラクター」勤務時代は、「問題処理係(Problem Shooter)として世界の国々を飛び回っていた」と書いておられます。

    国際基準の導入により国内市場も外国企業との協力により活性化し、逆に国内の建設業者が国際市場に参加できるような時代が来ることを夢見てなりません。

    ■追記

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    建築基準法の変遷ってなに?

    仕事で資料を探していて、たまたま「建築基準法の変遷」について読みました。建築基準法が本来めざしたものの姿がここに書かれているように感じたのでぬきがきさせていただきます。

    4786901172 建築設計基準 改訂版
    新建築社  1996-01


    by G-Tools

    建築基準法は、「市街地建築物法」という昔の法律ととってかわるために作られました。この本では旧法との比較を行っています。こういう対比を恥ずかしながら初めて読みました。

    この法律(建築基準法)と従前の「市街地建築物法」との主要な相違箇所を列記して、建築基準法の立法精神を明らかにしておきたい。

    と、書いていらっしゃいます。

    ①適用区域・・・・・・従来は主務大臣が「市街地建築物法」適用区域として指定した区域に限って適用されていたが、この基準法においては建築物の安全性に関する単体規定(第二章)は全国どこにおいても適用され、都市計画的な集団規定(第3章から第7章まで)は都市計画区域内にだけ適用されることになった。建築する際全国どこにでも手続きのいるのは特殊な用途の建築物及び大規模な建築物等で、その他の小規模な一般建築物は、都市計画区域内と知事の指定した区域内のみ手続きがいある。(6条)

    単体規定ではwikipediaの建築基準法の項目の言葉を借りれば、「個々の建築物及び建築物の定着している敷地が他の建築物や敷地に依存することなく単体で恒久的に安全・快適さを維持機能しつづけていくために必要な最低限度の構造が規定されて」います。

    要は、単体規定とは、建築物として最低限守るべき性能の規定であるということです。

    同じくwikipediaの建築基準法の「『最低の基準』の意味」の項目に書いてありますが、「建築基準法というものは自由に建築を行う私人の権利を公権力によって制限しまたは規制して社会の秩序を保とうとする性格を持つ法律であるから、その制限については憲法13条に基づき、必要最小限のものでなければならないという理念」であり、本来建築物をどう建てるかというのは、私権であるわけで、どのような建物を建てようと施主と請負者の契約次第であろうということになります。

    ただし、誰でも勝手に建築をしたのでは建物が密集する市街地において、火災がおこって延焼するおそれや、地震で倒壊するときに隣の建物にも被害を及ぼす可能性もあるので、単体規定や集団規定が定められたというわけです。

    次に「変遷」ではこう述べられています。

    ②権利義務に関する重要事項の法定・・・・・・従来の「市街地建築物法」では法運営上の権限が広範に大臣や知事に委任されていたが、本法は国民の権利義務に関する重要事項ができる限り具体的かつ詳細に規定してあり、これらの条項の実施上、または補足的に必要な技術的事項・手続き規定のみが政令と省令に委任されている。

    ここの部分にびっくりしました。

    前回建築基本法について調べたことを書きましたが、基準法が制定された当時は基準法こそが広く国民に同意されうる「基準」を謳うことを使命としていたわけですね。もし、基準法を読んでいただければお分かりいただけると思うのですが、すでに建築基準法施行令と渾然一体となっていて、NIKKEI BPの記事へのコメントでも書かれていましたが、非常に一般の方にはわかりずらい表現になっています。

    つまりは、本来の基準法の使命に立ち返る抜本的な改正が行われれば「建築基本法」を改めて制定する必要はないということになります。

    つぎの③の項目では、地方自治体への権限の移譲について書かれています。今回の私のエントリーの主旨と外れるので、飛ばします。

    ④建築主事の確認と建築手続きの迅速化・・・・・・建築手続きは従来の原則的な知事の許認可が本法では建築主事の確認を受けることに変わった。確認とは建築基準法および関係の法令の定める基準にその建築物が適合しているかどうかを確かめることで、従来の許認可制に比して自由裁量の余地も狭く、ために法運用の明確化が図られた。また確認事務の処理期間は他庁への同意期間もふくめて、特殊な建築物では21日以内、一般小規模建築物では7日以内以内となっているので建築手続きも迅速化された。(6条)

    本来、旧法では市街地内での建築物は「許可制」であったとは知りませんでした。

    建築基準法において「許可」から「確認」に変わった時点で、行政はまったく建築物に責任を負わなくてよいということになったと理解するのは間違いでしょうか?

    建築屋の社長風情が言うことではありませんが、それでも「許可」制だった当時の行政側の「責任」感が残っていて、微に入り、細に入り、窓口における法的な根拠が必ずしも明確でない「裁量」行政、指導が行われているのがこれまでの法運用であったのだと感じました。

    建築基準法の誕生までさかのぼるとなぜいまの建築関連の法体系が作られたのか理解できました。まだ「変遷」は続きます。実体規定など、ここまで戻ると本来法律がなにを規定したかったのかを理解できます。

    まとまりませんが、一旦このまま公開させていただきます。またあとで加筆訂正するかもしれません。

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    建築基本法ってなに?

    昨日、希望社さんの「建築基準法再改正を考える集い」に参加させていただいてきました。

    耐震偽装問題や改正建築基準法がもたらした未曾有の混乱は、建築基準法制定から60年間、根本的な改正を図らなかったことによるものです。呼びかけ人である草柳俊二氏(高知工科大学教授)、木下敏之氏(木下敏之行政経営研究所・前佐賀市長),弊社会長桑原耕司、参加者の間で自由に意見を交わし、法再改正の声を発信しましょう。

    希望社さんのホームページ

    いや、もうほんとうに我が意を得たりという気持ちでした。今回の建築基準法の改正施行により生み出された混乱にどう対処すべきなのか、系統だった提言がなされていないのが私には残念に思えてなりませんでした。何度かこのブログでも書いてきましたが、いわば後出しじゃんけん状態で、施行直前になっていきなり出された告示と、法施行後の変更、そして、主に自治体窓口などでの過剰な反応など、いろいろなことがあったのが思い出されました。しかし、なぜそのようなつけ刃的な対策しかとられなかったのかという根本的な原因についてはほとんど言及されてこなかったのではないでしょうか?

    それは建築基準法の法体系に哲学がないからだというのが、昨日の会合に参加させていただいた私の結論です。建築基準法の法体系の中で、その目的と基準について書いてあるのは第一条だけです。

    第一章 総則

    (目的)
    第一条  この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする。

    [e-government: 建築基準法]

    「最低の基準」とはなんでしょうか?誰にとっての「最低の基準」でありましょうか?「国民の生命、健康及び財産」を保護するとは、どこまで保護されるべきなのでしょうか?基準を満たし、保護するコストは誰が負担すべきなのでしょうか?この崇高な目的を誰と誰と誰がどのように果たすべきなのでしょうか?この法律の責任を誰がとるべきなのでしょうか?

    こうしたごく基本的な問いに建築準法は口をつぐみ、あとは諸規制と、行政機関と、技術的判断についてのみえんえんと描かれています。

    今回のディスカッションでも、裁量行政の問題や、構造計算上の問題、そして住宅の瑕疵担保の問題などさまざまな個別の現場での問題が共有されました。いつか書こうと思っていますが、来年は確認渋滞ではなく現場検査渋滞が起こるだろうという話も出ました。こうした個別論によって法を変えることは非常に困難です。たとえば、先日あるトラブルを経験した法的には根拠をいまのところ持たない日本建築行政会議の見解と窓口での実際の指導との関係を基準法的に明確にすることすら何年もかかるでしょう。

    会場に建築基本法制定準備会の方々もこられていてフリートークでお話をされていました。事前に、gskayさんの記事で予備知識はあったのですが、混乱するつぎはぎだらけの建築基準法を改正する背骨として位置づけると見かたが変わります。

    準備会さんのホームページに「建築基本法の提案」というPDFファイルがありました。まだまだ議論したいところはいっぱいありますが、今後の建築法規体系の基準を定める基準について書かれています。今後を期待したいです。

    もし最初に書いたように法体系によって施主と設計者と施工者と行政との役割と責任が明確になり、そもそも「建築確認」とはどのような行為なのか、そこで実現すべき「基準」はどの水準であるかが明確になれば、「基本法」に合わない建築基準法とのその関連法規は見直され、改正されるべきだという位置づけになるでしょう。そこには、日本の国民レベルで実現すべき水準が明確にされるべきです。

    私の考えは建築屋の社長としては少々理想論すぎると思うのですが、施行後60年を経てぼろぼろの雑巾よりもつぎはぎだらけにされてしまった建築基準法関連法規を見直すには、その「憲法」ともいうべき理念が必要なのではないでしょうか?さもなくば建設関連業界は混乱の中で、必要な建築物の更新はなされず、長い目で見た時の住宅の水準は落ち込み、価格は高騰し続けることになり、最終的には老衰死に陥るでしょう。「新しい構造技術者が誇りを持ってこの仕事につくことができる環境がどうしても必要だ」と叫ばれていた参加者の方の声が忘れられません。

    「集い」では、桑原会長をはじめとする希望社のみなさん、草柳俊二先生、元佐賀市長の木下敏之さんに大変お世話になりました。御礼もうしあげます。改めて、感想をまとめたいと思います。

    ■参照リンク

    ■余談

    お役人の行動を変えていただくのは法律、法律を変えていただくのは政治家の方々、政治家の方々といえば選挙、選挙といえばマニフェスト。ということで、どこかの党で「まじめにやっている地域の建設会社と設計者にやさしい建築法体系を作ります」とかマニフェストにいれていただけるとぐっと選挙に熱がはいりますよねとつぶやかせてください。

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    特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律って?

    平成21年10月から新しい住宅の瑕疵担保に関する法律が施行されます。かなりインパクトのある法律なのですが、どうもそのインパクトの大きさが実感できずにいます。よい機会ですので、考えてみたいと思います。

    そもそも、この法律は耐震偽装問題の時に、分譲された住宅を購入された方々に対して直接請負業者などが瑕疵責任を負うことができない場合があるということに端を発しています。判例としてはすでに直接の請負者でなく、分譲業者さんから買った所有者であってももともとの施工者に対して瑕疵の担保をもとめることができることが認められています。しかし、業者が倒産などしてしまうと救済措置がとれなくなるので、資力を確かめる意味も含めて今回は供託か保険の加入を求められるようになりました。

    経緯はともかくどのような法律体系になっているかは、国土交通省さんがかなり詳しく乗せていらっしゃいます。

    ご存じのように私は建設屋の社長ですので、供託か保険かをそう遠くない将来に選択することが必要になります。エクセルで供託金額を計算してみました。

    Juutakukashi080819

    法律によると過去10年間に御引き渡しさせていただいた戸数に応じて供託するのだそうです。笑われてしまいますが、実はつい先日までこの法律の対象となるのは戸建と分譲マンションだけだとおもっていました。大きな間違いで賃貸マンションもこれに含まれます。したがって、私の会社はごく普通の地域の建設会社ですがグラフからお分かりのように2億円前後の保証金を供託するか、すべての住宅案件で保険に入らないと新たに新築の契約を結べなくなります。もちろんこうした金額は無利子ですし、会社が営業を続ける限り戻ってきませんし、たぶん銀行の担保としても認められないでしょう。きつい言葉で言えば「寝ている」お金です。

    ただし、施行の日から10年以内は施行日以降に施工し、御引き渡しした戸数に応じた供託でよいようです。(法附則第四条 参照)

    保険は各社によってまちまちのようですが、戸建で8万円、20戸くらいのマンションで一棟80万円くらいだそうです(日経住宅リサーチ記事 参照)。年間20戸の戸建と20戸のマンション4棟を御引き渡しするとすると、保険料は約500万円くらいになります。初年度供託だと...1億円!やはり、ほとんどの地域の建設会社は保険を選ぶことになるのではないでしょうか?試算してみてよくわかりました。

    まだ十分ではありませんが、一旦公開しておきます。間違いなどあればご指摘いただければ幸甚です。

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    [書評]コウアン先生の人を殺さない住宅

    ある方が書評されているのを見て、アマゾンで購入してからもう3年になるのに、これまで本書を読まずに来てしまいました。読まなくてはと思っていたのですが、「建築Gメン」とか、木造主体で震災を語っている本書になにか抵抗を感じ読めずにいました。

    その呪縛がいつのまにか解け、つい先日都内への往復の時間で読了できました。

    読んでみて、躊躇、誤解していた自分を恥ずかしく感じました。これは素晴らしい本です。認めたくはないのですが、建築屋がいただいた仕事に誠心誠意望まないと起こる結果が阪神大震災の悲劇であったのだという主張を私は否定することができなくなりました。阪神大震災で木造家屋で犠牲になられた方が一番多かったのは、事実です。当初、火災が主因だと伝えられましたが、その後の調査で家屋の倒壊そのもの、つまりは建築そのものの問題による圧死が多かったことが明らかにされたと知りました。

    そうした中で、本書で語られる、ごくごく普通の住宅を作りつづけられ、長くお客様との関係を保ちメンテナンスをされた神戸のある棟梁の話に胸を打たれました。表題のとおり、170棟の建築を請け負われ、実に169棟までが震災に耐え、お施主様方が住み続けられているのだそうです。これは本当にすばらしいことです。

    この棟梁の「作品」は、建築基準法が存在しない時代の建築を含み、構造の規定が「新耐震」と呼ばれるほぼいまの水準に達する以前のものが大半です。それでも、多くの建物が居住不可能になってしまう中で、この棟梁さんの仕事はすばらしい水準であったことは誰も疑問を抱かないでしょう。

    戦後、神戸でごく庶民のための家を作り続けた棟梁の家は、特別な構造計算をしたわけでもなく、公的な機関による検査もろくろく実施されていなかったにもかかわらず、170棟の169棟までは地震によっても住み続けられたのはなぜなのでしょうか?

    コウアン先生の主張は明快です。

    真っ当に建てるとは、特別な技術を必要とするという意味ではない。現行の建築基準法並びに同施行令で十分である。加えるとすれば、JASS(日本建築工事標準仕様書)か住宅金融公庫の標準仕様書程度の施工内容で足りるのである。

    この本は96年に書かれていたにも関わらず、建築界隈の動向はコウアン先生が心配されている方向へ進んでいます。それも、十分に阪神大震災の教訓は、いかされず一番問題であるはずの木造の住宅を「既存不適格」という名前のもとにますます取り残したままに。

    96年以降に何が起こったかは誰もが知っています。ひとつは、これでもかといわんばかりの法律の改正でした。特にいち建築士が起こした大騒動に対する法律体系の改正のインパクトはいまも建設業界、関連業界をゆるがし続けています。建築基準法単体でも、ちょうど1年前の今日、6月20日に施行された改正建築基準法に関するアンケートが各誌で取り上げられています。

    実は、私たち建設業者が阪神を真剣に反省して、とりもどすべきだったのは仕事に対する誠意ではなかったのでしょうか?問題を数年前に起こしてしまった建築士を建設業界が産んでしまったのは事実です。それは、建設業界の常識が、一般の方から期待される安心安全な建物を作り続けられる水準ではなかったということです。本来は、コウアン先生の棟梁のような気持ちでみな建築の仕事に取り組んできたのだと私は思います。それがいつのまにか、経済システムに取り込まれ、ローンを生むため、官庁の仕事を作るための「主要産業」になってしまいました。経済の大幅なアップダウンであったバブル崩壊後、ますますの契約単価への要求への対応、経済政策にふりまわされ、他にもあったさまざまな課題の前で、建築関係者は、顧客の安心満足と安全をほんとうに第一してきたといえるのでしょうか?次第次第に姿を変える法律によって自縛自縄の状態に陥る前に、やるべきことがあったのではないでしょうか?建築業界が大幅に縮小せざるを得ないいまこそ私たちが考えるべきことはこの本の中にあるように思えてなりません。

    間違いなくお客様自身とお客様の家族が幸せに暮らしていただくための住まい、そして繁栄していたくための職場のハードの場を提供するのは、われわれ建築屋の仕事です。その大切なお客さまのお住まいや仕事の場が震災や火災により失われてしまうということは、どれだけの悲劇でしょうか?自分たちの仕事がスムーズに動いていかないことを嘆き、単価競争に走る前に、お施主様の幸せを第一に考えるべきであるのは論を待ちません。

     

    蛇足ですが、コウアン先生がしきりに木造住宅の基礎の固定の程度について疑問を呈していらっしゃいます。これは神戸震災がきっかけとなってできたE-ディフェンスで実験によって確かめられているように思います。

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    建設会社内のコミュニケーションって?

    毎朝、全社員に向けてメールを書きます。これだけはずっと続けています。朝礼で話した内容、連絡事項などを10分くらいでばばばっと書いて送ります。

    普通の会社さんにお勤めの方にはあきれられるかもしれませんが、私の会社で朝礼に出る社員は全社員の半分くらいにすぎません。工事担当部署だけで数えれば、三割以下である朝礼もすくなくありません。どうしても、現場に直接出社することが多いので、現場担当者は社員と接するよりも協力業者さんと接することが多くなりがちです。この辺は、建設会社独特の悪しき慣習です。

    どうやって会社の目指している方向を一人一人の社員に伝えるのかが、建設屋の社長の悩ましいところです。毎日書いてはいても、メールは決してベストの手段ではないです。できれば、毎日現場を回って移動朝礼をしたいくらいなのです。古いスタイルかもしれませんが、飲ミュニケーションが建設業界ではまだまだ大切なのかもしれません。

    それにしても、建設業界ほど人の話をきちんと聞く技術が大切な仕事はないと思うのですが、いまだに建設業界におけるコミュニケーションをきちんとまとめた技術としてまとめたという話を聞きません。チャレンジしなければならない課題です。

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    「建築物の耐震改修の促進に関する法律」って?

    どうしても想いは厳しくなるばかりの建築基準法に行ってしまいます。

    既存不適格の問題です。

    一番の問題は「既存不適格」の問題です。昭和40年代に建築基準法が定められた時に、法律は施行以前に遡及して適用されないのが原則とされました。その時点で建っていた建物には適用されませんでした。日本の木造については、当時、寿命が20年以下とも言われていましたのでそう遠くない将来にすべて建て替わ るだろうと思われていました。しかし、住宅情報提供協会さんのホームページにもありますように、まだ1000万戸以上が不適格のまま置かれているというのが現状のようです。(「改正建築基準法ってなに?」 @ KEN)

    既存不適格になった建物は、耐震性だけではなく防火や換気、採光についても問題を抱えています。すべてを一気に現行の法律なみにしようとすると、改修には非常に大きなコストがかかります。

    先日、「ナショナルジオグラフィックチャンネル」で「阪神・淡路大震災」についての分析を行っていました。番組によると一般に火災で亡くなったと信じられてきた方の多くは、実際は木造家屋の倒壊による圧死だったことが明らかになっているそうです。

    やはり、最優先は耐震性です。

    たまたま、「建築物の耐震改修の促進に関する法律」について必要があって調べたので書きます。

    第一項の申請に係る建築物の耐震改修の計画が建築基準法第六条第一項 の規定による確認又は同法第十八条第二項 の規定による通知を要するものである場合において、所管行政庁が計画の認定をしたときは、同法第六条第一項 又は第十八条第三項 の規定による確認済証の交付があったものとみなす。この場合において、所管行政庁は、その旨を建築主事に通知するものとする。

    「確認済証の交付」とは、いわゆる「建築確認」です。つまり、耐震改修の計画の認定を受けらられれば建築基準法すべての規制をクリアしなくとも、耐震補強工事と増改築が認められうるということです。一見すると第八条は学校や病院などの耐震改修法上の特定建築物でなければ受けられないように勘違いしがちですが、一般の住宅などでも適用可能です。

    第8条の流れは、非常に込み合っていまして、なかなか理解できません。鹿島さんのホームページで見事にフローチャートにまとめられていました。

    ただし、話は奥が深くて、同法の施行規則などを追っていくと、計画の認定を受けるためには、保有水平耐力計算をした結果を計画書に盛り込まなければなければならないなど、通常の建築確認では、中高層建築物なみの構造設計をやりなおさなければならないとされています。それだけ厳しい構造の確かめ方をしなければならないので、いわゆる4号建物と言われる木造住宅など、もともと構造計算をしていない木造住宅などへの適用は難しいかもしれません。耐震調査をし、十分な耐震補修をしようとするのはなかなか大変そうです。

    それでも、現実に建てられている1000万棟ともいわれる既存不適格建物に耐震補修の道を開いたという意義は改めて大きいです。

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    改正建築基準法施工後の建築とは?

    早いもので、昨年6月20日に改正建築基準法が施行されてからまもなく1年がたちます。結論から、言えば建設業界もだいぶ落ち着いたなという感じがします。私が経験している案件は、適合性判定にかかるものでも一ヶ月半くらい、かからないものでは一ヶ月以下で建築確認が取得されるようになりました。多少長くなったとはいえ、それほど違和感のある時間ではなくなっています。あらためてこのタイミングで、建築基準法の改正のもたらしたインパクトとその背景について考えてみます。

    そもそも、建築基準法改正で厳格化が図られた耐震基準というのはなんなのでしょうか?

    日本建築学会の「市民のための耐震工学講座」にはこう書かれています。

    建物をどのようにつくるかは建築基準法,建築基準法施行例,建設省告示などによって定められています。地震に対して建物をどのようにつくるかもこれらの法律などによって定められ,それらをまとめて「耐震基準」と呼びます。

    今回の改正で建築基準法自体は1年以上前に制定され、公布されていました。しかし、具体的な確認申請の方法や、構造計算の詳細について出始めたのは平成19年4月を過ぎてからでした。

    建築基準法というのは長い歴史の中で整備されてきたため法律単独では具体的な現場レベルの意味をもちえず、施行令や告示やなどが整備されて初めて実務に役立ちます。

    リンク先の国土交通省のページには、あまり日付がはいっていません。ですから、流れがすこしわかりにくくなっています。それでも、「7.関係告示」のPDFを開いていただくと、新しい耐震基準の考え方を具体的に示している告示が平成19年5月に出ていることがわかると思います。また、「8.技術的助言」のいくつかは、6月20日前後に出ていることがわかるかと思います。いまさら言っても始まりませんが、改正の混乱のインパクトは、改正の内容自体よりもその手順にあったことは明らかです。

    施工後の状況を思い出してみましょう。いま振り返ってみると、私自身を含めて今回の建築基準法の改正に対して建設業者は「確認がおりない!構造設計者が確保できない!」と騒ぐばかりでした。実際、多くの建設会社は、受注面で年間の受注量の3分の1から4分の1くらいは先送りになるか、プロジェクト自体が消滅してしまう危機に直面したのではないでしょうか?インパクトが非常に大きかったですが、それ以上に今後は改正の内容とその意図自体からこれまでとは建築のやり方の変更をせまられているように感じています。

    実は、今回の改正によりより重要なポイントは、申請内容からの変更に対する厳格化だと考えます。現在では、建築確認自体は、軽微な変更についての具体的なガイドラインがだされるなど、当初とくらべてはるかに柔軟に建築確認について運用されています。それでも、この法律により、細かい現場の知恵を生かしたVE提案ができなくなったように感じています。あるいは、地盤の耐力など現場の状況というものは、建築工事をはじめてからわかってくる部分があるのですが、状況によっては十分に調査をしていたつもりであった現場でも、建築確認を取得しなおす現場もあります。

    結果として、法改正に対応できずに仕事ができなくなる工務店、設計事務所が残念ながら相当数出てきています。建築確認申請後には修正ができなくなるという現行法の下では、現段階で最低設計施工という一貫した仕事の取り組みが出来ていない会社はこれからますます継続が厳しくなっていくのでしょう。結果として、かなり中堅の建設会社の数が減っていくことが予測されます。

    逆にいえば、これまでよりも当初の調査や計画がとても大切になってきていると言えます。どうしても、建築の工程全体を通して、調整をくりかえしながら進めるという従来の仕事の進め方から脱却し、基本的な問題はできるだけ当初の計画にもりこみ、すべての調査を事前に終えておくという体制が肝心になります。

    余談ですが、建築基準法改正について調べていて非常に興味深いコメントを見つけました。

    建築基準法が「消費者保護」を目的としているのであれば、基本的な事として、条文を民法なみにわかりやすく記述する必要があります。設計、施工者側はわかっても施主が読んで解釈できない条文では消費者に開かれているとは言えません。

    ■追記

    さすがです。

    郵政よりも、道路よりも、社会保障よりも、官僚システムの陳腐化の核心にせまる取り組みだと思います。抵抗は大きく、閣僚一人一人も微妙な立場のようですが、不人気な内閣にしては、とても頑張っていると思います。ただ、一歩間違えると、逆効果になりかねないので心配です。

    「揺れるマンション」顛末記」から引用させていただきました。

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    適合性判定の対象はどう決められているのか?

    改正建築基準法でどうも鉄骨造の建物の建築確認が厳しいな、6月20日以前にここまで厳しくなるって聞いてなかったよな、いったいいつどうやって適合性判定行きの条件が決まったのかな、と思い調べてみました。

    正直、6月20日以前に建築基準法だけは読んでいました。建築基準法だけを読むと、どのような構造体が適合性判定の対象になるかは、改正建築基準法の第20条に書かれていることがわかります。

    第二十条  建築物は、自重、積載荷重、積雪荷重、風圧、土圧及び水圧並びに地震その他の震動及び衝撃に対して安全な構造のものとして、次の各号に掲げる建築物の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める基準に適合するものでなければならない。

     高さが六十メートルを超える建築物 当該建築物の安全上必要な構造方法に関して政令で定める技術的基準に適合するものであること。この場合において、そ の構造方法は、荷重及び外力によつて建築物の各部分に連続的に生ずる力及び変形を把握することその他の政令で定める基準に従つた構造計算によつて安全性が 確かめられたものとして国土交通大臣の認定を受けたものであること。

     高さが六十メートル以下の建築物のうち、第六条第一項第二号に掲げる建築物(高さが十三メートル又は軒の高さが九メートルを超えるものに限 る。)又は同項第三号に掲げる建築物(地階を除く階数が四以上である鉄骨造の建築物、高さが二十メートルを超える鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンク リート造の建築物その他これらの建築物に準ずるものとして政令で定める建築物に限る。) 次に掲げる基準のいずれかに適合するものであること。
      当該建築物の安全上必要な構造方法に関して政令で定める技術的基準に適合すること。この場合において、その構造方法は、地震力によつて建築物の地上部分の 各階に生ずる水平方向の変形を把握することその他の政令で定める基準に従つた構造計算で、国土交通大臣が定めた方法によるもの又は国土交通大臣の認定を受 けたプログラムによるものによつて確かめられる安全性を有すること。
     前号に定める基準に適合すること。
     (以下略)

    (強調は本ブログ)
    なかなかわかりずらいと思いますが、建築基準法自体としてはどのような建物が対象になるのかはこの条文で間違いないようです。強調した2号のところで「階数が4以上の建物」として「政令で定める」というところがポイントです。ここまででは、例えば鉄骨造で「スパン6m以上」が適合性判定行きとは書いてありません。

    20条に「政令で定める」と書かれた「政令」は、建築基準法施行令第36条の2なのだそうです。

    第三十六条の二  法第二十条第二号 の政令で定める建築物は、次に掲げる建築物とする。
     地階を除く階数が四以上である組積造又は補強コンクリートブロック造の建築物
     地階を除く階数が三以下である鉄骨造の建築物であつて、高さが十三メートル又は軒の高さが九メートルを超えるもの
     鉄筋コンクリート造と鉄骨鉄筋コンクリート造とを併用する建築物であつて、高さが二十メートルを超えるもの
     木造、組積造、補強コンクリートブロック造若しくは鉄骨造のうち二以上の構造を併用する建築物又はこれらの構造のうち一以上の構造と鉄筋コンクリート造若しくは鉄骨鉄筋コンクリート造とを併用する建築物であつて、次のイ又はロのいずれかに該当するもの
     地階を除く階数が四以上である建築物
     高さが十三メートル又は軒の高さが九メートルを超える建築物
     前各号に掲げるもののほか、その安全性を確かめるために地震力によつて地上部分の各階に生ずる水平方向の変形を把握することが必要であるものとして、構造又は規模を限つて国土交通大臣が指定する建築物

    (強調は本ブログ)

    @ 法令データ提供システム 「施行令」
    強調文字にした「三以下である鉄骨造の建築物」の内容は、いろいろ教えていただき、平成19年5月18日付けの告示539号に定めてあることがわかりました。
    同じ日付の告示について解説してくださっているページを見つけました。

    「建築基準法施行令第36条の2第5号」とは「建築基準法第20条の第2号に定める建築物」を定義しているものです。その「建築基準法第20条の第2号に 定める建築物」とは、ようするに「ルート 2 あるいは 3 の建物」なんですが、一体なぜそんなことが改めて問題にされるのかというと、改正建築基準法では、それに該当する建物の審査は「適合性判定機関」が行うこ とになっているからです。

    @ 続々・建築基準法はどう変わったのか (株式会社ストラクチャーさん)


    解説を読んでもまだ難しいですね。

    法20条から告示593号への流れを説明してくださっているページも見つけました。

    木造住宅でも、一階を鉄骨造やRC造にすることはよくある。そういった混構造建築物のうち、適合性判定を要しない建築物が上記593号の3号と4号に規定された。その条文がともかく難解。

    @ 6/20建築基準法の大改悪 (iplusi.exblog.jpさん)

    また、ある方から非常にわかりやすい適合性判定の対象建築物の条件の表を教えていただきました。大分県さんのサイトにあるようです。

    それでも、直感的に平屋の鉄骨造6mスパンで適合性判定行きというのは厳しいと感じてしまいます。

    あ、それでこうなるのか!

    そういえば、実物大の振動試験のできるE-ディフェンスで鉄骨造の建物の振動試験をいていました。

        加震ケース(入力地震動)

        9月25日 1995年兵庫県南部地震 JR鷹取観測波 40% (20070925.wmv)
        9月27日 1995年兵庫県南部地震 JR鷹取観測波 100% (20070927.wmv)


    見事に「全体崩壊」してますが、現行の、ということは改正建築基準法の基準を満たした鉄骨造なのだそうです。見てみると、まさに6mスパンの中低層建物です。

    構造計算をいくら積み重ねても、実際の実験結果をこれだけビデオで見せられると確かに適合性判定の対象となる建物は建築確認に適合している上でも慎重に扱う必要があるのだなと感じます。
     

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    外装材の寿命って?

    某所で「外装材の一般的な寿命の公式見解ってあるのか?」という議論になりました。調べてみたら、いくつかの論文が出てきました。まぁ、建築材料の寿命に公式見解ってのは難しいのは当然です。

    取り急ぎインデックスだけ載せておきます。

    それにしてもこの論文のインデックスってすばらしいですね。

    ****

    時間ができたので、続きを書きました。

    PDF版には直接リンクできないようなので、PDF版へのリンクはしません。それぞれのリンクをクリックしていただき、ページ右上の「本文を読む・探す」の下のボックスからP「CiNii PDFCiNii PDF」というところをクリックするとみれるようです。

    一番目の「各種構築物における内・外装の寿命」という記事は、昭和44年にかかれたにもかかわらず、いわゆるディスカウント・キャッシュ・フロー(DCF)、現在価値の手法を用いて部材の価値を計ろうとするアプローチについて解説しています。

    本論文では、タイルは躯体がW(木造)又はS(鉄骨造)か、RC(鉄筋コンクリート)かで大きく違うと想定していらっしゃいます。昭和44年以降の建築材料などの進歩を考えると、この辺はかなり違ってくるかもしれませんが、やはりRC+タイルというのは耐久性の高い外装仕上げであると言えると思います。



    2番目の論文では、ゼネコンや設計事務所やメーカーにヒアリングを行い、耐久性についてどのような見解を持っているかを調べていらっしゃいます。こちらもタイルに軍配をあげているように思えます。

    以上の結果をまとめると、高いグレードの場合は、石・タイルを用いた外装材については50年以上と考えられていることが多く、その他の材では概ね10~20年を中心(一般的なグレードの場合は5~10年が中心)とした分布になっている事が分かった。しかし全体的にみると、耐用性に対する対する統一した認識はないと言え、担当者によって独自の判断がなされている現状が確認できた。

    この「高いグレード」のところが問題で、ここには仕上げの方式や材料のグレードを考慮しなければならないという意味なのでしょう。もっともタイル自体にはJIS基準があるので、あまり耐久性に関してばらつきはすくないかもしれません。

    竣工後、やはり50年も経過した後を考えると、躯体のメンテナンスや目地のメンテナンスが必要となってくる可能性はあります。コンクリートの補修についてはまたよく勉強して書きますが、最近はかなり新しくコンクリート補修の工法が開発されているようです。

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    [書評]週刊東洋経済「ゼネコン現場崩壊」

    週刊 東洋経済」さんが「ゼネコン現場崩壊」という特集を組まれていました。大変興味深く読ませていただきました。

          東洋経済 08/1/19

    建築に関係される方はぜひご一読いただきたいです。ブログで内容を要約してくださっている方もいらっしゃいました。

    正直に言ってしまえば、ここまで書かれてしまったことに怒りを覚えます。しかし、悲しいことにそれは建設業界の現在の情けなさの裏返しでもあります。

    「東洋経済」の記事の内容ですが、少なくともゼネコンのOBを使ってゼネコンのコストを徹底的にたたいている会社が「異界からの大侵略」だとは思えません。あるいは、手数料だけをとって一括下請けに出す営業会社は「ものづくり」の会社だとは思えません。描き方を変えれば、お互いに鍛え合ってきた剣闘士が「コロッセオ」で殺し合う様を貴族がスタジアム席から見物している地獄絵図なのかもしれません。

    「東洋経済」では、業界の力関係がCMなどの導入によって変質しつつあることが欠かれていますが、まだ人材育成の部分で一定規模以上の建築物を建てられる能力を持つ現場担当者がゼネコン以外で育ったという話を私は聞いたことはありません。是正、改善していかなければならない課題はたくさんありますが、まだまだ社会にゼネコンと専門業者とのネットワークは必要だと私は信じます。

    確かに現場の疲弊が言われて久しくなりました。サブタイトルに「超ダンピングの末路」とありますが、談合決別が宣言されてから競争原理が徹底的に建設業界に吹き荒れ、利益率が低下していく中、建設現場が金属疲労を起こしている面もあります。これまで現場を支えてきた信頼のネットワークが部分的に崩れつつあるのかもしれません。

    しかし、本書において重層下請け構造が批判的に扱われていますが、本当に非難され、解消されるべき関係なのでしょうか?建設業は専門業種の数が非常に多いので、無理に垂直統合するとかすべてが一次請で受注し、しかもすべての職員を直接雇用しなければならないのなら、それでなくとも高いと批判されてきた建設コストは大幅に上昇すると私は考えます。製造業においても実は下請企業、製造機械の部品を作る専門業者に支えられているのは公然の事実です。

    製造業と建設業を比較すると垂直統合が難しい理由が見えてくると思います。模式的に描けば一品種一個生産なので製品の個別性があまりに高いため、裾野が広すぎるということになります。工場生産(プレファブリック)の住宅はどうしても日本で広がりませんでした。米国の市場を視察に行ったことがありますが、米国ですら2×4等のパネル工場以上のプレファブリックは広がっていないようです。

    Mc3

    現在、業界再編のまっただなかにいるという「東洋経済」の意見には賛成です。開発型社会においては、重要も、請負会社も、専門業者も同時並行的に拡大再生産できました。しかし、現在は需要はすでに減り、現場で実際に働いてくれる人材も「団塊問題」ともいうべき主力が引退時期に差し掛かり非常に減っています。請負会社だけがまだ減らずにいましたが、業界の再編や中小零細の淘汰が今後一気に進むと考えられます。

    M3

    どうしても利幅の話になってしまいましたが、現場の力とはこんなものだはないと私は信じています。まだ、まとまりませんが一旦公開してまたあらためて考えをまとめます。どうも怒りと混乱がまだおさまりません。

    ■追記

    トラックバックをいただきました。

    以下のようなものが建設の問題に関する誤った通説の代表例です:

    と書かれて、本記事にリンクをいただきました。ありがとうございます。「誤った通説」としてではありますが...

    「低価格入札」なんていう価格システムの動向なんていいとこ交差要因(*1)。根本的な原因はゼネコンの不透明なビジネスモデルそのものでしょうに。

    もうおっしゃるとおりとしかいいようがないです。私もいまのままのゼネコンのビジネスモデル(仕事のやり方)が通用していくとは思えません。

    ゼネコンとゼネコンを頂点とする建設業界全体が仕事のやり方を変えなければならないのは確かです。また、「凋落」といわれるほどその構成員の大きく数を減らさないとならないのであろうとも思っています。

    トラックバックをいただいて、改めて「東洋経済」を読み直して原因と対策として指摘されていることがわかってきました。

    • 「下請けたたき」の悪しき慣習
    • コスト力をつけた需要者(不動産開発会社、CM会社)
    • 公共工事の呪縛により進まないビジネスモデル(仕事のやり方)の変更

    何度も読み返しているのですが、この「東洋経済」が主張している論点はこの3点に集約されるのではないでしょうか?

    まず下請けたたきの問題です。

    欧米では工事着手以前の契約は原則守られ、工事の採算性は受注時から工事完成まで、ほぼ一定。しかし、日本では、専門工事業者などの下請け業者はゼネコンの言いなりになっている。

    ちょうど、前回書いた「建設業法第19条の3」という法律があります。基本的に注文者は己の地位を利用してダンピングを強要する請負契約を結んではならないという内容です。この条文が最終需要者からのコスト要請にも適用されるのであれば、コストアップにはなりますが、専門工事業者さんとの契約内容も改善されるのではないでしょうか?

    次の論点は厳しくなるコスト要求です。需要者である不動産開発会社さんなどがゼネコンOBなどを使い価格交渉力を増している中、コスト競争が激しくなって業界全体が「自己資本」という自分の身を削って受注しています。もっと高付加価値で受注すればいいではないかと私自身も思うのですが、ここでも「コロッセオ」状態で採算の取れるコストで入札に参加しても別の会社がより低い価格で受注していってしまうのが今の現状です。中堅ゼネコンさんなどですらこれで採算が取れるのだろうかという価格を提示されているのを見たことがあります。各社各様にかなり疲弊してきているのは事実です。

    いっそゼネコン全部が一気にCM会社へと移行し、フィービジネスに徹して、ダンピングは一切しなくなれば建設業界の「コロッセオ」状態は解消すると思うのですが、それは「談合」もしくは「カルテル」であるとして、独占禁止法などで排除されています。

    公共工事の評価制度もゼネコンの仕事のやり方を縛っています。経営事項審査という制度があります。

    経営事項審査(けいえいじこうしんさ)とは、日本建設業において、公共工事の入札に参加する建設業者の企業規模・経営状況などの客観事項を数値化した、建設業法に規定する審査。略して経審(けいしん)とも呼ばれる。

    @ wikipedia

    公共工事を受注するためには経営事項審査を受けて、点数をもらう必要があります。この点数によって参加できる入札のクラスが決まります。この経営事項審査の点の評価の中で受注金額は非常に大きな比率を占めています。「東洋経済」でも触れられているようにこの呪縛はゼネコンのように巨大プロジェクトを受注し続けなければならない企業にとって存亡にかかわる重大な問題です。

    一方、変わっていくべき方向としてボヴィス・レンドリース社以外でもCMが現実的な形をとり始めています。日本型コンストラクション・マネジメントとして、希望社さんが注目されています。

    希望社さんが一歩突き抜けたCMを行っていらっしゃるのは、日本型CMという形態でVEと瑕疵担保を分離した形でコストを透明化、可視化したところではないでしょうか?

    ゼネコン、建設業者が変わっていくためには、発注の形態として建設におけるコストとリスク、そして瑕疵担保保証を切り分けていく必要があるのではないでしょうか?ゼネコンのコストにおいてこの3つをどんぶり勘定にしてしまっているのは事実です。請負契約を結ぶときに、それぞれのコストを金額として計上できるようになれば、ゼネコンのCMへの移行は一気に進むのではないでしょうか?

    上の図の需要者、建設請負業者、専門業者は全体として相互に依存する生態系としてとらえることができます。少子高齢化により需要者はすでに減っています。一方、専門工事業者さんたちも団塊の世代の大量退職、引退を迎え現場で働く方々自体が減っています。これまである程度政策的に保護されてきた建設請負業者だけはあまり数を減らさずに推移してきました。しかし、「東洋経済」の記事を待つまでもなくそれももう限界です。今後相当に業界の再編はすすむでしょう。

    下請け業者の問題、CMへの移行、透明化の中でのリスクのコスト化、業界再編、法律の適用の厳格化など、今後予測されることがらを冷静にとらえれば、ぬすっとたけだけしいといわれるかもしれませんが、建設コストは上昇してかざるを得ないのでしょう。原油や原材料価格の高騰などもコストの上昇要因です。コストがあがるとますます需要は縮小していくと思われますし、痛し痒しといったところです。また、発注者側でも必要に迫られて建設について学習が進み、品質管理や工法についても理解がすすむことでしょう。

    それでも、「建築屋の社長」として生態学的なゼネコンの位置は今の社会において必要だと私は信じています。「現場崩壊」とマスコミ的なタイトルをつけられてしまいましたが、現場で少しでも安全に、少しでもお客様の満足のいくものを、少しでも生産性を高くと、がんばっている担当者たちがいます。専門業者さんたちも自分たちが苦しんででも、お客様の幸せを願っています。

    ものづくりの人材を育てていく力、地域に人が住み続けていくための環境を整備する力、地域地域に特有な情報を媒介し、人と人との絆を深めていく力、さまざまなリスクを自ら請け負う力、まだまだ建設請負業者が必要とされる場面は多くあります。透明性の確保や、専門工事業者さんとの関係の改善、そして得意分野の確立など課題は多く抱えています。それでも、それでも、特に地域において建築屋は必要だと信じます。

    ■参照

    ■注

    ちなみに、交差要因という言葉がわからなかったのでグーグルで調べてみました。よくわからないのですが、平成14年の「中小企業白書」がひっかかっ てきました。要因分析の中で内的な要因か、外的な要因かを検定するときの相互作用の大きさを示すのに使われている言葉のようでした。


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    建設業法第19条の3とは?

    法律のことは詳しくないのですが、たまたまこんな条文に出会いました。
    第19条の3 注文者は、自己の取引上の地位を不当に利用して、その注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金の額とする請負契約を締結してはならない。

    法庫

    この条文は一般に元請け業者から下請け業者へ発注される場合の規定のようです。

    「通常必要と認められる原価」をどう割り出すのだろうとか、いろいろ疑問はありますが現在建築基準法不況の嵐が吹き荒れるまっただ中の建設業界において、発注者と請負業者間でこの法律は守られているのだろうかと疑問を持ちました。

    罰則規定のない条項かなと思いましたら、一応あるようです。長いですけど、引用しちゃいます。

    第42条 国土交通大臣又は都道府県知事は、その許可を受けた建設業者が第19条の3第19条の4第24条の3第1項、第24条の4又は第24条の5第3項若しくは第4項の規定に違反している事実があり、その事実が私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第19条の規定に違反していると認めるときは、公正取引委員会に対し、同法の規定に従い適当な措置をとるべきことを求めることができる。
     国土交通大臣又は都道府県知事は、中小企業者(中小企業基本法(昭和38年法律第154号)第2条第1項に規定する中小企業者をいう。次条において同じ。)である下請負人と下請契約を締結した元請負人について、前項の規定により措置をとるべきことを求めたときは、遅滞なく、中小企業庁長官にその旨を通知しなければならない。

    まさか発注者を公正取引委員会に訴えることはできないし、「第19条の3」を楯に価格の話をしても誰も取り合ってくださらないとは思います。まぁ、やはり建設請負とは、「請け負け」業なのでしょうか?

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    建築士の生産性は低下しているのか?

    少々、気になることがあって、一級建築士の数と完成工事高の関係を調べてみました。

    使ったデータは、経営事項審査のデータです。

    ちなみに、スーパーゼネコンさんで数社結果が検索できなかったのですが、なぜなのでしょうね?許可番号で調べたつもりなのですが、どうしても見つかりません。

    表中の金額の単位は千円単位です。

                                                                                                                                                                           
    (単位:千円)
      完工高 一級一人当完工 二級
    大成建設1,349,653,0395,732235,459170
    大林組1,243,071,4065,567223,293264
    奥村組241,589,1831,823132,52320
    錢高組173,123,530970178,47812
    平均751,859,2903,523192,438
    積水ハウス904,572,0001,943465,5541,169
    大和ハウス818,815,0503,087265,246786
    平均861,693,5252,515365,400
    某A社150,8561150,8564
    某B社2,888,2524072,20628
    某C社713,0727101,8672
    平均1,250,72716108,310
         

    二級建築士の数からもわかるように、一級建築士を必要としない工事が主なのでハウスメーカーさんは例外とすると、スーパーゼネコンさんから中小建設会社まで、一級建築士あたり1億円から2億円の間の完成工事高をあげていると言って間違いではなさそうです。

    今後は、この数字を歴史的にみるとどうなるかやってみました。基礎となるデータは以下の2つのサイトからいただきました。

     

    • 建築士登録状況@ 日本建築士会連合会(資料:国土交通省住宅局建築指導課

    • 建設投資(名目値)の推移@ 建設ナビ(出典:国土交通省総合政策局 情報管理部 建設調査統計課「平成19年度 建設投資見通し」(平成19年6月 公表))

     

    単純に登録数で建設投資額を割るとこの十数年で半分近くにまで落ち込んでいることがわかります。


    対比させるために、平成4年と平成16年の値を比べてみましょう。

                                   
     平成4年平成16年
    建築投資(億円)839,708527,766
    一級建築士(人)243,906316,888
       
    一人当投資(億円)3.441.67

    この12年間でほぼ半分になってしまったことがわかります。これは恐ろしい数字です。いくらデフレの傾向がこの期間中続いたといっても、物価が半分になったとは聞きません。基本的には、一人当たり完成工事高とは、生産性と比例するはずです。当然、生産性と年収は比例します。ということは、建築士の価値は半分になってしまったということなのでしょうか?

    もっとも計算のベースにしているのが「登録者数」なので、実際に活動している一級建築士の数がわからなければ正確とはいえません。探してみたのですが、活動している建築士の数のデータは見当たりませんでした。そこで、登録人数の年間の差を取り各年度毎の建築士取得者数を割りだし、仮に取得した年齢を30歳と仮定して一級建築士の年齢階層別人数を推定してみました。平成16年現在のデータです。

     

     

    50代の建築士の数が非常に多いことがわかります。そして、この数年若手の建築士の数が減っていることもわかります。

    このグラフを回転したみるとぐっと実感がわきます。

     

     

    あたりまえですが、日本の人口ピラミッドに非常に似ていますね。

    このうちどれくらいの年齢まで現役かわかりません。若くとも建築以外の仕事をしていらっしゃる方もたくさんいらっしゃるのかもしれません。しかし、先ほど見たように個別の企業での建築士一人当たりの完成工事高と、登録数から考えた一人当たり建設投資高との間で大きな開きはないので、かなりの年齢まで現役なのかもしれません。個人によって前後するとは思いますが、仮に60歳で現役を引退すると考えてみましょう。そうすると、平成16年現在の登録数31万人に対して23万人あまりが現役活動中と考えられるかもしれません。

     

                           
    推定60歳以下
    228,574 
      
    推定55歳以下
    185,941 
      
    推定50歳以下
    134,373 

    現在、一級建築士試験には年に3000人から4000人程度の方が合格しているようなので、年間5,000人程度が減っていくと考えると、5年後には20万人、10年後には17万人と徐々に建築士の数は減っていくのではないでしょうか?そして、下がり続ける建設投資額とどこかで均衡点に達すると思われます。

     


    建築業界の将来を考えると現在はぎゅうぎゅうに込み合っていますし、かといって10年を過ぎたあたりから急激に技術者は減っていく状況が明確です。正直に言って少々背筋が寒いです。

    今回の資料作成に使ったエクセルのファイルです。

    ■追記

    建築士の年収についてのブログ記事を見つけました。

    建築士の登録状況だそうです。


    一級建築士の年齢階層別登録数を見ると、20歳代は約3,000人、30歳代は約47,000人、40歳代は約66,000人、50歳代は約101,000人、60歳以上が約106,000人であり、その平均年齢は56.2歳となっている。
    社会資本整備審議会建築分科会 第12回基本制度部会議事

    おもったよりもはるかに高齢化が進んでいるようです。私のエクセルの表と対象してみます。

     

                                       
    私的予測社会資本
    20歳代3,000
    30歳代59,42247,000
    40歳代67,37566,000
    50歳代95,992101,000
    60歳以上94,099106,000

    こう眺めてみるとそう大きく外したわけではないといっても許してもらえる範囲でしょうか?

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    改正建築基準法ってなに?

    去る6月20日から改正建築基準法が施行されました。建築基準法とは、いうまでもなく建築に関わるものの「憲法」で、日本国内で建てられるほとんどの建物の安全などの基準を決めた法律です。最初にこうあります(E-GOV参照)。

    (目的)
    第一条  この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする。

    今回の改正がどのような改正であったかは、新聞などのマスメディアなどで報道されています。今更私がどうこういうこともありません。


    ピアチェックなど耐震偽装問題対応の改正建築基準法が施行に @ asahi.com


    建築確認・検査の厳格化、民間確認検査機関に対する指導監督の強化などが主要項目。今回、施行された建築基準法の最大の目玉はピアチェックの導入だ。「構造計算適合性判定制度」という。高さ20メートルを超える鉄筋コンクリート造のマンションなど一定の高さ以上の建築物について、第三者機関の専門家による構造計算書のチェックが実施される。


    私が見聞きしている建築関係者の間では、まだあまりインパクトが受け止められていません。正直、まだ様子見という感じなのではないでしょうか?建設会社よりも先にインパクトの来る設計事務所関連では、重く受け止められているようです。


    【改正建築基準法】80%が「仕事に大きな影響がある」──緊急アンケートに大きな反響 @ケンプラッツ (日経新聞)


    一介の建設屋の社長として言うべきことでないのかもしれませんが、私が疑問を感じているのは、木造住宅に関して罰則の厳格化以外基準法があまり改正されていないということです。以前、藤木良明さんという方の「マンションにいつまで住めるか?」 という本を読みました。この本の中にこんなくだりがあります。


    平成7(1995)年1月17日未明に発生した阪神淡路大震災は、死者6433人、全壊・半壊家屋24万9180等の大きな被害をもたらした。ただし、マンションでの死者はわずかに20数人、住居としての再使用が容易でない大破を受けたもの83棟であった。このことはマンションが木造の既存住宅に比較してきわめて安全な建物であることを示している。


    逆を言えば、亡くなられた方のほとんどは木造住宅において被害に遭われたということです。
    私の会社も長いこと木造住宅を作らせていただいてまいりました。建築基準法に則ってその時代、その時代で仕事をさせていただいてきました。お陰さまで本当に幸運なことに地震の影響で建物に影響があったということはいままで経験したことはありません。

    しかし、この数年で起こった新潟などの大地震でもやはり木造の建物が主に被害に遭ったようでした。実は先日新潟方面へ出張へ行ったのですが、まだ地震の影響を受けた建物の建替えが続いていました。その多くは元々木造であったと聞きました。

    何度か建築基準法で定める耐震基準は木造のそれも高められていまして、「新耐震」と言われる昭和56年の大改正以降に建てられた建物はいくつかの大地震においてもほとんど被害にあっていないと聞いています。

    少し筆が走りすぎましたが、古い木造住宅について「既存不適格」という昔の基準のまま放置されてしまっている木造等の問題について、今回全く先送りされてしまってわけではありません。住宅情報提供協会のホームページから少し拾わせていただきます。

    災害・事故等の切迫性の高まり
     平成15年7月26日の宮城県北部を震源とする地震により、古い木造建築物を中心に、1,000棟以上の建築物が全壊した。また、6,400名余の死者が発生した阪神・淡路大震災においては、大破以上の被害を受けた建築物のうち94%が現行の耐震基準を満たさない建築物であったなど、昭和56年以前に建築された建築物について被害が顕著に見られた。

    具体的な施策としては、以下の3つがあげられています。

    既存不適格建築物に対する勧告・是正命令制度の創設(法第10条第1項及び第2項)

    建築物に係る報告・検査制度の充実及び強化

    既存不適格建築物に関する規制の合理化

    特に木造住宅に関しては、基礎に増し打ちをするなど一定の補強をした場合の小規模増改築が認められるなどの改正があったようです。

    一番の問題は「既存不適格」の問題です。昭和40年代に建築基準法が定められた時に、法律は施行以前に遡及して適用されないのが原則とされました。その時点で建っていた建物には適用されませんでした。日本の木造については、当時、寿命が20年以下とも言われていましたのでそう遠くない将来にすべて建て替わるだろうと思われていました。しかし、住宅情報提供協会さんのホームページにもありますように、まだ1000万戸以上が不適格のまま置かれているというのが現状のようです。

    建築屋の社長としては、「ですから、お客様耐震診断を!」とつなげたいところですが、もう少し広く、「資産としての住宅、建物が満たすべき基準は本当はなんなのだろうか?」と問題提起させていただき、一旦ピリオドを打たせていただきます。

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    橋梁の崩壊って?

    まだ専門の方の結論が出ていないので、早計ではありますが、自分の勉強として、ミネソタの橋梁崩壊事故のことについて調べて書いてみようと思います。

    最初にTBSのニュースをネットでみました。

    米で高速道の橋崩落、50台以上転落 @ News i - TBS

    画像で見る限り、折れ曲がっている鉄骨は、いくらトラス構造とは言え日本の標準から言えば相当に細ものであるように感じました。地震の係数は日米でかなり違うのでなんともいえないことではあります。相当に金属疲労が進んで今回の事故を招いてしまったのではないかというのが第一印象でした。また、その後の当局の発表でも、金属疲労について触れているものがありました。

    米崩落橋 欠陥認識も放置、金属疲労も計算に入れず  @ Sankei WEB

    金属疲労によりトラス構造と思われる橋の構造体の一部が必要な強度を失い、なんらかの力が加わると力の集まる結節点などがばらばらになりやすくなっていた可能性があります。

    力と形 トラス構造 @ つまようじ ブリッジコンテスト 

    気になるのは、TBSのニュースで伝えられたインタビューです。

    運転していたら橋が揺れだした。そしたら橋が崩れて総ての車が落ちたんだ。ぼくも落ちかけたけど水に飛び込んで助かったんだ。

    Brdidge070805

    崩壊する前に自動車を運転していてもわかるほどの大きなゆれがあり、車を降りて水に飛び込むくらいの時間があったということです。

    調査用のビデオが記録した今回の橋の崩壊がYouTubeで公開されています。この直前の映像が見たいところですが、見つかりませんでした。

    この映像に移っている部分では、橋が水平を保ったまま落ちていることは注目に値します。この手前に崩壊しなかった橋脚があり、そのまた手前の橋が落ちています。つまり、橋脚が全面的に一度に崩壊したのではなく、橋脚と橋脚の間に一度に垂直な力が働き橋が崩壊した可能性があります。

    なぜ橋がゆれることがポイントかについて「ビルはなぜ建っているかなぜ壊れるか」という本から引用させていただきます。

    いま一本の丸太の橋があるとします。その中央に少年が乗りましたが、少年は軽いため橋は壊れません。しかし、少年がリズムをとりながら、橋の上で上下運動をすると、初めは確かにびくともしなかった橋が、徐々に揺れ始め、最後には橋が壊れてしまうくらいまで大揺れを起こします。この現象を共振resonannceといっています。

    (中略)

    そして(少年が加えた)外力の上下運動の周期と、橋が持っている固有の周期とが一致したときに共振が起こるのです。

    これらのことを考えると、1939年に建設されわずか4ヶ月で崩れてしまったタコマ橋について「SYNC」で読んだのを思い出しました。

    これは本当に推測に過ぎないのですが、今回は橋が老朽化し金属疲労により崩れやすくなっていたことに加え、道路の表層の工事のために道路がでこぼこしていて、通常以上の「上下運動」が加わり共振が起こったとは考えられないでしょうか?

    非常に不十分な推察であり、橋梁について私自身は全くの素人であることの断りを加えて一旦この記事をおきます。また新しい事実などが明らかになったときに書き加えます。

    いずれにせよ橋のような国民の生活と経済を支える重要なインフラストラクチャーが米国ばかりではなく日本においても老朽化し、再投資の時期が来ていることを、十分に認識しなければならないと信じます。創業と守勢はいずれも「難し(かたし)」なのです。

    インフラストラクチャーのメンテナンスの担い手がどうしても必要なのです、と建築屋の同胞へエールを送ります。

    ■追記

    仮想地球通信: 米ミネソタ州の橋崩落事故」というブログで、事故現場の以前の写真が検索できることを知りました。

    Minnesota0708063d_2

    Microsoft Livesearch

    やはり、あくまで私の個人的な感覚ですが日本の感覚から行くと落ちた橋のトラス構造は少し細すぎるようには見えます。

    最も近いアングルの事故後の写真です。

    070801_bridge_collapse3

    Minn. officials warned about bridge as early as 1990 @ KOMOTV.COM

    やはり橋脚が残っているのが不思議に感じます。共振の可能性を示唆しているのではないでしょうか?

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    住宅の図面の読み方がわからない?

    ずいぶん前から図面の見方について書きたいと思っていました。

    そもそもごく一般の方にとって建築図面に触れる機会というのは、家を建てようと思うまでなかなかないものです。個人的には、中学、高校の間にお金の借り方と家の建て方は授業で一般常識として教えるべきだと私は思っているのですが、まず一般のお客様で最初から図面が完璧に読める方というのはいらっしゃらないです。 仕事を進めさせていただくうちに、次第に図面に対する理解を進めていただいているというのが実情です。やはり、建築図面というのはかなりとっつきにくいというのが実情ではないでしょうか?

    実はこの記事も3年前に書き始めて、まだまだ不完全な状態です。いつまでもこのままにもしておけないので、できる範囲でまとめてみます。

    図面は、用語からして難しい言葉が多いです。

    なかなか公開された資料はないと思っていたのですが、3年も経つと環境はだいぶ変わっていまして、建築用語集もネット上で充実しています。

    図面に関する用語 、 図面に関する用語2 @ Intericoo

    いやいや、この用語辞典はかなりすばらしいです。 本来立体である家や建物を紙の平面の上にあらわそうとするわけですから、なかなか大変です。

    以下、たまたま手元にあった鉄骨造2階建ての事務所の図面を例に用いて説明します。一番よく使われる、「プラン」というとこれ!というくらいポピュラーなのが、平面図です。

    それぞれの部屋の大きさや、サッシュなどの建具の位置、キッチンなどの住宅設備関係の配置などがよくわかります。玄関から入って、リビングで食事して、着替えるのは主寝室で、あるいは打ち合わせスペースと作業スペースをどう移動するかとか、自分自身がどう建物の中で動くのかという動線を想像できるます。お打ち合わせでにらめっこする時間が一番長いのも平面図かもしれません。

    平面図だけですと、立体感がつかめないので、南北東西の外側から眺めた時にどのように見えるかを示したのが、立面図です。

    立面図 

    [下の2図は断面図です。]

    頭の中で組み立てるのは、なかなか熟練がいる場合もありますが、平面と立面図を眺めていると建物の仕上がりや見かかりまで想像つきます。

    最近は、コンピューターが発達していますので、そもそも平面図、立面図(2つあわせて略して「平立」(へいりつ)などと呼ぶこともあります。)からCADで描いているので、あまり手間をかけずに現実に近いコンピューターグラフィックスを作ることも可能になりました。パースと呼ばれています。上手な方が作ったパースは最近の3Dグラフィックスの映画ではないですが、ほんものと見分けが付きません。

    パース

    [例示した他の図面とこのパースは一致しません]

    この他、建築確認を取るまでには、基礎伏図、梁伏図、矩計図など構造や仕上げに関する図面も必要になります。 これらは構造設計、構造計算と言われる技術的な検討を踏まえて作成されます。

    住まわれる側の方にとって案外重要なのは、展開図と呼ばれるものです。

    展開ず

    必ずしも許認可等で必要ではないのですが、施工者側と設計者、そして御施主様の内装に関する誤解を解く為には有効な図面です。これは、部屋の中心に立って部屋の4面を立面図のように切断して描いた図面です。 これに仕上表と言われる建物の内外装の仕様についての図面も最終的なできあがりをイメージする上で大事です。

    非常に駆け足となってしまいましたし、例示した図面も必ずしも適切なものではありませんが、こういう種類の図面があるのだという理解をいただければと願っております。

    また機会をあらためて図面の具体的な見方など説明させていただきます。

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    [書評]「法令遵守」が日本を滅ぼす

    gskayさんが、本書について触れていらっしゃるのを読んで(参照)あわてて読み始めたところです。先日、書店で興味を持って買ったものの「まえがき」だけを読んで、積読しておりました。

    4106101971「法令遵守」が日本を滅ぼす
    郷原 信郎
    新潮社 2007-01-16

    by G-Tools
    法の失敗が招いた耐震強度偽装事件
    (中略)
    この問題の核心は、危険な建物の存在が明らかになったことではありません。建築したばかりの建物が、「違法建築」であることを理由に使用禁止になり、一部は取り壊さなくてはならなくなってしまったことです。建築基準法で定めた耐震基準を満たさずに使用禁止にせざるを得ない建物が建築されてしまったこと、それを防止できなかったという「法の失敗」が最大の問題なのです。
    この「耐震基準」は、日本の建物全体において維持されているわけではありません。現在の基準が定められた1981年以前に建築された建物には、今回問題になった建物より耐震性が低いものも多数あります。もし、地震で倒壊する恐れのある危険な建物すべてが問題だというのであれば、日本中の多くの建物の使用を禁止にしなければなりません。

    検事を経験された郷原伸郎さんがこのようなことをはっきりと書かれていること自体に衝撃を受けました。

    実はまだ全体を読んでいないので、この「書評」はまた読了した時点で書きたささせていただきます。

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    Google Docsってなに?

    最近のブロードバンドを利用したサービスの高度化には目を見張るものがあります。

    Google、ワープロ&表計算Webアプリ「Google Docs & Spreadsheets」を公開  @ Internet Watch

    この記事からも更に進歩しているように感じます。GWに時間があったので、またかなり前回書評させていただいた「不動産投資の破壊的成功法」からも刺激を受けたので、このグーグルドックスを使って投資収支計画書をスクラッチでゼロから作ってみました。忘れかけていた税金とか、キャッシュフローとかかなり勉強になりました。

    公開版賃貸収支予想シート

    しかし、よく考え見ればこのままでは見ることしか出来なので、エクセルファイルとしてダウンロードして改めて公開してみました。

    「公開版賃貸収支予想シート」ダウンロード open-source-investment-planningu.xls (187.0K)

    逆に私が作ったことのある中で最もややこしい収支表もアップしてみましたが、ほぼ問題なくウェブ上で読んだり、操作してりすることができました。技術の進歩はしばらしいです。

    誰でも見れるかどうかわかりませんが、Google Docsについてやはり一番詳しいのは、サイト自体のように思います。

    Google Docs & Spreadsheets ヘルプ センター

    私自身も社内の打ち合わせ用に文書や表計算を「公開」より一歩進んで、「共有」して議論の場として使い始めています。編集の履歴もきちんと残るので、かなり便利です。どなたかがウェブがますます仕事に使われるとプロジェクトに対して誰がどのような貢献をしたかきちんと残るようになるので、評価が明確になると書いていらっしゃいましたが、その第一歩といえるかもしれません。

    いろいろな収支のソフトが出回っていますが、やはりゼロから自分で書き直してみると建設あるいは不動産に携わるものとして、実に勉強になります。関係各位におかれましては、この収支計画表がすこしでも参考になり、励みになれば幸いです。

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    [書評]不動産投資の破壊的成功法

    正直、やられたな、という感じです。出版された2005年内になぜ私はこの本と出会えなかったのでしょう。

    44786206951年で10億つくる!不動産投資の破壊的成功法
    金森 重樹
    ダイヤモンド社 2005-10-28

    by G-Tools

    この本に出会って本当の意味での大きな純資産を築かれた方がいらっしゃるというのは実にうなづけます。ちなみに、不動産、建設のプロの間では「資産」とは、貸借対照表上の左側の合計にすぎません。投資とは、貸借対照表の「資本」にあたる「資産」から「負債」を引いた「純資産」(自己資本)をいかに増やすかであって、むやみに「資産」を増やすことで張りません。将来に渡って本当に正味ベースの純資産を築く方法がこの本には書いてあります。

    はっきり言って自慢ですが、私は十数年前に勤務先をやめた翌月に米国に留学し2年きっかりで帰ってきました。正確に言えば、1993年6月末で当時勤めていた上場不動産開発会社を辞め、7月13日に渡米し、1995年7月17日にMBAの資格を取って帰国しました。専攻は「都市開発と不動産ファイナンス」です。米国に行っている間は夜も昼もなく勉強しました。会計、マーケティング、ファイナンス、事業計画(entrepreneur)、なんでもとにかくよい成績をとれるよう、また積極的に米国人とディスカッションするようにがんばりました。お陰でPhi-Kappa-Phiという成績優秀者のフラタニティーに入れていただき、いくばくかの奨学金を推薦でいただきました。

    その私が言います。

    私が死ぬほど努力した2年よりも、使える知識、使える技法がこの本には凝縮されています。

    金森さんご自身が書いていらっしゃるように、急速に不動産投資利回りが下がってきている現在、本当に一棟ものの不動産マンション投資は難しくなってきています。私も仕事の上でひしひしとそれを感じます。ついつい地を出してしまえば、だからこそいま投資すべきだといいたくなるのですが、本当に慎重に、かつ、波を読んで投資すべきだと私も思います。また、足元で建設業界のインフレーションとしかいえない現象が起こっているのも実にアゲインストです。

    だからこそ出版された時でなく、2年も経ってからこの本と出合ったことが悔しいのです。

    しかし、それでも連休が明けたら何人かの投資家希望の方にこの本をリアルで紹介している自分がいると思われます。

    ただし、この本に書いてあるのは、私が地域の建設会社として主張していることとは正反対のことが書いてあるのも事実です。実に合理的な不動産投資法なので、「勝ち馬にのる」ことこそがが成功法なのです。収益還元法で銀行がお金を貸してくれるエリアにこそ投資すべきだというのは、本当にその通りなのです。しかし、それではますます地域の格差は開いてしまうのでしょう。この自分のふるさとにこそ住んでいたいという人の好きだという気持ちとか、意地などはどこかにおいておかなければなりません。

    その矛盾を正直に私は感じています。

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    気象危機と建設って?

    先日、「不都合な真実」という映画を見てきました。

    元米国副大統領のアル・ゴアさんが二酸化炭素の排出の増大に伴う温室効果へ警鐘を鳴らしているドキュメンタリー映画です。家族といっしょに見に行きました。これからの時代に対して私たちは考えなければいけませんし、次代を生きていく子どもたちにもこれから起こるかもしれないことに対して関心を持ってほしいと思ったからです。

    映画 不都合な真実 公式ページ

    正直、妻や子どもたちは字幕の解説だけだと大学のセミナーを聞いているようでわかりにくいといっていました。同名の本はかなり映画の内容を補完していると想います。

    427000181X不都合な真実
    アル・ゴア 枝廣 淳子
    ランダムハウス講談社 2007-01-06

    by G-Tools

    昨日もテレビを見ていたら、アル・ゴアさんご本人が出ていらっしゃいました。日本語で吹き替えされていたので、家族もかなりわかりやすかったと言っていました。アル・ゴアさんは「地球温暖化ではなく、これは気象以上だ」と明言していらっしゃいました。

    これからの建設屋をやっていく上で、環境問題をどうとらえたらよいのか考えさせられます。単に商売を継続していくとか、売り上げを伸ばしていくとかではなく、昨今の気象異常の問題は事業使命の一部として真剣に取り組むべきなのではないかと感じています。

    以前、空調設備関係の方と話していて、これまでエアコンの室外機は外気温の最高を32~3度と仮定して必要なモーターなどの馬力の計算をしているのだと聞きました。しかし、夏の間に40度を越える日が続くのが当たり前になってきています。

    少々、気象データを調べてみました。35度以上の日を「猛暑日」と今で言うのだそうですね。

    気温データのページ |猛暑日 北関東  by 中村(ナカムー)さん

    これを見るとアル・ゴアさんが心配するほど40度を超える日は関東では少ない気がしますよね。ちなみ、それでも10年平均で東京では3.93回の猛暑日が記録されているのに、那覇では0.20回なんですね。福岡4.67回、鹿児島4.27回は少々納得です。東京はどうも周辺と比べて猛暑日が多いという事実は私にとって発見でした。 ヒートアイランド現象なのでしょうか?

    気象庁によると南西諸島と本州とでは気象の変化の仕方が違うそうです。これは、「不都合な真実」で取り上げられていた温暖化の減少と符号する事実なのでしょうか?

    「日中の暑い日はそれほど増えてはいないが,夜間に気温が下がりにくくなっている」

    20世紀の日本の気候 > 1.2 暖かくなった20世紀 > 1.2.4 真夏日と熱帯夜 @ 気象庁

    「最高気温が35℃以上となるような極端に暑い日は,1990年代以降,急激に増えている地点があり,これは日本の年平均気温が近年高くなってきていることと関連していると考えられます。 」

    20世紀の日本の気候 > 1.2 暖かくなった20世紀 > 1.2.5 極端に暑い日 @ 気象庁

    地球温暖化についてのデータも出ていました。

    20世紀の日本の気候 > 1.2 暖かくなった20世紀 > 1.2.1 暖かくなった地球 @ 気象庁

    私たちが日常で感じ始めている変化はすでに気象の専門家の観点からは既定の事実であったわけですね。

    一方、雨も増えているという声があります。

    私の仕事の中で、開発行為といわれる単に建物本体だけでなく計画区域内の雨水や緑地などの必要な基準を満たす計画を立てて許可をいただくことがあります。この開発行為を主管するのは主に土木整備事務所というところなのですが、この関係の方から間接的にどか雨が増えていて困っているという話を聞きました。開発行為の中で、一定量以上の雨水を外部に流さないために調整池といわれる設備を作るのですが、この容量を決めるの予測される降雨量を50年確率とか100年確率とかいわれる、雨がどれくらい降るかの係数があるそうです。しかし、今使っている係数では最近のどかっとふる熱帯性の雨にとてもとても対応できないと嘆いていたそうです。

    台風が増えていて工事の工程が遅れる経験も増えてきています。

    気象庁のホームページを見るとまだ「観測データを積み重ねる」段階のようです。

    関東甲信や東北太平洋側,九州では多いところで2日以上,大雨日数が増えています。例えば,東北の福島では,1960年代には年に3.4日だった大雨日数が,1990年代には6.5日にまで増えています。一方,北陸や近畿地方では大雨日数は減少しています。北陸の敦賀では1960年代の3.8日が1990年代には1.0日に減少しています。日降水量で見た大雨について,増えている地域と減っている地域の両方があると言えます。

     このように,短期間に強い雨が降るような激しい現象は,地球温暖化によっても増える可能性がありますが,都市化によるヒートアイランド現象によっても増えると考えられています。こうした激しい雨が増えているかどうか結論付けるには,さらに観測データを積み重ねていく必要があります。

    20世紀の日本の気候 > 1.3 雨や雪からみた20世紀 >1.3.3 「大雨」は増えているの @ 気象庁

    こうした気象の変化がもたらす結果について勉強を続け、関心も持ち続けることが企業人としてまず大事でしょう。

    「不都合な真実」の本の最後に「あなたにもできる10のこと」というページがありました。この中で最初に出てきたことば住宅の省エネルギーを進めるために、断熱性を高めると書いてありました。昨晩のテレビでもアル・ゴアさんは、「エネルギー効率のよい新しい電化製品や車を使うことは身近でできる大切なことだ」と言っていました。

    他方、私が気になっているのは日本の住宅の寿命の短さです。統計にもよるのでしょうが、20年をきっているという話もあります。家を建てることには非常に大量の資源とエネルギーが使われます。100年住宅という考え方を私は需要だと思っているのですが、断熱のよい、世代を超えて使える住宅を建てていくことが建設業界においてとても大切ではないでしょうか?

    土木の方面でも水を守るランドスケープの運動などもあるそうです。

    日本ゼリスケープデザイン研究協会

    関心をもって見て行きたいと想います。

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    指名競争入札制度は死滅するのか?

    ももちさんのブログを読ませていただいて、小骨がのどにひっかっかったままのような気持ちがしてなりません。

    絶滅危惧種へと向かう地方の指名競争入札。 by ももちさん

    私は、市場原理に移行するときにやはりいくつか問題となる点があると考えています。これまで好むと好まざるとにかかわらず「談合」が野放しにされていたのは、それが品質確保の唯一の方法であり、十分な数の入札業者を確保、維持する唯一の仕組みであったからでしょう。市場原理に移行するとすれば、私は次の3つのポイントを十分にシステムに組み込むべきだ主張したいです。

    1. 予定価格設定にあったっての価格調査の適正化、市場価格反映のスピードアップ
    2. 瑕疵担保責任の期間延長とすべての工事実績と評価の公開
    3. 過去の実績と地域貢献を加えた価格評価

    「1.」はつい先日単位業界団体の会長さんとも話したのですが、私どもからすると故意に価格の反映が先送りされているのではないかと思っています。公共予算の削減という観点と品質はバランスしなければなりません。ところが、予定価格の物価調査の結果の反映はたぶん年単位で行われている中、昨年の夏から現時点までで工事の最終単価で10%から290%は上昇しています。こうした悲惨な現状の中で、正常な入札がおこなわれるとは非常に思いずらいです。

    建築工事単価、軒並み上昇・活況で熟練工不足 @ 日本経済新聞1月27日夕刊

    確かについ先日までは公表された予定価格は十分に実行可能な工事積算価格を上回っていました。しかし、私が見聞きしている非常にマイクロな視点では、現時点では予定価格は既に10%以上下回っており、落札価格は実行可能な積算価格の70%以下の水準になっていると思います。これでは、品質の確保もあやういと思われますし、落札会社の存続も危ぶまれると考えます。

    では、どうしたらよいかという視点で言えば、「2.」と「3.」ですが、これまでおざなり、なれあいでありがちだった瑕疵担保あるいは品質確保のボンド制度などを適正化した上で、実績あるいは技術力、地方への貢献などを加味した入札制度を構築すべきだと考えます。客観的な仕組みの構築が非常に難しいところですが、私は山口浩さんの入札制度へのリアルオプションの適用という考え方は非常に面白いと思います。

    4916106938 リアルオプションと経営戦略
    日本リアルオプション学会
    シグマベイスキャピタル  2006-11


    by G-Tools

    もういまさらそんなことを悠長に議論している場合ではないという声が多いと思います。ももちさんの危機意識らも伝わってくるようにかなりまったなしの状態であることは確かです。ではどうしたらよいか?私は、現在国関係にとどまっている「公共工事の品質確保に関する法律」を地方公共団体まで早急に適用を広げることだと信じています。

    『公共工事の品質確保の促進に関する法律』のポイント』 @ 四国地方整備局

    建築屋の社長である私が口にすべきことではないのは十分に承知の上で言ってしまえば、決してこの法律も完璧ではありません。既存の中堅以上の業者さん達が集まって作った法律であるのはちょっと読めば十分にわかります。それでも、現状で体系的に品質の確保と最低限工事業者を「死滅」させない入札制度としては、セカンド・ベストだと思っています。

    (地方公共団体の責務) 第五条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、国との連携を図りつつ、その地域の実情を踏まえ、公共工事の品質確保の促進に関する施策を策定し、及び実施する責務を有する。

    正直、これまであまり公共工事に興味を持っていなかったので、にわか知識、にわか理解ですが、書かせていただきました。一人でも多くの方の意見を伺いたいです。

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    書評 月に響く笛 耐震偽装

    いや、この本はかなり核心に触れていると思いました。

    4903786005 月に響く笛 耐震偽装
    藤田 東吾
    imairu  2006-12-28


    by G-Tools

    ここに書いてあることが本当なら、多くのホテルの改修で使われたアラミド系の補強材や、限界耐力と保有水平耐力との二重基準の矛盾点を含めて、平成17年11月17日の国交省発表以前に、その後問題になったこと、対策を取られたことの多くは関係者の間ですでに論じられていたことになります。

    「そうした情報をすべて知っていたはずの国交省は一体なにをしたんだろう?」という疑問をぬぐえません。

    衝撃的だったのは、SBIの援助を受けて再構築を図ろうとしたイー・ホームズが、某マンション・ホテルグループの案件について告発を行ったとたんに例の増資をめぐる犯罪が告発されて、一転逮捕に向かったというくだりです。

    実は、某ホテル・マンショングループで工事が中断している案件が近くにあります。

    藤田東吾さんは、文章がうまいです。少々、体調を悪くしていたのですが一気に読ませる文章だったので、一日で読んでしまいました。

    アマゾンで書評を書いてしまいました。建設会社の社長としてあってはならぬことですが、あまりに衝撃的だったので藤田さんを少しでも応援したいという気持ちで書きました。

    なぜこの本が出版できなかったのか?

    そして、この本を本屋で売れないのか?それほどまでにこの国の既存勢力は腐っている。

    かなりまっとうなことだけを藤田東吾さんは書いている。

    個人攻撃ではなく、システムとして腐っていることを明確に書いている。

    それだけだ。

    この本は多くの人に読んでももらい、行動を呼びかけるべきだ。

    手遅れになる前に。

    また新たな耐震偽装が明らかになったとニュースで報じられています。関係者の方は大変だと思います。しかし、国土交通省が動き出したのはこの本の出版が契機となったのではないでしょうか?日本はまだ見捨てたものではないのだと信じたいです。

    ■参照リンク



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    スケルトン分譲って?

    スケルトン分譲という言葉を聞くようになりました。

    スケルトン分譲 @ 不動産用語集

    随分前から法律の改正は行われていたので、理論的には内装をしないまま集合住宅を建てることはしばらく前から可能でした。

    スケルトン・インフィルの法制度ってなに? @ KEN

    ようやく最近現実にスケルトンのみで、内装は買い取られた方がするという方式がいくつかでてきたようです。

    自由設計のマンション @ sumai.com

    多分、今後は自由設計を越えて、本当にスケルトンだけで提供して、内部の設備、内装はそれぞれのお好きな会社で、お好きなようにという時代が来るのではないでしょうか?

    同じマンションでもどうしてもライフスタイルが変われば住みづらくなってしまいます。これまでの常識で言えば、では住み替え、買い替えということになるわけですが、スケルトン・インフィル方式のマンションであれば、より長く資産価値、住みやすさを保つことができます。大概の場合、ルネス方式のように床下に空間を確保することが必要になるので、設備配管のメンテナンスなどもしやすくなります。今後の展開が楽しみですね。

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    建設業界はオープンソースなのか?

    表題の問いは「建設業界はオープンソースであるべきだ」という主張に読み替えるべきなのかもしれません。

    さきほど、ある設計の方とお話しました。

    「先日依頼主のある会社の社長さんと話していて、『建築するとき誰を信用していいかわからないんだよね』といわれた。この言葉にぴんときたね。いま、建築に対する信頼感って本当に失われていると想うんだ。」

    ついさきほどまで散々議論をして、結局この社長さんが言いたかったのは、『建築について聞いたとき、誰でも同じ答えが返ってくるのでないとおかしい』ということではないかという結論に達しました。考えてみれば、建築に関する知見ってあまりにも孤立分散していて統一的な見解に達していないと思われる、工法をめぐる混乱や、仕上げ方法に関するよしわるしの判断が散見されています。

    もう発覚してから1年が過ぎようとしている耐震偽装事件以来、建設に関する基準が実は一枚板ではなく、人によって基準が大きく違ってしまっているのだという事実が、一般の方に知れ渡ってしまいました。これまで構造工学、材料工学に基づき、厳密な設計により作られてきた建築は、ブラックボックスであっても非常に高度なそして完成された技術の賜物だと受け止められて来ていました。そして、実は細部になると意見をかなり異にすることが多いとはいえ、建築にかかわる人たちもそれなりの自尊心をもっていたし、それなりの尊敬受けていたのだと思います。

    しかし、今考えると仮に耐震偽装が起こらなくても、建設をめぐる信頼はやはり崩壊せざるを得なかったのではないでしょうか?我が建設業界はももちさんが指摘されているように、これまであまりにもお客様からいただいてきた信頼をおざなりにしてきたと思います。技術、仕様なども「職人芸」の美名の下にあまりにも公開する努力を怠ってきました。

    建設業の信頼性とは? @ KEN

    考えてみれば、お客様の資産やご家族の命を預かる仕事です。どのような仕様で、どのような技術を使って建設の仕事をしているかは、もっともっと公開し、理解していただく努力をすべきでした。必要な情報を公開し、一般的な「常識」とすることでこそ永く守られメンテナンスされていくべきお客様の資産を作る責任を果たせるのではないでしょうか?

    「職人芸」と書きましたが、さきの設計者さんから「日本の在来軸組みこそオープンソースの極みだ」という指摘を受けました。木造に携わった人なら誰でも知っていることですが、在来木造の尺寸モジュールは非常に人間のサイズに基づいていて、かつ木材を無駄なく使える標準寸法になっています。また、部材と部材をつなぎあわせる仕口も非常に標準化されているため、増改築もごく簡単ですし、木組みを一旦ばらして他の場所で再築することすら可能です。永く保存されている木造建築は、くさったところは切って、別の木をつなぎなおすとか、切って短くなった部材を別の部位で使うことなど、いまで言うサステナブルなノウハウがいっぱいでした。

    仕口 @ All About

    図解 「指物の継手と仕口」 @ 府中家具さん 家具の仕口なので、木造建築とは違います。

    しかし、作り方は標準化され、「オープンソース化」していても大工さんの個性と技術の高さにより実に多彩な木造建築がこれまで作られてきたことは言うまでもありません。

    もっとも、現代建築においても、鉄筋コンクリートだろうと、鉄骨造だろうと、ちょっとした本屋さんに行けば驚くほど多くの技術書が置いてあることに驚きます。真剣に建築を勉強する気になれば、いくらでも資料が手に入るのが現代です。そもそも、システムキッチンとは、「サイズ、高さ、接続方法などが統一されているため、どのメーカーのキッチン部品、部材でも相互に接続可能」なシステム化されたキッチンという意味だったのだそうです。決してメーカーを非難するつもりはありませんが、いくつかのメーカーのキッチン部品を組み合わせて使うという例は一般には決して多くありません。オーダーメイドのキッチンの魅力について語りたくなりますが、話題が逸れるので別の機会にします(笑)。

    いま、インターネットを通じて標準化された自動車のパーツが取引されるように、もっと日本の建築においてブラックボックス化をやめて、オープンソース化することによりできることというのはいっぱいあるのではないでしょうか?また、それが社会に対して建設業界が信頼をとりもどし、冒頭の社長さんの言葉に戻れば「誰に聞いても同じ答えが返ってくる建設業界」となる一歩なのではないでしょうか?

    そのための議論の場としても、将来の情報や部材の流通、遠くは建設会社の評判の共有化まで含めて、オープンソース発展にはインターネットが欠かせないと想っています。

    あまりにまとまりませんが、この議論自体をオープンとしたいので、拙速ながら公開します。

    ■参照リンク
    オープンソースの住宅建設と、フラーのダイマクシオン・ハウス by 金子 順さん
    うわっ、愛用させていただいているG-toolの人だ!
    なぜオープンソースで配布するのか? @ OKWave
    Be-h@usによる保育園、小俣幼児生活団 @ mojix.org
    Be-h@us とは? @ be-haus.com
    すんごく共鳴します。やっぱり仕口が問題だったんですね。こうした運動を木造以外の構造体にも広げられるのではないでしょうか。

    構造計算書公開=オープンソースマンション @ 圏外からのひとこと
    なるほど。そういえば、出た時点で私はこの記事読んでました。

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    突き抜けた経営者って?

    やはり、インパクトのある会社にはインパクトの経営者がいらっしゃるのだなと実感しました。日本型CMで有名な希望社さんの桑原耕司社長です。

    Kuwahara01

    希望社 トップの紹介

    随分以前桑原社長のセミナーに参加させていただきました。なんかすごいとっぴょうしもないことを言う人がいるなぁというのが第一印象でした。建設業界はそんなに簡単にかわらんだろうというのが、正直な私の実感でした。

    毎号毎号楽しみに読ませていただいている「飛翔」を読ませていただくに連れて、これは凄い人、すごい会社なんだなと次第に実感するようになったのはいつ頃だったでしょうか。今回の「飛翔 2006.9」を読ませていただいて完全ノックダウンです。まいりました。

    建築情報誌「飛翔」97号を発行しました @ 希望社

    記事の内容は、内定から入社の研修の内容なのですが、すさまじいです。なかなかこういうことはできません。しかし、現代における王道を行っているのではないか、新米ですが建築屋の社長をさせていただいる今、思います。小さくまとまることが社長ではないのだと、なにをしようと突き抜けるところはとことん突き抜けていくのが社長の仕事なのだと思いました。

    ご自身が「働かせられない働き方」を目指してこられたことを述べた後に、こう書いていらっしゃいます。

    ただやはり、これまでの企業社会がつくってきた、会社がなくて生きられない社員を、今後は会社を活用しながら生きる「自立した人間」に転換させていただきたいと思います。 それは、20世紀の価値観(会社と社員の相互依存)とシステム(雇用関係)に基いた「会社」を、「自立した人間」のために役立つまったく新しい集団(それは「会社」と言わないかもしれません)に変えていくということなのかもしれません。

    衝撃を受けています。これから遅ればせながらご著書を読ませていただきます。

    4569649610社員が進んで働くしくみ 「働かされない働き方」が強い会社をつくる
    桑原 耕司
    PHP研究所 2006-07-27

    by G-Tools

    桑原社長のほかの著作 (アマゾンインスタントストア)

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    駅前と郊外が入れ替わる時って?

    多分そう遠くない将来に、いやもしかすると「既に」かもしれませんが、駅前と郊外は役割が入れ替わるのでしょう。

    たまに電車で移動するときに、駅の近くの分譲マンションがやたら目に付きます。そして、車でドライブしていると、市街地の周辺に巨大ショッピングセンターが出来ていることに唖然とさせられます。いつのまにか「駅前でショッピングして、郊外の家に帰る」というサザエさん的な生活スタイルは遠い昔のことになり、「通勤に便利な駅前のマンションに住み、週末に車で郊外のショッピングセンターに買い物に行く」があたりまえのものになってきています。

    私自身が住む街は、歴史も古く商店街も奇跡的に現在機能しています。建築屋ですので、いくつも商店街の店舗の仕事をさせていただいてきました。それでも、周辺に少しずつショッピングセンターやデパートができ、しまいには超巨大なモールが来て人の流れも、車の流れも確実に変わってきているのを感じます。そんな中で旧来の商店街が生き残っていくのは、商店街の上の空間を利用して住む人の数を増やすことが基本だと感じます。

    こうした流れの中では、街の魅力はなにかを自覚的に追求することがとても大切ではないでしょうか?「魅力」の追求には、決して同じ「正解」はありません。いままでなら「○○銀座」というような東京の模倣を地方の商店街で繰り返すことで、繁栄が約束されていました。これからの商店街の繁栄には、決して全国統一の一つの「正解」はありえません。

    以前、長浜の話をすこしさせていただきました。

    長浜の船浅さんってどなた?

    長浜の商店街は一旦シャッター通りと言われるほどに商店街が荒廃したと聞いています。それが、「ガラス工芸」をキーワードに復活を遂げました。失礼な表現かもしれませんが、かなり強烈な個性を持った方がこの復活の指導的役割を果たしたと聞いています。

    これから世の中の流れが加速し、ますます全国をまたにかけるフランチャイズのお店が増え、金太郎飴のようにどこにいっても同じ街並みが広がるのかもしれませんが、最後まで「建築屋の社長」としては街の個性を守るためになにができるか努力しいくことが自分の使命だと信じています。

    ちょっと話がずれますが、私はこの世は人と人との絆で出来ていると信じています。以前、日本の人口がこれから減っていくときどうなるかとを考えていたときに、縮約していく社会の中では絆は分散するのではなく、より集中化していくだろうというイメージを持ちました。

    べき乗の法則とランチェスターの法則

    これまでの地域社会においては、人と人が安定的で濃密な絆で結ばれていました。これから人が少なくなっていく局面では、商店や会社の数も減るし、身近な人との別れも増えてしまうのでしょう。商店や人とともに安定した絆が消えてしまえば、残された人の絆は不安定な状態に陥らざるをえなくなります。それでも生きていくためには新たな絆を築こうとするでしょう。しかし、人の数が減っていく中では、新たに絆を築くにも選択肢は決して多くないでしょう。どうしても、縮約していく社会の中で既に大きな絆を得ている企業や人に集中そして、巨大な絆の塊りができるのだと私にはイメージされます。

    最初の話題から外れてしまいましたが、極東ブログの記事を読ませていただいて非常に不安な気持ちになり、まとまらないまま思いつきを書きました。

    改正中心市街地活性化法施行、雑感 by finalvnetさん

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    [書評]飛躍する構造デザイン

    4761522933飛躍する構造デザイン
    渡辺 邦夫
    学芸出版社 2002-09

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    先日、本書を書かれた渡辺先生とお会いする機会がありました。いや、逆ですね。幕張メッセや東京国際フォーラムなど数多くの独創的な建物の構造計画を果たされたご高名な方なのに、私のような一介の建設業者に誠意を込めてお話をしてくださいました。一遍で大ファンになってしまい、本書を買いに走りました。

    本書を読んでいるうちに、とにかく具体的な結果である現在の作品の現場を見たくて、仕事の合間を縫って東京国際フォーラムへ行ってきました。

    Img068

    これだけの空間が、2本の柱で支えられているというのは、本当に驚きです。

    Img063

    構造体が力のかかり方、伝わり方を反映しているという様子がよくわかります。

    ネット上ですでに本書についての解説や対談がアップされていました。

    東京国際フォーラム ガラスホール @ archstructure.net

    飛躍したい構造デザイン @ 建築家フォーラム

    構造は素人の私が付け加えることももはやないのですが、個人的な感想を書少し書きます。

    本書を読んで、改めて私は構造デザインという、人の生きる場への数学的・工学的な解と美の追及がたまらなく好きなのだなと思いました。これは幕張メッセや東京国際フォーラムの具体的な構造デザインからばかりでなく、先生がフィボナッチ数と自然について触れていらっしゃる部分でも大変感じました。

    黄金比ってべき乗則なの? @ HPO

    私は技術者として2級レベルだし、数学も構造工学も生半可な理解しかできていません。しかし、構造デザインの「おっかけ」なのかもしれません。生半可な理解にすぎませんが、構造解析の分野で使われる数学一つとっても、美しさを感じます。多面体の美しさ、神秘も改めて感じました。

    「博士の愛した数式」から耐震偽装に至る6次のつながり @ HPO

    また、本書で渡辺先生はパリ博覧会のクリスタルパレスに触れながら、いかに構造の分野の発展が自然観察から生まれたかを書いていらっしゃいます。また、私の学生のころからの愛読書の「生命潮流」にも触れていらっしゃいます。私の手に負える範囲をはるかに超えますが、フィボナッチ数とまつぼっくりのかさの数とか、生体膜とドームとか、建築物と生物が同じ物理学的構造、数学的原理をもちうるのだとすれば、こんなに深い神秘はないでしょう。

    4875020775生命潮流―来たるべきものの予感
    ライアル・ワトソン 木幡 和枝
    工作舎 1981-01

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    本書を通して、あの渡辺先生の穏やかなほほえみの奥にある洞察と展望の深さの一端を感じることができました。 深く、渡辺先生に感謝したいです。ありがとうございます!

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    建設業の信頼性とは?

    先日、桃知先生の「桃論」という本を読みました。ITの活用から現代思想、業界の現状まではばひろくい話題が詰め込まれていますが、本書の究極のメッセージは、「中小建設会社は本当に地元の方々から信頼されているか?また、建設会社はその大切さを実感しているのか?」ということだと感じました。

    4767802008『桃論』―中小建設業IT化サバイバル論
    桃知 利男
    エクスナレッジ 2002-11

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    私自身を含めて建設屋の社長は「地元のお陰で」とか「地元のために」とか公の場所で口にします。しかし、本当にどれだけこの信頼によって自分の商売が成り立っていることを自覚しているでしょうか?

    私もこの業界の人間です。いくつかの会社さんの栄枯盛衰を見せていただいています。地域の建設会社が地元から離れてしまった時のもろさを見た経験もあります。

    このまま成熟社会が続けば建設会社はどちらかというと「儲からない」業種になっていくのでしょう。しかし、地域、地元が繁栄していくためには地域独自の個性のある建築、メンテナンスは必須です。独自の建築、メンテナンスを安定して供給し、地域の繁栄に努力することこそが地域、地元の建設会社の意義ではないでしょうか?

    「桃論」を読ませていただきこのようなことを感じました。学ぶことが多かったです。2002年の出版当時に本書のメッセージが真剣に受けとめられていたら、耐震偽装の問題はより被害が少なくなっていたはずだと、私は思っています。

    ■リンク
    『桃論』:建設業の種的信頼 by 桃知先生

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    ハウスネットギャラリーってなに?

    この度、ハウスネットギャラリーさんで私の会社をご紹介いただきました。

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    ハウスネットギャラリー

    私はハウスネットギャラリーさんというのは、家やマンションを建てたいお客様と設計者や建設会社との間の「つなぎ」をしてくださる会社だと理解しています。ホームページにこう書いてありました。

    家づくりはしっかりとした計画が必要です。右も左もわからないまま、展示場の営業マンにつかまってしまう… そして契約…。絶対失敗ができない家づくり計画的に進めていきましょう。

    最近はさまざまな「ネットコンペ」を主催される会社さんが増えてきました。これからはレアものやアクセサリなどののオークションだけでなく、住宅までもネットで比較される時代がきっとくるのでしょう。

    今回バナーまで掲載していただいていて、自社のホームページも出していない顔写真まで出てしまい、かなり恥ずかしいです。それもまた建設会社の社長を引き受けた自分のさだめなのだと受け入れます。

    ■参照リンク
    住まいと暮らしを豊かにする日記 ハウスネットギャラリーの小野社長のブログです。
    住宅をもっと知りたい人集まれ♪ ハウスネットギャラリーのインタビュー記事を書いてくださっている素敵な女性、池田さんのブログを発見しました。

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    地域の建設会社にとってのロングテールとは?

    最近、「ロングテール」というパレートの法則をひっかりかえしたような現象が話題になっているようです。

    これは、アマゾンやグーグルといったネットの企業が、商品アイテムを抱えるコストが一般の企業とくらべて桁違いに安いので、アイテム数をむやみと増やしたことによって生じた増収効果を指していると私は理解しています。最近、ウェブ2.0などといわれ、新しい企業のあり方が言われる中で、日経ビジネスのインタビューに登場するほどメジャーな言葉になってきているそうです。

    とはいうものの、アマゾンやグーグルでもやはり売上の多くは上位のアイテムや取引先によって生み出されているという状況はかわりないようです。

    パレートの法則 @ wikipedia

    大小さまざまあっても、それぞれの規模に応じて最も自社の利益を最大化しようとするのは、当然だと思います。なんやかやいっても、ロングテールとは、企業の利益最大化の動きの中での動きにすぎません

    もし、地域の建設会社にとって「ロングテール」という現象の意味を考えれば、私は当然「引き受ける」べきものだなと感じています。

    随分以前に、自社の顧客リストを売上高順に並べてみて、上位10%ほどのお取引先さまで売上の90%近くを挙げている事実を発見したときは驚きました。では、上位10%のお取引さまだけを相手にしていればよいのでしょうか?残り90%のお客様を切り捨ててしまってよいのでしょうか?

    私は違うと思っています。

    地域で起こるさまざまな事象に対応する建設会社がまず必要だと思っています。水道管の破裂でも、自動火災報知器の故障でも、少子高齢化に対応した住宅の修繕でも、地域で必要とされる建設工事は結構あります。あるいは、地域が金太郎飴的なロードサイド店舗に埋めつくされ個性を失ってしまわないためにも、地域にいらっしゃるさまざまなお客様を大事にしていくことが地域の建設会社の使命であると改めて感じています。

    それでも、独自の建設技術を持つこと、品質管理を常に高めていくことはとても大事なことです。これらは、得てして取り扱いの工種の数や工事件数とは矛盾しかねない事柄です。しかし、あえて維持コストが大変でもそれに正面から向かっていく、ロングテールをあえて抱きこむ地域の建設会社のあるべき姿だと信じています。

    収益を拡大することは企業としてもちろんあたりまえのことですが、地域の建設会社の使命を忘れてしまってはならないと強く感じます。

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    「建築士制度の見直しの方向性」ってなに?

    事態の進展の早さに、少々あせりながら記事を書いております。

    いま、建設業界では、建築基準法の見直しに伴う、「建築士制度の見直し」で揺れています。ことのおこりは、6月26日に社会資本整備審議会基本制度部会でまとめられた文章が発表されたことから始まるのだと思います。

    建築士制度の見直しの方向性について(素案) (PDF) @ 千葉県建築士会八千代支部 (ちなみに、私とこのサイトはまったく関係がありません。為念。

    問題となっているのは、この辺だと思います。

    一級建築士の受験資格は、四年制大学において建築に関して大臣が定める科目を修めて卒業した者とする。二級建築士からのステップアップルートは引き続き規定。

    これまで、一級建築士を受験するには、認定を受けた学校を卒業するか、二級建築士になってから経験を積むという二通りの方法がありました。認定校の制度を見直ししようというのが、この文章の趣旨だと感じられます。私自身も文系の大学しか出ていないため、現在高校卒業までの学歴で2級建築士を受験し、資格を取得しました。この「ステップアップルート」は確保されるとはいえ、苦労して認定を受けた専門の学校を受験してきた方々への影響は非常に大きいと思います。なんというか、現在問題になっている建築士の倫理的な問題が出身の学校の種類によって分けられるとは私には到底思えません。

    建築士法 @ 法庫 : 14条をご覧ください。

    あと私としてはどうしても気になるのが、業界団体への加盟の誘導とか、資格維持のための講習会、試験制度の整備というあたりです。実は、別の資格を取ったのですが、その資格制度にといては「意味がないんじゃない?」と思うような講習に参加することを義務づけられていたりします。そして、その講習は当然ながらお墨付きをいただいている協会が実施することになっていて、お役所のお墨付きをもらったテキストを使うことになっています。これらの参加費用も、監修料もどのようなお金の動きになっているか疑問になり関係の方に聞いたことがあります。答えはとてもここでは書けません。

    建築士の制度がこの別の資格の維持制度と似たものにならないことを祈るばかりです。どうせなら実効性の高い資格制度の創出を切に期待します。

    ■追記 平成18年7月18日

    その後、業界の動きにお詳しい方にお聞きしたところ、今回の建築士の資格制度の見直しで挙げられている再教育制度などは、より直接に命を預かるお医者さんや、より将来に影響力を持つ教育関係の先生方の資格制度でまず行われるべきではないかという訴えが真剣に行われているのだそうです。

    業界といっても権限が強化される団体と、そうでない個々人の部分とでかなり意見は違うようでもあります。

    まだまだ目が離せません。

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    21世紀型の建設会社って?

    建設会社は、20世紀後半の日本において国づくりのまさしく礎ということで、国の成長とともに伸びてきました。国全体の福祉が伸張していくために、一部での不平等や癒着といったものがあったものの、おおむね健全に業界は育ってきました。

    21世紀に入って、これまで「俺たちが国を作ってきた。」と自負してきた方々が多分とまどいを覚えているはずです。これまである意味義理と人情で、地域の基盤作り、法人会社の生産のお手伝いを、ある意味再三度外視で、ある意現代の「遵守」とは違う基準で、仕事をしてきました。それがいつのまにか、ヒト、モノ、カネの無駄使いの象徴のように言われ始めていることをひしひしとみな感じているはずです。

    この21世紀においても、人が生きていく限り建設会社の仕事はなくならないはずです。では、一体どのような建設会社が望まれているのか?

    考え続けています。

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    2006年は原材料インフレとなるのか?

    建設業にとって原材料のコストが世界的にあがりつつあるのは、結構脅威です。

    石油が1バレル70ドルを越したことで次第に化学製品関連資材の価格も上がってきています。鉄鋼関連も統合が進んだことによる高止まりは緩和の兆しはありません。運送費は確実に値上がりです。現場で働いている方たちも、少子高齢化が進み、次第に人手不足から単価の上昇につながっています。電力会社さんは様々な経営努力により価格をあげてこないことに、唯一希望が持てます。

    一方、建設需要も法人を中心に伸び続けているというのも事実のようです。ベビーブーマージュニアの住宅取得意欲も今が盛りです。マンション建設は、耐震偽装の影響をものともせず、衰えるところを知りません。

    こうした経済状況の中で今のところ建設の受注価格があがらないのは、非常に不思議なことです。

    あえて図にしませんが、一番川上の需要は広がり、一番川下の現場の働き手は少なくなり、原材料は上がっているという構造の中で、中間の建設工事を直接受注する総合建設請負会社の数が減っていないことが、建設のエンド価格があがらない原因であると思われます。

    お役所主導で統合が進んだ金融業界を思い浮かべていただけると、ご理解いただけると思いますが、競争相手が減れば当然手数料等の価格は上昇し、利益率が上昇します。

    建設業界においても、経常JV、数々の不良債権処理、談合摘発など、もう分裂、増殖していく時代ではなく、統合整理の時代なんだよと、お役所が信号を送ってくださっていたわけです。しかし、オーナー意識の強い建設請負会社においてほとんど統合整理の自主的な動きはありませんでした。

    今後、独占禁止法、建設労働者派遣に関する法律の改正の動きなどともからみ、建設業界でインフレがどこまで浸透するか、しないか、どう対応できるかが大きな分水嶺となるのでしょう。

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    ノンリコースローンってなに?

    先日の住宅と賃貸と所有の比較において触れたノンリコースローンについて、説明が足りなかった気がするので、すこし書きます。「亡国マンション」の説明が分かりやすいので引用させていただきます。

    リコースローンとは、「遡及型ローン」といわれるもので、ローンの借り手が作務履行できなくなったとき融資資金の償還請求権がその個人の持つ全ての資産に及ぶものだ。単純にお金を貸すという金銭消費貸借契約だから、土地を売っても足りない分は残りの全資産で賄えということだ。

    一方、ノンリコースローンとはモゲージ(担保)ローンと呼ばれ、担保にとった不動産にしか及ばない。土地を手放すだけでお咎めなしということだ。アメリカではモゲージローンが多く行われているが、日本ではほとんど行われていない。

    良いことづくめに聞こえますが、ソフトバンクのボーダフォンの買収で孫さんがシンジケートローンのリスクを説明したように、ノンリコースローンでも、エクイティーとか、ダウンペイメントとか言われる頭金相当部分は、もしローンが返せなくなったら当然ですが放棄することになります。貸し手の金融機関は頭金相当部分を引いた金額で土地・建物を取得して、なんらかの形で処分することにより元金を回収するわけですから、一般的に言って審査も厳しくなりますし、金利も高くなります。

    しかし、住宅をスケルトン・インフィルにわけ、維持修繕にインセンティブを持たせることにより、あまり条件が厳しくならないようにする住宅のノンリコースローンを研究している会社さんもあるようです。

    住宅ローンのノンリコース化に関する提言 (PDF) by 新井明さん @ NTTデータ研究所

    はやくこういう制度が普及して、住宅ローンによる悲劇が少なくなり、敗者復活が計られるようになり、社会全体としてよい方向に向かうとよいと思います。

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    [書評]建築構造のわかる本

    4395004075建築構造のわかる本
    大成建設建築構造わかる会
    彰国社 1993-06

    by G-Tools

    とてもすばらしい本です。

    建築構造の再勉強をはじめて、最近つくづく感じるのは、建築の一番の基本は骨組みである構造にあるということです。構造次第で建築物は実にさまざまな表現、さまざまな機能を獲得することができます。その事実を本書は非常にわかりやすく伝えてくれています。近年、内装のデザインや、付加的な機能である設備などが建物を評価する基準として重要視されていて、それはそれで現代において大事だと思うのですが、工学としての建築の本質は構造にあるのだと実感します。

    建築の設計から施行、竣工までの流れ、そして、構造の基本的な考え方を写真やイラストを多用して解説してくれています。構造とは、建物を通してどのように力が伝わっていくか、それをどう受け止めてあげるかなのだということが読み進むほどに分かってきます。そして、「世界のマジックショー」と題した章では、シアーズタワーや、上海香港銀行、ドーム球場、新凱旋門などの世界の有名建築物がいかに力を使える構造体を見えやすくしているか、マジックのタネを仕込んでいるかを写真で教えてくれています。

     
    (鹿島さんの「建設博物 超高層」より)

    できれば、最低限この本で書かれているレベルのことと、木造で同様のレベルの本があれば日本全国の高校生に授業で教えるべきだと思います。繰言のようですが、耐震偽装の事件にしろ、あまりにも業界側と一般の方との知識、考え方に差があることが遠因であるように思えてなりません。建築に興味を持っている方、マンションを買おうとしている方は、遠回りなようでも本書のようなごく基本から勉強されるべきではないでしょうか?本書にもバイアスはかかっていますが、最近出る建築関係の本よりははるかに少ないです。

    この本を読んで、自分が小さい頃に「超高層のあけぼの」という本を読んで、技術の限界に挑む建築に興味を持ったことを思い出しました。ああ、本当に自分は構造から建築の世界にあこがれたのだなと実感しました。

    同名の映画もありますが、あらすじを読む限りかなり内容は違うように思います。

    超高層のあけぼの(1969) @ goo映画

    本の方は、エレベーターコアの話とか、五重塔の柔構造の話とか、子どもにもわかりやすく工学的な叡智の発揮を解説してくださったいたように私の記憶には残っています。なつかしいです。

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    限界耐力計算ってなんだろう?

    ここのところ構造計算が一般紙の一面でも解説されるようになりました。本日も興味深い記事がありました。」

    新宿の姉歯物件、強度不足が一転「安全」 新構造計算で @ asahi.com

    姉歯案件ですので、「偽装」があった時点で厳しい評価を受けるということは当然ですし、偽装を行ってしまったと言うことは社会的懲罰を受けなければならない行為です。しかし、再再計算をしてみて必要な耐力があったということは驚きです。多分、ここでいっている耐力とは例の構造計算における許容応力度計算において、各階の保有水平耐力を必要保有推定耐力で割った数字の最小値を言っていると思われます(Qu/Qun)。それでは、再再計算に使われたという限界耐力計算というのはなんでしょうか?

    私の記憶がただしければ、そもそも新耐震導入の頃には、現在用いられている二次計算、崩壊メカニズム時における許容応力度計算が「限界耐力計算」と呼ばれていたはずです(あまり自信がありません。間違っていたらご指摘ください。)。現在の「限界耐力計算」は、2000年の建築基準法の改正以降で採り入れられたと聞いております。この計算方法はかなり難易度が高く、「非線型」なプロセスをも含むためPCを使って以外は計算できないだろうと思われます。それでも、根っこの部分はそれほど変わらないはずですから、新しく設計する建物ならともかく、同じ構造物に対して構造計算を行った場合、そんなに大きな違いがでるのでしょうか?

    限界耐力計算の解説のすばらしいサイトを見つけましたので、ぜひ御一読下さい。難易度はかなり高いです。これまで構造計算になじみの薄い方は、参考書を読まれてから印刷して読む位でちょうどよいでしょう。

    「限界耐力計算ってなんだろう?」株式会社 ストラクチャー

    読んでみて、結構びっくりしたのは、法文で定められている条件としてはこれまでの許容応力度等計算とあまり変わらないのだというくだりです。


    これを見ればわかるとおり、限界耐力計算法が従来の許容応力度計算法と違っているのは、全 7 項目のうちの 3 項目にしか過ぎません。
    しかもそのうちの積雪・暴風にかんするもの(項目 2 )は、従来の荷重を割り増して終局耐力(許容耐力)内にあることを確認する、というものですから、本質的には従来の計算法の延長であり、とくに手法として目新しいものではありません。

    計算方法自体も外力の作用の仕方の定義の違い以外には、あまり違いが私には理解できませんでした。出てくる数値も、複雑な計算を経ているとはいえ、要は水平保有耐力だということになるようです。私の理解力が不足しているので、なぜ再再計算で数字が違って来たのかよくわかりません。

    しかし、この解説以上に面白かったのはこのエッセーです。うんうん、うなずきながら読んでしまいました。震度と構造計算に使われる水平加速度の関係についてするどくつっこみをいれてらっしゃいます。

    震度 5 強で倒壊の恐れあり?株式会社 ストラクチャー

    ■追記 翌日

    限界耐力計算は混乱要因/「2つの標準」も指摘/JSCAが意見書 @ 建設通信新聞

    やはり、並立する二つの基準の難しさが出てきているようです。建築基準法を頂点とする法令、通達、指針、基準等の構造の体系はつぎはぎを繰り返し、もはや根本からの改訂を迫られているような気がします。しかし、性能基準をいまさら取り下げることは果たして合理的な政策といえるのでしょうか?

    また、保有水平耐力計算の検討結果で、すでに取り壊しの判断を下した建物との整合性を図るのも難しいとした。

    記事の最後にこのような話がありましたが、まさかこれは既に取り壊してしまった建物の中にも「限界耐力計算」によってセーフと判断された建物がありうるということでしょうか?もしそうだとすれば、各地の再計算を担当された方々の責任問題につながりかねないことになります。

    ちなみに、昨晩たまたまニュース番組を見ていたら、コンクリート強度が設計よりも大分大きくなっているので再再計算でQu/Qunが大分大きくなったという報道をしていました。施行時の補正と温度補正があれば、3~6ニュートンくらい大きく打設するのはあまりにあたりまえの話だとのけぞってしまいました。ま、本来「設計外の余力」といわれるべき性能ではあるのでしょう。

    ■参照リンク
    粘り強く耐え続ける建物を造るには 第29回 限界耐力計算の危機 日本地震情報学会

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