「週刊 東洋経済」さんが「ゼネコン現場崩壊」という特集を組まれていました。大変興味深く読ませていただきました。
東洋経済 08/1/19
建築に関係される方はぜひご一読いただきたいです。ブログで内容を要約してくださっている方もいらっしゃいました。
正直に言ってしまえば、ここまで書かれてしまったことに怒りを覚えます。しかし、悲しいことにそれは建設業界の現在の情けなさの裏返しでもあります。
「東洋経済」の記事の内容ですが、少なくともゼネコンのOBを使ってゼネコンのコストを徹底的にたたいている会社が「異界からの大侵略」だとは思えません。あるいは、手数料だけをとって一括下請けに出す営業会社は「ものづくり」の会社だとは思えません。描き方を変えれば、お互いに鍛え合ってきた剣闘士が「コロッセオ」で殺し合う様を貴族がスタジアム席から見物している地獄絵図なのかもしれません。
「東洋経済」では、業界の力関係がCMなどの導入によって変質しつつあることが欠かれていますが、まだ人材育成の部分で一定規模以上の建築物を建てられる能力を持つ現場担当者がゼネコン以外で育ったという話を私は聞いたことはありません。是正、改善していかなければならない課題はたくさんありますが、まだまだ社会にゼネコンと専門業者とのネットワークは必要だと私は信じます。
確かに現場の疲弊が言われて久しくなりました。サブタイトルに「超ダンピングの末路」とありますが、談合決別が宣言されてから競争原理が徹底的に建設業界に吹き荒れ、利益率が低下していく中、建設現場が金属疲労を起こしている面もあります。これまで現場を支えてきた信頼のネットワークが部分的に崩れつつあるのかもしれません。
しかし、本書において重層下請け構造が批判的に扱われていますが、本当に非難され、解消されるべき関係なのでしょうか?建設業は専門業種の数が非常に多いので、無理に垂直統合するとかすべてが一次請で受注し、しかもすべての職員を直接雇用しなければならないのなら、それでなくとも高いと批判されてきた建設コストは大幅に上昇すると私は考えます。製造業においても実は下請企業、製造機械の部品を作る専門業者に支えられているのは公然の事実です。
製造業と建設業を比較すると垂直統合が難しい理由が見えてくると思います。模式的に描けば一品種一個生産なので製品の個別性があまりに高いため、裾野が広すぎるということになります。工場生産(プレファブリック)の住宅はどうしても日本で広がりませんでした。米国の市場を視察に行ったことがありますが、米国ですら2×4等のパネル工場以上のプレファブリックは広がっていないようです。
現在、業界再編のまっただなかにいるという「東洋経済」の意見には賛成です。開発型社会においては、重要も、請負会社も、専門業者も同時並行的に拡大再生産できました。しかし、現在は需要はすでに減り、現場で実際に働いてくれる人材も「団塊問題」ともいうべき主力が引退時期に差し掛かり非常に減っています。請負会社だけがまだ減らずにいましたが、業界の再編や中小零細の淘汰が今後一気に進むと考えられます。
どうしても利幅の話になってしまいましたが、現場の力とはこんなものだはないと私は信じています。まだ、まとまりませんが一旦公開してまたあらためて考えをまとめます。どうも怒りと混乱がまだおさまりません。
■追記
トラックバックをいただきました。
以下のようなものが建設の問題に関する誤った通説の代表例です:
と書かれて、本記事にリンクをいただきました。ありがとうございます。「誤った通説」としてではありますが...
「低価格入札」なんていう価格システムの動向なんていいとこ交差要因(*1)。根本的な原因はゼネコンの不透明なビジネスモデルそのものでしょうに。
もうおっしゃるとおりとしかいいようがないです。私もいまのままのゼネコンのビジネスモデル(仕事のやり方)が通用していくとは思えません。
ゼネコンとゼネコンを頂点とする建設業界全体が仕事のやり方を変えなければならないのは確かです。また、「凋落」といわれるほどその構成員の大きく数を減らさないとならないのであろうとも思っています。
トラックバックをいただいて、改めて「東洋経済」を読み直して原因と対策として指摘されていることがわかってきました。
- 「下請けたたき」の悪しき慣習
- コスト力をつけた需要者(不動産開発会社、CM会社)
- 公共工事の呪縛により進まないビジネスモデル(仕事のやり方)の変更
何度も読み返しているのですが、この「東洋経済」が主張している論点はこの3点に集約されるのではないでしょうか?
まず下請けたたきの問題です。
欧米では工事着手以前の契約は原則守られ、工事の採算性は受注時から工事完成まで、ほぼ一定。しかし、日本では、専門工事業者などの下請け業者はゼネコンの言いなりになっている。
ちょうど、前回書いた「建設業法第19条の3」という法律があります。基本的に注文者は己の地位を利用してダンピングを強要する請負契約を結んではならないという内容です。この条文が最終需要者からのコスト要請にも適用されるのであれば、コストアップにはなりますが、専門工事業者さんとの契約内容も改善されるのではないでしょうか?
次の論点は厳しくなるコスト要求です。需要者である不動産開発会社さんなどがゼネコンOBなどを使い価格交渉力を増している中、コスト競争が激しくなって業界全体が「自己資本」という自分の身を削って受注しています。もっと高付加価値で受注すればいいではないかと私自身も思うのですが、ここでも「コロッセオ」状態で採算の取れるコストで入札に参加しても別の会社がより低い価格で受注していってしまうのが今の現状です。中堅ゼネコンさんなどですらこれで採算が取れるのだろうかという価格を提示されているのを見たことがあります。各社各様にかなり疲弊してきているのは事実です。
いっそゼネコン全部が一気にCM会社へと移行し、フィービジネスに徹して、ダンピングは一切しなくなれば建設業界の「コロッセオ」状態は解消すると思うのですが、それは「談合」もしくは「カルテル」であるとして、独占禁止法などで排除されています。
公共工事の評価制度もゼネコンの仕事のやり方を縛っています。経営事項審査という制度があります。
経営事項審査(けいえいじこうしんさ)とは、日本の建設業において、公共工事の入札に参加する建設業者の企業規模・経営状況などの客観事項を数値化した、建設業法に規定する審査。略して経審(けいしん)とも呼ばれる。
@ wikipedia
公共工事を受注するためには経営事項審査を受けて、点数をもらう必要があります。この点数によって参加できる入札のクラスが決まります。この経営事項審査の点の評価の中で受注金額は非常に大きな比率を占めています。「東洋経済」でも触れられているようにこの呪縛はゼネコンのように巨大プロジェクトを受注し続けなければならない企業にとって存亡にかかわる重大な問題です。
一方、変わっていくべき方向としてボヴィス・レンドリース社以外でもCMが現実的な形をとり始めています。日本型コンストラクション・マネジメントとして、希望社さんが注目されています。
希望社さんが一歩突き抜けたCMを行っていらっしゃるのは、日本型CMという形態でVEと瑕疵担保を分離した形でコストを透明化、可視化したところではないでしょうか?
ゼネコン、建設業者が変わっていくためには、発注の形態として建設におけるコストとリスク、そして瑕疵担保保証を切り分けていく必要があるのではないでしょうか?ゼネコンのコストにおいてこの3つをどんぶり勘定にしてしまっているのは事実です。請負契約を結ぶときに、それぞれのコストを金額として計上できるようになれば、ゼネコンのCMへの移行は一気に進むのではないでしょうか?
上の図の需要者、建設請負業者、専門業者は全体として相互に依存する生態系としてとらえることができます。少子高齢化により需要者はすでに減っています。一方、専門工事業者さんたちも団塊の世代の大量退職、引退を迎え現場で働く方々自体が減っています。これまである程度政策的に保護されてきた建設請負業者だけはあまり数を減らさずに推移してきました。しかし、「東洋経済」の記事を待つまでもなくそれももう限界です。今後相当に業界の再編はすすむでしょう。
下請け業者の問題、CMへの移行、透明化の中でのリスクのコスト化、業界再編、法律の適用の厳格化など、今後予測されることがらを冷静にとらえれば、ぬすっとたけだけしいといわれるかもしれませんが、建設コストは上昇してかざるを得ないのでしょう。原油や原材料価格の高騰などもコストの上昇要因です。コストがあがるとますます需要は縮小していくと思われますし、痛し痒しといったところです。また、発注者側でも必要に迫られて建設について学習が進み、品質管理や工法についても理解がすすむことでしょう。
それでも、「建築屋の社長」として生態学的なゼネコンの位置は今の社会において必要だと私は信じています。「現場崩壊」とマスコミ的なタイトルをつけられてしまいましたが、現場で少しでも安全に、少しでもお客様の満足のいくものを、少しでも生産性を高くと、がんばっている担当者たちがいます。専門業者さんたちも自分たちが苦しんででも、お客様の幸せを願っています。
ものづくりの人材を育てていく力、地域に人が住み続けていくための環境を整備する力、地域地域に特有な情報を媒介し、人と人との絆を深めていく力、さまざまなリスクを自ら請け負う力、まだまだ建設請負業者が必要とされる場面は多くあります。透明性の確保や、専門工事業者さんとの関係の改善、そして得意分野の確立など課題は多く抱えています。それでも、それでも、特に地域において建築屋は必要だと信じます。
■参照
■注
ちなみに、交差要因という言葉がわからなかったのでグーグルで調べてみました。よくわからないのですが、平成14年の「中小企業白書」がひっかかっ
てきました。要因分析の中で内的な要因か、外的な要因かを検定するときの相互作用の大きさを示すのに使われている言葉のようでした。
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