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2004年1月25日 (日)

[書評]ハイペリオンの世界

ハイペリオン: ダン シモンズ

SFの話をしたい。ひさしぶりにSF小説にはまっている。合計で2,500ページを(多分)超える4部作を読むのは一種体育会系ののりだったかもしれない。電話帳より分厚い本を中年の入り口に入りつつある私が読むということは、自殺行為のようなものだ。味気ない現実と対峙する仕事に全力を消耗し尽くした夜中に睡眠時間をけずって、また本をひろげて読むというのは、とても現実逃避な行為のかもしれない。話自体も夢と現実が交叉するような話だったせいか、起きていても心がハイペリオンの世界へいつのまにか還っていってしまうような気が何度もした。正直、読了した感想は「ようやく長い悪夢から覚められる」という感じだ。それでも、これだけの分量を一気に読ませるのは作者と訳者のわざなのだろうと思う。

まあ、本について最低限の紹介をするのが筋だろう。4部作の最初の一冊だけを紹介しよう。タイトルのにハイペリオンとは、「時間の墓標」というどうも未来から過去へ向かって時間移動している遺跡のある惑星。ある教団の聖地となっている。このハイペリオンへ巡礼に向かう7人が語る小さな物語からこの小説は構成されている。カソリックの司祭、探偵、惑星の領事、詩人、戦士など、それぞれ全く別な環境と生い立ちを背負っていて一人一人の物語は独立していながら、それでいて全体で一つの壮大なストーリーが立ち上がってくる。「ハイペリオンの没落」とあわせると翻訳者の酒井氏が言っているように「あわせ絵」が見えてくるという。実によくできた小説といえる。

まず最初に特筆すべきなのは、ダン・シモンズという作者の筆力であろう。とにかくめちゃくちゃうまい。これは普通のSF作家の域を越えている。背景描写がとても美しい。後の巻になればなるほどこの描写力のすばらしさはきわだってきて、背景描写をするために主人公達にいろいろな世界をまわらせている気すらしてくる。まあ、英語を読んでいないのでなんともいえないが、翻訳者の酒井さんがすごいということなのかもしれない。また他方、俳句から禅、チベット仏教、カソリック、へとつながる膨大な知識とセンス。背景の描写からもかなりの美的センスをかじる。すばらしいの一言だ。

さて、この辺から本題に入っていきたいのだが、それにもまして私が感動するのは、この膨大な物語が「愛と時間」という一点で焦点を結んでいるということだ。批判的な人は、大風呂敷だけひろげて結論が妙にセンチメンタルなものだと感じるかもしれない。しかし、私にとって非常に深い感銘を与えてくれた。影響力を持つテーマであるといえよう。「愛と時間」というとそのもののタイトルのSFがあったし、語り尽くされたテーマなのかもしれない。

6つの小さな物語で語られるのは、いろいろな時間の流れ方と愛のあり方である。まっすぐに続く時間、永劫に続く袋こじの時間、逆向きに流れる時間、思い出の中の時間、夢の時間、早い時間と遅い時間の出会い、などなど、SFならではの発想かもしれないが、愛には時間が必要なのだとあらためて感じさせられた。また、どんな時間の流れ方の中でも愛は成立しうることをこの小説は証明している。愛にもいろいろな形がある、恋人同士の愛、リスクや暴力と背中合わせの危険な恋、子供に対する愛、神の愛、死すべき定めの人間の世界愛、自然・環境への愛、宇宙を成立させる力としての愛。作者はこの小説のなかで、宇宙根源の原理は愛だといっている。どれだけその意見がオーソドックスで洗練されていないように響こうとも、私は作者に賛成である。

どうも、先に書いたように毎晩夜更けにこの小説を読みついで来たせいか、夢と現の間でこの物語が語られてきた気がしてならない。きっとこの夢は私の現実生活にかなり影響をもっていたと思う。私の中でいつのまにか、ダン・シモンズの言葉が夢の言葉に変成されてしまったようだ。夢の言葉はいつも不思議だ。あんなに確信に満ち、興奮に満ちた夢でも目覚めを迎える時にはいろあせた石に変わっている。そろそろ私自身も覚醒の時を迎えねばならない。なんとかしてこのハイペリオンの夢から「愛」という光り輝く宝石を持って帰りたいものだ。

2000.8.1

■参照リンク
★皇国の守護者★ by 芹香さん

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