« [書評] ゲド戦記 | トップページ | [書評]歴史劇画大宰相 »

2004年2月26日 (木)

[書評]太平洋戦争

[書評]太平洋戦争 児島 襄 著

「太平洋戦争とはなんだったのか?」ということについて考えたい。

ある人が私にいった。「戦後の政治や今の自衛隊の状況を理解するには、終戦を理解しなければならない。終戦を理解するには、第二次世界大戦を理解しなければならない。そして、どうして第二次世界大戦に日本が参戦したのかを考えなければならない。これを辿っていくとどうしてもすくなとくとも明治までを視野にいれて歴史を学ばなければ現代を理解できないうことになる。」そして、私に勧めてくれたのがこの「太平洋戦争」という本だ。

大変な労作だと思う。正直、この本を読むまでいかに日本が緒戦で勝利をおさめ、いかに終盤にいたるにつれて日本が、日本人が苦しい、すさまじい戦いをしなければならなかったか、知らなかった。兵士だけでも200万人以上の戦死者が出たと言う事実をよく理解していなかった。また、農協から食管法、大政翼賛会から自民党、それから多分電通にいたる戦後の政治や社会の要素が戦時中に形作られたかのプロセスがわかった。

スミソニアンに93年頃に訪れた時に、ちょうど日本系米国市民への米国政府の謝罪というイベントを受けて太平洋戦争中の米国におけるプロパガンダ等について展示されていた。また、ちょうどホロコースト博物館もオープンした時期だと記憶している。いずれの展示も戦時中の恐怖のあまり相手方をどれくらい過大評価していたかをデモンストレーションしていた。

スミソニアンで見た展示で、宣伝用のチューイングガムに、日本兵はゴリラかなにかのようにかかれていた。米兵のパンフレットにも、日本兵は疲れを知らず、死をも恐れず、夜襲の得意な、スーパー戦士としてかかれていたそうだ。事実、初戦では日本軍は負け知らずだった。なぜこれだけの国力しかない国が、そこまで戦えるのかと恐怖をもって語られた。だからこそ、硫黄島の勝利は、米兵の日本兵に対する恐怖心を克服する上でたたえられたのだ。ワシントンにも大きな、大きなモニュメントがたっていた。例の数十人の兵士が旗をたてようとしている図だ。

やっと、キーワードが出てきたのかもしれない。相手に対する無知が生む恐怖が戦争を引き起こし、深刻化させたように思えてならない。いまでは当たり前のように使われているGPSも、衛星も当時はなかった。レーダーも実用化されたのは、戦争が始まってからだ。索敵の失敗や、連絡の不十分がどれだけの作戦を悲劇に導いたか本書には詳しい。太平洋を行き交う情報も、いまと比べると格段、いや何万分の一以下の情報しかなかった。このような状況下では、極めて限定的な情報の中で、かつ、疑心暗鬼の中で決断をくだすしかなかった。

逆にいえば、いまの軟弱な我々から見れば、どれだけ燃料も、食料も、情報も、技術も、弾丸も、兵器も、不足している中で我々の父祖達がいかに戦ったという事実をこの本から学びたい。いまの我々が、戦犯、戦争責任ということを語るときには、いかにも自分達は正しい岸に立っていて、戦争について意思決定をした指導者達を断罪する資格があるような錯覚をもたらす。しかし、戦犯とされた彼等が日本の国を滅亡させようと意図してこの戦争を起こした訳ではない。企図しなかったから、罪がないというのではない。一度は、自分自身を当時の状況においてどのような選択肢を選べたか、どれだけ恐怖心を自分で克服できるか、やってみるべきだということだ。

今は、ここから安易な教訓を引き出したくはない。ただ、この歴史の事実と向きあうために、本書を再読したい。

■参照リンク
文明という名の暴力~『「勝者の裁き」に向きあって』 by d-mateさん
・[書評]マンガ日本の歴史43巻 明治の一揆
[書評]歴史劇画大宰相
距離、時間、そして統治と戦争

|

« [書評] ゲド戦記 | トップページ | [書評]歴史劇画大宰相 »

コメント

あ・ぼくも戦争の歴史を引き継ぐ(そこから教訓を得る)ってことにはすごく興味があるんですよ

そして、
ひできさんのおっしゃるように、この時代の日本人はすごいですよねぇ...

前に極東さんは「誇り」って言葉使ってたけど..
そういう感じだと思います
(ぼく的には、「命は大事だけど、命よりも大事なものも・・」ってか、「それを失って生きていても、生きてる意味がない(生きてない)」ってものはあると思うんです)

じゃあ、ぼくもぼちぼち読んでいこ、っと♪
(って、また予定が 笑)

そういや、ちょうどこちらの方もそれ系の本読んでおられました
http://dmate.s55.xrea.com/mt/archives/000049.html#more

投稿: m_um_u | 2004年5月 8日 (土) 20時24分

m_um_uさん、

ありがとうございます。非常にd-mateさんのお考えに共鳴いたしました。

あ、全然違うんですけど、英文の論文読むのに、便利なサイトを見つけました。リンクでそのまま翻訳して、原文の下に載せてくれるので、辞書を引く手間がはぶけます。まあ、翻訳文はめちゃくちゃですけどね。

http://www.nifty.com/globalgate/">http://www.nifty.com/globalgate/

投稿: ひでき | 2004年5月 8日 (土) 20時34分

あ、そうそう、それからそういう「命をより大事なもの」というのが、フクヤマの言う「気概」なんだと思います。

今からいい悪いはいえますけど、その当時にあって個人個人がなにができたか、どういう気概でいたのかって、自分の腹の中に収めたいです、腑に落としたいです。

そうそう、それこそそういう気概をもった人こそが、「最後の人間」の対極であり、「NEO世間」との反対側の人たちなのでしょうね。

投稿: ひでき | 2004年5月 8日 (土) 20時37分

ご紹介いただいた翻訳のところ使ってみました

たしかに、こういう形のほうが楽ですね
(ありがとうございます (^-^))

あと、「NEO世間」の反対とかですか
(まだmiyakodaさんの読んでないのでなんともいえない。。)

でも、なんとなくわかります
(そしてそうありたいと思うのだけれど・・・さてさてこればっかはそのときが来てみないとわかりませんね 笑)

投稿: m_um_u | 2004年5月 9日 (日) 11時37分

m_um_uさん、おはようございます、

今日はおすすめいただいたハンチントンを読みました。フォーリン・アフェアーズが批判的な取り上げ方をしていましたね。なんとなく移民の問題って、確かに米国社会でやばい問題なのかもしれません。触れたくない、正確な認識をもちたくない、「リアリスト」達だからこそいままで持ち上げてきていたハンチントンに対して批判的な書き方をしているのかもしれません。

アル・ハラムのハンチントンとフクヤマの取り上げ方も面白かったです。

そうそう、それからfinalventさんが取り上げていらした「平和学」も読了しました。

この辺がなにか一直線にならんでいそうな気がしています。

投稿: ひでき | 2004年5月 9日 (日) 12時39分

ひできさんはじめまして。
戦争とその責任を考える上で、まず安易に自分たちを正義の側に置くのではなく、何が行われたかをきちんと認識すべき点、大いに賛成です。
児島氏の著作「太平洋戦争」と「東京裁判」を探しているのですが、すでに書店店頭で見つけるのは難しくなっていますね。オンライン書店で申し込めばいいのでしょうが、本を書店で買うことに愛着があるもので。
m_um_uさんに紹介いただいたおかげで、ちょっと以前のエントリーと私のエントリーとが結びつけられ、こうして意見をうかがえるのは非常におもしろいですね。コメントとトラックバックの使い勝手が少しわかってきたように思います。

投稿: d-mate | 2004年5月 9日 (日) 13時38分

d-mateさん、こんにちわ、

今、目の前に「太平洋戦争」をおきながら書かせていただいております。多分、三回目です。良い本はなんども読みたくなりますよね。もうご存知かもしれませんが、miyakodaさんの記事は面白かったです。

手間の掛からなかった日本占領
http://miyakoda.jugem.cc/?eid=15">http://miyakoda.jugem.cc/?eid=15

この記事の元ネタのRAND研究所がまとめた米国の占領政策についてのレポートの日本の部分を読んだのですが(リンクはmiyakodaさんの記事にあります)、日本から見た占領政策、米国から見た占領政策でいろいろ認識の違いがあり、興味深いものがありました。

投稿: ひでき | 2004年5月 9日 (日) 15時26分

すいません、なんかサーバの調子が悪かったのかトラックバックのpingが3つも飛んでしまいました。

「太平洋戦争」に続いて「東京裁判」を読みました。
やはりこちらも必読書といえそうです。
あまりに政治的意図によって動かされる裁判の経緯に、腹が立ってきますけど...

投稿: d-mate | 2004年5月27日 (木) 22時42分

d-mateさん、こんにちわ、

興味深く「東京裁判」についての記事を読ませていていただきました。以前触れたランドの論文にもいろいろ政策的な意味合いが書いてありました。もうちょっと腰を落ち着けて、この論文を読み込んで書きたいと思っています。

投稿: ひでき | 2004年5月28日 (金) 14時15分

戦争はすべてヤラセだ。軍人が美しいのは戦場のみ

投稿: 働くおっさん劇場の美談 | 2008年5月15日 (木) 18時30分

働くおっさん劇場の美談さん、こんばんは、

そうですね、たとえば軍服はやはり男をセクシーにカッコよく見せる道具です。女性たちに聞くと、軍服に身を包んだ男を見るとうっとりしてしまうそうです。

ルネサンス期の傭兵たちもいかにかっこよく戦うかに文字通り命をかけていたようです。

あ、そうそう、帝政ローマ時代の剣闘士も女性たちからはげしくもてていたようです。

そうそう、「言葉の起源」(ISBN:4791756681)という本によれば太古の狩猟時代においてすら狩りをするよりも、わなをしかけた方がはるかに効率的であることは知られていたにもかかわらず女性にもてるからという理由で狩りに男はでていったのだそうです。

ああ、どうもここで書きたくない結論につながりそうなのでやめます。

投稿: ひでき | 2008年5月15日 (木) 19時07分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: [書評]太平洋戦争:

» 無知からはじまる敵意〜「太平洋戦争」 [d-mate weblog]
東京裁判に関する本を読み書評を書いたところ、コメントをくださったm_um_uさんの仲立ちを得て「HPO:個人的な意見 ココログ版」からのトラックバックを受け取っ... [続きを読む]

受信: 2004年5月21日 (金) 21時42分

» 歴史を知り、歴史から学ぶ〜「東京裁判」 [d-mate weblog]
「太平洋戦争」に続く大作。著者は実際に東京裁判の現場に通い、この特殊な裁判の一部始終をその目で見た体験とさまざまな資料とから、戦犯の指名から勾留、そして刑の執行... [続きを読む]

受信: 2004年5月27日 (木) 22時21分

« [書評] ゲド戦記 | トップページ | [書評]歴史劇画大宰相 »