[書評]キリンヤガ
キリンヤガ マイク・レズニック
失われてしまった世界をよみがえらせることができるか?最新のテクノロジーと寓話と魔法を使って...「キリンヤガ」はそんな物語だ。西欧の害毒により崩壊してしまった部族社会を、小惑星を改造して人工的に作り出した世界によみがえらせる。いくつかの思考実験がこの小説の根底に流れている。外の世界があることを知っている閉じた社会が成立しうるか?物質文明により崩れてしまった部族社会の価値観を、物質文明のテクノロジーを使って再生するという矛盾は克服しうるのか?伝統的な価値を守ろうとするリーダーは、社会の安定を思考するゆえに、逆に社会を不安定に陥れてしまうのではないか?これらの問いに、寓意ではあるが、みごとに作者は答えているように私には思える。そう、この物語の中には多く寓話がでてくるが、実はこの物語自体が大きな寓話なのだと思う。
地球全体ですら、情報が発達し一体化がすすんだいま、実はキリンヤガと五十歩百歩の状況に陥りつつあるのではないだろうか?いや、もっと狭くとらえて日本だけを「閉じた社会」を守ろうとする人工的な部族社会だととらえれば、作者の問題意識とさまざまベクトルで語られるこの連作短編集のいずれも現象として起こっているのではないだろうか?自殺の問題しかり、老年の問題しかり、群を抜いた異才の排除する風潮しかり。。。深読みしすぎだろうか?
それでも、この作品がひさしぶりのSFの佳作であることに間違いない。私は、この作品全般にただようもの悲しさがすきだ。
■追記
Danさんが本書の書評を書いておられるのでR。一日にこんなに何度もトラバするときらわれるのでR。
そう、確かにコリバが抱える悩みは私自身の悩みでもある。寓話は現実を残酷なまでに私たちにつきつけるのだ。
その意味では、いまだに私は「峠」の呪縛から逃れられていない。
・経営に役に立つ本? HPO
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