エージェントスミス的なもの、草薙素子的なもの、あるいは、ネットは世界をつなげるのか?
■はじめに
先回かいた「草薙素子か、エージェントスミスか?」は自分でいうのもなんだが、はなはだ情というか思い出にながされていて、本来書くべきことが十分でなかった。改めて、考え直してみたい。
本来ここで問題にしたかったのは、ネットが世界を覆いつつある現在、ネットはその参加者へどのようなインパクトをもつのか、ということだ。それは、「1984年」のビッグブラザーのテレビのように人に均質化を強い、規格からはずれるものを排除するのかそれとも、それとも、ますます主義主張の拡散と混乱をもたらすのか、考えてみたかった。
■用語の定義
まずは、自分なりのシンボルとしての用語の定義から。
「エージェントスミス」とは、映画「マトリックス」に出てくる人格をもつ「プログラム」だ。バグにより全ての「マトリックス」ネット上の人格を自分の複製にしてしまう能力をもってしまった。最終的には、ネット上の人間からプログラムまで、ぜんぶ自分の人格にしてしまう。私の中で「スミス」が象徴するものは、過剰な「つながるこころ」により自分の情報を全世界にばらまき、全世界を自分の色一色でぬりつぶしてしまおうとする動きだ。フクヤマのいう「認知への欲求」のひとつの帰結としての「支配と服従」の究極の姿かもしれない。
「草薙素子」とは、映画「マトリックス」の原型になったといわれているアニメーション映画「攻殻機動隊」に出てくるサイボーグをさす。ネット上の擬似生命体「人形使い」=2501と融合することにより、ゆらぎをもった自己複製をネットの上に流していく、ある意味超越的な生命体となる。「素子」が女性であるというのも、私には多様性をもたらすものを象徴するように思われる。新作アニメーションの「イノセンス」でも「素子」が、個性のない画一的な人形と戦うシーンがある。
「素子」的なものはどこかトリック・スター的であり、世界に必要なだけの安定と更なる革新をもたらす。また、そもそもの成り立ちが自己組織化を含んでいる。マンガ版の方の「攻殻機動隊」で語られる「人形使い」がネットから切れることにより、よう高次なグリッドのつながりに再生していくという、昇天に似た生命体の誕生はある意味感動的である。
スミスも素子も少なくともその一部はネットの上の存在である。情報あるいは自己の複製を広げていくということでは、機能的に等しい。しかし、それぞれのネットとネットのノード(端末、人格)へのかかわり方と影響の与え方が対立的な存在だということだ。まとめれば、
スミス と 素子 の象徴するもの | ||
均質性 | vs | 多様性 |
画一化 | vs | 個別化 |
男性的 | vs | 女性的 |
不毛 | vs | 豊穣 |
ビッグブラザー | vs | トリックスター |
固定 | vs | ゆらぎ |
集中 | vs | 分散 |
■ネットワーキング
そもそも、ネットの役割とは、ひととひととをつなぐことであると考える。ネットにあるのは、文字や画像などの情報にすぎない。ネットは、ノードである利用者、参加者と一体で考えるべきだ。金槌もつかうひとがいなければ、なんの意味もない。この意味でネットワーク上のサイトもアクセスされてなんぼだというのが基本的な認識だ。
この意味で、先日の「帰ってきたアクセス向上会議」を主催された橋本大也さんがご自身のサイトに最近掲載された「再掲:成功するインターネットソフトウェアエージェント論」には大変刺激を受けた。自己組織化に当時興味を当時もっていらっしゃったのか、参考文献に「ゲーデル、エッシャー、バッハ」をあげていらっしゃったのがとてもうれしかった。橋本さんは、文化的遺伝子といわれるミームを比喩として使って今後のネットの方向性について以下のように書いている。
アクセス向上の研究はコンテンツに含まれるミームの自己複製と自然淘汰を生き延びる為の戦略研究と言い換えても過言ではないのかもしれません。現在はアクセス向上には、マスメディアの影響力や現実世界の事件といった外部環境要因が大きく影響していますが、いずれ他のメディアとの融合が加速し、インターネットが世界最大のメディアとなっていくとすれば(既にコンテンツの量は人類史上最大だと思いますが)、ミームを運ぶインターネットエージェントの振る舞いを記述することが、自分の考えをより多くの人に伝える為に重要な要素として認識されるのではないか、と思います。
ネットの参加者が、ネットを通してつながるという行為の結果として、ミームを限りなく生み出していく。自分の作った、プログラムが、XMLが、言動が、ニュースが、哲学が、イデオロギーが、宗教が、ネットを伝って伝播していく。その結果、Yahooのような巨大なポータルサイトにアクセスが集中し、その記事、意見、つながりが、ネット上の情報の画一化を生み出すのか?ネット上の豊富な情報は、ネットワーク生態系の中でそれぞれの多様性を生むのか?生命の進化の過程でよく起こるようにひとつの種が他の種を圧倒してしまう事態がネットの上でも起こりうるのか?あるいは、生命が過去に経験したように、スミス一色の世界になっていれば、一撃のもとに全滅してしまうのではないか?ということがひとつの分岐点になる。
SFではないので、まさか、現実世界と現実のネットの上でヒトの人格を強制的にハックすることができるわけはない。多分、だから私のは杞憂なのだ。しかし、1919年のヴェーバーではないがネットによりあらためて全体主義的な動きがうまれうる少々いやな予感もある。
まだ、踏み込みがあまい!と言われそうだが、自分の今の限界のようなので、とりあえずこのまま載せる。くやしい。
■参考リンク
・再掲:成功するインターネットソフトウェアエージェント論 by 橋本大也さん
・攻殻機動隊 by lllissa 『自己中心野郎』さん
・インターネット時代をリードできない「PC世代の限界」 by 梅田望夫さん
・距離、時間、そして統治と戦争
・クリエイティブ・コモンズ(flash版解説) by Creative Commons
■補完的リンク
コメントを参照いただきたいが、信じられないくらい本稿のはるか先を行く内容について、m_um_uさんから情報をいただいた。まだ私にははなはだ未消化であるが、ここに感謝を込めて掲げたい。予感として、これらのリンクは、私の「歴史の終わり」に関する関心とネットに関する関心をつなぐものであると感じている。
・「グリゴリの捕縛 あるいは 情報時代の憲法について」 by 白田 秀彰さん
・オープンデモクラシーについて by m_um_u.さん
・「openDemocracy」
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コメント
初めまして。ちょっと意見おば。
限定的で良ければ、人間のハックは、今でも不可能ではない。
一世を風靡したhttp://www.f-secure.co.jp/v-descs/hoaxes/goodtime.htm'>goodtimesのようなデマメールや、オレオレ詐欺は、ある種の巧妙な人間のハッキングだ。速い話、詐欺や洗脳、恋愛などでも、うまくやれば相手を自由に操ることができる。
ネットができるはるか以前から使われていたこれらの方法は、ネットとの相乗効果によって、より広範囲に、より大掛かりに、より巧妙に、進化する可能性がある。
投稿: 御宗銀砂 | 2004年4月25日 (日) 02時07分
御宗銀砂さん、
はじめまして。「SF航海日誌」読ませていただいておりました。私も幸せなSF読みだったので、サイトから伝わるSFマインドがとてもうれしいです。
さて、人間ハッキングですが、いつぞやhttp://kimuratakeshi.cocolog-nifty.com/blog/2004/04/_.html">木村剛さんも指摘していらしたように、実は広告やらマスメディアというのは、最大のハッキングの手段であると、最近感じました。サブリミナルみたいのは、いわずもがなです。
そして、ご指摘の通り、また、今回の人質事件で一部使用されたとhttp://miyakoda.jugem.cc/?eid=13">うわさされるように、マスメディアとネットをうまく利用すれば、かなり効率的な世論操作という人間ハッキングが可能であることが立証されているように感じ、背中が寒いです。
投稿: ひでき | 2004年4月25日 (日) 09時13分
お・集中と拡散じゃないですか
(やはり好みが似てますね♪)
ちなみにぼくのいままでのまとめはこんな感じ↓
攻殻機動隊
http://www.kanshin.com/index.php3?mode=keyword&id=384410">http://www.kanshin.com/index.php3?mode=keyword&id=384410
The Matrix Revolutions
http://www.kanshin.com/index.php3?mode=keyword&id=384774">http://www.kanshin.com/index.php3?mode=keyword&id=384774
なるたる
http://www.kanshin.com/index.php3?mode=keyword&id=400075">http://www.kanshin.com/index.php3?mode=keyword&id=400075
↑のような感じで、いままで読んだ物語の中だとなるたるのバランスが一番良かったです
(ただし・・絵と表現がアレなので、読み手を選びますが...(^^;))
「集中と拡散」というのは、ぼくの場合、国家や企業の動態としてみています
冷戦のカマがぶっとんだあとの拡散的状況...
(これは、ロシアとか米国がいろいろ失敗したって感じかも知れしれないけど..)
ネットワーク化を介した企業の動態の2類型(「囲い込み」と「分散型協調」)
リアルワールドだとこういう感じで展開しているように思います
その鍵は「ネットワーク化」ですが...
そういう話全体をあわせたやつが「The Magro-Politics」です(宣伝)
http://www.kanshin.com/index.php3?mode=keyword&id=384029">http://www.kanshin.com/index.php3?mode=keyword&id=384029
http://blog.nettribe.org/btblog.php?bid=morutan&eid=505f78ac95a14b40d76fc224ca99fea7&m=e">http://blog.nettribe.org/btblog.php?bid=morutan&eid=505f78ac95a14b40d76fc224ca99fea7&m=e
あとはやっぱ著作権関連の争いが面白いですね(こういうのが顕著に顕れてて)
※具体的にはこの辺りな感じです↓
「media & net」(@openDemocracy)
http://www.opendemocracy.net/media_and_the_net/index.jsp">http://www.opendemocracy.net/media_and_the_net/index.jsp
「Democracy & Power」(@openDemocracy)
http://www.opendemocracy.net/democracy_and_power/index.jsp">http://www.opendemocracy.net/democracy_and_power/index.jsp
「インターネットの法と慣習」
http://www.hotwired.co.jp/bitliteracy/shirata/index.html">http://www.hotwired.co.jp/bitliteracy/shirata/index.html
投稿: m_um_u | 2004年4月25日 (日) 16時49分
m_um_uさん、
どうもありがとうございます。なぁんか、ほんとうに関心が似ているんですね。困ったなぁ...
ウィリアム・ギブスン結構すきでしたね。「http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/415010672X/hidekisperson-22">ニューロマンサー」、「http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4150107351/hidekisperson-22">カウント・ゼロ」、「http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4150108080/hidekisperson-22">モナリサ・オーヴァードライブ」の三部作と「攻殻機動隊」、「マトリックス」を比較するというアイデアはありませんでした。なるほどです。ほんとうに考えてみれば、ネット社会のこれからの発展の仕方を暗示するSF作品って結構ありそうですね。認識を新たにしました。
それから、「なるたる」は最後まで読んでいなかったので...ちょっとうれしいような、かなしいような...でも、こういう関心の仕方からみればかなり近いところにありますね。
@openDemocracyは、かなりポピュラーなんでしょうか?いきなり「You are nuts!」みたいな感じで、ああ、アメリカだなぁと、ちょこっとよんだだけですが感じております。もうちょっといろいろな議論を、時間をかけて追わせてください。
参戦しようかな?でも、もう年だしついていけないかな?でも、こうした議論を日米でやるってのもそれこそつながるこころ=縁ですよね、きっと。
著作権とネット上の作品の発展の仕方についての法律的な議論やクリエイティブ・コモンズの議論はかなり面白いです。ネットの上での画一化、均質化と多様性の保護というテーマにおける最も現実的な回答なのでしょうね。これもこれから勉強させてください。
それから...マグロ帝国ですけど...そりゃあ、マクロポリティクスつうんじゃないですか!
いやあ、しかし、いつもいっぱいいっぱい勉強すべきネタをいただきありがとございます。なかなか追いつけないほど、To Doリストが長くなっていっています...
追記 あ、コメントに追記もないですけど、勝手にリンクをハイパーリンクにさせていただきました。お許しください。
投稿: ひでき | 2004年4月25日 (日) 19時54分
あ・「なるたる」ご存知でしたか..
(そして、ネタバレしてしまいましたね.....申し訳ない m(_ _)m)
openDemocracyはイギリスのNPO系新聞です
これについても前にまとめたので、よろしければご覧下さい↓
http://www.kanshin.com/index.php3?mode=keyword&id=397584">http://www.kanshin.com/index.php3?mode=keyword&id=397584
どのくらいポピュラーかは分かりませんが..
日本からはこの前、猪口孝さんが論文発表されてました
http://www.opendemocracy.net/debates/article-2-95-1754.jsp">http://www.opendemocracy.net/debates/article-2-95-1754.jsp
http://www.opendemocracy.net/debates/article-2-95-1416.jsp">http://www.opendemocracy.net/debates/article-2-95-1416.jsp
ぼくはけっこうお気に入りです (^-^)
あと、
クリエイティブ・コモンズ系のお話だと、やはりアレが出て着ざるを得ませんが...
「CODE」および「コモンズ」..
これは技術系知識が頭に入ってないとけっこう辛いですが..
ひできさんなら大丈夫だと思います
でも、その前に「グリゴリの捕縛」なんかも面白いですよ
http://orion.mt.tama.hosei.ac.jp/hideaki/kenporon.htm">http://orion.mt.tama.hosei.ac.jp/hideaki/kenporon.htm
では、またお邪魔します
(※ちなみにMagro-Politicsについては、あんまりしつこくからかっていたのでモノをぶつけられそうになりました...(^^;))
投稿: m_um_u | 2004年4月25日 (日) 21時12分
m_um_uさん、
いやいや、これはこれは。もう直球ストライク、アウトォ!って感じです。参りました。
「グリゴリの捕縛」は、ほんとに面白かったです。いま、「歴史の終わり」を読んでいるのですが、ちょうど重なる部分があったりして、感動しております。
ふふ、ちなみにグリゴリといえば、ちょっと読み方違うけど「http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4091268226/hidekisperson-22">Arms」ですね。子供と私の愛読書です。
あー、しかし、私はいま日曜日だというのに家族から離れて仕事をしています。昼間を優雅にすごしすぎた報いをうけているところなのに(最新記事参照)...こんなおもしろいソースをいただいちゃうと仕事どころじゃなくなっちゃいます。こまった、こまった。
なによりも大変重要なヒントなので、恐縮ですがいただいたリンクのいくつかを本文にも載せさせていただきました。本当にありがとうございます。
投稿: ひでき | 2004年4月25日 (日) 22時03分
あ・「ARMS」だ(笑)
やっぱ似てますねぇw
ほかには「スプリガン」も同系統で面白かったですね(発掘SFガンファイトって感じで)
それにしても、お仕事への誘惑...どうもすみません
でも、まぁ、それがblog文化ってものなのかもしれないし..(どんな文化なんでしょうね 笑)
では、またなにかピクッとくるものがあったら寄らせていただきます
投稿: m_um_u | 2004年4月26日 (月) 06時02分
あ・そうだ。ご存知かもしれないけど..
書籍購入の際にesbook使うと送料無料で楽ですよ♪
http://myshop.esbooks.co.jp/myshop/07_01
セブンイレブンで引き取りって感じになります
投稿: m_um_u | 2004年4月26日 (月) 11時33分
m_um_uさん、
こんにちわ。私はアマゾンを使うことが多いです。アマゾンだと古本屋さんと提携していた絶版も探してくれたりするので、感動です。これで「歴史の終わり」もてにはいりました。
投稿: ひでき | 2004年4月26日 (月) 12時26分