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2004年5月27日 (木)

[書評] 技術経営入門 改訂版 ~ 成功体験を捨てる ~

[書評] 技術経営入門 改訂版 by 藤末健三さん

「無職(色)の男としがない3人のおやじの飲み会」も迫っているので、すこしふじすえさんについて予習しておこうと思い、アマゾンで「技術経営入門 改訂版」を頼んだら、昨日届いた。

読み始めていきなり目にはいったのは、「個々人の過去の成功体験が新しい発想を阻害している」という言葉だった。ちょうど、今朝、社内の打ち合わせで「失敗が大事だ。成功体験を捨てるためには、失敗した経験を真剣に受けとめなければならない。」という話をしていた。企業が、その成功体験を捨てるというのは、実は大変なことだ。過去の成功によっていまの企業の形がある。ある意味、今の自分を、今の会社を未来に向かって投げ出せ、といっているのにに等しい。

では、投げ出した先にはなにがあるのか?

投げ出す先になにがあるのかは、わからない。ますます、成功体験をなげだすのが難しくなる。

私がいま「技術経営」について整然とキーワードで解説している本書を読んで感じているのは、商品・技術という側面と、市場という側面で、企業は成り立っているということだ。

企業は、本社屋ではない。企業は、工場の建物ではない。企業は、預金口座ではない。企業は、法人登記ではない。企業は、そこで働く個々人でもない。これら目に見えるすべてを足しあげた総和以上の力がそこにないのなら、個々人で勝手に商売をすればよい。総和以上の力を発揮しうる企業の魂ともいうべきものは、なにかを経営者は説明できなければならないと感じる。

こんな問題意識から、本書を読むと二つの側面が自分に飛び込んでくる。ひとつは、企業にとって基本的なものである使命も技術もひっくるめた会社の命ともいうべき側面である。そして、もうひとつは、その企業の命によって決まる市場の形だ。あるいは、その市場の形によって企業の命の形も決まる。本社屋も、工場も、預金口座も、法人登記も、会社の外形にすぎない。会社の外形は、技術という命と市場のあとからついてくる。この2つの側面で会社の魂は出来ている。

会社の使命、命というべき側面は、「コアコンピテンス」、「コアテクノロジー」、「ドメインデザイン」、「人材のコンピテンシー」などのキーワードにより表される。1+1を3にも4にも、100にもする力の根源は、ここにあるといってよい。私の感覚では、まずトップからはじまる行動があり、それにつながる多くの行動が、商品となる技術、技術となる商品を結実させる。そして、その商品が市場に出て、その商品独自の地位を築く。このサイクルがまわりだせば、人が育ってくる、企業風土ができてくる。

もうひとつの側面から考えれば、市場から決まる側面だ。その企業の市場をどう定義するか、その企業の市場の領域をどう決めるか、という問題だ。これは、「SWOT分析」、「死の谷」、「規模の経済」、「範囲の経済性」、「事業ドメイン」といったキーワードへとつながっていくように感じる。自社の強み、弱み、機会、脅威を、市場で見る。市場に入っていくときが一番エネルギーがいる、先が見えない、お金ははいってこない、つらい。精神的に一番弱るのがこの段階だ。そして、市場であげる売上の額と必要な利益がつりあってくる時期が確実におとずれる。商品がちょうど売れるだけの大きさの市場が見えてくる、明確に市場を定義することができる。企業の営業マンに「あなたのお客様は誰?」と聞いたら、自信あふれる答えが返ってくる。ここで、再度会社の形に合わせて、次にどこへ向かって自分の成功体験を投げ出すかを、定義しなおさなければ、明日はない。

個々の言葉の懇切丁寧な定義は、ぜひ本書を読んで欲しい。

では、お前はなにをしているんだ、と聞かれるだろう。私の会社の会社案内に載せてある言葉を開陳するのが手っ取り早いかもしれない。

「創意工夫を積み重ねよりよい明日を築きます」 我が社には研究室こそありませんが、全員で日々の仕事を通じ独自商品の開発に取り組んでおります。
ごまめのはぎしりかもしれないが、中小企業においては、実は日々の仕事のひとつひとつが、実は技術開発だ。日々の行動が、先にふれたキーワードを実践するものでなければ、企業を企業たらしめる行動でなければ、明日はない。日々の活動を通して、商品をつくり、技術を積み上げ、その過程を通して技術開発を自分の腹に植えつける。このサイクルを、どうまわすかが私の課題だと感じている。この私の目的は、近いようで遠い、難しいようで簡単な、ことなのかもしれない。

まずは、「成功体験を捨てる」というところから始めたい。

■追記 (平成16年5月30日

Dainさんからトラックバックをいただいた「新入社員のひよっ子たちへ(その1:たぶん連載になる)」という記事を読ませていただいた。コンピテンシーというのだろうか、成功する経営者、成果をあげる社員の行動には、必ずパターンがあるように感じる。気持ちでも、ポジティブシンキングでもない、格別頭がいいかでもない、行動だ。私は、特に営業に対して責任をもっているが、営業マンには2種類しかいない。売れる営業マンと、売れない営業マンだ。その2種類の営業マンの違いをちきんと言葉にでき、行動させられるのが、経営者と言われる資格のあるやつだ。

■参考リンク
ふじすえブログ 著書・掲載記事等
[書評] 都市経済、テクノロジー、クラスタ、そして、べき乗則 (HPO)

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コメント

素晴らしいご意見を拝見できて少々感激しています。
成功体験、失敗体験、新規業務への挑戦、現行業務の完遂など全てがいろいろな側面を持っていて大切だと思っています。
Blogは自分の意見を公表できることも楽しいし、他の方の素晴らしい意見を拝聴するのも楽しいです。

また拝見に伺います。

投稿: maida01 | 2004年5月27日 (木) 10時29分

maida01さん、こんにちわ、

各所でお名前を拝見しておりました。過分なお言葉をいただき、CRTのこちら側で赤面しております。

ほんとうに最近、ブログでこれだけのスピードで、これだけの奥深い内容がやりとりされていることに、改めて驚愕を覚えております。

大学受験の時に、代々木ゼミナールの英文読解の講座で、19世紀の米国の芸術家に関するえらくややこしい構文の入り組んだ文章を読みました。当時暗記するほど繰り返しやったのですが、内容としては、とにかく自殺したり、気力を失ってしまう芸術家や作家が米国には多すぎる、と。欧州ならちょっと出かければ交流できるのに、米国の広大な大地の上では、あまりにも分散しすぎている。だから、なんらかの交流を行う手紙のやりとりの仕組むをつくるべきだ、うんぬん、といったないようだったと記憶しております。

この英文の筆者が構想したことは、いま確実にウェブの上で実現されているのではないか、と先日から考えておりました。

投稿: ひでき | 2004年5月27日 (木) 12時30分

なるほど、アメリカの風土が、こういう道具を生み出してくれた・とも言える訳ですね。
そして、密集した日本に持ち込まれることで、たとえば「電車男」さんのような出来事が起きる。

「特性」はそれだけで「価値」だなぁ・・・と想います。

自分が、自分の組織が、どんな特性を持つ澤のどこに住んでいるのか。澤は、その外側の世界はどうなろうとしているのか。自分の特性を、どう活かせばより大きな価値を創造できるのか。
それがはっきり見えている、そして問いつづけていることが、大切なのでしょうね。

投稿: BigLove | 2004年5月27日 (木) 14時13分

あ・ふじすえさんってこういう方だったんですね
(ITと経営は自分的にけっこう関わるところなのに...汗)

・・いいですね、飲み会

そういや、ぼくがこの前読んだ本もそれ系の内容です
(いちおトラバっとます)

伊丹さんの場合、直接「IT」ってのを示しているわけじゃないんだけど「見えざる資産」という言葉で企業における経営資源としての「情報」(ノウハウ、ブランドイメージ..etc)の重要性を説かれています

1984年が初版なんですが..
基礎としてはいい感じです
(ってか、ジェイ・B. バーニー著「企業戦略論」、が読みたい...ほかのとこでもけっこう見かけたので..)
http://blog.japan.cnet.com/umeda/archives/001247.html


投稿: m_um_u | 2004年5月27日 (木) 14時18分

ひできさん、
”各所でお名前を拝見”に驚きました。別の方では?

インターネットが始まって本当に世界が狭くなったと思ってはや10年です。最近始めたBlogで10年前の変化を同じように感じています。
インターネット、Blogなどと便利なツールが安価に、容易く使えるようになったことで、何かが変わってきているように思っています。

今後も宜しく。
maida01

投稿: maida01 | 2004年5月27日 (木) 17時51分

BigLoveさん、こんにちわ、

こちらまでおいでいただくとは、ほんとうに光栄です。毎回、毎回、ものすごいことをBigLoveさんからいただいているように感じます。私の中で、BigLoveさんは人生のすばらしい先輩であると感じております。(先輩...ですよね?)

ご指摘の通り、本書を一読させていただいて、これは「澤」だなと感じて、澤の場所からキーワードを自分なりに書きました。自分の場所と、いまの自分の課題と、ただただ見つめていきたいと感じております。

そうそう、今日、午前中に仕事でおじゃました、まだスタートしたばかりの会社の社長さんが、まさに今ご自身が「死の谷」を生き延び、「ダーウィンの海」と呼ばれる選択と淘汰の中へ踏み込まれていく過程の話しをしてくださいました。

一見、整然とならんでいるキーワードにも、ものすごくドラマと苦闘が秘められているんですね、きっと。

投稿: ひでき | 2004年5月28日 (金) 13時22分

ほんの少しだけ歳をとっていますが、ほぼ同年輩ですよ!
ひできさんのほうがむしろ、社会的に大きな仕事を為してこられているように感じます。
体験の意味を読み解く・・・ことに関しては、勉強を重ねましたから、そこでお役に立てているのかもしれませんね。

私にとっても、ひできさんの記事はとっても示唆に富んでいます。興味の対象が似ていて、私とひできさんとが違う視点から光を当てるので、連鎖反応のように理解が広がる。そんな体験をしています。特に「経営」という側面は、本来重要なのに、従業員として働いているとつい他人事になり勝ちで、センスが磨かれていないだけに、とても言葉が響いてきます。

今後ともどうぞよろしくお願いします。

投稿: BigLove | 2004年5月29日 (土) 02時48分

「個々人の過去の成功体験が新しい発想を阻害している」・・・電車男さんの話は、それをぶち破った例といえますね。お礼の電話をかけられなかった。それを「失敗」と感じる自分に向き合い、本当に進みたい方向を見定め、やったことのない行動に踏み込んだ。
仕事への取り組みを通して、こんなブレークスルーを従業員に起こせる会社であったなら素敵だろうなぁ・・・と、想っています。
ディズニーリゾートを運営するOLCでは、どうもそれが起きている。人と話すことが苦手な若者が、笑顔で親身になってゲストに働きかけたり、業務を改良したり。どうあれば、自分の会社でも起こせるのだろう・・・

投稿: BigLove | 2004年5月29日 (土) 03時14分

BigLoveさん、おはようございます、

かなり、「ひぇぇ」という感じです。やはり、先入観は持ってはいけないということでしょうか。まあ、それはまたあとでフォローするとしてですね...

商売に関することは、自分でこだわってしまいそうで、あえてここでは書いてきませんでした。ただ、商売にしろ、恋愛にしろ、家庭生活にしろ、自分が行動することで、わかる、腑に落ちる、見える、ことは多いようです。また、行動することだけが世界を変えるのですから、恐怖におびえようと、めんどくさいと感じても、ただただ行動しようと感じています。

ささやかですが、毎朝私は会社のまわりのごみ拾いをしています。車に、営業途中で寄ったコンビニの袋を置いておいて、朝駐車場から事務所に入るまで、目に付くごみをひろったり、草取りしたりしています。さわやかな気持ちになります。いつも、これぐらいさわやかな気持ちで仕事に望めるようになるのが、私の目標です。

投稿: ひでき | 2004年5月29日 (土) 09時08分

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