[書評]イギリス式月収20万円の暮らし
イギリス式月収20万円の暮らし方 by 井形慶子さん
著者の井形慶子さんとは一度お会いしたことがある。仕事の場だったので、当然なのだが雑誌編集者、ラジオのパーソナリティー、会社の社長と、多くの役割をてきぱきとこなされていてほんとうにお忙しそうだった。きゃしゃなお身体なのに、あれだけ元気よく、はきはきと活躍されているお姿に圧倒された。
実は、この本をいただいたあとも、正直ぺらぺらとめくったあと、なかなか読み進められなかった。斜め読みで、読んだような気になっていた。あれだけお忙しい方が、イギリス式のゆったりとした生活について書かれるというのは、少々矛盾じゃないかなとか、感じていたからかもしれない。
しかし、それはとんでもない思い違いだった。「こころをなくす」忙しさという病にかかっていたのは、私の方だった。私の気持ちが忙しいかったから、この本の真の価値をよみとれなかっただけだったのだ。
最近、なにか憑き物が落ちたように、気持ちにゆとりができてきた。仕事はあいかわらずなのだが、気の持ちようだけで随分違うものだ。この本を今日だけで、2回も読みかえした。これは、書物や文章をざっと読んで分かった気になっている私には本当にめずらしいことだ。ちょうど、いま私が読むべき本にだったのだろう。
さぁ、どこから書き始めようか、やはり自分の体験から語り始めるのが一番説得力があるだろう。
2回目読むうちに、自分のイギリスでの体験が思い出された。ひと夏をデヴォンシャー州のトーキーという街で過ごしたことがある。楽しく語学学校に通った、お芝居を見た、英国風のお茶も楽しんだ、映画のマチネーも見た、ヨットも乗った、ウマにも乗った、バスにも乗った、ディスコも通った。40の声をまもなく聞こうとしている現在にいたるまであれだけ楽しんだ夏の記憶はない。ヨットに乗ったときにごつごつした岩をガイドが「あれは、サッチャーロックだ。」と揶揄していたから、きっとまだかなりイギリスが経済的には厳しい時期だったろう。それでも、ホストファミリーのご夫妻も実に生活を楽しんでいた。デタッチド・ハウスと呼ばれる、イギリス風の続き長屋に、我々のような海外からの居候を数名泊めて世話をしながら、自分たちはほぼ毎晩パブへ通っていた。
下世話な話しかもしれないが、これだけ楽しんでもひと夏で10万円までは使わなかったように記憶している。もちろん、宿泊費用も、昼間通っていた語学学校も日本で払込済みだったから純粋な生活費はほとんどいらない生活だった。しかし、同じことを日本でしようとしたら、10倍くらいかかってもおかしくないように感じる。
この「質素だけど楽しかった」というのが私のイギリスの印象だ。井形さんは、見事にこの感覚を実際の生活の中で楽しんで展開していらっしゃることがこの本を読んでよく伝わってきた。洋服の着方、スーパーの買い物の仕方、ハウスキーパーの使い方、イギリス人がうまくお金をつかっている様子がよくわかった。日本の広告やら、目先のニュースやらにふりまわされている私達とは違う、落ち着いた伝統と常識が生活の中に根付いているようだ。イギリス人にいわせると「人間はもともと何もしなくとも元気できれいでいられるようにできているのよ。」、化粧をすればするほど、肌があれ化粧をしなければならなくなる、という話しが面白かった。
ただ、この本を読んでいまやばいなと思っているのは、「お金がなくとも、経済的に成長していなくとも、楽しめるじゃないか、もうなにもいらないな。」と自分が感じてしまっていることだ。野望も、野心も、物欲も、私から消えてしまったら、日本で社会生活をしていけなくなりそうで怖い。
「持つものは、より多くを持ちたくなる」
ほとんど余談だが、今朝出掛けに妻とこの本の話しをした。妻はこういう話しをしてくれた。
「この前とても欲しかったバッグを買ってもらったんだけど、自分の手にしたとたんに興味がなくなっちゃった。ものってむなしいわよね。ほんとうの満足はないよね。」
涙が出そうだった。
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コメント
ひできさん、こんばんわ
>質素だけど楽しかった
自分もこうありたいですね。消費者社会に毒されちゃってるので、難しいと思いますが。でもみんなが、質素な豊かさを感じちゃったら、経済益々よくならないですね。矛盾だなぁ~。
>涙が出そうだった。
それにしても、オチ笑いました。(失礼!)
投稿: it1127 | 2004年6月21日 (月) 21時31分
it1127さん、こんばんわ、
をを、そういう意味だったのかぁ!
ものってむなしいわよね > 妻は私の話しを理解してくれた
ものってむなしいわよね > 妻は私が買ったバッグが気に入らなかった
!!!
うーん、ダブルミーニングを妻は狙ったのでしょうか?「オチ」と言われるまで気が付きませんでした。表面的には私を感動させながら、次回はもっとすごいものをねだっているという高等戦術だったんですね?!
投稿: ひでき | 2004年6月21日 (月) 21時42分
あはは、その分人との出会いとかにどん欲になってるじゃないですか。(笑)
何も物質にこだわらなくても(って、僕が言っても説得力ないか)人生奥深いです。昨日、地球交響曲とか見ちゃったせいか、そんな心境です。
投稿: nim | 2004年6月22日 (火) 00時26分
ひできさん、えぇーっ!
違うの?
でも、そういわれると、たしかに感動の涙ともとれる!
なにせ、私の知っている女性はみんな感謝知らずだから。
そうだよね、ひできさんの奥様に失礼しちゃいました。謝っておいて下さい。
ホント言葉って、改めて解釈だと実感しました。気をつけなくっちゃ!
投稿: it1127 | 2004年6月22日 (火) 00時29分
いろいろ取りようはあるのでしょうが、最後の、奥様の一言のところで、私も笑ってしまった一人です。 私はある時期までit1127さんのおっしゃる、「感謝と無縁な女性」というのに気を引かれてばかりいました。
「けっこう傷つきながら、それなりに幸せかもしれないit1127さん」、なんてこと、ふと考えてしまいました。
投稿: miyakoda | 2004年6月22日 (火) 00時46分
it1127さん、miyakodaさん、こんばんわ、
こんな時間にコメントするなんて、どうしても私を家に帰さないおつもりですね?!(笑)
私自身は結構美談だと今の今まで信じてきました。真相は、本人に聞いてみて、明日ご報告します。
nimさん、
そうかもしれませんね。このいろいろな方のすばらしいご縁をいただいて、満足してしまっているのかもしれません。
投稿: ひでき | 2004年6月22日 (火) 00時53分
イギリスでの生活というほど長期間滞在したことはありませんが、日本での日常の生活感覚からは度し難いほどの、非効率が横行しています。
日本でも有名なCDショップのレジで、店員にちょっと面倒くさい質問をした際、ワタシの後ろに10人ほどの待ち行列が出来てしまいました。件の店員はワタシの質問に答えるべく悠長に調べはじめるし、後ろに並んでいる人達はそれを全く気にする素振りも見せず、この状況にドギマギしていたのはワタシ一人でした。
一歩引いてみると、こんな現象もイギリス社会全体の余裕の現れだったのか?と愚考する今日この頃です。
ただ、実際に彼の地で生活しはじめると、忙しがりやの日本人にとっては毎日が驚きの連続だそうです。
投稿: Flamand | 2004年6月22日 (火) 17時47分
Flamandさん、こんばんわ、
最近、不便なこととか、非効率なことって時と場合によっては、必要なことなんだなと感じています。日本がこんなに不況なのは、あまりにも日本が効率的で、あまりにも日本の中のリンクの密度が高いからかもしれません。
投稿: ひでき | 2004年6月22日 (火) 21時27分
ひできさん、こんにちは。くりおねです。
>ものってむなしいわよね
>涙が出そうだった。
は私もオチだと思って読んでました。(失礼!)
ただ、「感謝知らず」というよりは、
「欲しい欲しいと思って夫におねだりしてやっと買ってもらったバッグ。いざ手元に来たら、なぜかわからないけどほしいと思っていた時のうきうきした気持ちがなくなって、まるで興味をなくしてしまったよう。本当は自分は何をこのバッグに求めていたんだろう?」
というような「むなしさ」を奥様は感じられたのではないかな、と。
そんな奥様の言葉を聞いて、「うーん、でも、そんな哲学的なことはともかく、あれけっこう高かったんだよ~~くく~~」と泣く夫、みたいな図を想像したわけでして。ははは。
買い物と言えば、私は昨日携帯の機種変更をしたんですが、いいデザインが出るまでと思ってずっと待ってたものなので、もううれしくてうれしくて、何度も手にとって眺めて、自分の手の中にある感触を感じるだけでうきうきしてしまう、そういう買い物しかそう言えば最近していないなあ、と思いました。まあ若いころにそういう意味では散々投資しましたからねw
投稿: くりおね | 2004年6月23日 (水) 14時45分
くりおねさん、こんにちわ、
おちかどうか、真意を今朝妻に問い質しました。結果は...夫婦関係を守る守秘義務のため、オチのオチはあえて明かしません(笑)。
そーいえば、手に入れてうれしいものってあんまり最近ないですよね。むかしは新しいPCとかすんごくほしかったし、手に入れてうれしかったんですけど、あっというまにPCもコモディティになっちゃいましたしねぇ。
あ、でも今日矢野顕子のCDが届きました。ちょっとわくわくしています。
うーん、あとは本を読む時間と、南仏プロヴァンスあたりにしけこむ余裕くらいですかねぇ。
あ、結局実はまだかなりすんごく結構「物欲番長」かも、私って...
ええと、nimさんではないですけど、いまはいろいろな方とお会いしてお話しするのが、ないより楽しいです。急速に、いろいろな方とのご縁も円くとじていっています。友達の友達はほんとうに友達です。、読書も一度読んだ本の再読がとりはだがたつくらい楽しいです。
投稿: ひでき | 2004年6月23日 (水) 15時01分
ひできさん、そしてみなさん、こんばんわ
結論がでたようなので、
なぁ~んだ、期待して待ってたのにぃ!まぁ、秘密っていうのが一番当たり障りないってことで、よろしいかと思います。
それから、欲しいものがなかなかなっていうのも、その通りだと思います。どこかで、「欲しいもの」が欲しいって言ってた人がいたけど、ほんとに困ったもんだ(笑)
>miyakodaさん
>「感謝と無縁な女性」というのに気を引かれてばかりいました。
そうなんですよね、けっこうそれはそれで憎めない可愛らしさってのがありますよね。まぁ、相手にもよりますけどぉ(笑)
で、私はそれで幸せでしたぁ~、すんまへん、のろけましたっ!
それにしても、ほとんど余談どころじゃないですよ。最後の数行は、このエントリの核心です。これも、ひできさんの才能、人徳だと思います。
投稿: it1127 | 2004年6月24日 (木) 00時19分
it1127さん、おはようございます、
いえ、妻の才能、人徳です。
ちなみに、妻は吉本系です。
投稿: ひでき | 2004年6月24日 (木) 06時51分
はじめまして。
TBをありがとうございます。
建築屋さまなんて、すばらしい!家って、もののなかでも特殊かもしれませんよね。
私はこの本を読んでから、暇なときに「どんな家を建てようか」と夢想するようになりました。戸建なんて無理なんですが、空想でも楽しいです。
身の丈にあった消費をして、仕事やらの生産活動の方に気持ちを注いでゆければうれしいのですがね。
投稿: susan | 2004年9月 6日 (月) 22時21分
susanさん、はじめまして、こんばんわ、
先日はぶしつけかと思いましたが、同じ本にコメントされているという気安さでついTBさせていただいてしまいました。
そうですね。建築屋の仕事はつらいこともありますが、自分が御手伝いさせていただいたおうちの前を仕事の帰りに通るときに、灯りがついていて人の気配があったりすると、無性にうれしくなります。また、なによりお客様がもっていらっしゃる夢をひとつの形にするお手伝いをさせていただける、というのも喜びの一つかもしれません。
ああ、つい頭が接客モードです(笑)。
でも、ホンネですよ。
投稿: ひでき | 2004年9月 8日 (水) 00時27分