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2004年8月10日 (火)

[書評] アップルシード 2巻 apple seed 2nd volume

アップルシード=りんごの種」の物語。「攻殻機動隊」で有名な士郎正宗の代表作のひとつ。

りんごとは地球のことを指すのだろうか?たぶん宇宙に浮かぶ青いりんごだ。また、エデン=理想郷からの人類の追放をも意味するのだろう。「りんごの種」とは、あまい果肉にうまった硬い種であり、新しい種=新たな理想郷、新たな人類を生むものという意味だろう。

「だろう」が続くのは、まだ古本屋で見つけてきた1巻と2巻しか読了していないからだ。最近公開されたアニメーションも見ず、最終巻が何巻なのかすら知らず、物語を最後まで読まずに書評を書こうという無謀なトライをしてみる。

士郎正宗は、この作品で人類は理想郷を作り出せるのか?、作り出せたとしても理想郷を維持する人間を継続的に生み出せるのか?、真の理想郷とは何か?、という思考実験をしたかったのだと感じる。理想郷を作り出そうとしているのは、この物語の舞台となる人工都市オリュンポスの、理性と感情のバランスのとれた作られた人類=バイオロイド達と総合管理局を構成するコンピューターだ。オリュンポスの「総合管理局」は、コードウェイナー・スミスの人類補完機構のように、来るべき次の世界大戦の後の世界を管理している。

ちなみに、人類補完機構シリーズの作者である「コードウェイナー・スミス」は、ポール・ラインバーガー博士のペンネームで、博士はリアルの世界で戦中戦後の米国のアジア外交において陰に陽に活躍されたと聞く。

・はてなキーワード:コードウェイナー・スミス

人類補完機構のモットーは、ちょっとながったらしいが「監視せよ、しかし統治するな。戦争を止めよ、しかし戦争をするな。保護せよ、しかし管理するな。そしてなによりも、生き残れ!」」だそうだ。これは、ほとんどこのままアップル・シードの総合管理局のモットーに使えるのではないだろうか?疲弊しながらも大国のいくつかは大戦を生き残り、自治を行っている。総合管理局のコントロールのもと、すこしずつ復興していく過程にある。もしかすると、この後の世界が攻殻機動隊へと続くのだろうか?

スミスの人類補完機構のどちらかというと静的な管理された世界にくらべ、思考実験としての興奮度は本作の方がはるかに動的であるように感じる。人類補完機構にせよ、オリュンポスの総合管理局にせよ、完全にはたらけばはたらくほど、現代の我々がかかえる「豊かさの矛盾」、「最後の人間」問題を引き起こしていく。

しかし物質の豊かさは、共同体を不必要にし、集団を解体し孤立をまねく!...このままでは遠からず社会は機能を失い、地球は人間にとって不便なものとなるだろう。

以前の記事で、「私は、衣食住と安全が満たされてしまった社会というのは、決して理想の社会ではないと感じてきた。」と私は書いた。自己言及など老害のあらわれかもしれないが、こう書いたベースにはヘーゲル=フクヤマがあったように感じる。

この辺の矛盾を、本作の作者が1992年のフランシス・フクヤマの「歴史の終わり」の出版に先立つ1985年以前に発表しているということは特筆すべきことではないか?たしか、作者は私とあまり年齢がかわらない。1961年生まれだから、当時まだ24才のはずだ。引き比べると、自分の非才を嘆きたくなる。

『歴史の終わり』メモ by ???さん ちなみにいまだに更新がない。このメモの作者はどこへいってしまったのだろうか?

2巻の結論は、総合管理局をつかさどる巨大コンピューター、ガイアの暴走という形できちんと示されている。この点でもフクヤマよりも作者は上かもしれない。

釣り合っていない巨大な天秤。理想化自身が目的の理想郷。よくできた道具。

「巨大な天秤」とは、世界をその上に載せた人類の生存をその使命とするガイアのことだろう。一応、ネタバレを回避しながら書けば、作者が2巻の結末で示したかったのは、去勢されたような人間の静的な理想郷など存在しないといこと。そして、苦しみながら、ゆらぎながら、危険に身をされしながら、生き抜いていくことこそ人間の本質であり、人間の生き方なのだと私は感じた。ことここにいたり「ファウスト」との相関性を感じる。

■参照リンク
竹田青嗣インタビュー「哲学は進歩したか」 @ ゑれきてる
APPLESEED / アップルシード by THUNDER さん(?)

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コメント

リンクを辿ってきたので古い記事に失礼します。
アップルシードとはアメリカ民話の主人公の名前です。
http://stwo.hp.infoseek.co.jp/shirow/appleseed.html
またストーリーについて個人的な見解を述べさせていただくと、
これは士郎正宗版ファウンデーションであると考えます。
ファウンデーションシリーズとは言うまでもなくアイザック・アシモフの
代表作の一つですが、執筆年代が古いため現在の視点で見ると
物語の展開に不満を感じる部分もあります。
この不満に感じる部分を変更してリメイクしたのが、
アップルシードのバックに存在するストーリーだと考えると
判りやすいかと思います。

投稿: | 2004年12月 9日 (木) 20時53分

おはようございます、はじめまして、

貴重な情報をありがとうございます。なかなか目からうろこです。「アップルシード」という名前も私が勝手に当て推量していたことがよくわかりました。ブリアレオスまで、ギリシア神話から名前をとっていたとは知りませんでした。ありがとうございます。

教えていただいたリンクにもありますが、本当は現在の時点で出版されている先が非常に重要なのでしょうね。本当に人類は救われるのか、それともとって変わられてしまうのか...そしてまた、それは現代のわれわれにも通じる問題があるように感じます。

ああ、ファウンデーションシリーズの当初の問題意識もそうであったのかもしれません。

ちなみに「新ファウンデーションシリーズ」はもうよまれましたか?

投稿: ひでき | 2004年12月11日 (土) 08時53分

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