« 少子化の裏側にあるもの where we are going? | トップページ | 分子発生学はネットワークの夢を見るか? Molecular Developmental Biology and Power Law Distribution »

2005年2月 2日 (水)

岩石破壊試験からの発想 scale-free-network is fractale

ユキジさんに勧めていただいた「エコノフィジックス」を読んだ。

私のようなずぶの素人でSPAMなものには理解しがたい数式がいっぱい並んでいて歯ごたえたっぷりだった。同じ「ひでき」でもちがうものだな、とためいきついた。それでも、本書に載っていた岩石の破壊試験の写真(*1)がきっかけで著者の高安秀樹・美佐子両氏が持っている壮大なイメージをちと悟るところがあった。私の言葉で言えば、こんな感じだ。

大きな破片はひとつで大きな場所を占めて、小さな破片はたくさんで小さな場所を占める。

この事実が雪の結晶を生み、フラクタル図形の性質を説明し、ネットがなぜスケールフリーネットワークなのかの答えを与えてくれるのではないだろうか?中沢新一、マンデルブロのフラクタル、スケールフリーネットワーク、大小の会社の存在、生態系、「7つの習慣」に出てくる「大きな石」のたとえ、そして以前に書いた「距離、時間、そして統治と戦争」という記事まで1本につながった。

その生態系な繁茂の仕方はますます加速していくように感じた。そして、それは自分の中で「スケールフリーってフラクタルだったんだ!」(*2)という確信につながっていく。

ちょっと余談といえば余談だが、本書を読んで初めて物理学的な思考でいろいろな現象をながめるときに「べき乗則・ベキ分布」や「信頼通貨」という概念が普通に出てくることが一般にはあたりまえのことなのだと知った。私の中では、「ネットワークが存在する → べき分布」というやじるしがすべてだと信じ込んでいたのだが、どうも世の中もっと広いらしい。考えてみれば、「べき乗則とネット信頼通貨を語る夕べ!」をはじめたときなぜこの2つを結び合わせるという発想になったんだろうか?なぜ自分がこの2つの要素にたどり着いたのかもう思い出せない。

それにつけても、正規分布がどんどんあやしくみえてきている。

どうもやっぱり問題は自然が見せる分布の仕方の妙だ。もしかすると、ゴールドマインさんがおっしゃるようにベキ分布がナチュラルで、カオスや正規分布の方が自然の中では不自然なのかもしれない。この辺はまだ思考中だ。

さて、最初に戻って「岩石破壊試験の破片分布」との関連で考えるべきなのは、生態学的といってもいいような地位(*3)をベースに考えるべきだとジョン・メーナード=スミスを読んで思った。この視点から考えると、まったく検証をしていないが、以下のような複数の仮説を立てたくなる。

  • Webのページなら、アクセスされることが基本的に存在目的なのだから、アクセスを増やすリンクが大事ということになる。よって、アクセス数、リンクの数がベキ分布する。
  • 太陽がそそいでくれたエネルギーを基本的には循環しながら生物は生きているのだから、その生物種の摂取するカロリー量と生体数の分布を調べてみるとベキ分布するのかもしれない。
  • 企業であればやはり所得が存在目的になるであろう。企業の所得はベキ分布することが本書で示されている。(そうそう、あのまるまったところは中小企業が意図的に所得を調整しているからかもしれな...)。
  • 破壊試験で生ずる破片なら、重量に引かれて安定的な位置をどう占めるかということになりはすまいか?2つの過程にわけて考えるべきかもしれない。破壊されるときにどういう大きさの分布になるのが、もっとも衝撃を吸収しやすいか、物質として安定しやすいか。そして、その破片が重力にひかれて地面に落ちるときに、もっとも安定した、ポテンシャルの少ない状態になる。「安定」あるいは「面積」とその数がベキ分布するようだ。
  • 雪片の結晶は、まさに分子が空間において場所を占めようとしあうことが結晶の形を決める。空間内での占める空間が最大の生態学的地位と考えられまいか?
  • スケジュール管理における「大きな石」の存在は、その課題ひとつひとつが要求しあう「時間」の配分という問題だと考えられる。
  • フラクタル図形はこうした「空間を占める」、「エネルギーを分配し(奪い)合う」、ということの幾何学的な表現だと解釈することは可能であろう。
  • ほんとうにまだまだ仮説の域をでない。GDP、SNAの宿題も残したままで気になっているのだが、またひとつ宿題を増やしてしまった。

    ■注

    *1
    冒頭の↑の写真は著作権にふれないために本書にのっているのとは別の写真を使っている。

    *2
    なぜ急速に同じようなことを書く人が増えているんだろ?不思議すぎる。やはり、ブログ、ネットワークで書くということ自体が自己組織化なのではないだろうか?

  • Complex network解明の鍵となる!? by soreyukeさん

  • (元論文:""self-similarity of complex networks"(Nature, 433: 392, 2005)"

    *3
    ここで「生態学的な地位」とは、「存続しつづけるあるネットワークが存在するとき、全体を構成する個々のノードがネットワークの中で占める独自のトポロジー関係」と仮に作業仮説をたてておく。

    ■参照リンク
    経済物理学について by kinoさん
    衝撃破壊の統計則 (WEB版) by 早川美徳さん
    だいぶこなれてきた経済物理学の啓蒙書 by 俊(とし) さん
    経済物理学の発見[読書] by Nautilusさん

    |

    « 少子化の裏側にあるもの where we are going? | トップページ | 分子発生学はネットワークの夢を見るか? Molecular Developmental Biology and Power Law Distribution »

    コメント

    はじめまして,kazと申します.
    ご存知かもしれませんが,最新号のnatureに"self-similarity of complex networks"(Nature, 433: 392, 2005)が発表されています.現実のネットワークがフラクタルであることを示している内容です.ただ,次数分布P(k)のべき乗分布はネットワークにおけるフラクタル性の十分条件ではないようです.もちろん粗視化の手法によって変化するものですが・・・.著者らはbox-counting法を採用しています.

    投稿: kaz | 2005年2月 3日 (木) 14時19分

    kazさん、はじめまして、こんばんわ、

    あのURLだけ書いていたので失礼いたしましたが、*3のところで書いたPDF文書につながるURLはまさにこの論文へのリンクでした。Giraudさんがアブストラクトを和訳してくださっていました。

    http://giraud.way-nifty.com/lune/

    投稿: ひでき | 2005年2月 3日 (木) 17時41分

    ひできさん、こんにちは。

    あー、あの和訳はですね、nature誌のfree subscribeで閲覧できる分のコピペです(本文は有料)。
    http://www.natureasia.com/japan/
    こちらから登録できます。

    あるいは、ネイチャー・ジャパンのnewsfeedのRSS(日本語ハイライト)をとりあえず購読してみるのもいいかもしれません。

    投稿: Giraud | 2005年2月 3日 (木) 18時10分

    あいやー!そーなんですか!

    Giraudさんの英語力のすばらしさに酔いしれておりました(笑)。

    投稿: ひでき | 2005年2月 3日 (木) 18時13分

    トラックバックありがとうございました.べき分布は平均値が発散してしまう厄介な分布なのですが,フラクタルとか自己相似性にとっては基本的な分布です.私が説明するときには「どんな倍率で見ても世の中が同じように見える」と言うことにしています.

    投稿: 俊(とし) | 2005年2月24日 (木) 22時07分

    俊(とし) さん、こんにちわ、

    ほんとうに私は基礎がわかっていないので、ちゃんともっとベースにある分布などの議論から勉強したいと思っております。

    いま、乱数で一様分布と正規分布の式をつかった分布のグラフを書いてみたりしています。同じようにベキ分布する乱数を発生させる式を探しているのですが、見つかりません。

    またいろいろ教えてください。よろしくお願いいたします。

    投稿: ひでき | 2005年2月26日 (土) 15時07分

    この記事へのコメントは終了しました。

    トラックバック


    この記事へのトラックバック一覧です: 岩石破壊試験からの発想 scale-free-network is fractale:

    » ネットワーク論に関する雑談!!3 [ゴールドマインの日記]
    ある日気づいた。ベキ乗則は「ナチュラルだ」と。 作為が感じられない。その意味ですごくナチュラルだ。それでいて秩序が形成されている。 「作為なき均衡」それは「... [続きを読む]

    受信: 2005年2月 9日 (水) 21時14分

    » 2nd econophysics seminar [nadja in wbo]
    5/19(14:00~)東工大経済物理学セミナーin大岡山キャンパス 百年記念館2F 詳しいアナウンスはこちらです。僕も参加(聴講)します。 [続きを読む]

    受信: 2005年5月 8日 (日) 18時40分

    « 少子化の裏側にあるもの where we are going? | トップページ | 分子発生学はネットワークの夢を見るか? Molecular Developmental Biology and Power Law Distribution »