[ゲストブログ] 物理界隈から見たべき分布と相転移 A Physician's View on Power-Law and Phase Transition
なんかとてもうれしいコメントをいただいたので、最近流行の(?)のゲストブログに無理やりしてしまう。kinoさんは、物理の院生の方で複雑系関係の研究をされている方らしい。経済物理学に対するコメントを記事にされていたりして、こういう方とやりとりさせていただけることが本当にうれしい。
初めまして。いきなりいきます。
ベキ分布は物理の世界では「相転移」と呼ばれる現象に特徴的に現れるものです。例えば鉄だと1043℃でいきなり磁石にくっつかなくなります。この現象を相転移といって物理では「イジングモデル」と呼ばれるおもちゃモデルで詳しく調べられました。また、相転移する温度を臨界点(臨界温度、あるいは転移点)といいます。
そういう相転移の研究を通して、臨界点付近において比熱や帯磁率がベキ分布する事がわかりました。さらに、「そのベキ指数がモデルの詳細に依らない」事が分かったのです。
この最後の部分は特に重要です。もし、ある現象に現れる性質が単純なモデルの詳細に依らず決まるのであれば、その現象の本質はその単純なモデルにあることになります。
通常、物理ではこのベキ指数を「Universalな量」と呼びます。かっこいいですね。
さて、この臨界点付近を調べる方法にくり込み群の方法があります。これは、要するに大事な事を見落とさずに、現象を引いて眺める事に対応します。実はこの手法を数学者が用いカオスに現れる特徴的な量である、ファイゲンバウム定数を導く事に成功しました(ちなみにくり込みの手法を理解するためにファイゲンバウム定数を導く事はいい例題になります)。ここまでは既に教科書になってます。
次に、時系列上のベキ分布の例としては株価が有名です。これについてはご存知の高安さんが「拡張されたランジュバン方程式」と言うものを提案してます。これは非常に単純な方程式なんですが、ベキ分布を作る事が知られてます(多分、時系列のベキを生み出す最も単純な方程式だと思います)。ただし、どうしてベキになるのかなどはちゃんと分かってません。
そして最後の例がいわゆるスケールフリーネットワークです。これは釈迦に説法ですね。
物理学者がベキ分布に注目する場合、頭の中には必ず「臨界現象→Universalな量」という流れがあります。だから、ベキなら何でもいいんじゃなくて「ベキ指数が系の詳細に依らないのか」という視点は凄く大事になります。
一応、物理界隈ではこのような背景があります。
ちなみに、物理内では経済物理やネットワークの研究は複雑系として知られており、有力な物理学者の中には眉唾物だと思ってる人もいます。
僕はどんどん挑戦すべきだと思ってますが。
長文失礼しました。
高安さんのご本を読ませていただいて、すでに物理学では前提になっている部分がわからずにいた。kinoさんのコメントにより大分明確になったように思う。ちなみにいくつか初出の言葉があるので、調べてみた。
最近、アカデミックな方をHPOの「界隈」でもお見かけするようになった。これもブログの深まりのひとつの形なのだろう。こうした方々の参加でブログがより深まりを見せ、あらたな知の在り方のベースとなることを願ってやまない。
ちなみに、転載のご許可をいただいた上で記事にしたことを明らかにしておく。
■注
*1
ちなみに、これらの論文は"Physical Review"の購読者のみしか読めない。残念!
*2
この論文の最後の方で「くりこみ」というものの見方と現象論について書かれている。実に興味深い。
・対話、ネットワーク、そしてマッハの原理 (HPO)
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