ジョン・メーナード・スミスの延長 wholism vs reductionism
ジョン・メーナード=スミスによる「還元論者」と「全体論者」の類型的な言葉の分類が面白かった。「分子発生学はネットワークの夢を見るか?」で触れた「生物は体のかたちを自分で決める」の最後の章の話題だ。この政治的な「ラベル」についてのスミス自身の政治的信条がいまいちわからないが、なかなか笑えた。
うーん。自分自身の政治・生態学的地位を考えてしまう。
「ほんとかな?」という感じもあるがとりあえず表にまとめてみた。ユニークだと思うのは、「還元論 vs 全体論」の考えの延長で、政治的な主張と経済学的な主張においてねじれ現象を起こしているというスミスの見解だ。保守陣営はどちらかというと自由主義経済を信奉していると考えられるが、自由主義経済がその基石を置く「見えざる手」という個々のふるまいが社会全体としてはバランスがとれるという考えは実は全体論ではないか?、ということだ。
<主張> | 還元論者 | 全体論者 |
政治 | 右 | 左 |
主義 | 保守 | 革新 |
生物発生 | 制御的過程 | 動的過程 |
発生過程 | HOX遺伝子 | チュリングパターン |
<ねじれ> | → | ← |
経済学 | マルキシズム | アダム・スミス |
経済体制 | 計画経済 | 自由主義経済 |
極小の単位のふるまいから全体的な現象をシュミレーションし、導き出すことを研究手法としてもっている「経済物理学」が、このねじれを解消するのかもしれない。いや、コンピュータの発達や研究手法の革新が両方の主張を止揚(Aufheben)するところまでぜひ行ってほしい。
さてさて、もっと余談に走ってしまうのだが、ほぼ同時期に読んだ「万物理論」にスミスとよく似た台詞が出てくる。案外欧米では、こういう政治的なラベリングというのが日常行われているのだろうか?思わずこらも表にしてしまった。
<主張> | 還元論者 | 全体論者 |
政治的主張 | 自由主義 | 社会主義 |
政治的情緒 | 搾取的 | 共感的 |
統治型 | 中央集権的 | 地方分権的 |
ジェンダー | 男性中心主義 | フェミニズム |
東西 | 西洋的 | 東洋的 |
脳 | 左脳 | 右脳 |
いうまでもないかもしれないが、いずれも過激な主張を持つ登場人物から保守的な主張を持つ人々への悪意をもったセリフで出てきた言葉の群れだ。
そして、これをもしネットの世界へ応用するとどうなるか、ちょっと考えてみた。いまいちプログラミング関係の用語に明るくないので、言葉が稚拙になってしまった。もっとよい言葉をご存知の方がいらっしゃればぜひ教えてほしい。とくに「?」付きの部分は自信がない。
<主張> | 還元論者 | 全体論者 |
プロセス | 制御型 | 自己組織化 |
プログラム | 構文志向 | 動的システム |
LANトポロジー | スター型 | リング型? |
ネット | 階層型 | ニューラルネット |
インターネット | クライアントサーバ | P2P型、分散処理型 |
ダイナミズム | 要素の働き | 相互作用 |
分布 | 画一的(正規分布) | 多様性(べき分布) |
このほかにも同様に「独占的 vs 共生的」とか、「産業志向 vs エコロジー」とかいろいろな対になる政治的な含意のある言葉の対立が見つかりそうな気がする。まあ、常に言葉は先走ってしまうので、あまりこうした分類に意味があるか、摩擦のある状況に油をそそぐだけなのか、少々判断を迷うところではある。
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