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2005年2月 6日 (日)

分子発生学はネットワークの夢を見るか? Molecular Developmental Biology and Power Law Distribution

前の記事のネタであった「エコノフィジックス」といっしょにamazonからとどいたジョン・メーナード・スミスの「生物は体のかたちを自分で決める」を読んで、生物学においてもネットワーク的な思考が大事になってきていることを知った。いや、正確に言えば複雑系という言葉を著者のジョン・メーナード=スミスは使っていたが。

本書は、最新の発生学と進化論の成果を縦横に論じた好著だ。まあ、ただ訳者の竹内久美子女史も嘆いておられるように、少々論理に飛躍があるような気がする。専門家ならこのギャップについていけるのかもしれないが、生物学など高校生以来触れていない私には少々ついていけないところがあった。

それでも、素人なりにこの本を整理すると以下のポイントになるのではないだろうか?

1.遺伝子の情報のいくつかは、一定の条件の下でスイッチが入り発現する。

2.生物をまたがったスモールアイ遺伝子(参照)、HOX遺伝子(参照)の共通性が示すように、遺伝子の中にはプログラムの制御文のように、一定の順番で発現していくことを促す力を持つものが存在する(たとえばネズミとショウジョウバエで共通らしい)。

3.発現した遺伝子が一定の条件を作り(たとえば、発生していくときのカルシウム濃度)、その条件がまた別の遺伝子のスイッチを入れるという非線形の過程が存在する。

分子生物学の考え方でいくと、この3つの条件の相互作用により発生のかなりの部分を説明できるという主張になると私は理解した。たとえば、本書で議論されているように魚の体表の模様はHOX遺伝子の順番でスイッチが入り分化をはじめ、発生の過程で生じるなんらかの物質の濃度のようなもので縞模様を作る遺伝子のスイッチが入り、またそのスイッチが入った遺伝子が別の「条件」をつくり、その先の構造、体表の模様などのを決めていくという過程が想像できる。そのほか、遺伝子や分子の発言にかかわるクラスター性についても言及があった(参照)。

バラバシは「新ネットワーク思考」において、体内のアミノ酸分子などの相互作用をネットワークとしてとらえ、結合する分子同士をリンクと考えたとき、その結合の組み合わせがベキ分布になるということとを書いていた。発生の過程での発現する遺伝子の分布などもベキ分布と関連づけて考えられることが予想される気がする。最近、私のブログのまわりに生物学、医学にお詳しい方をお見かけするので、ぜひご意見を伺いたい。

■参照
それゆけBioinformatics - genome informatics category  by Soreyukeさん
ランダムウォークとか、ブラウン運動とか、分布のグラフとかみていると。ほとんどメタフィジックスで扱っている技法と一緒なんですね。ネットワーク分析でもほぼ同様の手法が使えそうな気がします。
喪失と獲得―進化心理学から見た心と体 by 橋本大也さん
XMLの文体と新しい社会契約論:(5)チューリングとXMLの関係について by 鈴木健さん
チューリングの斑点 by tnomuraさん

■追記

池田先生のシュレディンガーの話につられてトラバさせていただく。シュレディンガーと同様チューリングも数理的に生物の一側面を予言しているという話。そして、例によって安冨先生によればチューリングとポラニーはよい友人であったというのも示唆される。

生命とは何か @ 池信夫 blog

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コメント

ひできさん、こんにちは。
このエントリは上梓された時から何度も拝見していたのですが、なかなかコメントできませんでした。申し訳ありません。

>発生の過程での発言する遺伝子の分布などもベキ分布と関連づけて考えられる

成る程。最近実地の研究でも各要素を包括的に捉えて分析する、プロテオミクスなどと呼ばれる網羅的解析が勢力を拡大してきているのですが、そちらに適用してみるのも面白いと思います。そちらの分野はよく見ていないので、既に誰かがやっている気もしますが。

後余談ですが、竹内女史が論理飛躍を語るのは少々お笑いだよ、とだけはいわせて頂きたく思います(笑)。

投稿: Giraud | 2005年2月16日 (水) 12時45分

Giraudさん、おはようございます、

コメントありがとうございます。また、別の記事で勝手リンクを張らせていただきました。恐縮です。

そーなんですか!面白そうですね。この辺になるのですか?

http://www.cmcbooks.co.jp/books/cmcbooks/b669.html

をを!しかも田中耕一さん!ちと納得しました。

>後余談ですが、竹内女史が論理飛躍を語るのは少々お笑いだよ、とだけはいわせて頂きたく思います(笑)。

(爆)

投稿: ひでき | 2005年2月17日 (木) 09時53分

ひできさん、こんにちは。最近はホメオボックスといって遺伝子発現を制御する遺伝子群が見つかっているようです。
この本の内容は分かりませんが、従来の分子生物学の手法とはかなり違った手法を使っているのでしょうか?つまり個々の遺伝子の働きを分析するよりもネットワークのあり方そのものを研究しているような方向性ですか?

投稿: ykenko1 | 2005年6月 5日 (日) 21時51分

ykenko1さん、こんばんは、

あ、いえ、この本自体は決してネットワークのあり方うんぬんという内容ではありません。むしろ、ご指摘のホメオボックスなどについてのお話です。しかし、スミスさんのチューリング波などの捉え方とネットワーク論とはかなり共通のものがあります。事実、スモールワールドネットワークで有名なストロガッツさんの最近の著作、「SYNC」ではかなり明確にチューリング波について触れられています。

http://hidekih.cocolog-nifty.com/hpo/2005/05/sync_d3a1.html

ここ最近、実は生物学関係の方でネットワーク、複雑系への興味をもってらっしゃる方とお会いする機会が増えています。なんというか、生物学すらもその射程内に複雑系、ネットワーク論は捕らえているようですね。

http://hidekih.cocolog-nifty.com/hpo/2005/05/sns__194e.html

投稿: ひでき | 2005年6月 5日 (日) 22時01分

今、アマゾンの書評を読んだところ、遺伝子による指令と自己組織化と両方の観点の重要性を指摘しているようですね。このあたりは金子氏と似ています。ただ金子氏の場合むしろ自己組織化のメカニズムを重視していて、そちらの方から遺伝子の仕組みもできあがってくることを説明しようとしてますね。

投稿: ykenko1 | 2005年6月 5日 (日) 22時56分

ykenko1さん、おはようございます、

とても興味深いです。遺伝子の生成にも自己組織化のメカニズムがあるということですね。最近、いろいろなところで複雑系で特徴的なべき分布が見られるのだと聞くにおよび、根本的にそれらに共通するなにかの特徴というか、原理があるのか、とか考えています。まあ多分、トンデモな思考なのかもしれませんが...

http://hidekih.cocolog-nifty.com/hpo/2005/02/_scalefreenetwo.html

最近、べき乗ナイトでのタダシさんの発表を聞いてから「生成と死滅」ということが頭から離れません。

投稿: ひでき | 2005年6月 6日 (月) 06時13分

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  金子氏の著書の中で遺伝子型と表現型に関する新しい見方が提示され、これがまた既成概念を突き崩すものである。   まずは従来の生物学における遺伝子型と表現型に関する考え方を振り返れば、遺伝子の設計図に基づいて表現型が決定されるということ、表現型の変化が遺伝子型の変化をもたらすことはなく、遺伝子型の変化は子孫に伝えられるが表現型の変化は子孫には伝えられない、遺伝子の突然変異によって進化がもたらされる、というのが主な考え方である。この考え方では情報の流れは遺伝子型から表現型へ、という一方向の矢印が強調... [続きを読む]

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