歩いて、車で、スプートニクで spiral
指定BGM:ANIMAL INDEX by moon riders
なんかちょっと欝らしい。まあ、それも大体原因はわかっている。先へ、先へ進もう、ともかく自分の行けるかぎりのところまで。
そう、人と人の作り出す世の中はは相互作用でできているのだと感じた。どうしようもなく人は因と縁でできている。ここからぬけだすことはできない。そんな軽い失望感にとらわれている。
このところ、ブログ界隈で生じている「記者ブログ炎上」ということはどういうことなのだろうかと考えていた。
・また記者ブログが炎上したわけだが by Giraudさん
多少、切込隊長さんが着火したという話はあるものの、誰かがリーダーシップを発揮するということなくブログを閉鎖に追い込むほどのコメントや、アクセスや、身元の特定があっというまに生じるという現象が起こったという事実がここにある。*1
これは、いったいどういうことなのだろうか?
私は、奇形化した創発性民主主義の発現がここにみられるのではないかと考えている。
まず、創発かどうかという点だが、今回の炎上事件のように、多数のノードが一定の方向を一気に向くということは、たとえば座屈点近くまでの力が加わった石にほんのちょっとだけ力を加えれば破壊してしまうように、潜在的に大きな力が内包されていたブログ界隈に崩壊点に導くひずみがはしったということではないだろうか?*2
また、切込隊長さんという人格とそのサイトは、とてつもないアクセスとリンクを集めるスーパーハブであることは明確であろう。そして、炎上したブログなどにコメントをよせた方々は、(ほんとうに気分を悪くしないでいただきたいのだが)べき分布の長い長いすその先の方に存在するのではないだろうか?(私もすその先の先に存在していると自覚しています。切腹!)
ただ、「炎上」が創発的な現象であったとしても残念ながら「創発性民主主義」を書かれたJOIさんが想定されていたのは「民主主義」というタイトル通りこうした力が例えば政治やグローバルな問題といったブログ界隈の外の問題に向かうことであっただろう。*3
しかし、オストラシズムに代表されるように、あるいは現在の民族間、国家間の世界的な闘争にみられるように、実は民主主義の裏側にあるのは自分と価値観をともにしないノード、構成員を排除することによって実現する社会、コミュニティーの安定だとはいえないだろうか?
ここで、創発という現象と排除という力を考えるとき、どうしても生物の発生との類型を見てしまう。分子発生学では、制御プログラム的な遺伝子の発現と、発現がもたらすカルシウム濃度のような発生の場が生じることにより、また次の発現へと導かれるような相互作用、非線形な関係でなりたっているという。社会が成立するのも同様の過程をもっているのではないか?政治とか思想という未来を制御しようとする力と、社会の構成員が予想あるいは期待することにより生じる場との相互作用で、現実がすすんでいくのではないだろうか?ブログ界隈ではとくに濃密にこの相互作用が働いているような気がしてならない。あるいは、この力を自己組織化といってもよいのだろう。
・分子発生学はネットワークの夢を見るか? (HPO)
もし分子生物学とのアナロジーが許されるとすれば、多細胞生物において細胞の自己死というアポトーシスが存在するように一定の秩序、一定のコミュニティーが存在するためには、一部の構成要素の死滅、排除というプロセスがその裏面に必ず存在するということを指摘したい。生命が一定の秩序を意味するのなら、生命の本質にはある単位の死滅、排除が必ず含まれるということだ。
・死もまた生に必要 -計画細胞死- by 猪原直弘さん
では、なにを結論とすればいいのか?私がここで主張したいのは、一般的な言葉で言ってしまえば、いくつかの力の相互作用により生まれる動的で非線形な過程というのは、螺旋形に進んでいくのではないだろうかということだ。それは、生と死、右と左、全体と個、強さと弱さ、大と小という両極を往復しながら、現実が進んでいくということだ。非常に大雑把な言い方しかできないことを深く恥じいるが、ただそう感じる。
最後にもっと具体的な結論も引き出しておきたい。それは、生命やネットワークにとって不可欠のことだから、今回のような「排除」という事態においてなにもしなくていいのか?ということだ。近代民主主義社会の出発点であるフランス革命において「自由、平等、博愛」が謳われていたにもかかわらず、いつしかこの三番目の要素が欠落して法治主義が徹底していったように、ブログ界隈における共感性、コミュニティー性が失われていった先にあるのは、法による支配だと考える。
我田引水のそしりをうけるのは承知で、自分がもし自分を守ることにだけ執着するとしたら、こういうポリシーをかかげるであろうと思いwikiにしたものを掲げる。ただし、私は現実に私のブログにこうしたポリシーをはらなければならない事態がもたらされるのであれば、それは本当に悲しいことだと思う。
・Uniform Network Code for Blog Policy
しかし、これも一過性のことでまた必ず次の螺旋は生まれる、次の共感性をもったコミュニティーは生まれる、そして、排除される要素もきっと生まれる。
まあ、若干ストレンジアトラクターが生じそうな予感がしてはいるがこれはまた別な話。
あはは、いまANIMAL INDEXのジャケットの裏がアンモナイトだって気がついた。なんでこのタイトルにしたかやっと自覚!
■注
*1
一方、米国ではブログの力がCNNの一部門の責任者を辞任に追い込むということまで生じているという。こういう名実ともにそなわった創発現象を目にすると日本語のブログで起こっていることはまだまだコップの中の嵐だという感じがする。残念!
・CNNニュース責任者、「ブログ」の追及受け辞任 @ Yahooニュース
*2
岩石の破壊というのは、実は創発的な現象であり、その結果として生まれる大小の石の破片の多きさとその数の分布もベキ分布する。
・岩石破壊試験からの発想 (HPO)
*3
ここで、JOIさんのもともとの含意はなんであったかを考えるのに慎重にならなければならない。私自身は「民主主義」あるいは「democracy」とは、お互いを生かしあう思想だとは感じている。
・[blog] Life and the Democracy (HPO:Blogdrive)
JOIさんは、「創発性民主主義」で以下のように述べられている。
ネットワークがより開かれて複雑になるにつれて、その成員を処罰する能力と未知の参加者を排除する能力に依拠している閉じたネットワークは、成長がはなはだ窮屈になっていく。ここから、推察するかぎりJOIさんは私が展開したようなオストラシズムを創発性民主主義とは決して認めないであろう。
■追記 平成17年2月17日
考えてみると「歩いて、車で、スプートニクで」では、「螺旋」にいたる前のステップがひとつぬけていることにきがついた。
指摘したかったのは、穏やかに成長し発現して外に向かうはずだった日本語のブログ界隈における「創発性民主主義」が内部化、過激化してまった動きが今回の「炎上」ではないかということだった。繰り返しになるが、この仮説が正しければ確実にblogでなく日本語のブログ界隈は奇形化しているといわざるをえない。
ただリベラルな方は眉をひそめる話であるが、今回の一連の動きが非常に生物的、創発的であるといえるのは、現在の日本のブログ界隈およびその背景の持つおおきなひずみの力が「異物」を排除する方向ですすんでいるといことだ。私は私の価値観を投影しているつもりはないのだが、「炎上」を通して、ブログ界隈の方達の主張がある程度明確になったのではないか?と感じている。それは、決して肯定的な主張でなく、「NO!」をつきつけることによる否定的な主張ではあったが。ただ、これがmiyalodaさんのおっしゃるようなごく小人数の企図した人格によるマイクロテロリズムである可能性を私は否定出来る根拠を持たない。
ここで働いている分裂したいくつかの力の合成力としてブログ界隈が同じようなことを繰り返しながら、両極にふれながら、さきへさきへ動いているような気がしてならない。
こうして[螺旋」のイメージへと続く。
■参照リンク
・「言説のフォーマット」という権力とそれにともなう責任 by essaさん via miyakodaさん
・ネット右翼だって現実社会に戻ればリベラルでしょうが by R30さん ほんとうにうまい文章です。こういう文章をネットであげてくださっていることにありがとうともうしあげたいです!
・論壇系ブログの方法分析:「カルト形成型」か「リンク・ハブ型」か by むなぐるまさん
・ジョン・メーナード・スミスの延長 (HPO)
・「記者ブログ炎上」に対する2つの視点 by m_um_uさん
・身勝手なマニフェスト by charlieさん
・サイバーカスケード @ ised
・The eyes of truth are always watching you. by :://naoki/.さん
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コメント
>JOIさんは私が展開したようなオストラシズムを>創発性民主主義とは決して認めないであろう
彼はとてもリベラルな人なので、2chで個人情報さらしをするまでに至る動きを「創発性民主主義」とか、それに連なるものとは絶対に呼ばないだろうと思います。単なるmobってことになるんではないかなー。
投稿: miyakoda | 2005年2月16日 (水) 11時07分
miyakodaさん、おはようございます、
痛いです。
おっしゃるとおりだと思います。やはり、こういうことに対して自分の立ち位置をきちんときめずに記事を書くという自分のおろかさを感じます。
ただ、やはり技術とかベース、水準、有効性をどこにとるかという問題はあるにせよ、やはりあの時あの場でJOIさんとつながった方々の資質によって「創発性民主主義」というすばらしいペーパーができたのだと思います。ですから、きっとその発現があるとすれば、やはりそれにふさわしい方々の集団であるからこそ、方向性が出てくるのかもしれません。
と、考えると実はオストラシズム的あるいは強いプルの力があってこそ、初めて創発民主主義が成立しうるという結論がうっすら見えてくる気がします。
私は、非常に危険な主張をしているのかもしれません。ひとつまちがえば全体主義的に聞こえそうですよね。慎重に、慎重に考えます。
投稿: ひでき | 2005年2月17日 (木) 09時58分
きつい書き方に見えたらほんとうに申し訳ないです。いろいろ考えてみたんですが、アメリカ西海岸系/どちらかというと民主党系の、実名で出ているのが普通な人同士、フレンドリーで楽天的な文化を背景にして創発性民主主義のコンセプトが固まってきたんではないか、という感じがしました。
でも、匿名が基本で、どちらかというとネットウヨとも言われてしまいかねない政治的雰囲気を基調に持ち、あまりフレンドリーではない、冷笑的な文化を背景にして、どういう主義が出てくるんだろうか…。
という私自身のとらえ方自体が、ちょっとシニカルに過ぎるのではありますが。
投稿: miyakoda | 2005年2月17日 (木) 10時36分
http://amrita.s14.xrea.com/d/?date=20050217#p01
「圈外からのひとこと」さんが、2chからの題材で、
政治でのネットの利用を「カルト形成型」と「リンク・ハブ型」に分けて論じている
という話。アメリカの場合と比較すると、日本は逆、みたいな。おもしろかったのでご紹介します。
投稿: miyakoda | 2005年2月17日 (木) 15時56分
miyakodaさん、こんにちわ、
大変遅いレスをお許しください。
なんというか「リベラル」という言葉にまどわされています。多くの方にお助けもいただいて、ネットをさまよい歩いたあげくに今感じているのは、日本では米国のようなリベラリズムは存在していないのでは?ということです。アカデミックな議論の上では存在するのかもしれません。しかし、具体的な政治的な主張として「右より」、「左より」、「保守」、時代にとりのこされつつある「革新」といってクリシェは存在するかもしれません、数は少なくともこれらの言葉を体現する人物は存在するかもしれません。しかし...「リベラル」はどうでしょうか?
まあ、なんといっても永年の与党が「Liberal Democratic Party」と名乗っている国ですから、なにがリベラルなのか非常に不分明にしておくしかないのかもしれませんね。
http://www.jimin.jp/jimin/english
投稿: ひでき | 2005年2月23日 (水) 16時51分
ひできさん
ご無沙汰しています。
最近時間があるときに思うのは「自由」と「責任」のシステムについてです。個人的には創発=自由と思っていますので。社会系の文章では昔から多く書かれてあると思いますが考察中です。
そういえば、もう読まれたかもしれませんがなかなかよかったので紹介します。これの次の記事に繋がるかもしれません。歴史を物理学で考えようというような野望(?笑)が述べられてて面白かったです。以下
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4152085282/250-6852726-8012217
投稿: kinjo | 2005年3月 3日 (木) 05時11分
kinjoさん、こんにちわ、
私も同じように感じます。なんというか本来的な意味での「予定調和説」みたいに、自分が自分の想いのままに行動することがそもそも神の意思の表現なのだ、みたいな感じでしょうか?
http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CD%BD%C4%EA%C4%B4%CF%C2
ちなみに、ライプニッツのモナド論に影響を受けて、認知心理学的な思考のメカニズムを考え始めたのが、そもそもネットワーク思考とかNNなどに興味を持つきっかけでした。
「地震、山火事などの自然現象も、景気循環、都市の発達などの人間の意志が介在する事象も、自然界に遍在する「冪乗則」という、同じ法則に従って起こっている! 物理科学で人間社会の出来事までも読み解く知的探求の書。」
うーん、すごいですね。すごすぎます。べき乗則がそこまで...
投稿: ひでき | 2005年3月 3日 (木) 12時58分