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2005年5月27日 (金)

[書評]ASTERIA実践ガイド


・「ASTERIA実践ガイド」 by 東海林 賢史さん、中川 智史さん、江島 健太郎さん

[A面]ハブとしてのASTERIA

インフォテリアの平野社長から本書をいただいた。とても光栄なことだ。最近、結構ブログ界隈の方から、いろいろなお誘いや仕事からみの依頼をいただいたりする。本当にリアルとブログ界隈がかぶっているというか、相互作用している。純粋にうれしい。

ともあれ、これはきっと自動車が現在の交通システムのハブであるように、ASTERIAはさまざまなソフト環境のハブを目指したものなのだと実感した。

バラバシの「新ネットワーク思考」によれば生化学の分野でさまざまな種類のたんぱく質があるのだそうだ。この中で多くの種類のたんぱく質と化合することができて、生化学的にほかの種類をつなぐハブとして機能を果たしてたんぱく質があるという。

新ネットワーク思考 by バラバシ

たとえば、電車や、飛行機や、船などさまざまな手段が、現在の交通体系の中にある中で、すべてをつないでいるのはトラックなり、乗用車なりの自動車だ。このことは、ハブをとりさるとネットがばらばらになってしまうように、現代の生活において自動車がなくなってしまったことを想像してみれば、いかに生活がばらばらになってしまうかがわかるだろう。

本書を読ませていただいて、データを流れとしてとらえれば、確かにメールであろうと、XMLであろうと、さまざまなデータベースであろうと、プログラムを書かないでも加工することは十分に可能なのだと実感した。要はリンクの問題なのだ。この場合は、さまざまな構造体を持つデータをリンクとし、メールソフトや、データベースマネジメントシステム、表計算、などのソフトウェアをノードと考えるべきだ。この前、「ニューロマンサー」を読んだばかりなので、データの流れがほんとうに目に見えたら楽しいかなとか、思いながら読了させていただいた。

ニューロマンサー by ウィリアム ギブスン

[B面]4GLとASTERIA

5、6年前からだろうか、リアルである長いお付き合いをさせていただいているK先生と、なんどかこういう会話を交わしていた。ちなみに、この方は私よりかなり年上だ。

「いやぁね、ひでき君、とにかくプログラムいらないんだよ。記号を並べていくだけで、データが加工できちゃうんだ。データもね、どんな形だっていいんだってさ。そりゃ、多少の業務分析は必要だけどね。全部自分でできちゃうじゃない。これからプログラマーいらなくなっちゃうくらいすごいよ。データも線でつなぐだけ、定義するだけでコンピューターが適当にやってくれるんだ。いや、いまはほんと秘密なんだけど、かなり開発がすすんでるんだよ。あなたのところで、テストしてみない?」

「いやぁ、とても興味があります!」

と、言ってにっこりしながら、内心こう思っていた。

そんな、理想的なソフトがあるわけない。

私には、以前プログラムレス・プログラム、第四世代言語というのに、いやというほどかかわった時期があった。もう15年も前のことだ。当時、私は総務系の部署で知る人ぞ知る「mapper」というソフトを使っていた。大量のデータを、定型的に処理しなければならない部署だったため、毎夜毎夜かなりの時間を「第四世代言語」、「プログラムレスプログラム」と呼ばれる、いまは吸収されてしまった会社の端末の前ですごしていた。当時は当然CUI(キャラクターユーザインターフェース)しかない。なにができるか画面にぜんぜんでてこないので、コマンドもいちいと覚えないと使えない。プログラムレスといいながら、かなりわかりにくいスクリプトを書かないと、肝心なところで処理出来ない。この辺にうんざりして、あるマック・エバンジェリストな課長と共謀して、GUIベースのマッキントッシュ上の4thDimensionというソフトに乗り換えてしまった。

なんていってもマックだし、GUIだし、オブジェクトだし、なかなかのりのよい環境だった。かなり夢中になって、当時はやりかけていた部門コンピューティング(え、死語?)を実現させた。さすがにコードの難しい部分半分はプロにお願いしてしまったが、日常で変化せざるを得ない部分は自分でコーディングした。楽しくも、エキサイティングな体験だった。それでも、コードが必要だという部分がネックだった。mapperよりも一歩後退したといっていい。事実、私が退職してしまってからは、外部の専門家を使わざるを得なかったらしい。

その時の体験から言えば、ASTERIAがこの実践ガイドに書いてあると通りのソフトだとしたら、部門コンピューティングが必要な、あるいはミドルウェアが必要な分野において、非常に威力を発揮するのだろう。ASTERIAがあれば、当時やろうとしていたことのほとんどは、「渋谷単身赴任」といわれるほど、端末の前で、マッキントッシュの前で、残業しなくてもソリューションできてしまっただろう。なによりも、4thDimensionのときには失敗してしまった、次の担当者への引き継ぎも十分にできだだろう。

このソフトの持つ、データの流れのすぐれた抽象化は、非常に理解しやすいと想われる。また、プログラム自体をフロー図として理解できる。たぶん、あとはデータベース側のE-R図が理解できれば、問題はないだろう。

正直、まだ本書をぱらぱらと読んだだけに過ぎない。まだソフトとして使ったわけではない。しかし、自分にとってとてもデジャヴュというか、ああ、こういうのがあったらいいだろうな、と15年以上前に「こうであれば理想だな」と感じていた姿がここにあるように感じる。

と、ここまで書いてみて、まさかくだんのK先生は、インフォテリアと関係がって、K先生が話していたソフトって、ASTERIAのことなんだろうか?という疑惑でいっぱいになってしまった。まさか、そこまで世界は狭くないよねぇ。あとで、K先生に電話して聞いてみよっと!

■追記 平成17年5月30日

K先生にお電話してみたところ、違うソフトのパッケージで、機能も大分違うようです。やっぱり、「そこまで世界はせまくない」ようです(笑)。

■参照リンク
ASTERIAの本が完成した! by pinaさん
『ASTERIA実践ガイド』の発刊にあたって by 江島 健太郎さん

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2005年5月25日 (水)

相互作用:シグナル、チューリング波、カスケード

ここのところ、ブログ界隈にあって非常に刺激的な邂逅を連続して経験した。

「お金であること」を保証するもの(後編) by 馬車馬さん

ネットワーク分析@朝から勉強中 @ FIFTH EDITION

ブログの終わりじゃなくて、アルファブロガーの終わりでしょ(笑) by catfrogさん 

できる限り順番に自分が理解しえた、明確にし得たと感じることを書きたい。ちょっと大くくりすぎるのだが、「相互作用」がキーワードだと感じている。

まずは、先日の馬車馬さんの認知通貨についてコメントだ。ここで、認知通貨がシグナルに過ぎないという指摘をいただいた。シグナルという言葉は、「SYNC」などでとりあげられていた同期現象と深く結びついた概念だと思う。

馬車馬さんは、見事にノードとノードのやりとりの過程における「効用」の授受と「シグナル」という概念を分けてくださった。多分経済的な効用の伴わない、かつ、限定された範囲のシグナルのやりとりだけでは、同期現象の制御が難しい。私の「蛍の光」シュミレーションのように、現実の世界でもシグナルのやりとりだけでは、きっと創発的な現象はうまれにくい。どうしても、「蛍」の集合内のノード全体に伝わるシグナルが必要なようだ。 いや、もっといえばどうも同期現象や、多分創発現象では、シグナルの届く範囲というのが非常に重要らしい。この辺がブログやSNSのネットワークにおける情報伝達が及ぼす影響と、メディアの及ぼす影響の差らしいと、あまりに常識的なことだがシュミレーションまで作ってみて、やっと実感した。ただいま、ActiveBasicからPythonに乗り換えるお勉強中。

一方、「SYNC」のBZスープの交互に現れる色の「波」や、分子生物学で検証のトライアルが行われている「遺伝子の発現→化学物質的環境の生成→次の遺伝子の発現」のような、相互作用的なサイクルにおいては、「経済的効用」ではないが、なんらかのポテンシャルな実質的な値のやりとりが確かに存在するように感じる。

分子発生学はネットワークの夢を見るか? (HPO)

もしかすると、ほんとうに経済学の問題とする「与える側の負担」があるかないか、実質的な価値(なりポテンシャル)の交換、贈与がとてもモデル形成において大事なのかもしれない。

一応、自分のシュミレーションでも、「自分の値を減らして、人に与える」ということと、この「効用」の交換というプロセスに多少のインフレーションを仮定してやると、見事な山ができた。創発的な現象といってもいいのかもしれない。

インフレーションの形 (HPO)

そして、この視点に立ったとき、チューリング波がそうであるように、カスケード現象こそ「相互作用」の結果として生じる「波」であるような気がしてならない。

もし、この予測が正しいと仮定すれば、サイバーカスケードは、雪崩というよりも津波に近い過程、内部構造によって生じるということになるのではないだろうか?電磁波について物理の時間に習ってから、私は「波」というのは必ず相互作用によって伝播しくいくものだと信じている。電波とは、連続する電気の振動と時期の振動の相互作用なのだ。

本当に光は波の仲間なの? @ 財団法人 光産業技術振興協会

この電波のアナロジーでいば、サイバーカスケードにおいては、ネットワークにおけるリンクという伝播経路(トポロジー)と、リアルにおけるシグナルのもたらすインパクトがあって、それぞれの「振動」が起り、それらの相互作用があるのではないかと感じている。まだ、この構造がよくわかっていない...

ここで、ちょっと視線を話すと、サイバーカスケードや同期現象が起る、集合全体が目に入ってくる。「山」も「波」も、最終的には集合のうちにいくつノードが存在するかということで、その「高さ」の限界が決まってくる。つまりは、catfrogさんの「Dog eat dog.」の言葉につながる。つまり、このような資本主義的創発現象がかりに起って、べき乗則的な集中が生じたとしても、そこでは食い合いのプロセスが常に働いて、かつ裾野の広さが山の高さを決めるということだ。ついでに、「負け犬」という概念まで明確にしてくださった。

「負け犬の遠吠え」 (HPO)

また、例のインフレ・シュミレーションでも、常に食い合いのプロセスが進行しながら、ひとつの安定した形を生み出していることをわすれてはならない。この辺は、ナウシカ関連で書いたこととつながるかもしれない...と、想ったらなんと食い合いについて書いたのは、複雑ネットワークやべき乗に合うはるか前だ!びっくり!!!

距離、時間、そして統治と戦争 (HPO)

ここで、注目すべきなのは、最近の科学的知見によると、ミトコンドリア、染色体を持つ核、細胞質などは、もともと別の生物であったらしい。それが、ごく近くに存在するうちに食べあったり、ライバルであったりするより、一緒になったほうが得だと気付いた(進化した)細胞が生まれたのだという。食い合いから、共存への進化がうまれた。これはとても重要だと思う。いくら顕微鏡的な近さであってもあるていど離れた距離で存在しているときは、食べる=食べられる、死ぬ・排出する=取り込まれる、といったどちらかというと対抗的な関係から、個体と個体の距離が近づくことは同化することに変化した、と想像する。

うーん、自分で読んでて懐かしい...やっぱり、私の思考はどうもここへ戻っていってしまう。

平成17年5月26日 あまりにも誤字脱字、スパゲッティーな思考がもろに出ていたので、少々書き直す。あまり、結果的に変化なさそうだが...

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2005年5月21日 (土)

「カトリックはなぜ永続するか」

やっぱり、この本が絶版ということ自体がいまの時代がいかにまがっているかの証明だ。

日本教の社会学
ISBN:4051012611

いますぐ復刊ドットコムへいこう!

絶版本を投票で復刊!

なんというかここのところいだいてきた疑問が溶けていく。あまりに山本七平の射程は現代をとらえている。

shibuya

■参照リンク
カソリックはなぜいまも人をひきつけるのか?  (HPO)

本書に見事に私の求める答えの方向性が示されていたように感じる。

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2005年5月19日 (木)

べき乗則とネット信頼通貨を語る夕べ ~SNSを考える~

また、開催させていただきました。ほんとうにたのしかったぁ!

なんでも続けるもので、「語る夕べ」始まって以来の大入りで30名を超える登録をいただきました。びっくりしました。ご参集いただいた方々、特に立ち見までして下さった方、貴重な貴重な本当に得難いプレゼンいただいた方々、オブザーバー参加いただいた美貌の某X先生、.barの神田さん、.barのスタッフ(お客様だった?)のみなさんほんとうにありがとうございました。

恒例の私の印象!

■ソーシャルネットワークシステム分析 by yujimさんら

いろいろな事情があるので詳しく書けませんが、すごいです。本当に多分世界で初めてのリアルな人間関係を反映した自然生成の巨大ネットワークの全数調査です。もう、クラスター係数も、パス長も、ばりばりです。二部グラフです。ダイナミクスです。縮約です。

yujimさん、まことさん、shibataさん、ユキジさんらの、コラボレーションの成果ですね。って、一応私も少しだけお手伝い(足をひっぱってるだけ?)させていただいています。

まだ、定性調査段階ですが、ここから先をものすごく期待しております。

■FOAFを使ってP2PでSNS by tomoさん

DHT(分散ハッシュテーブル)の技術を使って、SNSをどう実現するかについて発表いただきました。サーバーのないピュアP2Pでも、委託関係というか、分散することにより、SNSを構築可能であることを見事に証明されていらっしゃいました。やはり、ネットの世界においても人と人との信頼性がとても大事なのだなと改めて実感しました。

そうそう、改めて感じたのはハッシュを使うことによりべき乗則的な集中というか、資源の上でのハブを分散することができるというのは、すごいことだと思いました。前からいろいろな方に申し上げているのですが、この技術を使って社内でLANにつながっているPCの余剰資源を使って分散型仮想ファイルサーバーが実現できるんじゃないかなと思っています。どなたか私のような素人でも使えるシステム作ってくれないかなぁ。

↑これってすでに存在しているようです。ただいま情報待ちしてます。

ちなみに、tomoさんから補足の情報をいただいております。

今日のプレゼンはかなり省略しているので、補足です。
P2P-SNSについてもっと詳しい資料は以下にあります。
概要;
http://homepage3.nifty.com/toremoro/p2p/dhtaaa.html
プレゼン資料(pdf)
http://homepage3.nifty.com/toremoro/study/p2pstudy2/Tomo.pdf

P2P-SNSのコア技術のDHT(分散ハッシュテーブル)についての内容もHPに書いてあります。
概要:
http://homepage3.nifty.com/toremoro/p2p/dht1.html
入門編:
http://homepage3.nifty.com/toremoro/p2p/dhtintro1.html

■SNS販売状況とオープンソース開発との関係 by 手嶋守さん

手嶋屋の手島さんから、現在どのような分野でSNSが導入されているかということと、SNSのシステムをオープンソース化されたことについてご報告いただきました。これは結構すごいことだと思われます。前々から下手なグループウェアよりもSNSの方が会社の生産性をあげるのではないかと思っていましたが、これで一気に各社のSNS導入が早まるかもしれません。

■近接学理論 by 神田さん

これはもう私が下手なことをもうしあげるよりも、ずばり「オープンソース化してます」と神田さんがおっしゃった資料へのリンクをおきます。某先生からツッコミありーの、、かなりエキサイティングでした。

http://knn.typepad.com/knn/files/snsw.swf
http://knn.typepad.com/knn/2005/05/sns.html

ちなみに、一応これでも私は実験心理バックグラウンドなので、「近接距離」の話はとても懐かしかったです。

■ベキ分布を作り出すシミュレーション by タダシさん

もう、私大興奮でした。瞬間、タイムキーパー役をやっていることを忘れていました。ご迷惑をおかけしたみなさん、ほんとうに申し訳ございませんでした。

どこまで書いてよいのかわかりませんが、タダシさんは生物系の方なので、ライフゲームみたいなシュミレーションを作ってらして、そのセル(種)の系統樹みたいのを書くと種の系統ごとの残存数がべき乗になるという...しかも、その生成と滅亡による種の数をグラフにとると「波」になることを示しておられました。

もう、タダシさんのプレゼンで複雑ネットワークから、同期現象、ビジネスの栄枯盛衰までひとつの線でつながったように感じました。生成して、死滅すること自体が本質であり、べき乗を生じるのだと。いや、ちょっと自分の感想書きすぎですね。

こちらもタダシさんから補足をいただいています。

報告が遅くなりましたが、14日の私のプレゼンで用いたマルチエージェント・シュミレーターは以下の製品です。
「JAVA KK-MAS」
http://www.kke.co.jp/iit/mas/index.html
大学関係者は今年の10月31日までは無料で使えるようです。
JAVAを用いない旧バーションはこちら。
http://www2.kke.co.jp/mas/

■株価の“ゆらぎ”分析 by ゴールドスロープさん

ゴールドスロープさんとは、実はブログを書き始めてころからのご縁でコメントしあったりしていたのですが、実は研究者でらっしゃってべき乗則と関係の深い「1/fゆらぎ」や社会ネットワーク分析関連の研究をされていることをつい最近知りました。びっくりしましたぁ!

プレゼンをいただいて、1/fゆらぎがまさにべき乗則的にさまざまな波長の波を含むこととか、1/fとはf^-1(周波数のマイナス一乗)だということを知りました。ゆらぎについてほとんど知らなかったのですが、ちょうどSYNCを読了したところでもあり、べき乗則と「波」は関係が深いのだと思いました。また、高安秀樹さんのエージェントが3人以上で株価や為替市場の変動のようなカオス的な現象が生じることと重ねて考えると、実は参加者が多いか少ないかで周波数の「ゆらぎ」が変わってくるのではないかと思いました。

・参照:ゆらぎ研究所 1/fゆらぎとは?


■途中経過 by ひでき

時間切れでプレゼンできなかったのですが、最近いくつかのシュミレーションにはまっているのですが、うまくいっていないので、「HELP!」という中身でした。

http://homepage2.nifty.com/hhirayama/hotaru.pdf

■いんやぁ!

楽しかったです。ほんとうにありがとうございました。なんつうか、一気にいろいろなことがつながったように感じました。私は通常ものすごく地域的な仕事をしています。しかし、「ネット」という非常に適応度の高い媒体があることにより、語る夕べにご参加いただいたすばらしい方々とお会いでき、討議できほんとうにありがたく感じております。

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2005年5月16日 (月)

[書評]大東亜戦争とスターリンの謀略 Conspiracy...

大東亜戦争とスターリンの謀略―戦争と共産主義 by 三田村武夫さん

本書を読んで、つくづく謀略の深さ、革命家の遠慮深謀ということに感じ入ってしまった。以前の記事で触れた第二次大戦の方針決定には、ゾルゲや尾崎ら当時のコミンテルンの諜報機関の暗躍があったらしい。尾崎などは内閣の嘱託であり、言論界にもそれなりの地位があったように感じるが、現実にそれらの一群の共産主義者がどこまで世論や政治的決定に影響力があったのかは、私には検証のしようがないが、実に説得力のある議論が本書において展開されていた。

本書を読んで、「パトレイバー」に出てくるシャフトジャパン企画七課、内海課長の「手段のためには、目的は選ばない」という言葉が実に不気味な意味を持つことを理解して、ぞっとした。謀略家というものは本来の革命の実現のためには、正反対のイデオロギーを標榜することも、国を裏切り、親兄弟を信頼せず、妻子にまでも虚偽を押し通すことも、あえて行動してしまう。私には想像を絶した世界がそこにあった。いや、とにもかくにも、この本の内容を自分の中にとどめておくことは身体を悪くしそうだから、はやくはいてしまおう。

本書において、戦前に内務省の勤務経験と代議士の経歴を持つ三田村武夫さんが、自分の経歴によって知りえた情報を含め、尾崎秀実(ほつみ)を中心とする第二次世界大戦前の共産主義者、革命家たちの謀略について分析している。

ふと気づくと、本書の記述範囲はずいぶん昔に記事でリンクさせていただいた「国際派日本人養成講座」の記事と大分重なる。

・「尾崎秀實~ 日中和平を妨げたソ連の魔手

あるいは、考えてみればアホ丸さんの以下の記事にすでに必要なことは書いてある。

ゾルゲ事件

まあ、諸先輩方のおかげですでに尾崎やゾルゲ、そしてコミンテルンがどういうものであったか、いかに日本の共産主義者が日本の進路をあやまらせたかについてネットの上でも明確に記述されているので、なにも私は力瘤を作って書かなくともよいのだと安心する。

それでも、本書が異様な迫力をもって私に迫ってきたのは尾崎らと同時代を生きた著者が自分の経験を基に書いているということ、その使命感に打たれたのかもしれない。そしてまた、経験した来た者の危機感が強く現れているからかもしれない。そして、もうひとつの理由があることに書いている内に気づいたが、それはあとで書く。

私がほんとうに共産主義というのはやばいのだなと感じるのは、こういう言説を読むときだ。共産主義の当時の活動の中心となるコミンテルンというのは、すさまじい存在だったのだ。長くなるが昭和3年(1928年)のコミンテルン第六回大会で決議された綱領の一部を引用する。

帝国主義戦争が勃発した場合に於ける共産主義者の政治綱領は、
(1)自国政府の敗北を助成すること。
(2)帝国主義戦争を自己崩壊の内乱戦たらしめること。
(3)民主的な方法による正義の平和は到底不可能なるがゆえに、戦争を通じてプロレタリア革命を遂行すること。
である。
帝国主義戦争を自己崩壊の内乱戦たらしめることは、大衆の革命的前進を意味するものなるが故に、この革命的前進を阻止する所謂「戦争防止」運動は之を拒否しなければならない。また大衆の革命的前進と関係なく又はその発展を妨害するような個人的行動又はプチ・ブルの提唱する戦争防止運動も拒絶しなければならぬ。共産主義者は国際ブルジョワジー覆滅の為にする革命のみが戦争防止の唯一の手段であることを大衆に知らしめねばならない。

このコミンテルン綱領から尾崎らが導き出したと想われ結論は、日本を世界大戦に巻き込みかつそれを出来る限り長期化させるということだ。そして、北進させない。そして、この目的の達成のためには、企画院事件などにかかわる官僚を巻き込むばかりでなく、極右ともいえる軍部の青年将校とも手を結ぶことを辞さない。これらの青年将校達の思想的バックグラウンドを与えた北一輝の「日本改造法案」を引用する。

一、天皇を奉じて速に国家改造の根基を完うするために、三年間憲法を停止し、両院を解散し、全国に戒厳令を布く、そのためにはクーデターを断固する。
一、戒厳令の施行中、普通選挙による国家改造議会を招集、比の国家改造議会は天皇の宣布したる国家改造の根本方針を討議することを得ず。
一、国民一般の所有すべき私有財産は百万円を越えることを得ず。
(中略)
一、労働省を設け、労働賃金は自由契約、労働時間は八時間とし、日曜、祭日は公休、賃金を支給すること、ストライキは別に法律に定めるところにより労働省これを裁決す。
一、婦人の労働は男子と共に自由にして平等なり。
一、国民教育の機関(ママ)を満六歳より満十六歳迄の十ヵ年とし、男女を同一に教育し、エスペラントを課し、第二国語とす。

右に走った北一輝らも社会主義に到達するというのが、いまの私には理解しがたい。どうも、北一輝らは「「日本教」モデルをネットワーク分析する」ではないが、本来「見えない」、「名前をもたない」中心を持つ日本人において、一神教的な天皇性を仮定したのだと感じた。ユダヤの神の元の平等のように、天皇のもとの平等が当時の資本家や強すぎた政治家のいきすぎをただす唯一の思想だと発見したのだろうと想う。しかし、財産の制限や革命という非常に過激な項目以の外に、労働時間など現代の我々からみればあまり違和感のない項目があるのも、時代の流れは確かにこれらの人々の思想の元に進んでいるのかもしれない。

もうひとつ意外だったのは、直接に言葉を交わしたという筆者の持つ近衛文麿の印象が、インテリで人好きのする理解力のある人物だということだ。これまで近衛といえば意思薄弱で、天皇への報告を翻すような人物だと想っていた。拡大解釈にすぎるのかもしれないが、この近衛にしろ、青年将校たちにしろ、尾崎の周りの人物達にしろ、理想主義的であるということがいかに危険なことかと実感してしまった。これらの一群の人々は、世の矛盾に発奮し、その改革に燃えて行動を起したにせよ、それは民主主義をこの国において廃れさせ、コミンテルン綱領に基づく行動を助長させた。

これはブログ界隈においても言えることかもしれない。前にも書いたがもし創発性民主主義がブログ界隈で実現してしまうことの方がおそろしいことなのだと感じた。

ああ、ただこの戦争で本当に勝ったのはだれなのかという疑問がいま私の胸から消えることがない。もし、尾崎を中心とした桜会、昭和会のメンバーが目指したものが理想としてのが、まったく反対のイデオロギーであったが同じく革命を志した北一輝の「日本改造法案」のような状態を目指したものであれば、それは実は戦後実現したと言えるのではないか?そして、その状態を誰が実現したのかを考えるとき愕然とする。

本書において、少しの希望を持つことができるのは、本書の内容がGHQに伝えられ、同じくコミンテルン綱領に基づき行動し、ハル・ノート、ヤルタ会談、ポツダム宣言などにかかわったといわれる政府官僚たちの告発の起爆剤になった可能性があるということだ。

戦後マスコミ回遊記〈上〉 by 柴田秀利さん

そして、ここに来ていかに当時の不平等、貧富の格差の問題が大きかったかを知る。また、いかに特権を持つもの、富めるものが、他者への共感性をもっていなかったか、社会を変革する力を失っていたかを感じる。そして、それはまた現代の我々に直結する問題であろう。

解説篇の最後で著者はこう我々に問いを投げかけている。

第二、革命への客観的、主観的条件成熟と同時に一挙にプロレタリア革命に突入する。ただし、これは必ずしもいわゆる武装法規の暴力革命のみを意味しない。客観的条件の正確なる分析判断に従って戦術的に決定する。(中略)
国民はー人民はープログラムの後段の途を選ぶか、それとも二十年間目隠しされて来たくらやみの途に憤慨し、覚醒して、別の新しい、明るい、自由な道を選ぶか、それは自由な人間に与えられた基本的権利だ。

自分たちが自分たちの主人であり、その他の人々の謀略で自分たちの運命を決定されるということには、断じて拒否しなければならない。ここにこそ民主主義があると、私は信じる。

■参照リンク
大東亜戦争とスターリンの謀略 @ 読書ノート
大東亜戦争とスターリンの謀略 @ 漆原亮太の平成軍国少年今日もゆく
大東亜戦争とスターリンの謀略-戦争と共産主 by meiwakusitemasuさん

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2005年5月 9日 (月)

インフレーションの形

以前エクセルで作った正方格子の網膜フィルターモデルをActiveBasicで作り直した。すると、前回の蛍の光のシュミレーションとは対照的にほぼどんな前提条件でも100レイヤーを経ないうちに恒常状態に達してしまうようだ。なぜだろう?

基本的には、20×20のセルを作って乱数の数値を与える。そして、1つのセルから周りのセルに自分の値の一定の%をあたえ(奪い)、自分自身のセルの値を減らす(増やす)、そしてそれを繰り返す、というだけのモデルだ。

sim-explain

前回のエクセルのモデルとはそれほど変えていない。ただ、前回とてつもなく大きな値になってしまったので、全体のセルの合計値を制限している。この辺はソースファイルを見てほしい。

・ActiveBasicソースファイル:「sim-econ.abp」をダウンロード

初期設定はこんな感じで入力する。好きな値を当然入力すれば、違った形が得られる。

sim-bas01

そして、正規分布の乱数を生成して初期値のテーブルを作る。

sim-bas02


表示しやすいように、ベーシックの画面ではセルの値を10分の1にして小数点以下を切り捨てている。100試行後には、こうなる。初期条件をいろいろ変えてみたが、フィルターの数値を変えない限りほとんど形は変わらない。

sim-bas03


これをエクセルのグラフで等高線であらわしてみた。前回の画像と比べてほしい。

sim-result

ちなみにまだバグがあるので有効でないのだが、周辺をマイナス、中心をプラスにしてやると見事に離散した結果になる。また、周辺の8つのセルに与える数値の合計と同じか大きい値を中心マイナスにしてやると、たちまちすべてのセルでマイナスになってしまった。やはり、多少インフレーション気味でないと山はできない。

それにしても、SYNCを読了した今となっては、なんで網膜フィルターの値によって収束していってしまうのか、いまいち理解できなくなっている自分がいる。セルの間で数値が絶え間なく動いていても、全体の値の合計に比率で制限をかけているので、どこかで頭打ちになるのはわかる。そして、周辺で値が表の外へ「漏れて」いっているので、周辺が小さくなるのもわかる。しかし、なぜ同じ形になるのか、やはり数学的な解析ができな私としては、理解が不足しているのを感じる。不思議だ。

ただ、「インフレーション」という言葉を自分で使ってみて、この形を見ていてふとインフレとデフレの意味を悟った。商売をやっていると、どうしてもどこかで失敗をしてしまう。失敗で損失を作ってしまった場合、二つの意思決定がありうる。この失敗を費用としてPLに計上するか、BSに残したままにしてしまうかである。ああ、もちろん会計基準がきちんと存在するので、正確に言えば「意思決定」というよりも「会計基準にのっとって処理すれば、2つのパターンになる」というべきであった。失礼!

例えば、たまたま無形資産として100円の損失がBS上で計上されていたとしよう。この損はたまたまなんらかの事情でPL上で損金算入するのが難しいと仮定する(*1)。ここで、3%のインフレが今後10年間続くとすれば、この評価損は現在の価値の75%程度まで圧縮されうる。

インフレ率 3%              
現在 1年後 2年後 3年後 4年後 5年後 6年後 7年後 8年後 9年後 10年後
-100 -97.1 -94.3 -91.5 -88.8 -86.3 -83.7 -81.3 -78.9 -76.6 -74.4

ところが、たとえ1%であってもデフレの環境下では10年後にこの損失は10%以上「痛み」が増すことになる。

インフレ率 -1%              
現在 1年後 2年後 3年後 4年後 5年後 6年後 7年後 8年後 9年後 10年後
-100 -101 -102 -103 -104 -105 -106 -107 -108 -109 -111

この差は、実に1.5倍だ。この違いは経営にとって大きな数字となるだろう。

実際には、BS上にあるのは簿価だけなので土地の簿価と評価の差をきちんと表すべきだったかもしれない。ご存知のように、会計にマイナスの数字はありえない。文字どうり自然数だけだ。損失といっても、簿価と評価額、売却額との差であらわされるだけだ。それでは、もし原価法を採用しているとして10年間で簿価が変わらず評価額がインフレーションなり、デフレーションを起こすとするとどうなるか?

インフレ率 3%                
  現在 1年後 2年後 3年後 4年後 5年後 6年後 7年後 8年後 9年後 10年後
簿価 1000 1000 1000 1000 1000 1000 1000 1000 1000 1000 1000
評価額 900 927 954.8 983.5 1013 1043 1075 1107 1140 1174 1210
差益(損) -100 -73 -45.2 -16.5 12.96 43.35 74.65 106.9 140.1 174.3 209.5

先程と同じ100円の評価損だったが、簿価1000円を仮定したので、評価額がインフレーションすることによって逆に差益に転じてしまった!

ところが、デフレーション下では逆に評価損が拡大する。

インフレ率 -1%                
  現在 1年後 2年後 3年後 4年後 5年後 6年後 7年後 8年後 9年後 10年後
簿価 1000 1000 1000 1000 1000 1000 1000 1000 1000 1000 1000
評価額 900 891 882.1 873.3 864.5 855.9 847.3 838.9 830.5 822.2 813.9
差益(損) -100 -109 -118 -127 -135 -144 -153 -161 -170 -178 -186


・エクセルファイル:「infration_defration.xls」をダウンロード

この差をデフレ側の差損で割ると実に2倍以上の影響が損益上出るといって差し支えないと思う。

まあ、この辺のことはファイナンスに詳しい方なら常識なのかもしれないが、私には新鮮に感じらられた。つまり、インフレというのは失敗を忘れる忘却に似ているのかもしれない。逆に、デフレというのは、過去の失恋をくよくよくやんでいつまでも忘れないどころか、その印象を深めてしまうような自傷行為に似ているのかもしれない。

また、会計的にストレートに言えば、デフレの環境下では本当に損失が出たらすばやくPLに計上してしまわないといけないということを意味する。インフレならもしかすると、ほっておいた損失が益に転ずることも期待できるのかもしれない。いや、多分戦後の経営者といわれる人たちはみなインフレを仮定していたので、自分の失敗を平気で塩漬けにしておけるのかもしれない、時代は変わってしまったのかもしれないのに。

まあ、いずれにせよ素人論議なので、投資の参考にはならない話ではある。

■注

*1 企業規模によって減損会計の基準が違うので、必ずしもここでいっていることはすべての企業にあてはまらない。

■参照リンク
「お金であること」を保証するもの(後編) @ 馬車馬さん

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2005年5月 5日 (木)

複雑ネットワーク研究の先にあるもの chaos, emmergence or dictatorship

ゴールデンウィークを静かにすごしている。ブログ界隈もいたって静からしい。

ここのところ、自分の素養のなさもわきまえずにわけのわからないシュミレーションを作って眺めて喜んでいる。自分のシュミレーションからは、大した結果は生まれないだろうとは思うが、そう遠くない将来に現実の社会ネットワークに近いダイナミクスをシュミレーションするプログラムなり、データなりが集積されることは間違いないだろう。

創造を逞しくして、もし複雑ネットワークの研究が十分に進んで口コミや創発の条件があきらかにされたとしたら、どうなるかを考えてみた。実はこうした研究は、ヒット商品を生み出す非常に効果的なマーケティング手法発見につながるかもしれない。あるいは、政治的なキャンペーンや、国民の重要な意思決定において、気づかれないが効果の高い口コミ戦略を可能にし、みえない独占や独裁を生み出しかねないのかもしれない。

まあ、いままでのところ自分が見聞きした限りでは、複雑ネットワークの研究においては、逆にカオス的というか、初期条件の差が大きく結果に影響するということが明らかになりつつあるように思う。まあ、カオスというのもひとつの式で展開すべてが表されてしまうという意味では、恐ろしげではある。

[カオスの例]

エクセルファイル [ Xn+1=α*Xn(1-Xn) の可視化]

つまり、いままでのところ複雑系の科学、複雑ネットワーク研究がすすんでも、現実的に初期条件を完全に制御することはできないから、完璧なマーケティングや民主主義下における独裁政治的キャンペーンを実現することは、難しいということだ。ただ、十分に重要で巨視的で決定論的な要因を操作することにより、もし創発性民主主義なるものが可能になるとすれば、それは民主憲法下で成立したヒットラー独裁に通じる危険性があるということだ。

多分、そうした動きが起こりうるとすれば、なにか大きなパニックが起こったときに、人工的に流す口コミなどが効果的であるように思う。なんというか、相転移的な現象が起こりやすい状態であり、メディアを含めて情報流通のネットワークのハブが分断されたときこそ、ネットなどを狙って効果的な政治キャンペーンを起こしうるのだと感じる。

私のようにノイズ以下の者にとっては、まああまりに非現実的な話ではあるが、十分にネット界隈で多くのノードと短いパス長でつながっているスーパーハブにとっては、不可能ではないようにも思う。そうしたスーパーハブが十分に理性的で、良心的であることを祈るばかりだ。

まあ、私の杞憂であるとは思うのだが。

ああ、ちなみにまだ自分自身でまとまらないのだが、「ノイズ」というのは、比喩でなく本当に複雑ネットワークの特性を理解するのに「音」とか「波」でとらえるべきなのかもしれない。特にSYNCを読了してからそう感じている。なぜFM音源の音がアコースティックに聞こえるのかとかも、ネットワークとの関連だ考えると面白いかもしれない。

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2005年5月 1日 (日)

[書評]SYNC

  SYNC by ストロガッツさん

とても楽しい読書体験だった。著者のストロガッツさんの科学への愛を感じた。サイエンス・マインドというか、研究することが楽しくてし方がないという感じが伝わってきた。

ひとつ間違うとyujimさんではないが、「トンデモ」になってしまう自然現象の中の「同期」について非常に冷静に客観的に探究しているのがわかる。やはり、サイエンスのどこにも神秘はないのだ。率直にいって「創発性民主主義」とは幻想なのだと感じた。

本書の冒頭に出てくるホタルの発光の同期についてシュミレーションを例によってActiveBasicで作ってみた。

実は、本書によればホタルの発光現象を説明するには、微弱であっても全体に対して「信号」が送られているという仮定があって始めて数学的、コンピューターシュミレーション解析的に証明しうるのだという。簡単にいってしまえば、y=x^-αであらわされるようなゆるやかに上昇して閾値に近づいていく「電圧」があったとして、なんらかの信号が加わると一斉に発光するということだ。いわばホタルも自分の中に「電圧計」をもっていていまか、いまかと仲間の発光をまって自分も発光するといってもよい。社会的グループで言えばなんらかの不満がゆっくりと高まっているときに、最後の一押しの事件があると全体として爆発しうるといったことになろうか。

ここの説に従え、全体に対して信号が送られないと同期現象が起こらないという前提条件があることになる。この仮定がいやで、隣に対してだけ信号がおくられる正方格子的なマトリックスでこの電圧と信号をシュミレーションしてみた。

<初期条件の設定>

正方格子の初期値として、平均3、分散1の正規分布乱数とした。

sync050501-01

<初期正方格子の状態>

「8」を状態の上限として、現在の値と8との差の10分の一ずつノードの値が上昇する。そして、「7」を超えると周辺のセルに「0.1」を与えて自分自身は「0」となる。これを「発光」とした。

sync050501-02

<100回試行後>

このプロセスを100回繰り返した。確かに分散は1からスタートしたのが、0.36まで縮小している。まあ、ごく初期の試行でこの近くまで落ちるようなのだが。

sync050501-03

ソース *ActiveBasic形式
EXEファイル

前提条件をさんざん変えてみたが、このモデルではどうていも全体の同期は産まれないし、初期条件以外にはノイズ的要素をいれていないにもかかわらず、初期値のちょっとした違いが発散を産み、カオス的な状況に陥ってしまった。

まあ、こう書いてしまえばあたりまえなのだが、このホタルモデルをアナロジーとして考えれば、ネットにおいてはあまりに局所性がありすぎて、ネットだけでは創発性民主主義的なきっかけは全体に伝播しない。したがって、ネット全体を通しての「発光」は、かなり難しいといえる。

ここにおいてネットワークの構造が問題になってくる。つまり、ノードとノードの近さが問題なのだ。あたかも一斉に発光が伝わるくらい密なネットワークなら同期が起こりうる。数値をつかっていえば、ネットに存在するノードとノードの間のリンクが平均何ステップであるかが大変な問題になってくるということだ。私のシュミレーションではたかだが20×20=400ノードであるにもかかわらず、直径として20ステップ、平均でも10ステップといった「疎」なネットワークでは同期が起こらないということなのかもしれない。

インターネットも実は、島状になっている部分がかなりあって、相互に完全に連結されているわけではないとバラバシが書いていた。ウェブサイトの平均パス長ですら11.27だ。「弱い絆」ではないがショートカットの存在は一気に最短パス長さ、平均ステップ数を縮約させることがわかっている。この辺の関係を調べるためにスモールワールドモデル、スケールフリーネットワークを使った同様のシュミレーションプログラムを設計中だ。また、ある実際に形成された大規模な社会的ネットワークの構造体を使って今回のシュミレーションと似たダイナミクスのシュミレーションを行う計画にも参加させていただいている。これもまたかなり楽しみだ。

湯田さんらの論文を読んでネットワークの「地平線」という概念があることを知ったが、ブラウン運動のようにごくごく小さな半径しかネットワークで視界がないといえる。個人的な経験でいえば、2004年の1月にブログを始めるまでネットワークがこんなに広大だとは理解していなかった。グーグルも使っていたし、Yahooも使っていた。仕事の上ではかなりwebも触っていたと言える。しかし、ここまで自分と「同期」しうる方がいらっしゃるとはおもっても見なかった。ネットはかなり分断されていて、通常の使い方ではその数ステップ先までしかいかないものなのだと信じている。

ここで、ネットとメディアとの関係になる。まあ、アナロジーが適切な自分でも疑問になってきたが、残念なことにネットワークにおける創発現象などは、マス・メディアの存在ぬきにはありえないだろう。いや、これもまた散々議論されたことにすぎないのではあるが、あらためて自分でシュミレーションを組んでみたそう感じた。

ちなみに同期現象が生じやすいかどうかの大きな要因としてノードの類似性がある。以前、ネットワークアナロジーで「日本教」を考えたが、ここのポイントが、ユダヤ型、米国型、日本型を分ける大きな違いなのだと気づいた。これまた致命的に遅い気づきではあるのだが。

■参照リンク
インターネットはマスメディアになるのか? @ IT Media Survey
SYNC なぜ自然はシンクロしたがるのか by 橋本大也さん
SYNC by kinjoさん
「同質的」という単語の意味 / SBMはロングテールの敵か? by 吉澤さん 「同質的」という言葉に脊椎反射!

■追記 平成17年5月4日

kinjoさんから本書で大きく取り上げられている蔵本由紀先生の最終講義議事録のリンクを教えていただいた。

http://www.ton.scphys.kyoto-u.ac.jp/nonlinear/kuramoto-finallecture.pdf

ストロガッツのまさに専門分野である結合振動子に関する話題の前のBSスープ(?)やKS方程式までの話で終わってしまったこと以外には大変興味深い内容だった。以前から、相転移とカタストロフィー理論の関係を疑問に思っていたのだが、その一端が見えた。

Thomによれば複雑な世界を記述するのは本質的に決定論であるというわけです。
科学のご専門の方から見ればトンデモ発言かもしれないが、アインシュタインの「神はサイコロを振り賜わず」という言葉と私には重なるように感じる。この辺の科学の再帰的なリンク構造というのも非常に興味深い。

■追記

物語も「同期」するらしい。

『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(下巻)』読了 by yoko(tangkai-hati)さん

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