インフレーションの形
以前エクセルで作った正方格子の網膜フィルターモデルをActiveBasicで作り直した。すると、前回の蛍の光のシュミレーションとは対照的にほぼどんな前提条件でも100レイヤーを経ないうちに恒常状態に達してしまうようだ。なぜだろう?
基本的には、20×20のセルを作って乱数の数値を与える。そして、1つのセルから周りのセルに自分の値の一定の%をあたえ(奪い)、自分自身のセルの値を減らす(増やす)、そしてそれを繰り返す、というだけのモデルだ。

前回のエクセルのモデルとはそれほど変えていない。ただ、前回とてつもなく大きな値になってしまったので、全体のセルの合計値を制限している。この辺はソースファイルを見てほしい。
・ActiveBasicソースファイル:「sim-econ.abp」をダウンロード
初期設定はこんな感じで入力する。好きな値を当然入力すれば、違った形が得られる。
そして、正規分布の乱数を生成して初期値のテーブルを作る。
表示しやすいように、ベーシックの画面ではセルの値を10分の1にして小数点以下を切り捨てている。100試行後には、こうなる。初期条件をいろいろ変えてみたが、フィルターの数値を変えない限りほとんど形は変わらない。
これをエクセルのグラフで等高線であらわしてみた。前回の画像と比べてほしい。
ちなみにまだバグがあるので有効でないのだが、周辺をマイナス、中心をプラスにしてやると見事に離散した結果になる。また、周辺の8つのセルに与える数値の合計と同じか大きい値を中心マイナスにしてやると、たちまちすべてのセルでマイナスになってしまった。やはり、多少インフレーション気味でないと山はできない。
それにしても、SYNCを読了した今となっては、なんで網膜フィルターの値によって収束していってしまうのか、いまいち理解できなくなっている自分がいる。セルの間で数値が絶え間なく動いていても、全体の値の合計に比率で制限をかけているので、どこかで頭打ちになるのはわかる。そして、周辺で値が表の外へ「漏れて」いっているので、周辺が小さくなるのもわかる。しかし、なぜ同じ形になるのか、やはり数学的な解析ができな私としては、理解が不足しているのを感じる。不思議だ。
ただ、「インフレーション」という言葉を自分で使ってみて、この形を見ていてふとインフレとデフレの意味を悟った。商売をやっていると、どうしてもどこかで失敗をしてしまう。失敗で損失を作ってしまった場合、二つの意思決定がありうる。この失敗を費用としてPLに計上するか、BSに残したままにしてしまうかである。ああ、もちろん会計基準がきちんと存在するので、正確に言えば「意思決定」というよりも「会計基準にのっとって処理すれば、2つのパターンになる」というべきであった。失礼!
例えば、たまたま無形資産として100円の損失がBS上で計上されていたとしよう。この損はたまたまなんらかの事情でPL上で損金算入するのが難しいと仮定する(*1)。ここで、3%のインフレが今後10年間続くとすれば、この評価損は現在の価値の75%程度まで圧縮されうる。
| インフレ率 | 3% | |||||||||
| 現在 | 1年後 | 2年後 | 3年後 | 4年後 | 5年後 | 6年後 | 7年後 | 8年後 | 9年後 | 10年後 |
| -100 | -97.1 | -94.3 | -91.5 | -88.8 | -86.3 | -83.7 | -81.3 | -78.9 | -76.6 | -74.4 |
ところが、たとえ1%であってもデフレの環境下では10年後にこの損失は10%以上「痛み」が増すことになる。
| インフレ率 | -1% | |||||||||
| 現在 | 1年後 | 2年後 | 3年後 | 4年後 | 5年後 | 6年後 | 7年後 | 8年後 | 9年後 | 10年後 |
| -100 | -101 | -102 | -103 | -104 | -105 | -106 | -107 | -108 | -109 | -111 |
この差は、実に1.5倍だ。この違いは経営にとって大きな数字となるだろう。
実際には、BS上にあるのは簿価だけなので土地の簿価と評価の差をきちんと表すべきだったかもしれない。ご存知のように、会計にマイナスの数字はありえない。文字どうり自然数だけだ。損失といっても、簿価と評価額、売却額との差であらわされるだけだ。それでは、もし原価法を採用しているとして10年間で簿価が変わらず評価額がインフレーションなり、デフレーションを起こすとするとどうなるか?
| インフレ率 | 3% | ||||||||||
| 現在 | 1年後 | 2年後 | 3年後 | 4年後 | 5年後 | 6年後 | 7年後 | 8年後 | 9年後 | 10年後 | |
| 簿価 | 1000 | 1000 | 1000 | 1000 | 1000 | 1000 | 1000 | 1000 | 1000 | 1000 | 1000 |
| 評価額 | 900 | 927 | 954.8 | 983.5 | 1013 | 1043 | 1075 | 1107 | 1140 | 1174 | 1210 |
| 差益(損) | -100 | -73 | -45.2 | -16.5 | 12.96 | 43.35 | 74.65 | 106.9 | 140.1 | 174.3 | 209.5 |
先程と同じ100円の評価損だったが、簿価1000円を仮定したので、評価額がインフレーションすることによって逆に差益に転じてしまった!
ところが、デフレーション下では逆に評価損が拡大する。
| インフレ率 | -1% | ||||||||||
| 現在 | 1年後 | 2年後 | 3年後 | 4年後 | 5年後 | 6年後 | 7年後 | 8年後 | 9年後 | 10年後 | |
| 簿価 | 1000 | 1000 | 1000 | 1000 | 1000 | 1000 | 1000 | 1000 | 1000 | 1000 | 1000 |
| 評価額 | 900 | 891 | 882.1 | 873.3 | 864.5 | 855.9 | 847.3 | 838.9 | 830.5 | 822.2 | 813.9 |
| 差益(損) | -100 | -109 | -118 | -127 | -135 | -144 | -153 | -161 | -170 | -178 | -186 |
・エクセルファイル:「infration_defration.xls」をダウンロード
この差をデフレ側の差損で割ると実に2倍以上の影響が損益上出るといって差し支えないと思う。
まあ、この辺のことはファイナンスに詳しい方なら常識なのかもしれないが、私には新鮮に感じらられた。つまり、インフレというのは失敗を忘れる忘却に似ているのかもしれない。逆に、デフレというのは、過去の失恋をくよくよくやんでいつまでも忘れないどころか、その印象を深めてしまうような自傷行為に似ているのかもしれない。
また、会計的にストレートに言えば、デフレの環境下では本当に損失が出たらすばやくPLに計上してしまわないといけないということを意味する。インフレならもしかすると、ほっておいた損失が益に転ずることも期待できるのかもしれない。いや、多分戦後の経営者といわれる人たちはみなインフレを仮定していたので、自分の失敗を平気で塩漬けにしておけるのかもしれない、時代は変わってしまったのかもしれないのに。
まあ、いずれにせよ素人論議なので、投資の参考にはならない話ではある。
■注
*1 企業規模によって減損会計の基準が違うので、必ずしもここでいっていることはすべての企業にあてはまらない。
■参照リンク
・「お金であること」を保証するもの(後編) @ 馬車馬さん
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コメント
ファイナンスに少し詳しい者です。ネットワーク分析等に興味があり、いつも楽しませていただいております。
さて、記事の本題ではないのかもしれませんが、会計とインフレ・デフレという観点ではこれまであまり考えたことがなく、新鮮でした。
表の数値は現在の名目価格を基準とした実質価値ですね。インフレ時には借金をすれば、将来返済時点での(物価調整済み)実質価値が低下しますから楽になり、デフレはその逆で苦しくなる、という話に近いかと思います。
会計処理上、ツケを将来に残しておく、ということはこの借金と似た状況であり、そういう意味では、会計処理と物価変動って実は密接そうに思えますね。
にしてもこのグラフ、バブルの形成を想起させますね。バブルの形成についてはケインズの美人投票説が有名ですが、そういったバブル期待が人々の間で波及していく様子を連想させられました。
投稿: ツルゲリータ | 2005年5月15日 (日) 10時36分
こんにちは。ご無沙汰しております。
この会計の話は、まさに銀行や生保のバブル時の含み益とその崩壊後の含み損、そして不良債権とその「最終処理」の話ですね。ひできさんが考えてらっしゃるように、(ある程度のゆるい)インフレはリスクをとる者のリスクを軽減し、社会を活性化させる環境を作ると考えて良いと思います。
ちなみにインフレとデフレが社会に与えるわかりやすいインプリケーションは(既にご紹介したかもしれませんが)クルーグマンの「経済を子守りしてみると。」
http://cruel.org/krugman/babysitj.html
によくまとまっております。ではでは。
投稿: svnseeds | 2005年5月16日 (月) 12時02分
ツルゲリータさん、こんばんわ、
コメントありがとうございます。なんかいまはネットでいろいろな現象が数値化しやすくなっていて、かつ、PCの力があがってシュミレーションとかの手法が簡単になっているので、いろいろな分野でアナロジーの例とか、科学の思考とか解析とか、現実的な問題の解決の方法などが変わってくるのではないかという予感があります。
そう考えると、いままでかなり保守的であった会計ももしかするともっともっとダイナミックになる可能性があるかもしれませんよね。DCFベースの会計とか、リスクを指数として入れた会計とか、企業のネットワーク・エコロジー価値棚卸とか(笑)。
svnseedsさん、こんばんわ、
コメントありがとうございます。そうなんです。そのことがまさに私の頭にありました。インフレ、デフレの傾向が変わっていることが経営者の頭にあって行動しているのだろうか、と。
最近思うのですが、以前は技術革新が日常生活に押し寄せてくる波と世代交代が、有る程度はリンクしえたのではないか、と。だから、経営者なり、組織のリーダー層の交代が技術革新のインパクトを吸収しえたのではないでしょうか?最近、世の動きが激しくなり、技術革新の波が次々と押し寄せ、世代交代と同期しえなくなっているところにカオス的現象が生じているのではないか、な、と、..いや、ここら辺までくると妄想かもしれません。お笑いくださいませ...
投稿: ひでき | 2005年5月16日 (月) 20時52分