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2005年5月 1日 (日)

[書評]SYNC

  SYNC by ストロガッツさん

とても楽しい読書体験だった。著者のストロガッツさんの科学への愛を感じた。サイエンス・マインドというか、研究することが楽しくてし方がないという感じが伝わってきた。

ひとつ間違うとyujimさんではないが、「トンデモ」になってしまう自然現象の中の「同期」について非常に冷静に客観的に探究しているのがわかる。やはり、サイエンスのどこにも神秘はないのだ。率直にいって「創発性民主主義」とは幻想なのだと感じた。

本書の冒頭に出てくるホタルの発光の同期についてシュミレーションを例によってActiveBasicで作ってみた。

実は、本書によればホタルの発光現象を説明するには、微弱であっても全体に対して「信号」が送られているという仮定があって始めて数学的、コンピューターシュミレーション解析的に証明しうるのだという。簡単にいってしまえば、y=x^-αであらわされるようなゆるやかに上昇して閾値に近づいていく「電圧」があったとして、なんらかの信号が加わると一斉に発光するということだ。いわばホタルも自分の中に「電圧計」をもっていていまか、いまかと仲間の発光をまって自分も発光するといってもよい。社会的グループで言えばなんらかの不満がゆっくりと高まっているときに、最後の一押しの事件があると全体として爆発しうるといったことになろうか。

ここの説に従え、全体に対して信号が送られないと同期現象が起こらないという前提条件があることになる。この仮定がいやで、隣に対してだけ信号がおくられる正方格子的なマトリックスでこの電圧と信号をシュミレーションしてみた。

<初期条件の設定>

正方格子の初期値として、平均3、分散1の正規分布乱数とした。

sync050501-01

<初期正方格子の状態>

「8」を状態の上限として、現在の値と8との差の10分の一ずつノードの値が上昇する。そして、「7」を超えると周辺のセルに「0.1」を与えて自分自身は「0」となる。これを「発光」とした。

sync050501-02

<100回試行後>

このプロセスを100回繰り返した。確かに分散は1からスタートしたのが、0.36まで縮小している。まあ、ごく初期の試行でこの近くまで落ちるようなのだが。

sync050501-03

ソース *ActiveBasic形式
EXEファイル

前提条件をさんざん変えてみたが、このモデルではどうていも全体の同期は産まれないし、初期条件以外にはノイズ的要素をいれていないにもかかわらず、初期値のちょっとした違いが発散を産み、カオス的な状況に陥ってしまった。

まあ、こう書いてしまえばあたりまえなのだが、このホタルモデルをアナロジーとして考えれば、ネットにおいてはあまりに局所性がありすぎて、ネットだけでは創発性民主主義的なきっかけは全体に伝播しない。したがって、ネット全体を通しての「発光」は、かなり難しいといえる。

ここにおいてネットワークの構造が問題になってくる。つまり、ノードとノードの近さが問題なのだ。あたかも一斉に発光が伝わるくらい密なネットワークなら同期が起こりうる。数値をつかっていえば、ネットに存在するノードとノードの間のリンクが平均何ステップであるかが大変な問題になってくるということだ。私のシュミレーションではたかだが20×20=400ノードであるにもかかわらず、直径として20ステップ、平均でも10ステップといった「疎」なネットワークでは同期が起こらないということなのかもしれない。

インターネットも実は、島状になっている部分がかなりあって、相互に完全に連結されているわけではないとバラバシが書いていた。ウェブサイトの平均パス長ですら11.27だ。「弱い絆」ではないがショートカットの存在は一気に最短パス長さ、平均ステップ数を縮約させることがわかっている。この辺の関係を調べるためにスモールワールドモデル、スケールフリーネットワークを使った同様のシュミレーションプログラムを設計中だ。また、ある実際に形成された大規模な社会的ネットワークの構造体を使って今回のシュミレーションと似たダイナミクスのシュミレーションを行う計画にも参加させていただいている。これもまたかなり楽しみだ。

湯田さんらの論文を読んでネットワークの「地平線」という概念があることを知ったが、ブラウン運動のようにごくごく小さな半径しかネットワークで視界がないといえる。個人的な経験でいえば、2004年の1月にブログを始めるまでネットワークがこんなに広大だとは理解していなかった。グーグルも使っていたし、Yahooも使っていた。仕事の上ではかなりwebも触っていたと言える。しかし、ここまで自分と「同期」しうる方がいらっしゃるとはおもっても見なかった。ネットはかなり分断されていて、通常の使い方ではその数ステップ先までしかいかないものなのだと信じている。

ここで、ネットとメディアとの関係になる。まあ、アナロジーが適切な自分でも疑問になってきたが、残念なことにネットワークにおける創発現象などは、マス・メディアの存在ぬきにはありえないだろう。いや、これもまた散々議論されたことにすぎないのではあるが、あらためて自分でシュミレーションを組んでみたそう感じた。

ちなみに同期現象が生じやすいかどうかの大きな要因としてノードの類似性がある。以前、ネットワークアナロジーで「日本教」を考えたが、ここのポイントが、ユダヤ型、米国型、日本型を分ける大きな違いなのだと気づいた。これまた致命的に遅い気づきではあるのだが。

■参照リンク
インターネットはマスメディアになるのか? @ IT Media Survey
SYNC なぜ自然はシンクロしたがるのか by 橋本大也さん
SYNC by kinjoさん
「同質的」という単語の意味 / SBMはロングテールの敵か? by 吉澤さん 「同質的」という言葉に脊椎反射!

■追記 平成17年5月4日

kinjoさんから本書で大きく取り上げられている蔵本由紀先生の最終講義議事録のリンクを教えていただいた。

http://www.ton.scphys.kyoto-u.ac.jp/nonlinear/kuramoto-finallecture.pdf

ストロガッツのまさに専門分野である結合振動子に関する話題の前のBSスープ(?)やKS方程式までの話で終わってしまったこと以外には大変興味深い内容だった。以前から、相転移とカタストロフィー理論の関係を疑問に思っていたのだが、その一端が見えた。

Thomによれば複雑な世界を記述するのは本質的に決定論であるというわけです。
科学のご専門の方から見ればトンデモ発言かもしれないが、アインシュタインの「神はサイコロを振り賜わず」という言葉と私には重なるように感じる。この辺の科学の再帰的なリンク構造というのも非常に興味深い。

■追記

物語も「同期」するらしい。

『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(下巻)』読了 by yoko(tangkai-hati)さん

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コメント

お久しぶりです。リンクありがとうございます。ノードの類似性って結構重要だと思います。それ自身も細かくみると関係の類似に落ち着くかもしれませんが。

訳をしている蔵本由紀先生の最終講義も、わからないところもありましたがなかなかおもしろかったです。
http://www.ton.scphys.kyoto-u.ac.jp/nonlinear/kuramoto-finallecture.pdf

投稿: kinjo | 2005年5月 2日 (月) 01時21分

kinjoさん、こんばんわ、

蔵本先生の講義録を読み終わってからコメントのお返事をしようと思っているうちにすっかり遅いレスになってしまいました。申し訳ございません。

この論文はすばらしいですね。「カタストロフィー理論」とそう転移とか非線形とかどういう関係なのかなとか思っていたので、その意味でも興味を持ちました。しかし、肝心の(?)結合振動子の前で終わってしまっているのが非常に心のころです。いま蔵本先生の「新しい自然学―非線形科学の可能性」(ISBN:400026642X)をアマゾンに頼みました。これに結合振動子の話が書いてあることを期待します。講義の中の「Chemical Oscillations, Waves and Turbulence」(ISBN:0486428818)も興味深いのですが、講義の内容ですら満足に理解できないのに、ちょっと無理かなと思って日よりました(笑)。

貴重な情報をありがとうございました。

投稿: ひでき | 2005年5月 4日 (水) 18時58分

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