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2005年6月12日 (日)

シグモイド、べき分布、そして複雑ネットワークとしての生態学 the beauty of sigmoid

Takashi Matsumoto and Yoji Aizawa "Punctuated Equilibrium Behavior and Zipf's Law in the Stochastic Branching Process Model of Phylogeny" PROGRESS OF THEORETICAL PHYSICS 102-5 (1999) pp. 909-915.

本論文は、タダシさんの「べき乗則とネット信頼通貨を語る夕べ」での発表の参考論文として教えていただいた。読ませていただいて、とても感動した。なんというか、べき乗分布というのは、陣取り合戦の結果であり、生成と死滅の足跡であると感じた。この意味で生態学というおおくくりな学問に複雑ネットワーク研究は吸収されていくだろうと思う。

本論文は、ごく簡単なルールに基づいたシミュレーションからべき乗則やシグモイド曲線、系統樹のような大きな分岐などが出てくることなどを見事にデモンストレーションしている。あまりにの見事さに、私は、ニッチ(餌場)という「生態学的地位」という問題は、「破壊試験」で扱った場所取りの問題につながっていくことを連想せざるを得なかった。やはり、スケールフリーはフラクタルなのだろう。そして、それは生態学的に捉えられた生物の本質に結びつくのではないだろうか?

岩石破壊試験からの発想 scale-free-network is fractale (HPO)

あまり性急に自分の感想ばかりを述べてはいけない。ごく基本的な事実から、きちんとここに記そう。このシミュレーションは案外、簡単なルールからできている。一次元上にならべられたセル(ニッチ)が存在するとき、ある時点でいくつかのセルをノード(生物種)が独占しているとモデル化する。この時、以下のようなルールで、次の状態が決まる。

執筆者の松本らは、このノードを生物学の上での「種」ととらえている。そして、隣のセルにノードが生成される時、「種の分化」と捉えている。ここのノードと、あいているセルをどうとらえるかは、視点によって異なる。この辺は、実は生物学以外の分野への応用も可能な気がするが、それはまた別な話だ。

ちょっと、注意が必要なのは、死滅の確率は、一定範囲内のセル内にどれだけノードが埋まっているかによって変化するかということだ。著者らによれば、あるいはタダシさんの二次元版のほぼ同等のシミュレーションのデモンストレーションでは、一定の時間内で、大きな種の分化が生じるということだ。同一の「類」の中のいくつかの「種」という状態でスタートしたのだとすれば、「属」が分化した感じというのだろうか。

そして、この「属」の分化が起こるときの「種」の数を描いた曲線は、シグモイド曲線に近いように確かに見える。

シグモイド曲線 @ ECネット

このシグモイド曲線というのは、生態学の中で固体の増加の様子を表すグラフとして扱われているのだそうだ。この簡単なシミュレーションからシグモイド曲線が得られたということは、興味深い結果であるかもしれない。なぜ、人口増加、種の増加においてシグモイド曲線があらわれるかというと、ロジスティック式という数式をグラフにあらわしたときに現れる曲線であるからだ。

ロジスティック式 @ wikipedia

Wikipediaによれば、ロジスティック式は以下の仮定を満たすことを前提に作られたのだという。

・体数0では増加率が0になる。
・個体数が増加するにつれ、増加率は減少する。
・環境の収容可能個体数に限度があるから、その数をKとすれば、N=Kの時、増加率は0になる。

確かにこの3つの過程と、上記のシミュレーションのルールはかなり近いように感じる。特に、一定の範囲内の固体数が増えれば増えるほど、消滅の確率が高くなるというルールは、重要だと感じる。

さらに私には不思議と感じられたことは、ある瞬間に存在していたノード=「種」を先祖(種)として捉えたとき、そこから生成して枝分かれしたノード(種)を「子孫」と捉えて、その数を数えていくと、べき分布が見られたという。これは短期でも、長期でも、初期条件をかなり変えても見出されたことが本論文で報告されている。我田引水との非難を受けるかもしれないが、本論文のルールというのは、一定の餌場(セル)をめぐる争いと捉えることが可能である。以前、「ランチェスターの法則」とべき乗則との関連を思考実験してみたように、「餌場」、「ニッチ」、「生態学的地位」をめぐる「争い」の結果には、べき乗分布が広く見られるということは可能なのだと感じる。

べき乗則とランチェスターの法則 Lanchester's law and Power-law (HPO)

もっとはるかにアカデミックな方が多分検証してるか、事実でないことが証明されていることなのかもしれないが、この辺の生成と死滅とべき乗則との関連性についての原理原則というものを切に知りたいと感じる。その答えは、理論的な複雑系、複雑ネットワークの研究というよりも、多分生態学、生物学の系統からもたらされるような気がしてならない。

しかし、ちょっとひっくりかえったのは、Wikipediaのロジスティック式の記事の最後のこういう記述だ。

なお、この式をさらに追求すれば、非周期的にあらゆる値をとる場合にまで至る様々な形が出現し、これに対してカオスという言葉を当てたのがカオス理論の始まりの一つである。

一方、シグモイド曲線は正規分布の累積頻度をグラフ化したものなのだそうだ。ちょっとブラウン運動、ランダムウォークを思い出したのだが、この辺って関連があるのだろうか?どうも、非線形のルーツにたどり着いたというか、自己撞着的に私がなってしまっているのかもしれないとは感じた。

■参照リンク
非線形フィット関数「Growth/Sigmoidal」カテゴリーの関数一覧 @ 株式会社ライト・ストーン
Zipf's Law, Power Law (リソース・インデックス) by 佐藤進也さん
シグモイド関連ブックマーク (HPO)

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