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2005年9月20日 (火)

[書評]ピーターの法則 peter revolution

4478760853ピーターの法則
ローレンス・J・ピーター レイモンド・ハル 渡辺 伸也
ダイヤモンド社 2003-12-12

by G-Tools

先日の記事で、「パーキンソンの法則」と本書を取り違えるという失態を犯してしまったので、少々慌てて読んだ。

意外なことに並行して読んだスチュワート・カウフマンの「自己組織化と進化の論理」と本書がいくつかの視点を共有していることに気づいた。結論から先に言ってしまえば、本書で言う「無能(incompetence)」とはカウフマンの言う適応度地形におけ局所的適応という丘に登りきってしまった状態なのだと言えるのではないだろうか。

適応度地形(フィットネス・ランドスケープ)で捉える「適応」(Adaptation) by 井庭崇さん

私が理解できている範囲で、適応度地形を説明すれば、n個(対)の遺伝形質の組合せで、それぞれどちらをえぶかという状態を1か0であらわせば[10010011111]といった数列で表現できる。この状態毎に個体の環境における適応度が決められるとすれば、n次元の空間の平面で適応度を地形としてとらえることができる。そう、例えば鳥のように「翼がある」という属性と「骨が軽い」といった属性はかなり適応度が高い位置の組み合わせだろう。「赤い体毛」と「短いくちばし」では、あまり適度度に関係しないのかもしれない。「身体が大きい」と「足が長い」という組み合わせでは、逆に適応度が低いように想われる。

進化の過程において、局所的な適応の山に登ってしまった場合、一旦その適応度の「山」を降りなければより高い適応度に移行できないという難しい状態に陥る。「山」を降りるには、交配可能な遺伝プールの中でできるだけ自分と違った個体と遺伝子情報を交換し、次代には大きな「ジャンプ」を行うか、中間説ではないが突然変異を蓄積して丘をだらだらと降りていくしかない。部分的な適応度をさげるということは、どれだけ多くの個体の死に至ることを意味しても、大いなる進化の坂をより高くまで上っていくためにはしかたがない。

この辺の考え方を社会において十分に安定した「環境」である会社組織、官僚組織などに「挿入」すると、数々の「ピーターの法則」が導けるように感じる。ピーターいわく、「昇進は必ず無能に至る地位まで続く」という局所的適応の例、「強制上座送りという問題先送り」という遺伝的ジャンプ、「無能が無能を創るという自己再生産」という局所的適応からの脱出の困難さ、などなど。読んでいる間は抱腹絶倒なのだが、読後にかなり真剣に悩んでしまう言葉が多くあった。多分、いまの日本の状況は、本書の書かれた30年くらい前の西欧の状況と同じか、それより国民が素直でお上を信じている分、深刻なのだと気づきはっとする。そして、いま日本が直面している問題は決して日本独自の問題なのではなく、構造的に社会が成熟化、安定化すればするほど必然的に生じる問題なのだと気づく。

いや、それはまた別に論ずべき問題だ。

ここで注目したいのは、こうした観察から著者が「創造的無能」という生き方を提唱していることだ。それは、先の適度度地形で言えば丘の途中で踏みとどまれということだと想う。それははからずも、著者自身が「不思議の国のアリス」の「赤の女王」を引き合いに出して述べている状態だ。

「いいこと、ここにきたら、とにかく全速力で走り続けないと、今いる場所に残れないのよ!分かった?」

もしかすると、カウフマン達は既に本書を読んだからこそネーミングしたのかもしれないが、生物学でもライバル状態のまま共進化せざるを得なくなる状態を「赤の女王効果」と呼ばれているのだそうだ。

著者は、「創造的無能」という言葉で我々に問いかけてくるのは、果てして我々がいま社会的な進化として信じていることが本当に「局所的適応」でないのか、真摯に自らに問うことであると想う。

■参照リンク
組織の自己崩壊に関する研究 by kazamaさん

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コメント

お久しぶりです。
だいぶ遅れてしまいましたが、森さんの発表を含めたmixiの記事があります。何気に僕も聴講してきました。
http://bb.watch.impress.co.jp/cda/event/11039.html

投稿: kinjo | 2005年10月 1日 (土) 21時00分

kinjoさん、こんにちは、

いや、かっこいいですよね。よいことです。

投稿: ひでき | 2005年10月 3日 (月) 14時34分

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