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2005年9月 6日 (火)

経営に役に立つ本? books for management

たまたま機会があって、自分の蔵書を整理してみた。今回初めて分野別に分けてみたのだが、思ったよりも自分は経営関係の本を多く読んで来たのに気がついた。私の身長ほどの本棚一本が埋まって、まだ床にはみ出している。本棚ひとつ分ビジネス書を読んでもいまの自分程度なのだから、いかにこの手の本が実践の役に立たないかを実感した。これ以外に、ビジネススクール時代の書籍がダンボール10箱くらいはどこかにしまってあるはずなのだが、まったくとは言わないが、ほとんど今の自分に役にたっていないことに気づく。

では、自分の今の行き方、今の商売に影響を与えてくれた本とはどんな本なのか?少し前につくったメモを参考にしながら挙げてみた。


479531912Xパーキンソンの法則
C.N.パーキンソン 森永 晴彦
至誠堂 1996-11

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確か本書の主な研究内容の発端は、著者の英国の海軍省の研究だったと聞いた。組織は常に肥大していく、という衝撃的な内容を含む本だと記憶している。原子炉の購入の会議でも、問題になるのは原子炉の本質的な経済的、環境的な効果なのではなく、数ペンスのねじの値段ばかりで、わかっているやつは発言しないとか、人の集まる組織についてするどい考察を加えていた。自分がいつか経営に携わることが全くイメージできないまま、「ああ、やっぱり人が集まると大変なんだなぁ」、と想っていたあの頃読んだ本だ。

4896190068月刊 選択
created by 飯塚昭男
選択出版株式会社 1975-

これはいまも続く雑誌なのだが、私を大きく変えた記事が多々あった。たとえば、学生のころ、「ニューアカ」のブームの到来についての記事を読み、浅田彰と中沢新一を知った。そして、いまの商売ではある意味必要条件だといわれている学部に進むのをやめて、全く関係のない学部に進学した。あるいは、本書の記事をベースに中国人と鄧小平が死んだとき中国がどうなるかを議論した。香港のビルの多くが返還以前から、軍の所有になっているという受け売りを披露したとき、えらく彼に関心されたのを覚えている。石油戦略についても007ではないが、かなり早くからカスピ海周辺のパイプラインの重要さを訴えていたように記憶する。すごい雑誌だと想った。これからもそう想い続けていたいと希望する。

4101152403峠 (上巻)
司馬 遼太郎
新潮社 2003-10

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今の商売に進む決断を与えてくれた私にとって大事な本だ。独自の普遍的な世界観を開きながらも、自分の運命を自覚し、故郷の防衛に準じた河合継之助の姿に本当に感動した。感動のあまり、生地から終焉の地までをめぐり歩いた。人の生き方の美しさをつくづく感じた。私の妻によれば、男の価値はその死に様で決まるのだそうだ。河合継之助のの生き方を想うと、めいっぱい生きれば、めいっぱい死ねるのだろうと改めて感じる。

まだ純粋さが至上の価値を持っていた学生時代だった。

4896190068王陽明研究
安岡 正篤
明徳出版社 1960-03

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河合継之助に興味があることをご報告したら、越川春樹先生から本書を薦められた。安岡先生は、20歳になるかならないかで本書を書いたという。王陽明が地方に飛ばされ、命の危機にさらされながら坐禅をするシーンに私は感動した。なんというか、中国の古典と仏教が並存して身近にある環境に私は育ったのだと想うのだが、その2つに架け橋というべき存在があることを本書を読むまで知らなかった。やっぱり、経営者になろうと想ったら腹なんだよね、と感じた青春の日々の貴重な読書体験だった。

4766780272世界最強の教育機関 ハーバード・ビジネススクールは何をどう教えているか―スーパーエリートはこう育てられる
佐藤 正忠
経済界 1987-03

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ま、私はハーバードに行ったわけではないのだが、読書体験を語る上で一応ビジネススクールについてコメントしないといけない。ビジネススクールに2年行くのも本書を読むのも10年もたてばあまり変わらないな、という自嘲をこめてここに置く。

私が修士号をいただいたのは、ワシントンD.C.にあるアメリカン大学という学校のビジネススクール(経営大学院)だった。米国の高等教育の標準化は非常に進んでいてあまり日本では名前の知られていないこの大学でも、コアカリキュラムと言われる会計、ファイナンス、マーケティング、生産管理、人事(HRM)、企業と社会(CSR)などの科目の教科書と教授法は非常にすぐれていた。なにせ微積分もろくろく知らない、経営に関する科目をとったこともない、貸し方借り方も分からないという学部卒の米国人などを卒業するときには、一人前にしてしまうのだから大したものだ。私はたまたま4年とすこし社会人としての経験を日本で積ませていただいてから入学したので、ひとつひとつの授業が非常に身近に感じられた。多少の奨学金をいただけるくらいがんばってちょうど2年で経営管理学修士(MBA)をいただけたのは、自分の誇りだった。

ま、それでも日本で会社の経営に携わるようになって役に立ったなと想うのは、会計などのごく基本的な科目であるように想う。マーケティングや不動産ファイナンスなどの知識も知識としては役にたったかもしれないが、知識というものが問われることは実際の経営においてかなり機会がすくない。実は経営のエッセンスというものは数字であり、その人自信のセンスなのだと思い知らされる経験をこの10年あまりで何度もした。この意味では、ビジネススクールはかなり無力であろう。それでも、あの時下手な英語で議論に切り込み、フロッピー何枚も何枚もレポートを書き続けた日々はまだ昨日のことのように感じられはする。

1568849427Doing Business on the Internet for Dummies (For Dummies)
Dummies Press
Hungry Minds Inc 1997-11

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本棚の整理で出てきてなつかしくページをめくってみてしまった。本書以後の私のネットへの認識は変わった。まだ、米国にいたときに本書と出会ってこれからはインターネットだと確信して帰国した。しかし、似た商売に従事している友人に会った時に、私はインターネットのビジネスにおける未来について熱心に話しをしたのだが、「うん?インターネット?なにそれ?お前の説明に説得力ないな。」と言われた。いやぁ、その時に助言を受けていなければ、雨後の筍のような日本のネットビジネスに入って、あっというまに淘汰されていただろう。やはり、本業が大事なのだと最近強く感じる。友人の一言にいまも感謝している。

本書の内容にもどれば、技術的な記述が多かったが、最後は信頼の問題がネットで問われることになるだろうということが冷静に書いてあった。サイトに訪れる方々、取引をネット上でやろうとする取引先、みなリアルで直接会わない関係であるからこそ、相手との信頼性が大事になる。だからこそ、信頼性を高める工夫がネットビジネスでは不可欠だと書いてったように記憶する。これは、ある意味どの商売でも真実であろう。そうそう、それでもネットに熱かった10年前のことだった。

4833416921六韜・三略
守屋 洋 守屋 淳
プレジデント社 1999-10

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本書を読んで、やはり術数というか、そういう面も必要なのだと、中国の文明の懐の深さを実感した。記憶違いかもしれないが、割と神秘的な術の記述と人の機微に通じたごくごく現実的な策略の手法の両面が載っていたように想う。この辺の混在がいかにも中国なのだという気がするのは私だけだろうか。いずれにせよ、人の世の複雑さ、人の企みのややこしさを実感していた頃の読書体験だった。

4103096101ローマ人の物語〈1〉― ローマは一日にして成らず
塩野 七生
新潮社 1992-07

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もしかすると、こと商売に関して言えばこのシリーズが一番役に立っているかもしれない。シリーズ全体を通して本当に人の真実のあり方というのを教えてくれる。聖書なんていうのも、人のあり方のありのままの記述だと想うのだが、逆になまなましすぎてついていけない。塩野さんの文才と考察が特にカエサルに関するところで、光輝いている。ちょうどリーダーシップに必要な人のあり方を抽出してくれているように私にはおもえる。正直、私は守勢型の立場にいるので、実はカエサル後の皇帝たちの姿からも学ぶことが多かった。実は、ビジネス書の本棚の一番上にこのシリーズのこれまで出た全巻を置いた。多分、これからもいくども読み返すであろう本との出合いであった。

ああ、そう塩野さんの本は「チェーザレ・ボルジア」からはじまって実にリーダーシップを発揮しようとしている人には参考になる本が多い。ほとんど読んでいると想う。おすすめの作家だ。

4478460019トヨタ生産方式―脱規模の経営をめざして
大野 耐一
ダイヤモンド社 1978-05

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なんというか、ここまでくるともう執念という感じさえするトヨタ生産方式の生みの親の大野耐一さんの明快なご著書だ。企業における生産管理の大切さ、会社がつぶれてしまうのではないか危機感の大事さをまざまざと教えてくれた。サブタイトルの「脱規模の経営」とは、トヨタはGMに規模でかないっこない、ではどうしたらいいのか?、という深い諦念から生まれた大野さんの腹の底からしぼり出すような言葉だと想う。今月号の「選択」によれば、そのトヨタが数年のうちにGMを追い越して世界一の会社になるシナリオが練られているというのだから、商売というのはどう化けるか分からない。大野さんのこの危機意識をに今の自分は正面から取り組むべきなのだろう。

4382042690道元禅入門
田里 亦無
産能大出版部 1973-05

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気がついている人がどれだけいるかしらないが、本ブログのサブタイトルである「自己をならふといふは 自己をわするるなり」という言葉は、道元の「現成公案」の言葉だ。実は、経営と禅はかなり密接な関係にあると私は信じている。私は今、本書の著者である田里亦無 先生が開かれた会に参加させていただいている。まだ入門すらできずにいるのでここで書くことがためらわれるのだが、この会を継がれた佐藤無得先生とお会いするたびに蒙を啓かれるというか、新鮮な驚きを感じる。本書との出会いも、この会との出会いも人によってもたらされた。やはりご縁なのだなという実感が、私がブログを書き始め、べき乗則にはまる原因だった。禅と経営との関係をどう感じるかは人によって違うかもしれないが、私にとって禅は不可欠なのだと断言できる。



こう書いてみると、読書について経年的に書くということは、実は自分のこれまでについて語ることなのだと納得する。企図せず恥ずかしい自分自身をさらしてしまった。万一、どなたか商売を志す方に役に立つようなことがあれば、それは望外の幸せであろう。

■参照リンク
ピーターの法則 by 堀内 浩二 さん
「峠」から「菜の花」へ by あくびさん 私もきっといつか息子に読ませよう
安岡正篤 【経営倫理学用語辞典】初稿  by 曹操閣下さん
六韜(りくとう)をご存知ですか? by toritons  今度守屋先生をお招きします
無事帰宅 by usamiさん ごぶさたしてます。同じ感想を持っていてくださってうれしいです。
「トヨタ生産方式―脱規模の経営をめざして」(最近読んだ本) by yutahiroさん
仏教入門その4 by finalventさん
興味がてら読んでみるのもいいかもしれません  by 大西学さn

■お詫び 平成17年9月13日

お恥ずかしいのですが、「パーキンソンの法則」と「ピーターの法則」を記憶違いしていたことにいまごろ気づきました。

4478760853ピーターの法則
ローレンス・J・ピーター レイモンド・ハル 渡辺 伸也
ダイヤモンド社 2003-12-12

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もうしわけございません。ただいま、名誉挽回のため鋭意読書中でございます。読了しだい「書評」させていただきます。

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コメント

選書で人となりが分かりますね。ひできさんは人格者だと思います。

数ある司馬作品のうち「峠」を挙げたひできさん、いいですねぇ。私も「河合継之助」→「陽明学」→「安岡正篤」と辿りましたので。ただし、「王陽明研究」は中途で挫折し、「伝習録」→「言志四録」と読みました。文字通り「彫るように読む」ことを求められる書です。

この機会に「六韜・三略」手を出してみようかと。

投稿: Dain | 2005年9月 8日 (木) 10時10分

Dainさん、こんにちは、

さすが!やっぱり、Dainさんとは気が合いますね。

「言志四録」といえば、私の父の師である越川春樹先生が熱をこめて話しをしておられたお姿を想い出します。「伝習録」は、先日お会いした福田先生が強く勧めてくださったこともあり、河合継之助が担いで持って帰ったというエピソードもあり、ぜひ読みたいと想っています。ちなみに、福田先生との出会いは記事にしてます。

http://hidekih.cocolog-nifty.com/hpo/2005/07/buddha_and_powe_f45b.html

本の読み方についても、最近簡単にさらっとよむのでなく、「耽読」するとか、「彫読」するとかが大事だと強く強く感じて折るとことでした。いやぁ、本当にうれしいです。

あの、ここに書いてしまってよいのか疑問ですが、たまたま今度守屋先生をお招きして千葉県成田市で講演会をやります。もしご興味があれば、ご案内しますよ。

投稿: ひでき | 2005年9月 8日 (木) 11時12分

 言志四録は、言志録、言志後録、言志晩録、言志耋録の全4巻を総称したものです。それぞれに対応し、講談社学術文庫から4巻構成で出ています…が、最初の言志録だけで充分かと。シリーズ物は後になるほど落ちるのは、映画に限ったことではないようで。あるいは私がまだ未熟者だからなのかもしれません。人生で定期的に読み返す本となっています。

 講演会はとても興味があるのですが、現在大阪に長期出張の身なのです。残念…

投稿: Dain | 2005年9月 8日 (木) 15時06分

Dainさん、こんばんは、

ありがとうございます。越川先生のご著書はたしか抄録だったと思います。なんというか、古典というのは自分の人生の生き方に照応する言葉が残ればいいのかな、と。数少ない言葉を彫るようむ読むというのが、実践ではないかな、と最近感じております。知識の量で人生をいきるのではないな、と。

そうですか、たくらみが見破られましたね(笑)。いんやぁ、一度お会いしたいと想っております。

投稿: ひでき | 2005年9月 8日 (木) 23時27分

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