[書評]孫子とビジネス戦略 Suntzu Strategies for the Business War
古今の中国の話が続く。
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孫子とビジネス戦略―成功し続けるリーダー、企業は何を考えているのか 守屋 淳 東洋経済新報社 2004-05 by G-Tools |
著者のお父上からお送りいただいたので、さっそく読ませていただいた。これは商売を志す人にとってすばらしい本だ。著者はきっと数百冊、数千冊のビジネス書、古典を読みぬいた上で本書を書かれたのだろう。そして、読者は、本書を読むことにより数百冊のビジネス書を読了しただけの功徳が得られると思う。しかも、本書で議論される多くのビジネス書、ビジネス戦略をつなぐ縦糸が、多くの経営者によって愛されてきた「孫子」なのだ。「孫子」は実に、奥が深く、現実の経営の諸問題に応用が利きやすい。
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孫子の兵法―ライバルに勝つ知恵と戦略 守屋 洋 三笠書房 1984-10 by G-Tools |
エッセンスをまとめた本書のエッセンスをまたまとめるというのは、私の手に余る仕事だ。このブログらしく、ここのとろこの議論してきたネットワークや、適応度地形、「ピーターの法則」などと関連をつけながら、本書の書評とさせていただきたい。
本ブログに近い話題だなと、思わずにやりとしてしまったのが、本書で展開されている孫子とランチェスターの法則の関係だ。2000年以上も前でも、戦い方というのは現代戦といっしょなのだ。
十の力で一の力を相手にする
十を以ってその一を攻むるなり
この孫子の言葉の意味するところは深いと前々から感じていたが、孫子をベースにソフトバンクの孫正義さんが「孫の二乗の兵法」というのを創っていたとは知らなかった。確かに、孫正義さんの商売の仕方は実に孫子とランチェスターを勉強している感じがある。「二乗の兵法」の中に「一流攻守群」という言葉があるそうだ。これは、ナンバー1になれる分野に絞って闘え、という意味らしいのだが、これは実に孫子の「無理なく自然に勝つ 勝ち易きに勝つ」という言葉の実践そのものであり、ランチェスターの法則通りの戦い方だ。「べき乗則」とも関連があるような気がする。
また、兵法で扱う「地形」(地形篇)を商売における「市場」と読み替えるコトラーや、IT関連のジャーナリストであるらしいウェブスターの解説が紹介されているが、自分を「市場」環境のどこに置くかということは、商売の肝であるといっていい。私も日々実感するところであるが、自分が取り組む「市場」を選択するというのは、まさに戦地に赴くといってもいいだけの決意が必要な行為だ。孫正義さんばりのM&Aというのは、まあ空挺部隊が降下を行うようなものなのだろう。
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孫子『兵法』に学ぶベンチャー企業戦略 ブルース・F. ウェブスター Bruce F. Webster 渡辺 了介 翔泳社 1997-03 by G-Tools |
本書でなるほど!とうなずいてしまったのは、最後の章をまるまる「非『孫子』的戦略」にあてていることだ。さすがに、商売と兵法は違う部分がある。それは、時間のスケールのとり方でもあろう。兵法というのは、ある意味「勝ち」に向かう坂を一気に駆け上がるような行為だ。みなが見えている頂上を目指して徒歩で、馬で、戦車でかけあがる(*1)。「兵は詭道なり」であるから、早く坂を駆け上がるのに方法はなんでもかまわない。しかし、適応度地形における部分的な適応について何度か議論してきたように、時には部分的な「敗北」を意味するとは知りながらも坂を降りることも必要だ。商売において、経営者が商売に飽きてしまうこと、つまり、小さな坂の上に満足してそこから更に上にのぼり続けるのを怠ることが最大の危機であると私は感じる。そのためには、場合によっては、小さな坂を一旦降りること、つまりは試行錯誤が不可欠である。このことを筆者は、論語を引きながら見事に解説している。小さな坂に満足してしまうということは、あたかも生物の進化において多くの種が局所的な適応を果たしたがために、次の時代に生き延びることができなかったようなものだ。
こう書いてくると昇進の末に「無能状態」に陥るというピーターの法則と真っ向から逆のことをいっているじゃないか、という意見が飛んでくるかもしれない。実は、局所的適応とピーターの法則とは、コインの裏表の関係なのだと思う。組織人としての「進化」がとまっている、あるいは学び続けるのをやめているのにも係らず、昇進を続けるために「無能」に陥るという状態を示したのが、ピーターの法則なのだ。また、この「坂をおりる」ことがどれだけ大変なことであるか、ほとんど不可能なことなのかをピーターの法則は明確に述べている。
組織そのものを単位として考え、組織そのものの適応度を考えれば、組織をとしまく環境は常に変化し続けているため、組織も常に変化しつづけなければならない。「赤の女王効果」というやつだ。組織にとっては、坂を登りつづけているか、下っているかしかなく、平衡状態などというものはありえないのだ。これは、生物が成長であれ、老化であれ、常に変化しつづけなければ生きていけないのといっしょだ。
大分、本書の内容から離れてしまったが、もう少しだけ思考を先に進めたい。
ビジネスという戦略において、組織体が常にネットワーク構造を作り、環境自体を変化させていかざるを得ないという現代の経済体制を眺めるとき、種と種がともに環境を作り合い、競合しあい進化してくという「共進化」という概念に到達せざるを得ない。我田引水のそしりを免れ得ないかもしれないが、ビジネス社会に「共進化」という概念をあてはめれば、孔子の言う「信」ということになるのではないだろうか?やはり、長い目で見れば経営という行為、あるいは戦略という考え方、兵法という競争の方法、すべては「進化」という枠組みに取り込むことが可能であるような気がしてきている。ちと書評から遠くなりすぎてしまったのでこの辺でやめる。
私の誠に至らない書評と至らない考えの開陳にかかわらず、本書は孫子を縦糸にした、ビジネス戦略、マーケティング、ビジネスの実例を確実に身につけることができ好著であることは論をまたない。これはブログを書く私というよりも、経営者としての私が強く感じることだ。私のおすすめの一品だ。
■註
*1 本来の兵法で言えば、坂の上に陣取り、坂を一気に下るのが戦術的には正しい。
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