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2005年10月 6日 (木)

女が男を選ぶとき Up side down, you've turned me!

先日の記事は、まだ前半ということで、なぜ男と女が愛し合わなければならないか、という核心のテーマにまでいたらなかった。今回は「自己組織化と進化の論理」後半のテーマである「適応地形」にチャレンジして、男女別の発生について考えたい。

それにしてものけぞったのは、先日niryuuさん(どこにリンクはったらよいのでしょう?)に教えていただいたグレッグ・イーガンの「ディアスポラ」の冒頭のシーンが、前回の「私」の起源の話と今回の適応度地形の話とかなりかぶっている。いや、当然私のようなわかりにくい書き方でなく実に確実な筆致でイーガンは書いている。すばらしい!

4150115311ディアスポラ
グレッグ・イーガン 山岸 真
早川書房 2005-09-22

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まだ最初の1、2章を読んだに過ぎないのだが、きっとこのSFは線形と非線形ということが鍵になって展開していくに違いないと確信している。まさにこのSFは本ブログのためにあるといえる。あ、いや、逆かな。あはは。

脱線ついでに、カウフマンの言葉の美しさに触れておきたい。こうした科学の入門書としては異例に詩的な表現がちりばめられているように感じる。そもそもタイトルの「自己組織化と進化の論理」の原題は、"At home in the universe"という。直訳すれば、「宇宙の中の我が家にて」という感じなのだろうか。先日海辺にたったとき、自分がまさに非線形な言葉で語られるべき雲や、波や、海岸線や、砂浜の丘や、波乗りする人々といった形にかこまれていることを感動をもって想った。なんと我々は非線形な数学や記述によって語られるべき自然と秩序の中で生きているのか。不遜なことかもしれないが、カウフマンはこのとき私が感じたような実感をもって、このタイトルをつけたに違いないと想う。そう、非線形な論理が横行する暴力的ともいえる秩序の中に我々はひっそりと暮らしているのに過ぎないのだ。こうした詩的表現というのは当然翻訳がよいからなのだろうが、カウフマンは医学、化学にまたがる膨大な知識と洞察を深い言葉で語りながら、ふと「銀河ヒッチハイクガイド」が示す宇宙の最終真理が出てきたりする。実にすばらしい!

ま、前置きはともかく前回と今回の記事のタイトルの理由から書かなければならない。なぜ男と女が生じたのかという話しだ。結論から言えば、適応し、進化するためには無性の単細胞でいるよりも男女に分化したほうがはるかに有利だからだということになる。

進化を扱う生物学では、適応地形ということがよくいわれるらしい。これは、目が青いか、ブラウンか、背が高いか低いかといったn対の遺伝形質があったときに、水辺や森の中といった特定のある環境の中で、どの遺伝形質の組み合わせが適応度が高いかを図形的にあらわしたものだ。

メンデルの法則が示すように遺伝というのは、ある意味でデジタルに伝わると言える。メンデルに敬意を払ってエンドウ豆を例にとれば、さやが黒いか黒くないかが遺伝子のひとつの単位となる。黒いか黒くないかは1か0で表すことができるわけだが、このほかにも、小さい、大きい、しわがある、しわがない、などさまざまな対で存在する遺伝形質がある。対のどちらであるかを、数字の0か1で表して、順番に並べてやると、遺伝形質の違いをは「10100011...」といった数列で表すことができる。一つ一つの遺伝因子は独立で働くとすれば、この数列ひとつひとつがが「黒くて、大きくて、しわのないエンドウ豆」といったひとつの個体としての表現が対応する。これを大きな視点から見れば、ひとつひとつの遺伝形質の表現に応じた個体の環境の中の適応度が想定される。「黒くて、大きくて、しわのない」ことが「白くて、小さくて、しわがある」ことよりも、太陽光線を吸収しやすく、乾燥に強いかもしれない。これは、前者の方が適応度が高いということになる。そして、ここからがカウフマンの偉いところなのだが、この遺伝形質を数列が近いものを近傍としてならべて、各遺伝形質の2のn乗個の組の遺伝形質の表現を平面にあらわした。これを適応度地形という。それぞれの数列に対応する環境の中での適応度をその地点における高さとして表した。ひとつひとつを定義することはできないので、カウフマンはモデルの上ではランダムな数字を割り当てている。当然本来この適応度地形は、ひとつだけ数字が違うものにリンクが存在するネットワークと考えることができる。あるいは、n個の頂点をもつn次元における立体となるわけだが、想定上はこれを高度を持つ平面としてとらえることができる。

詳細は省くが、進化が綿々と続いてきたことを考えれば、生物の発生から現代にかけて全体として適応度はあがってきていると仮定することには妥当性があるといえよう。この状態を例えて表現すれば、でこぼこした山の斜面を登ってきていることにたとえられる。でこぼこがあるので、ところどころ局所的な丘や尾根があっって、登りきってしまった種があったとして、進化が続いてきたのだとすれば、全体として一定の勾配をもっているような適応度地形でなければならないことになる。

これは素晴らしいことだ。多少の疑問はあるものの、私がいまこうして人間として生きていることが、生命の発生から続く適応度の現時点での頂点にあるのだとすれば、我が子孫たちはまだこれから山を登っていることになる。最初に発生したなんらかの生命体から、部分的に適応度が周囲よりも高い丘にとどまる天狗となることなく、斜面を上に上に登りつづけてくれた私の先祖たちのお陰で私はいまここにいることができるわけだ。カウフマンは、NKモデルといわれるごく簡単なモデルを使うことにより、私がいまここに存在しているということは、地球の環境というものは、常に上に登ることのできる勾配をもつ適応度地形を生命に提供してくれているということを示している。

NKもでるというのは、簡単にいってしまえばN個のノードのそれぞれがK個のリンクを持つネットワークといえるのだが、このKのリンクは固定でなく、べき乗則的な分布をするネットワークがウェブの時代になっていっぱいみつかっている。ここのところは大きな問題であり、先駆的な研究が存在するようなのだが、少々別な話なので、別な機会に語る。

そして、カウフマンは同じモデルを使って、単細胞生物が自分の遺伝形質における少しづつの変異だけでは、部分的な適応をしめる斜面上の「丘」にとどまってしまい適応度をあげつづけることが非常に難しくなることも示している。さきほどの「10100011...」という数列で遺伝形質を表すのだとすれば、この中のひとつやふたつの数字(遺伝形質)が変わるだけでは「丘」を降りて、より大きな丘、より高い高地を目指すことができない。鳥がとぶためには、魚がおよぐためには、遺伝形質のひとつやふたつの変異ではない大きなジャンプがどうしても必要なのだ。一方、大きな遺伝形質的ジャンプに必要なほど突然変異がはげしければ、生存に必要な形質を維持できないことも、数学とシミュレーションによって示している。この辺の文学的表現が前出のイーガンの作品にいっぱいでてくるのだが、まあそれもまた別の話。

こうしてやっと男女の問題に到達する。単純にいってしまえば、男が女を選ぶ、女が男を見て選ぶということは、この問題の一部を解決するのだ。生物というのは、自分を十分に見ることはできないくせに、異性だけは見ることができ、交配することができる。突然変異に頼らなくとも、自分の目から見て適応度が高い相手であれば、相手と自分の遺伝形質を2つに1つのくじびきで交配することにより、1つ2つの変異ではきかない新たな遺伝形質の組み合わせを生み出すことになる。どちらの遺伝形質が残るのかは、まったくのランダムとなるので、いまの自分とはかなり違う固体を残すことができる。同時に、両方の形質が現時点で生存可能であることが保証されているわけだから、無性生殖とくらべて大きなジャンプを各代にわたって安全に実現することができるのだ。

ここが、単細胞であって十分に満足していた生物と、多細胞になり細胞レベルで言えば自分の死を選ぶことを強要されることになっても、より多くの「丘」を登っていくために自ら選んだ進化の方向であったのだ。つまり、男女の愛のために死すべき定めを生物は選んだのだ。カウフマンは、言う。

「細菌のように永遠に分裂を続ける不死の運命を、放棄しなければならないからである。」

もちろん交配だけでは、もっともっと大きな鳥が空を飛ぶための進化のステップを説明することはできない。それでも、無性生殖で空を飛ぶことを目指すよりも男女の交配があるモデルの方がはるかに先にこの進化を達成するであろうことは想像をまたない。

そう、そしてこれが今日の結論。だから、女は男を選ぶのだ。あるいは、男は女を選ぶのだ。自分の個体の死を明らめてでも。

■参照リンク
「銀河ヒッチハイク・ガイド 」ガイド2 by catfrogさん

■なんとなく追記

ネタを明かすと全然価値がなくなるとはわかっていても、つい...これは本当に何度聞いたかわからなく以来大好きなアルバム。とても、シンプルなのにいつまでも飽きない。

B00000J2RGDiana
Diana Ross
Motown / Pgd 1999-05-18

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