« [書評]相対幻論 context on the network world | トップページ | 東京ブロガーカンファレンス 雑感 tokio blogger conference »

2005年11月13日 (日)

[書評]悪人正機 (吉本隆明) let's get physical!

4101289220 悪人正機
吉本 隆明 糸井 重里
新潮社 2004-11

by G-Tools

多分、大きな円を描いて人の生き方というのは変わっていくのだ。

著者の吉本隆明さんと言う人は、本当に人生の達人なのかもしれない。本気で取り組まれた著作を読んだわけでもないのだが、本書でおもしろおかしく語られている生き方は、私がリアルで人生の達人であると尊敬申し上げている方のおっしゃること非常に近い。もっと言ってしまえば、仏教関係の著作で「悪人正機」という言葉が出てくる「歎異抄」というよりも、私にとっては道元の「正法眼蔵」と響き合うような気さえした。

著者は、本当に正直に身体をベースに思考しているのだなと随所で感じた。著者は、かるがると「知識なんてものは、枝葉にすぎない。身体の問題こそが幹だ。」なんて言ってのける。既に古代オリンピックで基本的な陸上競技が網羅されていたように、人が人になってから今日まで身体の使い方は大して変わっていない。シンクロナイズドスイミングなんて無理に身体を使っているから我慢比べみたいに見えると、著者は言う。新しい問題は常に出てくるわけで、それはその都度その都度で解決していくしかない。それは、あたりまえ。言ってしまえば、知識はシンクロナイズドスイミングみたいなもので、あくまで身体が基本であって、知識は枝にすぎないのだ。

今のブログ界隈に生息する人々にもぜひ読んで欲しいと想うような章もあった。

そうそう、モテるか、モテないかについても、男女間の距離の問題であって、絶対的にモテる、モテないということではないと喝破している。私は全く不勉強なのだが、現在Web2.0という話題がブログ界隈ではホットのようだが、著者はネット社会についても、技術系が人間があまりに簡単にネットによって進化するであろうということに疑問を呈していたりする。人が変わる変わらないというのは、身体の問題であって、精神や知識の問題ではないというのだ。私はこの意見に深く共鳴する。

逆に身体の問題であるからこそ、歴史的な事象に対して身体の内からアプローチすることが可能であると著者はいう。例えば、源氏物語の当時の人々は風景に「声」を感じていたのではないかという、現代から見た源氏物語でなく当時の人の目線に立った源氏物語を感じるべきであるという話があった。一見荒唐無稽のようだが、寂寞とした風景を源氏の君が見たときに感じたかもしれない「声」を私もすこしだけ感じる部分がある。あることが終わるのを待つ時間、あまりに長かったので読了した本書と妻の読んでいた雑誌を交換したのだが、この章を読んで妻は私より実感を込めて、「そうだね」と言っていた。

身体に正直になるといろいろなことが見えてくるのだろう。自分にできることの更に上を目指すのではなく、その少し下をなすべきなのだという意見にも感心した。今の社会の中で、どうしても上昇指向から逃れる術がない。背伸びしてでも、少しでも高く、少しでも多く見せようとするのが、今の時代の標準的な志向性だ。この姿勢には、進化経済学というか、「ピーターの法則」の一番核心の部分を感じるのは、私だけだろうか?

[書評]ピーターの法則 (HPO)

著者に凄みすら感じたのは、経営やお金の感覚について語るときに実に経営者以上の感覚を捕らえているように感じらることろだ。「会社は平べったくなければならない」とか、「金持ちになるのは、借金して返せなくなるなんてことを気にしない人たちだ」とか、私も経営者のはしくれとして、多分そうなんだろうと感じる言葉が並んでいた。

昨年入院していらっしゃったのだそうだが、退院後に付け加わった一章がすばらしい。「意識的であるうちは、だめだ」という言葉には、身体ということを永年テーマにしてきた著者の至言だと私は感じる。

あ、それにしても失礼なことを書いてしまえば前回「相対幻論」で献上した糸井重里さんへの「一種の天才」という言葉は撤回させていただく。著者の生の言葉の持つ迫力の前では、失礼だが各章の最初に載っている糸井さんの言葉がうざく感じられて仕方がなかった。

[書評]相対幻論 context on the network world

しかし、一番の驚愕は、最後の最後に来て著者が中沢新一さんを称揚していることだ。しかも、まがりなりにも思想的なことに興味を持ち始めたきっかけであり、私が最初に触れたチベット仏教の書であり、サンスクリット語を習う気にさえしてくれた中沢新一さんの「チベットのモーツァルト」に著者は言葉を寄せていたというのだ。

4796701362チベットのモーツァルト
中沢 新一
せりか書房 2000

by G-Tools

嗚呼、私にとってのこの円環を感じさせてくれたすべての方々に感謝したい。

■参照リンク
[書評]心とは何か(吉本隆明) by finalventさん

はずかしげもなくトラックバックしてしまおう。この数日のfinalventさんの記事すべてにトラックバックしたいくらいなのだが、それはあまりに身の程知らずであろう。いくら私でも「羞恥心」は「しゅうちしん」と読むのだと言うこと位は覚えた。

|

« [書評]相対幻論 context on the network world | トップページ | 東京ブロガーカンファレンス 雑感 tokio blogger conference »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: [書評]悪人正機 (吉本隆明) let's get physical!:

« [書評]相対幻論 context on the network world | トップページ | 東京ブロガーカンファレンス 雑感 tokio blogger conference »