[書評]セクシィ・ギャルの大研究―女の読み方・読まれ方・読ませ方 Advertisement, Sexuality and Semiotics
![]() | セクシィ・ギャルの大研究—女の読み方・読まれ方・読ませ方 上野 千鶴子 光文社 1982-10 by G-Tools |
年の瀬というか、今年最後の記事が、扇情的な昭和50年代カッパブックス的なタイトルの本書だというのも、なにか来年を暗示するものがあるのだろうか。タイトルとは裏腹に、本書は商業広告におけるセクシュアリティーを記号論の観点から見事に論じた良書だ。出版されて30年近く経過した今にも通じる分析がちりばめられていると思う。また、セクシュアリティーの発現については、palさんの記事に大変刺激を受けていたところだったので、興味深かった。
本書の背景となるのは、デズモンド・モリスやコンラート・ローレンツあたりなのだろうが、これをもろに日本の広告写真の分野に応用しているのがすばらしい。視覚的な「記号」というのは、上野千鶴子も四半世紀前にはこうであったのかと実感した。ちなみに、本書は彼女の「処女喪失」作なのだそうだ。
![]() | マンウォッチング〈上〉 デズモンド モリス 藤田 統 小学館 1991-11 by G-Tools |
広告の世界にこれだけ性的なシンボルがちりばめられていたとは知らなかった。本書のすぐれたイラストを転載できないのが残念なのだが、マスの広告において、直接的な性的な表現形態でなくとも、またほんのちょっとしたしぐさ、かるく傾けた姿勢などで記号的な意味と意義をもって使われていることを見事に分析している。広告だけではなく、商品のデザインや商業アニメーション、実写の映画など表現の世界でいくらでも応用可能な、陰喩的でもある性的な誘惑、拒否、逃避、あるいは、反発と見せた服従などの性のトリックがふんだんに掲載されている。これを読んでいると、男女の関係とは遙か過去から続く所詮ゲームのようなものなのだと実感する。
また、女性が同性を見る視点はすでに男性の視点を我が物としているのだという分析があった。この辺が記号の記号たる部分なのだろうか?欲望と直接結び付いていると仮定してしまいがちな男性が好んで見る女性的な特徴(そう例えば豊かな乳房など)というのは、性的な記号として実在しうるということであるのだろう。なんというか、上野千鶴子は本書によって「処女喪失」することにで、より自由になれたのではないだろうか。「私の中の彼へ」直接触れることができたのではないだろうか?ま、男性としての性を持つ私としては、女性が男性の視線、記号の体系から開放されてしまったときに、いかなる結果が待つのかは、そら恐ろしいものがある。
しかし、ここにおいて、初めて体験としてのフェミニズムの一端を初めて理解できるような気持ちになった。つまり、フェミニズムは理論体系としての固定的な学問なのではなく、手段あるいは獲物がなんであっても自分で自分を開放するための体験なのだ。ある女性にとってはそれは古典文学かもしれないし、別の女性にとっては商業広告かもしれない、あるいは、男性とのつっこんだ交際ですらそのきっかけとなりうるのかもしれない。うまく言えないのだが、この辺に捕食生物としての女性の性を感じるのは、私だけだろうか。
男性側からすると、左手で右側の髪を触ること、ポケットに手をつっこむ動作、ぬれたくちびる、これらがどのような性的な象徴を持っているかについてのあまりにあからさまな議論には当惑されるが、この時点の上野千鶴子にはとても必要なものであったのだろう。もしかすると、いまブログ界隈で議論されている女性と男性の関係について割りと深いところから示唆をあたえるのではないだろうか?多分、絶版になっているのだろうが、私も古本屋で見つけることができた。機会があれば一読されることをオススメする。
■参照リンク
・異性を騙すヒト by pal さん ちなみに、この記事を書いている途中で妻が私の背中に立った。たまたま開いていたpalさんの記事の「尻」のイラストを見て、「こういうのっていかにもオコト好みの格好よね。palさんにだったら、いつでも私のを見せてもいいわと言っておいて。」と言って、紅白の観賞へもどっていった。orz
・【気儘に】あふぉざんす(三) 萌 by it1127さん
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コメント
ひできさん ども。
うお"ぉー、なんと扇情的なタイトル、萌萌ですにゃー、今年の締めくくりにふさわしいと言うかなんと言うか、ひできさんらしい(爆)
私も上野千鶴子さんの著書を用意していたのですが、未だ手付かずです。いずれこのエントリにもコメントを寄せさせていただきます。が、予定は未定です(笑)。
投稿: it1127 | 2005年12月31日 (土) 22時01分
it1127さん、こんばんは、
コメントありがとうございます。
書いているうちになんか全然別な出口にぶちあたってしまいました。不思議な感じです。フェミニズムの方に初めて親近感を覚えています。
んなわけで、今年もありがとうとざいました。よいお年をお迎え下さい。
投稿: ひでき | 2005年12月31日 (土) 23時27分