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2005年12月14日 (水)

[書評]ワイルドスワン Chinese Reality and Japanese Fantasy

4062637723ワイルド・スワン〈上〉
ユン チアン Jung Chang 土屋 京子
講談社 1998-02

by G-Tools

「ワイルドスワン」を「公」への信頼性の物語として読み解くことができそうな気もしている。また、家庭における普遍的なつながりを再考するきっかけとしても、読めそうだ。

本書で圧巻なのは、文化大革命に代表される政治の苛烈さだ。

本書を読んでいる間、悪夢の中をさまよっているようであった。私の頭の中は祖母、母、娘と連なる「ワイルドスワン達」の生き様と自分が少しだけ体験してきた現代の中国の姿とでいっぱいになっていた。なんというか、自分の生き方の反省を迫られるような迫力があった。文化大革命における著者の家族構成といまの私の家族の構成が近い。「お母さん」が38歳で「下放」されたときの様子を「50代以上に見えた」と書かれていたのに胸が痛んだ。

それでも、これだけの激動をこの家族が生き抜いてきたのは、意思の力と家庭の教育力の力なのだと思う。著者の父の王愚(愚に徹する)という名前の通り、父親は子どもに真実の信念を見せたのだと思う。また、この父親は、書籍の読み解きを通して、古典を含む生きた学問の形を子どもに見事に伝えた。私は私の家族にこれだけ誠実でいられるであろうか?

それにしてもここで語られるのは、生きた歴史なのだ。フィクションでない歴史をまなぶことは、今を理解することになる。ここで述べられた真実は、現在の日本にもそのままあてはまるのかもしれない。中国の歴史に何度か見られた政治への民衆の参加という問題は、日本においても切実な問題であろう。このまま政治への無関心が続けばかならず民主主義の変質をきたすことにつながるのではないか?日本における民主主義と権威主義政治、そして無関心の果ての形式的法治主義が深刻に問われる日は近いのではないかと感じた。

歴史を通して民族性は変わらないのかもしれないと数冊の中国関連の本を読んで感じていたのだが、現在表面に見えてきている中国人の特性のいくつかが顕著になったというのものはかなり文化大革命の影響であったと知った。いや、本書によれば民主主義と大改革を志向した中国において、毛沢東が皇帝への先祖帰りを起こしたというべきなのだろうか?「ナウシカ」の皇弟を思い出す。

本当の中国を知っていますか? by 山本秀也さん

考えてみれば、映画の「ラストエンペラー」における満州帝国崩壊後の展開というのは、いや、満州帝国の成立と崩壊自体、本書と重なるのだ。私は、ラストエンペラーの最後ので紅衛兵が旗をふりかざしながら踊る場面が異様な感じがした。また、文化大革命で「この人は人生の教師だ」と訴えるシーンも印象的だった。それらのシーンがなぜ異様であったのかが、本書においていくつか解決したように思う。あの時代は、中国人にとってすら本当に異様な時代であったのだ。そして、その異様さは現代の中国に直結していることを、足を踏み入れた人々は必ず感じるであろう。

B0001CSB80ラストエンペラー
ジョン・ローン ベルナルド・ベルトルッチ ジョアン・チェン
松竹 2004-11-25

by G-Tools

ここのところ、中国びたりであったが、どうも中国人の話を読んだり、聞いたりしていると自分がはだかになったような気がする。なんというか、欲望も、性愛も、自己を強く主張する生き方も、あまりにあからさまなのだ。逆にいうと日本人というのは、ある種のファンタジーというか仮定の中でのみ生息できるのということなのかもしれない。いわく、「人のためにしたことは自分に返ってくる。いや、無私であるべきなので、返ってくることすら期待してはいけない。」。いわく、「一筋の道を追求しつづければ、必ず達人の道に達する。」。いわく、「純粋無垢であることは価値のあることである」。

これらは、仏教や禅がまだ日本の中でこだましているから、みながそう仮定を置けるのかもしれない。そして、それがいまの日本の生産性の高さの原動力のひとつであるような気がする。これらの「仮定」も今後民主化、形式的法治主義がすすめば、すすむほど消えていってしまうのだろうか?私たちはまだ「公」への信頼を持ち続けていられるのであろうか?

あまりに個人的なことだが、著者の家族の仏教への信仰の深さが私にとっては救いだ。

■追記

406206846Xマオ―誰も知らなかった毛沢東 上
ユン チアン J・ハリデイ 土屋 京子
講談社 2005-11-18

by G-Tools

そういえば、これも読まなきゃ。

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コメント

ひできさん、こんにちは。

「ワイルド・スワン」という言葉に反応しました。この本の存在は知らないのに、どうして覚えがあるのだろうと、気になって「ワイルド・スワン it1127」で検索してビックリ。検索結果2件の内の一つが「Hiroetteさんの日記のログ」でした(笑)。で、そこを辿っていって、なぜわたしの記憶に「ワイルド・スワン」があったのか分りました。以前「身体の零度」(三浦雅士著)という本を読んでいて、その中に、パールバック「大地」とユン・チアン「ワイルド・スワン」の、視線の違いを対比させた記述があって、それで覚えていたというわけです。で、ひできさんのような、「「公」への信頼性の物語」としての読み、三浦雅士のような「弁髪、纏足、美容などの身体に対する、集団意識、階級意識、時代の意識」という読み、テクストの読み方の多様性が面白いと思った次第。

投稿: it1127 | 2005年12月15日 (木) 13時43分

it1127さん、こんにちは、

なるほど、この辺ですか?

http://it1127.cocolog-nifty.com/it1127/2005/12/post_70e8.html

非常に共感してしまいます。って、これってつい先日の記事ですね。やはり、どうもブログ界隈で中国ネタって多いですよね。

投稿: ひでき | 2005年12月15日 (木) 16時48分

あっ、中国ネタってのも共通しますね。気がつかなかった。でも、今回は、「纏足」がキーワードです^_^;
http://it1127.cocolog-nifty.com/it1127/2004/07/post_4.html

投稿: it1127 | 2005年12月15日 (木) 17時41分

でも、Hiroetteさんの記事というのも共通してますよ(笑)。

投稿: ひでき | 2005年12月15日 (木) 18時01分

あっ、それで触媒ね。いま納得(爆)☆.。.:*・゜☆.。.:*
あまりにも、当たり前のことだから、見落としますた。。。ぴよぴよ(^_-)-☆

投稿: it1127 | 2005年12月15日 (木) 22時00分

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