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2005年12月21日 (水)

[書評]倒壊 - 大震災で住宅ローンはどうなったか various cases

4480420444倒壊―大震災で住宅ローンはどうなったか
島本 慈子
筑摩書房 2005-01

by G-Tools

思っていたよりも、建築というよりローンや、被災者のお話の分量が多かったので、ここで書く。本書は、阪神大震災の時に、今話題になっている構造偽造事件のマンションの建替え、補修といった問題と同様の困難に直面された方々の姿が描かれている。住宅ローンが残って、住宅が消失してしまうというやるせない心境に共感せざるを得ない。

本書の記述だけでは、よく分からないのだが、比較的マンションというのは、旧い戸建てなどに比べて損害や、死傷者の発生というのは少なかったようだ。「倒壊」とかいうと、9.11の時のように完全に高層の建物が崩れ落ちてしまうような印象があるが、梁や柱が座屈などして、使用を継続するのが危険という状態になるマンションが多かったようだ。「中破」以上のものも大分あったが、文字どうり「倒壊」して、人がなくなったマンションはごく少数だったらしい。この辺は、1Fに柱しかないピロティー構造になっていたか、全階を通じて壁がバランスよく配置してあったかといった建築の構造のバランスの考え方でも大分結果は違ったらしい。

それはともかく、筆者によればこの震災で実に1万5千世帯以上の方々がローンを抱えながら、住宅の滅失という状態にあったらしい。「滅失」に至らないまでも、ローンを抱えながらもかなりの修繕が必要な状態に陥った方々がもっともっと多くいたのではないだろうか?世帯により、大分レベル感は違ったのではないかと思うが、それでも何万もの人が住めないか、補修が必要な住宅のために重いローンをかけて、被災生活を送っていらしたという現実が本書において生々しく描かれている。

先日、it1127さんからヒントをいただき、現在の構造偽造マンションの建替えで、つくば方式(定期借地権/スケルトンインフィル分離方式)はどうかというアイデアを考えていたのだが、既に神戸で具体的な提案があったようだ。しかし、全体で100棟あまりの分譲マンションが建替えられた中で、2件と実例は少ない。ということは、定期借地法式は決して決定版という解決策ではなかったのだろう。今回の例でも、都市再生機構などに土地の権利を譲り渡し、定期借地の建物所有と純粋な賃貸借に権利を変えてしまうというのが、わりと大きな負担がなく建替える方法だと私は思っていたのだが、理想と実際はあくまで全く別なのであろう。

著者の記述から類推すると、どうもマンションの建替えはそのマンションの中できちんとコミュニティーができていたかどうかが重要だったと感じさせる部分がある。まして、定期借地権方式という土地の権利を公社などに売り渡してしまうという考え方は、なかなか難しいものがあるのかもしれない。土地を所有するという選択に多くの人はこだわっているのだ。

マンションを巡る実例としては、本書に描かれている建替えか、補修かをめぐっての区分所有法下におけるトラブルについてのインタビューも心が痛む。みんな異常な状況の中、誤解が誤解を産み、裁判沙汰になり建替えも補修もできないマンションの管理組合があったらしい。こうしたケースも、大変残念だが今後さまざまな場面で出てくる話だろう。

私は、阪神大震災の時に、公費はほとんど投入されなかったと記憶違いをしていたのだが、解体に対してはかなりの公費が投入されたようだ。今回の偽造によるマンションの解体費用の地方自治体等の負担というのも、まんざら先例がなかったわけではないらしい。ただ、補修よりも建替えに向けて政策誘導が行われたということに著者は疑惑を感じている。しかし、この辺にゼネコンや政府の強い意図を見出し実証するのは難しいだろう。

震災における悲劇というのは、これまで賃貸にいた方が被災者向けローンで家をたて、それまで持ち家だった方がローンを抱えて借家住まいになるというケースも結構あったらしい。今回もそのような形が出てくるのだろうか?

なによりも、胸をいためずにいられなかったのは、自己破産を選択した少数の方々の話だ。しかし、これも明確には書いていないが、自己破産を選択した人は無理にダブルローンを抱えてしまった方など、1万5千世帯に比べると本書が書かれた98年までで数十、改訂された04年までで数百という単位らしい。今回の事件では、そのような方ができるかぎり発生しないことを祈るばかりだ。

本書は、全体として女性的というか、取材対象の方々への共感が前面に出ていすぎたことが気になるのだが、今回の構造偽造で被害を受けられたマンション住人の方々にはぜひ読んで参考にしていただきたいと切に思った。

あ、そうそうやっぱりマンションというのは、新しいムラの形にならなければならないんだなと実感した。住人のお互いが信頼関係が築けるマンションであるかどうかが、マンションの価値に直結しているという事実が、実はある。

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コメント

ひできさん、こんにちは

>震災における悲劇というのは、これまで賃貸にいた方が
>被災者向けローンで家をたて、それまで持ち家だった方
>がローンを抱えて借家住まいになるというケースも結構
>あったらしい。今回もそのような形が出てくるのだろうか?

こんな場合に、被害者の方には申し訳ないのだけれど、何とも皮肉は話しですね!

投稿: it1127 | 2005年12月22日 (木) 14時23分

it1127さん、こんにちは、

本当に禍福はあざなえる縄のごとしですね。

最近、中国古典にはまっているひできでした。

投稿: ひでき | 2005年12月23日 (金) 13時32分

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