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2006年4月 1日 (土)

[書評]キリストの勝利 Victory Over Roman Empire?

結局、「ダ・ヴィンチ・コード」は十分すぎるほどハリウッド的エンラーテイメント小説だった。背景には、キリストの教えがカソリックという世界宗教に変質していく過程での史的事実に基づくミステリーがあった。一方、「キリストの勝利」は、カソリックがローマ帝国の国教化されていく過程そのものを描いていた。しかし、どちらを読んでも何故キリスト教がカソリックになった理由に肉薄できる気がしない。私が単に無知だというだけなのだろうが、なにか言及されていない流れがあったような気がしてならない。

4103096233キリストの勝利 ローマ人の物語XIV
塩野 七生
新潮社 2005-12-27

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「キリストの勝利」に登場するアンブロシウスとも実際に会っているアウグスティヌスについて松岡正剛さんは、こう書いていた

なんとも三位一体論とは恐ろしいものである。これは小声でいうしかないが、こんなことはむろんまったくのデッチ上げであり、しかも最も神聖な論議を尽くした末の成果だったのである。アウグスティヌスはそれをいっさい引き受けたのだ。ぼくにはいまもって、一人でこのことの秘密を告白する勇気をもちえない。

アウグスティヌスにおいて体系化された教えが、三位一体だというのが、カソリックの成立においてとても重要だ。三位一体というのは、祈りのたびに唱えられる例の「父と子と精霊の御名において」というやつだ。そして、この祈りの背景に松岡正剛さんが指摘するように強引に思想化したための「秘密」があるのだとすれば、重大な問題だ。また、「キリストの勝利」によれば、国教化していく中でギリシア・ローマの神々だけでなく三位一体派以外が迫害されていく様子が描かれている。

そして、「異端」であろうと「異教」であろうと、公的であろうと私的であろうと、それに関係するすべてのミサも祭儀も禁じられ、これに反した者の全資産は没収され、国庫に修められると決まった。そして、それは実に厳密に実施されたのである。(中略)だが、聖職者・一般信徒の別なく、幾度となく違反を重ねる者には、死刑さえも待っていたのである。キリスト教徒でいながら同じキリスト教徒から迫害を受け、悪くすれば殉教すると言う現象の始まりであった。

「ダ・ヴィンチ・コード」にもどって、非常に下世話な話しをすれば、教祖といわれる存在は昔からカリスマ的であり、異性から圧倒的な好意をもたれるくらい魅力的であることが多々ある。キリストも例外ではなく、女性信者は初期の普及に上でとても大事な役割を果たしたにちがいない。しかし、そうした女性原理的要素がカソリックが世界宗教として確立していく上では排除されたのだという「ダ・ヴィンチ・コード」の主張もこうした歴史的文脈において理解できる。

ここで大胆に類推してしまえば、当時のローマ人は、それこそ「経済人の終わり」で描写された第一次世界大戦後のドイツの人々に近い状態であったのではないだろうか?どうも経済も最盛期を超え期待できない、不敗を誇ったローマ歩兵も騎馬族の蛮族相手に精彩を欠いている、自分達の利害調整をゆだねた人格であるローマ皇帝の統治能力もかげりがみえ、税は細かく高く、官僚主義がはびこり、ローマの神々も救いをもたらしてくれない。こうし深い絶望の中終末論的側面を持ち、愛を口にしながら女性原理を否定せざるをえなかったという矛盾を抱えたまだ新興宗教でしかなかった現在のカソリック教会につらなるキリスト教の一派がたまたま強い権威を実現させてしまったという「事件」であったのではないだろうか?

カソリック教会が強かったから西欧文明が19世紀以降世界で派遣を握れたというわけではない。シルヴァーバーグの「永遠のローマ」シリーズではないが、暴君が時折出現する可能では大であったにせよ、ローマ帝国がカソリック化せずにいたら暗黒時代といわれる経済も、科学技術も停滞し、政治的にも分裂した1000年を経験せずに済んだかもしれない。

ローマ帝国は、明治以降の政府にとっての徳川幕府のように、現在も続くカソリック教会にとってアンチ・テーゼであり続けているにだろう。また、カソリックはまだまだ西欧の社会において大きな影響力を持っているのだろう。

私のような素人が手を出せるようななまやさしい問題ではないとよくわかっているのだが、どうしてもカソリックの問題がちょうど1年前のフランス旅行以来頭から離れない。

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