[書評]自己組織化の経済学 その1 ~ 断続平衡 ~ S Curve
H18.4.12 追記
以下、当初書いた内容に間違いを発見し、強いショックを受けた上に、業務に時間をとられブログを更新できなかった。
[前回の内容はここから]
いやぁ、本当に面白かった。
自己組織化の経済学―経済秩序はいかに創発するか ポール クルーグマン Paul Krugman 北村 行伸 東洋経済新報社 1997-08 by G-Tools |
以前もっと既存の科学は、非線形・非平衡の科学の知見を取り入れて再構築すべきだとか、書いたような気がするが、いかに自分の無知をさらけだした言葉だったからよくわかる。
クルーグマンは、いとも簡単に自己組織化を目に見えるようにしてしまう。例えば、技術の優位性による普及率の均衡の変化を示すこのグラフだ。
これは、DVDとVHSのレンタルショップと家庭における普及のシェアを表している。普通、それぞれ直線であると仮定され、どちらか2つしかない技術であるとすれば、どちらかの技術優位性があがれば、なだらかに家庭とレンタルショップにおけるシェアがあがっていくということになる。しかし、直線でなく公文先生のお好きなS字カーブで書いてやるだけで、図だとDVDのコストだとか、画質だとかの技術優位があがるにつれて、どこかの均衡点からVHS市場が崩壊し、DVD市場の独占になってしまう様子が描かれているのがわかる。公文先生が、技術の進歩についてS字カーブにこだわっていらした理由がこれでわかる。直線的に進歩する技術では、なだらかにしか普及率が変わっていかないが、S字カーブであるなら、均衡点が一気に変化する様子を描くことができるわけだ。
と、内容を書こうとした時点で、お呼び出しがかかり出かけなければならなくなってしまった。続きは、正気を保っていられたら今日中に書くつもり。でなければ明日....
[ここまで]
なにで忙しかったかは聞かないでおいて欲しい。とにもかくにも忙しかった。とにもかくにも本題に戻ろう。これが正しい図だ。
あまりにも恥ずかしいのだが、曲線の意味を取り違えていた。「DVDのシェア」と「VHSのシェア」ではない。R曲線を見て欲しい。当初、DVDを置いているレンタルショップが少なければ、家庭でDVDプレーヤーを置いているところも少ないはずだ。ところが、どこかの時点で臨界点を超えると、多分パーコレーション的に一気に家庭におけるシェアがあがる。ツタヤで急にDVDのソフトが増え、DVDプレーヤーまで売り出した頃を覚えている人は多いはずだ。H曲線は、逆に家庭でのシェアが増えるにつれ、レンタルショップでのシェアも増えるだろうという様子を示している。この2つの曲線が交わるポイントが、均衡シェアを示すことになるわけだ。つまり、VHSに負けて非常に少ないシェアに甘んじるのか、二者択一の世界に打ち勝ち、DVDが主流になるかのどちらかで均衡するということになる。
そして、曲線Hが次第に上側に平行移動していくということは、例えば技術革新でDVDプレーヤーが非常に安くなり、レンタルショップでDVDが置いてあるシェアが小さくとも家庭側では「安いから買っちゃえ!」ということで、より多くの家庭がプレーヤーを置くことになるということを示す。均衡点が一気に変化するという説明は↑のとおり。
ここで、このDVDの普及の様子をグラフで表せないか考えてみた。多分、家庭でDVDを買う動機は知り合いが買ったから自分もという、「人は人が欲しがるものを欲しがる」という心理であるに違いない。だとすれば、DVDの普及はパーコレーション的だと言えるだろう。パーコレーションでも、当初はすこしづつ、途中から一気にというロジスティック式的にシェアが増えていくに違いない。ロジスティック式を微分するとシグモイドになる。
・シグモイド、べき分布、そして複雑ネットワークとしての生態学
シグモイド曲線で、クルーグマン先生の曲線をエクセルを使って描いてみた。
わかりにくいかもしれないが、「s(x)の平行移動」という数字を少しづつ上げて行くと、2つの曲線の交点が(-5,0.01)あたりで交わっていた二つの曲線が(-2,0.32)に移動し、さらに上げると(8,1.3)にまでジャンプする様子がわかる。
シグモイドでこの曲線を近似しようとしたのが正しいのかどうかクルーグマン先生の意見を聞いてみたいものだ。
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