« [書評]市町村崩壊 | トップページ | 建築確認行政のIT活用ってなに? »

[書評]「談合業務課」

4334974864「談合業務課」 現場から見た官民癒着
鬼島 紘一
光文社 2005-08-24

by G-Tools


少々、本書を取り上げるのはこのブログには似つかわしくないという気持ちもあるのですが、あえて取り上げさせていただきます。正直に言って、このような本が出ること自体が悲しいです。

本書は、旧国鉄の土地の入札をめぐる官民の癒着があったのではないかということを、その入札で利益をあげた会社に当時在籍していた元社員が書いた本です。この方は、まだその会社の社員であったときには小説じたてで、でも分かる人が読んだらどこの会社かわかる形で同じモチーフで書いていらっしゃいます。私は、社内告発が出ることは情報化が進展するこれからの世の中である意味仕方がないことなのかもしれなとは感じているのですが、元社員が会社を訴えるような本を書いてしまうということがとても悲しいです。会社というのは、社員と経営陣との深い信頼関係がなければ運営していくことはできないものです。しかし、この著者と会社の間ではそれが失われてしまったのでしょう。このことが悲しくてならないのです。

正直に言いまして、私自身も旧国鉄の入札に参加し、土地を取得したことがあります。振り返ってみても、本書が扱っている事件の後だったかもしれませんが、とても不正が行われうるような状況ではなかったです。参加組数は少なかったですが、とても談合も、官民癒着もできない仕組みになっていたように記憶しています。

私は、どちらかというと本書が最後の1章ほどで取り上げられている最近のゼネコンの談合の現場の記述の方が気になりました。電話一本で入札し、落札する会社が決まり、「スタンダード」といわれる見積もりの雛形が各社に配られる様子が克明に書いてありました。本書でなんのきなしに扱われている事柄はあきらかに入札に関する法律や不正競争を防止する規則に触れているといわざるを得ません。

「見積もりを配る」といわれても、一般の方にはぴんとこないかもしれませんが、建築工事で談合が排除できない理由の一つに建築の見積もりの作成コストが高いことがよくあげられます。官庁側としては、法律などで決められた数の業者がひとつひとつの入札に参加してもらうことが必要です。しかし、実際にはランクわけされ、指名の候補とされている会社の数はごく限られているので、1社で年間に何本も入札の指名を受けることになります。業者側からすれば、入札参加の指名を受けることは仕事の機会が増えるのでよいことなのですが、入札の指名を受けたとしても、落札し、仕事ができる分量は限られているので、すべての工事を落札し、建築工事をすることは当然不可能です。それでも、多くの場合、当然ですが労力のかかる見積もりをしなければ入札には参加できません。建築工事や土木工事では見積もりだけで数十ページ、数百ページになることもあるため、きちんと見積もりをするにはかなりのコストがかかるのです。この労力をすべての入札のたびに負担することは、ほとんどの会社にとって不可能なことだと考えている人が多いようです。

このため、最近では見積もりの項目と数量は官庁側で作成し、単価を入れて計算すれば見積り額がでるようになり、官庁側の予定価額も公開されるようになりました。一般の方の側からすれば、入札を官庁側から指名するのではなく、一般から広く募集する形にすれば、入札する余力と意欲をもった会社だけで入札できるからよいのではないかと想うのは当然でしょう。あるいは、自社で見積もりを作る力がなければ入札を辞退すればよいと想われるかもしれません。

現在の入札制度をどう考えるかということについては、また改めて論じたいと思いますが、こうした背景があることを前提に本書の建築談合の部分を読むとその根の深さが感じられると思います。

以前このブログでも書評でとりあげたように、あるいはそこら中で議論されているように、現在急速に国と地方自治体の借金が増えています。そう遠くない将来に、借金を返せない自治体が出るとか、国債事態がデフォルトを起こすことがありうると予見されています。こうした危機的な状況の中で、税金の無駄使いはゆるされない状態にあることは誰の目にも明らかです。しかし、本書でとりあげられたように「談合」はいたるところで、様々なレベルで行われていて、本来もっと安くできるはずのコストが借金をますます増やしているという構造は、変わっていないといわれています。この談合がもたらすコスト高はほとんど周知なことになってきているにもかかわらず、談合がなくなったという話は聞いたことがありません。

[書評]市町村崩壊 (KEN)

私自身も建設業界に現在おりますし、私自身は建設業界の利益で誕生し、成長してくることができたということは変えようのない事実です。本書を読みながら、本当に今後建設業界がどうなっていくべきなのか、深く考えさせられたことを告白しておきます。

■参照リンク
「談合をやめる」と談合した話 by 山口浩さん いやぁ、笑わせていただきました。

|

« [書評]市町村崩壊 | トップページ | 建築確認行政のIT活用ってなに? »

官庁工事」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: [書評]「談合業務課」:

« [書評]市町村崩壊 | トップページ | 建築確認行政のIT活用ってなに? »