建築確認行政のIT活用ってなに?
お役所、法律に批判的なことを書くのは仕事柄非常に勇気がいるのですが、書きます。建築確認に関する行政手続でIT化がもっとすすんでいれば、今回の偽造事件を防げた可能性が高かったのでは、と...
では、現状がどうかというと限りなく紙ベースで建築確認審査業務が行われています。確認申請書を何人の方が見たことがあるか分かりませんが、紙の塊りです。最初の数ページに建築主の名前だの、基本的な建物の構造だの、面積だのを記載する建築基準法と施工例に定められた(確か...)書式の部分だけは、フロッピーディスクにして添付することになっています。受付するとこれまた紙ベースの台帳に書き込みます。紙ベースの申請書は、やたらかさばるので数年たつと破棄されてしまい詳しい内容はお役所に残りません。台帳が残るだけです。民間機関がどのような受付方法、記録方法をしているのかは知りません。あとで、仲間に聞いてみます。
確認申請書の大半は、当然CADで書いた設計図なんですが、図面全体を電子化するのは、まだ共通フォーマットができていないように思います。(違ったら、どなたか教えてください。)ので、確認申請書全体を電子化するのは、いますぐというわけにはいかないと想うのですが、構造計算については「認定プログラム」といわれる独占的な構造計算プログラムが広く使われているので、ほぼいつでも電子化することが可能だと想っています。仮に数種類のプログラムが必要でも、APS化でもなんでもして対応できるようにすべきでしょう。そして、電子化された構造計算用のデータと構造計算認定プログラムがあれば、構造計算の再計算を行って途中で出てくる「NG」をチェックすることはかなり容易です。
「NG」とか言っても分かりにくいかもしれませんが、実は構造計算というのはかなり試行錯誤でやります(*1)。私が構造の先生から聞いている話では、大体経験から必要な配筋や柱の太さを割り出して、構造プログラムを走らせさまざまな検討のパラメーターを出していく中で、「ここがだめよ(NG)」とプログラムが教えてくれるので、では鉄筋の太さを太くしようとか、コンクリート強度をどうしようとか、変数を入れなおして途中経過の「NG」が出なくなるまでこれを続けるのだそうです。重心と剛心を一致させるなんてのもこの中で行うのだと聞いております。
今回の事件において、私が理解している中では、鉄筋量などが足りないにもかかわらず正当な前提の数値を入れて計算した結果(当然、さまざまな値が不足しているので途中で「NG」が出ている)と、故意に地震力などをゆがめて入力することによって「NG」をなくして計算した結果を差し替えしていることによって一見ただしそうな構造計算書を作ったということです。ですから、本来何百ページの計算書であっても振られなければならない通し番号も改ざんされていたと聞いています。電子化されたデータが建築確認に添付されていて、構造計算プログラムを検査機関側で再計算するプロセスがあれば、改ざんをもっと高い確率で発見できたのではないかと想うのは私だけでしょうか?
この行政のIT化にどれくらの費用がかかるのか私にはわかりませんが、今回の事件の結果、国が負担しなければならなくなる費用、あるいは被害者の方が蒙るかもしれない損害額よりははるかに少ない費用で可能になるであろうと私は考えます。
一方、そこまでやらなくともと想うくらい進んでいる建設に関わる分野があります。それは官庁工事を受注するために必要な「経営事項審査」の結果の公開です。
もし、ご存知の建設会社があれば、所在の都道府県と商号がわかれば検索できますので、やってみてください。官庁工事をやっている建設会社ならかならず出てきます。このデータベースには、売上高から、建築技術者の数から、かなりの情報が載っています。そして、それらを総合して工種ごとに得点化されています。建設業者から見るともう勘弁して下さい、といいたくなるくらい建設業者の情報が公開されている感じがします。
もし、ここまでやるのなら、いっそ現在フロッピーディスクで提出してる建築確認の基本事項だけでも同じように公開してしまってはどうでしょうか?少なくともここ5年くらいに建築確認を提出した情報を閲覧できるようにするのはすぐにできると想われます。これが公開されると、所有者が変わっても設計士、建設会社が誰でも閲覧できることになるので、社会的に信用できるかどうかがより明確にわかるようになると考えます。そう、多分建設会社、建築士をもっと的確に評価できるシステムが理想なのでしょう。
そして、建設会社の情報公開と、建築確認データの公開が定着していけば、現在官庁工事を契約するために必要とされる「履行ボンド」の応用版として、「メンテナンスボンド」を民間の工事に適用することが可能になってくると信じます。
・履行保証とボンド制度 by 草苅耕造さん
現在の履行ボンドの料率は、建設会社の信頼、あるいは工事の難易度などに関わらず一律ですが、建設会社の評価制度などがすすめば市場価格というか、格付けに準じた市場性を帯びた料率を適用するようになるのだと信じます。こうなると、建設会社はまじめに仕事をしないとメンテナンスボンドの料率があがってしまうということになります。事故を起こすと自動車保険の料率があがってしまうのと同じことです。
長くなってしまいましたが、今回の偽造事件で被害をこうむっている方々が一日も早く解決を見出され、日常の生活に戻れる日がくることをお祈り申し上げます。
■参照
・地震に強い国へ by gskayさん
・惜しい!もう少しで完全犯罪。 by 真実一郎さん
・確認済証は正しさの証明か @ 日本地震情報研究会
近年はコンピューターの利用が多くなり、研究内容も早くしかも一段と飛躍してきたかのように思えます。2000年の建築基準法の大改正は、現実にコンピューターなしでは対応出来ないレベルの内容に改正されたと言えます。
■註
私の知る限り、市販されている建築の構造計算プログラムというのは、未だにDOSベースのものがほとんどです。「試行錯誤」というのは、意匠設計と構造設計がまったく別に行われることが多いということに由来するのかもしれません。柱や梁を仮定して、平面図や立面図などのいわゆるデザインをすることを意匠設計といいます。この意匠設計が終わった後に、構造設計屋さんが基礎構造や柱の中の鉄筋量などを算出するわけです。プログラムへの建築構造体モデルの渡し方の問題なのかもしれませんが、既に大枠はきまっている中での構造体の詳細設計がかなり経験則的、試行錯誤的に行われているようです。もしかすると、この辺から考え方を改める必要があるのかも知れません。
これらはまた一般の市販ソフトの話しなので、大手ゼネコンで技術にすぐれたところや、大手設計事務所などではまったく別なもっと自動化されたプログラムが使われているのかもしれません。
■参照リンク
・耐震強度偽装問題の政府支援についてはとく言うこともなし by finalventさん
・公認ソフト購入、建築士増員…自治体が耐震偽装防止策 @ Yahoo!ニュース
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