[書評]マンションにいつまで住めるのか
![]() | マンションにいつまで住めるのか 藤木 良明 平凡社 2004-10 by G-Tools |
私はいうまでもなく日々建築に関わる仕事をしています。つまり、本書で扱われている「分譲マンション」を建築した方々とある意味同じ穴のムジナです。ですから、以下に書くことには、私が好むと好まざるとに関わらず、バイアスがかかっているであろうことをおことわりした上で、お読みください。
正直にいって、本書を読むまでマンションというのがこれほどまでに問題を抱えた住み方であるかよく理解していませんでした。私の専門分野であるマンションの建築についても、まだまだ未整備というか、発展途上の建築手法であるか知りませんでした。
著者によれば、「マンションといえば欠陥という言葉が跳ね返ってくるほどに、建物の欠陥は分譲当初につきまとう問題である」のだそうです。実際としては、民間ばかりではなく、某公団さんが販売された物件で、「あまりのひどさに建築14年目に建物を取り壊して、新築時とそっくりそのまま立て直すという例も出ている」のだという衝撃の事実もたんたんと本書で語られていました。これは、かなりびっくりしました。あれだけ超高層マンションが次々と建てられている中、外壁のメンテナンスの問題、滑落の問題、ベランダを長期にわたり支える構造、結露の問題、配管のメンテナンスの問題など、相当程度研究されつくし、マンション建築というのはすでに確定技術になっているものだと信じてきました。マンションを買う方というのは、相当程度にどのような問題が発生しうるのかというリスクを十分に把握した上で購入すべきなのではないでしょうか?そうでなければ、構造を偽造したりはしないまでも、技術的な未発達に起因するトラブルに入居後ぶちあたることになるかもしれません。
また、「マンションに住む」というライフスタイルというのも、案外確立されていないのでは、という印象を持ちました。ピアノの練習がきっかけとなった殺人事件や、ペットを殺された恨みで起こった殺人事件など、マンションという壁、床一枚を隔てて個々人が住むという特殊な形態であるがゆえに起こった事件は数多くあるようです。ライフスタイルの問題、マンション全体の意思決定の問題など、マンション一棟一棟で解決しなければならない問題は山積しているようです。
まして、本書を読んでいるとメンテナンスの問題も、まだ十分な議論と工法の開発がなされているとは思えないです。マンションを買うのに、多分若い世代の方は30年近くのローンを組むのだと思いますが、本当に30年マンションが十分な利便性を保てるかはなはだ疑問な面がいくつかあります。この辺の議論は、マンションのメンテナンス計画の必要性を説いたという筆者の主張でもあると思います。
マンションに関する法律は既にかなりの数にのぼるのだそうです。
・区分所有法 @ 法庫(以下、3つとも)
・マンション管理適正化法
・マンション建替え円滑化法
・被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法
・中高層共同住宅標準管理規約 @ 国土交通省
しかし、今回の耐震偽造事件を含めてまだまだ分譲マンションに関するトラブルは数多くあり、解決がつかずにいるケースも増えているようです。
やはり、どんなに言葉を変えてみても区分所有というのは結局「共有」という所有形態であることが一番の前提ではないでしょうか?どれだけ壁でくぎり、ドアを立てて、「個」という自分の生活を確保したように見えても、実際は人と共有する壁一枚、床一枚しかそこにはありません。実は、他人と財産、生活を共有しているのです。まして、土地は敷地権というまさに共有物です。
こういう状態で、「話し合い」、「多数決」をベースにマンション管理組合の運営が進められるわけですが、「個」をベースにしているためどうしても個々の利害が前面に出てしまいがちなのだと思います。そして、「共有地の悲劇」という個々の事情が優先してしまうことによる弊害が出てきがちなのではないでしょうか?こうした問題を解決するために、あらたにルールを共有しなければならないという、「個」を追求するがゆえに「ムラ」的なローカルルールが必要になるという矛盾がここにあるように感じます。
・共有地の悲劇 @ ECネット
実は、こうした問題を探るために本書を読んだのではなく、「耐震」という観点から見たマンションについて勉強したくて読みました。本書によれば、マンションという構造はそれでも災害に強いといえるようです。
平成7(1995)年1月17日未明に発生した阪神淡路大震災は、死者6433人、全壊・半壊家屋24万9180等の大きな被害をもたらした。ただし、マンションでの死者はわずかに20数人、住居としての再使用が容易でない大破を受けたもの83棟であった。このことはマンションが木造の既存住宅に比較してきわめて安全な建物であることを示している。にもかかわらず、マンションの震災からの復旧はマスコミによって様々な形で取りざたされ、地震発生から9年を経過した今日においても債権が進んでいない事例がある。これはひとえにマンションが様々な利害、考え方をもった人たちによって区分所有されるという点に尽きる。
この「マスコミによって取りざたされ」という部分がとても気になります。これは、マスコミの方々の報道が再建を阻害することがあったという意味なのでしょうか?それにしても、亡くなった方たちの多くは、マンション以外の構造物で、あるいは火災などで亡くなったということは、やはり防災という観点から都市のマンションというのは有効なのでしょう。
法改正によっての構造体の変遷による影響も記述されています。
昭和45(1970)年以前を第一世代、昭和45年から55(1971~80)年を第二世代、昭和56年以降を第三世代とすると、それぞれの世代ごとに大破の発生率が大きく異なっている。第一世代の発生率は26.5パーセントに対して、第二世代6.5パーセント、第三世代は0.7パーセントに過ぎない。
付言すれば、昭和45年、昭和56年というのは、建築基準法に定められた構造基準がそれぞれ大幅に強化された年です。多分、45年以前の建物と平成12年以降に建てれた建物では、適法に建てられていれば、倍以上の耐震性能があるはずです。
別の本でも指摘されていましたが、本書においてもマンションの補修の積極的な意味が「被災しても、補修でより安全なマンションに直せる」という節で言及されています。やはり、阪神大震災のときは「壊しすぎた」という反省があるのではないでしょうか?
建替えについては、更に恐ろしげなことが巻末近くに書いてありました。
マンションの終末は、私有財産の保全を目的にして集会の合意形成を基盤にした区分所有法では対処できず、街全体、都市全体の観点から、マンションの再生、または区分所有権の解消を行う新しい観点を必要とすると思われるのである。しかし、ここには"公"の大義名分が私的権利を奪う可能性が潜んでおり、実はここのところがマンション問題にとって最大の過大になる。
なんといか、ここまで来ると真剣に「個々の利害」に固執するか、「全体の利害への長期的協力関係」を築けるかで、分譲マンションの価値は大きく結果は違ってくることを実感します。「共有地の悲劇」を避けることの第一歩は、分譲マンションの中でのコミュニティーつくりではないでしゅか?この意味で、自分と似た世帯が入っていて、管理組合の規模が自分の希望であるかどうか、ということは、分譲マンションを選択するうえでとても大事な要素であるということです。
どうも、著者の悲観論に共鳴しすぎてしまい悲観的な書評になってしました。
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コメント
実に面白い。
いまでは分譲当初に長期修繕計画を説明され購入するのは当たり前ですが、修繕計画がないまま現在に至っている自主管理のマンションも多くあるでしょう。
地方には管理組合すらない分譲マンションもあります。
投稿: あり | 2015.03.22 11:48 午前