ここのところ構造計算が一般紙の一面でも解説されるようになりました。本日も興味深い記事がありました。」
・新宿の姉歯物件、強度不足が一転「安全」 新構造計算で @ asahi.com
姉歯案件ですので、「偽装」があった時点で厳しい評価を受けるということは当然ですし、偽装を行ってしまったと言うことは社会的懲罰を受けなければならない行為です。しかし、再再計算をしてみて必要な耐力があったということは驚きです。多分、ここでいっている耐力とは例の構造計算における許容応力度計算において、各階の保有水平耐力を必要保有推定耐力で割った数字の最小値を言っていると思われます(Qu/Qun)。それでは、再再計算に使われたという限界耐力計算というのはなんでしょうか?
私の記憶がただしければ、そもそも新耐震導入の頃には、現在用いられている二次計算、崩壊メカニズム時における許容応力度計算が「限界耐力計算」と呼ばれていたはずです(あまり自信がありません。間違っていたらご指摘ください。)。現在の「限界耐力計算」は、2000年の建築基準法の改正以降で採り入れられたと聞いております。この計算方法はかなり難易度が高く、「非線型」なプロセスをも含むためPCを使って以外は計算できないだろうと思われます。それでも、根っこの部分はそれほど変わらないはずですから、新しく設計する建物ならともかく、同じ構造物に対して構造計算を行った場合、そんなに大きな違いがでるのでしょうか?
限界耐力計算の解説のすばらしいサイトを見つけましたので、ぜひ御一読下さい。難易度はかなり高いです。これまで構造計算になじみの薄い方は、参考書を読まれてから印刷して読む位でちょうどよいでしょう。
・「限界耐力計算ってなんだろう?」 @ 株式会社 ストラクチャー
読んでみて、結構びっくりしたのは、法文で定められている条件としてはこれまでの許容応力度等計算とあまり変わらないのだというくだりです。
これを見ればわかるとおり、限界耐力計算法が従来の許容応力度計算法と違っているのは、全 7 項目のうちの 3 項目にしか過ぎません。
しかもそのうちの積雪・暴風にかんするもの(項目 2 )は、従来の荷重を割り増して終局耐力(許容耐力)内にあることを確認する、というものですから、本質的には従来の計算法の延長であり、とくに手法として目新しいものではありません。
計算方法自体も外力の作用の仕方の定義の違い以外には、あまり違いが私には理解できませんでした。出てくる数値も、複雑な計算を経ているとはいえ、要は水平保有耐力だということになるようです。私の理解力が不足しているので、なぜ再再計算で数字が違って来たのかよくわかりません。
しかし、この解説以上に面白かったのはこのエッセーです。うんうん、うなずきながら読んでしまいました。震度と構造計算に使われる水平加速度の関係についてするどくつっこみをいれてらっしゃいます。
・震度 5 強で倒壊の恐れあり? @ 株式会社 ストラクチャー
■追記 翌日
・限界耐力計算は混乱要因/「2つの標準」も指摘/JSCAが意見書 @ 建設通信新聞
やはり、並立する二つの基準の難しさが出てきているようです。建築基準法を頂点とする法令、通達、指針、基準等の構造の体系はつぎはぎを繰り返し、もはや根本からの改訂を迫られているような気がします。しかし、性能基準をいまさら取り下げることは果たして合理的な政策といえるのでしょうか?
また、保有水平耐力計算の検討結果で、すでに取り壊しの判断を下した建物との整合性を図るのも難しいとした。
記事の最後にこのような話がありましたが、まさかこれは既に取り壊してしまった建物の中にも「限界耐力計算」によってセーフと判断された建物がありうるということでしょうか?もしそうだとすれば、各地の再計算を担当された方々の責任問題につながりかねないことになります。
ちなみに、昨晩たまたまニュース番組を見ていたら、コンクリート強度が設計よりも大分大きくなっているので再再計算でQu/Qunが大分大きくなったという報道をしていました。施行時の補正と温度補正があれば、3~6ニュートンくらい大きく打設するのはあまりにあたりまえの話だとのけぞってしまいました。ま、本来「設計外の余力」といわれるべき性能ではあるのでしょう。
■参照リンク
・粘り強く耐え続ける建物を造るには 第29回 限界耐力計算の危機 日本地震情報学会
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