建築士の生産性は低下しているのか?
少々、気になることがあって、一級建築士の数と完成工事高の関係を調べてみました。
使ったデータは、経営事項審査のデータです。
- 経営事項審査結果の公表 @ CIIC(建設業情報管理センター)
ちなみに、スーパーゼネコンさんで数社結果が検索できなかったのですが、なぜなのでしょうね?許可番号で調べたつもりなのですが、どうしても見つかりません。
表中の金額の単位は千円単位です。
(単位:千円) | ||||
完工高 | 一級 | 一人当完工 | 二級 | |
大成建設 | 1,349,653,039 | 5,732 | 235,459 | 170 |
大林組 | 1,243,071,406 | 5,567 | 223,293 | 264 |
奥村組 | 241,589,183 | 1,823 | 132,523 | 20 |
錢高組 | 173,123,530 | 970 | 178,478 | 12 |
平均 | 751,859,290 | 3,523 | 192,438 | |
積水ハウス | 904,572,000 | 1,943 | 465,554 | 1,169 |
大和ハウス | 818,815,050 | 3,087 | 265,246 | 786 |
平均 | 861,693,525 | 2,515 | 365,400 | |
某A社 | 150,856 | 1 | 150,856 | 4 |
某B社 | 2,888,252 | 40 | 72,206 | 28 |
某C社 | 713,072 | 7 | 101,867 | 2 |
平均 | 1,250,727 | 16 | 108,310 | |
二級建築士の数からもわかるように、一級建築士を必要としない工事が主なのでハウスメーカーさんは例外とすると、スーパーゼネコンさんから中小建設会社まで、一級建築士あたり1億円から2億円の間の完成工事高をあげていると言って間違いではなさそうです。
今後は、この数字を歴史的にみるとどうなるかやってみました。基礎となるデータは以下の2つのサイトからいただきました。
- 建築士登録状況@ 日本建築士会連合会(資料:国土交通省住宅局建築指導課)
- 建設投資(名目値)の推移@ 建設ナビ(出典:国土交通省総合政策局 情報管理部 建設調査統計課「平成19年度 建設投資見通し」(平成19年6月 公表))
単純に登録数で建設投資額を割るとこの十数年で半分近くにまで落ち込んでいることがわかります。
対比させるために、平成4年と平成16年の値を比べてみましょう。
平成4年 | 平成16年 | |
建築投資(億円) | 839,708 | 527,766 |
一級建築士(人) | 243,906 | 316,888 |
一人当投資(億円) | 3.44 | 1.67 |
この12年間でほぼ半分になってしまったことがわかります。これは恐ろしい数字です。いくらデフレの傾向がこの期間中続いたといっても、物価が半分になったとは聞きません。基本的には、一人当たり完成工事高とは、生産性と比例するはずです。当然、生産性と年収は比例します。ということは、建築士の価値は半分になってしまったということなのでしょうか?
もっとも計算のベースにしているのが「登録者数」なので、実際に活動している一級建築士の数がわからなければ正確とはいえません。探してみたのですが、活動している建築士の数のデータは見当たりませんでした。そこで、登録人数の年間の差を取り各年度毎の建築士取得者数を割りだし、仮に取得した年齢を30歳と仮定して一級建築士の年齢階層別人数を推定してみました。平成16年現在のデータです。
50代の建築士の数が非常に多いことがわかります。そして、この数年若手の建築士の数が減っていることもわかります。
このグラフを回転したみるとぐっと実感がわきます。
あたりまえですが、日本の人口ピラミッドに非常に似ていますね。
- わが国の人口ピラミッド @ 総務省(平成12年10月1日現在)
このうちどれくらいの年齢まで現役かわかりません。若くとも建築以外の仕事をしていらっしゃる方もたくさんいらっしゃるのかもしれません。しかし、先ほど見たように個別の企業での建築士一人当たりの完成工事高と、登録数から考えた一人当たり建設投資高との間で大きな開きはないので、かなりの年齢まで現役なのかもしれません。個人によって前後するとは思いますが、仮に60歳で現役を引退すると考えてみましょう。そうすると、平成16年現在の登録数31万人に対して23万人あまりが現役活動中と考えられるかもしれません。
推定60歳以下 | |
228,574 | 人 |
推定55歳以下 | |
185,941 | 人 |
推定50歳以下 | |
134,373 | 人 |
現在、一級建築士試験には年に3000人から4000人程度の方が合格しているようなので、年間5,000人程度が減っていくと考えると、5年後には20万人、10年後には17万人と徐々に建築士の数は減っていくのではないでしょうか?そして、下がり続ける建設投資額とどこかで均衡点に達すると思われます。
- 一級建築士試験データ @ 建築技術教育普及センター
建築業界の将来を考えると現在はぎゅうぎゅうに込み合っていますし、かといって10年を過ぎたあたりから急激に技術者は減っていく状況が明確です。正直に言って少々背筋が寒いです。
今回の資料作成に使ったエクセルのファイルです。
■追記
建築士の年収についてのブログ記事を見つけました。
建築士の登録状況だそうです。
一級建築士の年齢階層別登録数を見ると、20歳代は約3,000人、30歳代は約47,000人、40歳代は約66,000人、50歳代は約101,000人、60歳以上が約106,000人であり、その平均年齢は56.2歳となっている。
(社会資本整備審議会建築分科会 第12回基本制度部会議事)
おもったよりもはるかに高齢化が進んでいるようです。私のエクセルの表と対象してみます。
私的予測 | 社会資本 | |
20歳代 | 3,000 | |
30歳代 | 59,422 | 47,000 |
40歳代 | 67,375 | 66,000 |
50歳代 | 95,992 | 101,000 |
60歳以上 | 94,099 | 106,000 |
こう眺めてみるとそう大きく外したわけではないといっても許してもらえる範囲でしょうか?
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