改正建築基準法施工後の建築とは?
早いもので、昨年6月20日に改正建築基準法が施行されてからまもなく1年がたちます。結論から、言えば建設業界もだいぶ落ち着いたなという感じがします。私が経験している案件は、適合性判定にかかるものでも一ヶ月半くらい、かからないものでは一ヶ月以下で建築確認が取得されるようになりました。多少長くなったとはいえ、それほど違和感のある時間ではなくなっています。あらためてこのタイミングで、建築基準法の改正のもたらしたインパクトとその背景について考えてみます。
そもそも、建築基準法改正で厳格化が図られた耐震基準というのはなんなのでしょうか?
日本建築学会の「市民のための耐震工学講座」にはこう書かれています。
建物をどのようにつくるかは建築基準法,建築基準法施行例,建設省告示などによって定められています。地震に対して建物をどのようにつくるかもこれらの法律などによって定められ,それらをまとめて「耐震基準」と呼びます。
今回の改正で建築基準法自体は1年以上前に制定され、公布されていました。しかし、具体的な確認申請の方法や、構造計算の詳細について出始めたのは平成19年4月を過ぎてからでした。
建築基準法というのは長い歴史の中で整備されてきたため法律単独では具体的な現場レベルの意味をもちえず、施行令や告示やなどが整備されて初めて実務に役立ちます。
リンク先の国土交通省のページには、あまり日付がはいっていません。ですから、流れがすこしわかりにくくなっています。それでも、「7.関係告示」のPDFを開いていただくと、新しい耐震基準の考え方を具体的に示している告示が平成19年5月に出ていることがわかると思います。また、「8.技術的助言」のいくつかは、6月20日前後に出ていることがわかるかと思います。いまさら言っても始まりませんが、改正の混乱のインパクトは、改正の内容自体よりもその手順にあったことは明らかです。
施工後の状況を思い出してみましょう。いま振り返ってみると、私自身を含めて今回の建築基準法の改正に対して建設業者は「確認がおりない!構造設計者が確保できない!」と騒ぐばかりでした。実際、多くの建設会社は、受注面で年間の受注量の3分の1から4分の1くらいは先送りになるか、プロジェクト自体が消滅してしまう危機に直面したのではないでしょうか?インパクトが非常に大きかったですが、それ以上に今後は改正の内容とその意図自体からこれまでとは建築のやり方の変更をせまられているように感じています。
実は、今回の改正によりより重要なポイントは、申請内容からの変更に対する厳格化だと考えます。現在では、建築確認自体は、軽微な変更についての具体的なガイドラインがだされるなど、当初とくらべてはるかに柔軟に建築確認について運用されています。それでも、この法律により、細かい現場の知恵を生かしたVE提案ができなくなったように感じています。あるいは、地盤の耐力など現場の状況というものは、建築工事をはじめてからわかってくる部分があるのですが、状況によっては十分に調査をしていたつもりであった現場でも、建築確認を取得しなおす現場もあります。
結果として、法改正に対応できずに仕事ができなくなる工務店、設計事務所が残念ながら相当数出てきています。建築確認申請後には修正ができなくなるという現行法の下では、現段階で最低設計施工という一貫した仕事の取り組みが出来ていない会社はこれからますます継続が厳しくなっていくのでしょう。結果として、かなり中堅の建設会社の数が減っていくことが予測されます。
逆にいえば、これまでよりも当初の調査や計画がとても大切になってきていると言えます。どうしても、建築の工程全体を通して、調整をくりかえしながら進めるという従来の仕事の進め方から脱却し、基本的な問題はできるだけ当初の計画にもりこみ、すべての調査を事前に終えておくという体制が肝心になります。
建築基準法が「消費者保護」を目的としているのであれば、基本的な事として、条文を民法なみにわかりやすく記述する必要があります。設計、施工者側はわかっても施主が読んで解釈できない条文では消費者に開かれているとは言えません。
■追記
さすがです。「「揺れるマンション」顛末記」から引用させていただきました。
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