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[書評]コウアン先生の人を殺さない住宅

ある方が書評されているのを見て、アマゾンで購入してからもう3年になるのに、これまで本書を読まずに来てしまいました。読まなくてはと思っていたのですが、「建築Gメン」とか、木造主体で震災を語っている本書になにか抵抗を感じ読めずにいました。

その呪縛がいつのまにか解け、つい先日都内への往復の時間で読了できました。

読んでみて、躊躇、誤解していた自分を恥ずかしく感じました。これは素晴らしい本です。認めたくはないのですが、建築屋がいただいた仕事に誠心誠意望まないと起こる結果が阪神大震災の悲劇であったのだという主張を私は否定することができなくなりました。阪神大震災で木造家屋で犠牲になられた方が一番多かったのは、事実です。当初、火災が主因だと伝えられましたが、その後の調査で家屋の倒壊そのもの、つまりは建築そのものの問題による圧死が多かったことが明らかにされたと知りました。

そうした中で、本書で語られる、ごくごく普通の住宅を作りつづけられ、長くお客様との関係を保ちメンテナンスをされた神戸のある棟梁の話に胸を打たれました。表題のとおり、170棟の建築を請け負われ、実に169棟までが震災に耐え、お施主様方が住み続けられているのだそうです。これは本当にすばらしいことです。

この棟梁の「作品」は、建築基準法が存在しない時代の建築を含み、構造の規定が「新耐震」と呼ばれるほぼいまの水準に達する以前のものが大半です。それでも、多くの建物が居住不可能になってしまう中で、この棟梁さんの仕事はすばらしい水準であったことは誰も疑問を抱かないでしょう。

戦後、神戸でごく庶民のための家を作り続けた棟梁の家は、特別な構造計算をしたわけでもなく、公的な機関による検査もろくろく実施されていなかったにもかかわらず、170棟の169棟までは地震によっても住み続けられたのはなぜなのでしょうか?

コウアン先生の主張は明快です。

真っ当に建てるとは、特別な技術を必要とするという意味ではない。現行の建築基準法並びに同施行令で十分である。加えるとすれば、JASS(日本建築工事標準仕様書)か住宅金融公庫の標準仕様書程度の施工内容で足りるのである。

この本は96年に書かれていたにも関わらず、建築界隈の動向はコウアン先生が心配されている方向へ進んでいます。それも、十分に阪神大震災の教訓は、いかされず一番問題であるはずの木造の住宅を「既存不適格」という名前のもとにますます取り残したままに。

96年以降に何が起こったかは誰もが知っています。ひとつは、これでもかといわんばかりの法律の改正でした。特にいち建築士が起こした大騒動に対する法律体系の改正のインパクトはいまも建設業界、関連業界をゆるがし続けています。建築基準法単体でも、ちょうど1年前の今日、6月20日に施行された改正建築基準法に関するアンケートが各誌で取り上げられています。

実は、私たち建設業者が阪神を真剣に反省して、とりもどすべきだったのは仕事に対する誠意ではなかったのでしょうか?問題を数年前に起こしてしまった建築士を建設業界が産んでしまったのは事実です。それは、建設業界の常識が、一般の方から期待される安心安全な建物を作り続けられる水準ではなかったということです。本来は、コウアン先生の棟梁のような気持ちでみな建築の仕事に取り組んできたのだと私は思います。それがいつのまにか、経済システムに取り込まれ、ローンを生むため、官庁の仕事を作るための「主要産業」になってしまいました。経済の大幅なアップダウンであったバブル崩壊後、ますますの契約単価への要求への対応、経済政策にふりまわされ、他にもあったさまざまな課題の前で、建築関係者は、顧客の安心満足と安全をほんとうに第一してきたといえるのでしょうか?次第次第に姿を変える法律によって自縛自縄の状態に陥る前に、やるべきことがあったのではないでしょうか?建築業界が大幅に縮小せざるを得ないいまこそ私たちが考えるべきことはこの本の中にあるように思えてなりません。

間違いなくお客様自身とお客様の家族が幸せに暮らしていただくための住まい、そして繁栄していたくための職場のハードの場を提供するのは、われわれ建築屋の仕事です。その大切なお客さまのお住まいや仕事の場が震災や火災により失われてしまうということは、どれだけの悲劇でしょうか?自分たちの仕事がスムーズに動いていかないことを嘆き、単価競争に走る前に、お施主様の幸せを第一に考えるべきであるのは論を待ちません。

 

蛇足ですが、コウアン先生がしきりに木造住宅の基礎の固定の程度について疑問を呈していらっしゃいます。これは神戸震災がきっかけとなってできたE-ディフェンスで実験によって確かめられているように思います。

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建設会社内のコミュニケーションって?

毎朝、全社員に向けてメールを書きます。これだけはずっと続けています。朝礼で話した内容、連絡事項などを10分くらいでばばばっと書いて送ります。

普通の会社さんにお勤めの方にはあきれられるかもしれませんが、私の会社で朝礼に出る社員は全社員の半分くらいにすぎません。工事担当部署だけで数えれば、三割以下である朝礼もすくなくありません。どうしても、現場に直接出社することが多いので、現場担当者は社員と接するよりも協力業者さんと接することが多くなりがちです。この辺は、建設会社独特の悪しき慣習です。

どうやって会社の目指している方向を一人一人の社員に伝えるのかが、建設屋の社長の悩ましいところです。毎日書いてはいても、メールは決してベストの手段ではないです。できれば、毎日現場を回って移動朝礼をしたいくらいなのです。古いスタイルかもしれませんが、飲ミュニケーションが建設業界ではまだまだ大切なのかもしれません。

それにしても、建設業界ほど人の話をきちんと聞く技術が大切な仕事はないと思うのですが、いまだに建設業界におけるコミュニケーションをきちんとまとめた技術としてまとめたという話を聞きません。チャレンジしなければならない課題です。

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「建築物の耐震改修の促進に関する法律」って?

どうしても想いは厳しくなるばかりの建築基準法に行ってしまいます。

既存不適格の問題です。

一番の問題は「既存不適格」の問題です。昭和40年代に建築基準法が定められた時に、法律は施行以前に遡及して適用されないのが原則とされました。その時点で建っていた建物には適用されませんでした。日本の木造については、当時、寿命が20年以下とも言われていましたのでそう遠くない将来にすべて建て替わ るだろうと思われていました。しかし、住宅情報提供協会さんのホームページにもありますように、まだ1000万戸以上が不適格のまま置かれているというのが現状のようです。(「改正建築基準法ってなに?」 @ KEN)

既存不適格になった建物は、耐震性だけではなく防火や換気、採光についても問題を抱えています。すべてを一気に現行の法律なみにしようとすると、改修には非常に大きなコストがかかります。

先日、「ナショナルジオグラフィックチャンネル」で「阪神・淡路大震災」についての分析を行っていました。番組によると一般に火災で亡くなったと信じられてきた方の多くは、実際は木造家屋の倒壊による圧死だったことが明らかになっているそうです。

やはり、最優先は耐震性です。

たまたま、「建築物の耐震改修の促進に関する法律」について必要があって調べたので書きます。

第一項の申請に係る建築物の耐震改修の計画が建築基準法第六条第一項 の規定による確認又は同法第十八条第二項 の規定による通知を要するものである場合において、所管行政庁が計画の認定をしたときは、同法第六条第一項 又は第十八条第三項 の規定による確認済証の交付があったものとみなす。この場合において、所管行政庁は、その旨を建築主事に通知するものとする。

「確認済証の交付」とは、いわゆる「建築確認」です。つまり、耐震改修の計画の認定を受けらられれば建築基準法すべての規制をクリアしなくとも、耐震補強工事と増改築が認められうるということです。一見すると第八条は学校や病院などの耐震改修法上の特定建築物でなければ受けられないように勘違いしがちですが、一般の住宅などでも適用可能です。

第8条の流れは、非常に込み合っていまして、なかなか理解できません。鹿島さんのホームページで見事にフローチャートにまとめられていました。

ただし、話は奥が深くて、同法の施行規則などを追っていくと、計画の認定を受けるためには、保有水平耐力計算をした結果を計画書に盛り込まなければなければならないなど、通常の建築確認では、中高層建築物なみの構造設計をやりなおさなければならないとされています。それだけ厳しい構造の確かめ方をしなければならないので、いわゆる4号建物と言われる木造住宅など、もともと構造計算をしていない木造住宅などへの適用は難しいかもしれません。耐震調査をし、十分な耐震補修をしようとするのはなかなか大変そうです。

それでも、現実に建てられている1000万棟ともいわれる既存不適格建物に耐震補修の道を開いたという意義は改めて大きいです。

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