建築基準法の変遷ってなに?
仕事で資料を探していて、たまたま「建築基準法の変遷」について読みました。建築基準法が本来めざしたものの姿がここに書かれているように感じたのでぬきがきさせていただきます。
建築設計基準 改訂版 新建築社 1996-01 by G-Tools |
建築基準法は、「市街地建築物法」という昔の法律ととってかわるために作られました。この本では旧法との比較を行っています。こういう対比を恥ずかしながら初めて読みました。
この法律(建築基準法)と従前の「市街地建築物法」との主要な相違箇所を列記して、建築基準法の立法精神を明らかにしておきたい。
と、書いていらっしゃいます。
①適用区域・・・・・・従来は主務大臣が「市街地建築物法」適用区域として指定した区域に限って適用されていたが、この基準法においては建築物の安全性に関する単体規定(第二章)は全国どこにおいても適用され、都市計画的な集団規定(第3章から第7章まで)は都市計画区域内にだけ適用されることになった。建築する際全国どこにでも手続きのいるのは特殊な用途の建築物及び大規模な建築物等で、その他の小規模な一般建築物は、都市計画区域内と知事の指定した区域内のみ手続きがいある。(6条)
単体規定ではwikipediaの建築基準法の項目の言葉を借りれば、「個々の建築物及び建築物の定着している敷地が他の建築物や敷地に依存することなく単体で恒久的に安全・快適さを維持機能しつづけていくために必要な最低限度の構造が規定されて」います。
要は、単体規定とは、建築物として最低限守るべき性能の規定であるということです。
同じく、wikipediaの建築基準法の「『最低の基準』の意味」の項目に書いてありますが、「建築基準法というものは自由に建築を行う私人の権利を公権力によって制限しまたは規制して社会の秩序を保とうとする性格を持つ法律であるから、その制限については憲法13条に基づき、必要最小限のものでなければならないという理念」であり、本来建築物をどう建てるかというのは、私権であるわけで、どのような建物を建てようと施主と請負者の契約次第であろうということになります。
ただし、誰でも勝手に建築をしたのでは建物が密集する市街地において、火災がおこって延焼するおそれや、地震で倒壊するときに隣の建物にも被害を及ぼす可能性もあるので、単体規定や集団規定が定められたというわけです。
次に「変遷」ではこう述べられています。
②権利義務に関する重要事項の法定・・・・・・従来の「市街地建築物法」では法運営上の権限が広範に大臣や知事に委任されていたが、本法は国民の権利義務に関する重要事項ができる限り具体的かつ詳細に規定してあり、これらの条項の実施上、または補足的に必要な技術的事項・手続き規定のみが政令と省令に委任されている。
ここの部分にびっくりしました。
前回建築基本法について調べたことを書きましたが、基準法が制定された当時は基準法こそが広く国民に同意されうる「基準」を謳うことを使命としていたわけですね。もし、基準法を読んでいただければお分かりいただけると思うのですが、すでに建築基準法施行令と渾然一体となっていて、NIKKEI BPの記事へのコメントでも書かれていましたが、非常に一般の方にはわかりずらい表現になっています。
つまりは、本来の基準法の使命に立ち返る抜本的な改正が行われれば「建築基本法」を改めて制定する必要はないということになります。
つぎの③の項目では、地方自治体への権限の移譲について書かれています。今回の私のエントリーの主旨と外れるので、飛ばします。
④建築主事の確認と建築手続きの迅速化・・・・・・建築手続きは従来の原則的な知事の許認可が本法では建築主事の確認を受けることに変わった。確認とは建築基準法および関係の法令の定める基準にその建築物が適合しているかどうかを確かめることで、従来の許認可制に比して自由裁量の余地も狭く、ために法運用の明確化が図られた。また確認事務の処理期間は他庁への同意期間もふくめて、特殊な建築物では21日以内、一般小規模建築物では7日以内以内となっているので建築手続きも迅速化された。(6条)
本来、旧法では市街地内での建築物は「許可制」であったとは知りませんでした。
建築基準法において「許可」から「確認」に変わった時点で、行政はまったく建築物に責任を負わなくてよいということになったと理解するのは間違いでしょうか?
建築屋の社長風情が言うことではありませんが、それでも「許可」制だった当時の行政側の「責任」感が残っていて、微に入り、細に入り、窓口における法的な根拠が必ずしも明確でない「裁量」行政、指導が行われているのがこれまでの法運用であったのだと感じました。
建築基準法の誕生までさかのぼるとなぜいまの建築関連の法体系が作られたのか理解できました。まだ「変遷」は続きます。実体規定など、ここまで戻ると本来法律がなにを規定したかったのかを理解できます。
まとまりませんが、一旦このまま公開させていただきます。またあとで加筆訂正するかもしれません。
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コメント
はてなのvohowoです。
行政官の責任感は許可と確認では異質で、許可ならばその建築物について自らの責任において仕事されるでしょうが、確認ならば法に照らし合わせるだけの書類の事務処理だけの仕事であり、その建築物について意識が向かい難いように思いますね。そういう意味で確認制度は責任を追求し難い制度かも知れません。法的な賠償責任については確認でも許可でも変わりないように思いますが、どうでしょうか。
投稿: vohowo | 2008.10.07 09:51 午後
vohowoさん、おはようございます、
建築確認の本来の趣旨からいってもあくまで「形式的」にかつ「法律の適合性」のみをチェックすることが求められているだけなのではないかと理解しました。あくまで、建物に関する責任は設計者、施工者、監理者、場合によっては施主にあるのだと私は思っています。なぜなら、財産である建物は私有物であり、「民事不介入」ではないのですが国や地方政府が責任をとるべき筋のものではないと考えています。
責任を取る必要がない以上、逆に言えば行政の建築物への介入は最小限になるべきだではないでしょうか?他への迷惑になる団体規定を除けば、建物の品質については民間で担保できるような体制、いわば「相互不信頼」に基づく契約慣行とされるべきではないかと、WTOの話を聞いてから改めて思っています。
http://hidekih.cocolog-nifty.com/ken/2008/09/post-f90d.html
投稿: ひでき | 2008.10.08 11:56 午前
はじめまして!
国内外の建設工事のプロジェクトマネジメントの相違について、日本では信頼の領域から始まり、海外では、相互不信頼のから始まり相互信頼に発展すると言われていますが、このことについて意見はございますか?
あと、僕は将来海外で働きたいと思うのですが、海外で通用するプロジェクトマネジメントに要求される能力、英知について教えてください。
投稿: 太田光貴 | 2008.12.12 01:37 午後
太田光貴さん、おはようございます、
遅い遅いレスすみません。
私は残念ながら海外プロジェクトの経験はありません。草柳先生はかなり海外プロジェクトの「猛者」でいらっしゃいます。
http://hidekih.cocolog-nifty.com/ken/2008/09/post-f90d.html
ぜひぜひコンタクトをとられてみてはいかがでしょうか?
投稿: ひでき | 2009.03.09 08:37 午前