建築基本法ってなに?
昨日、希望社さんの「建築基準法再改正を考える集い」に参加させていただいてきました。
耐震偽装問題や改正建築基準法がもたらした未曾有の混乱は、建築基準法制定から60年間、根本的な改正を図らなかったことによるものです。呼びかけ人である草柳俊二氏(高知工科大学教授)、木下敏之氏(木下敏之行政経営研究所・前佐賀市長),弊社会長桑原耕司、参加者の間で自由に意見を交わし、法再改正の声を発信しましょう。
いや、もうほんとうに我が意を得たりという気持ちでした。今回の建築基準法の改正施行により生み出された混乱にどう対処すべきなのか、系統だった提言がなされていないのが私には残念に思えてなりませんでした。何度かこのブログでも書いてきましたが、いわば後出しじゃんけん状態で、施行直前になっていきなり出された告示と、法施行後の変更、そして、主に自治体窓口などでの過剰な反応など、いろいろなことがあったのが思い出されました。しかし、なぜそのようなつけ刃的な対策しかとられなかったのかという根本的な原因についてはほとんど言及されてこなかったのではないでしょうか?
- 改正建築基準法施工後の建築とは?@ 建築屋の社長ブログ
それは建築基準法の法体系に哲学がないからだというのが、昨日の会合に参加させていただいた私の結論です。建築基準法の法体系の中で、その目的と基準について書いてあるのは第一条だけです。
第一章 総則
(目的)
第一条 この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする。
「最低の基準」とはなんでしょうか?誰にとっての「最低の基準」でありましょうか?「国民の生命、健康及び財産」を保護するとは、どこまで保護されるべきなのでしょうか?基準を満たし、保護するコストは誰が負担すべきなのでしょうか?この崇高な目的を誰と誰と誰がどのように果たすべきなのでしょうか?この法律の責任を誰がとるべきなのでしょうか?
こうしたごく基本的な問いに建築準法は口をつぐみ、あとは諸規制と、行政機関と、技術的判断についてのみえんえんと描かれています。
今回のディスカッションでも、裁量行政の問題や、構造計算上の問題、そして住宅の瑕疵担保の問題などさまざまな個別の現場での問題が共有されました。いつか書こうと思っていますが、来年は確認渋滞ではなく現場検査渋滞が起こるだろうという話も出ました。こうした個別論によって法を変えることは非常に困難です。たとえば、先日あるトラブルを経験した法的には根拠をいまのところ持たない日本建築行政会議の見解と窓口での実際の指導との関係を基準法的に明確にすることすら何年もかかるでしょう。
会場に建築基本法制定準備会の方々もこられていてフリートークでお話をされていました。事前に、gskayさんの記事で予備知識はあったのですが、混乱するつぎはぎだらけの建築基準法を改正する背骨として位置づけると見かたが変わります。
- 建築基本法 @ 揺れるマンション顛末記
準備会さんのホームページに「建築基本法の提案」というPDFファイルがありました。まだまだ議論したいところはいっぱいありますが、今後の建築法規体系の基準を定める基準について書かれています。今後を期待したいです。
- 建築基本法の提案 @ 建築基本法制定準備会
もし最初に書いたように法体系によって施主と設計者と施工者と行政との役割と責任が明確になり、そもそも「建築確認」とはどのような行為なのか、そこで実現すべき「基準」はどの水準であるかが明確になれば、「基本法」に合わない建築基準法とのその関連法規は見直され、改正されるべきだという位置づけになるでしょう。そこには、日本の国民レベルで実現すべき水準が明確にされるべきです。
私の考えは建築屋の社長としては少々理想論すぎると思うのですが、施行後60年を経てぼろぼろの雑巾よりもつぎはぎだらけにされてしまった建築基準法関連法規を見直すには、その「憲法」ともいうべき理念が必要なのではないでしょうか?さもなくば建設関連業界は混乱の中で、必要な建築物の更新はなされず、長い目で見た時の住宅の水準は落ち込み、価格は高騰し続けることになり、最終的には老衰死に陥るでしょう。「新しい構造技術者が誇りを持ってこの仕事につくことができる環境がどうしても必要だ」と叫ばれていた参加者の方の声が忘れられません。
「集い」では、桑原会長をはじめとする希望社のみなさん、草柳俊二先生、元佐賀市長の木下敏之さんに大変お世話になりました。御礼もうしあげます。改めて、感想をまとめたいと思います。
■参照リンク
- 建築基準法再改正を考える集い @ 松阪市議会議員 海住恒幸 Report
- 建築基準法改正リンク
- 改正建築基準法の再改正を考えてみませんか? @ データマックス社
- 錯覚を国民に与えています @ vohowoさんの日記
- 検査不況? @ 木下敏之の再チャレンジ日記
■余談
お役人の行動を変えていただくのは法律、法律を変えていただくのは政治家の方々、政治家の方々といえば選挙、選挙といえばマニフェスト。ということで、どこかの党で「まじめにやっている地域の建設会社と設計者にやさしい建築法体系を作ります」とかマニフェストにいれていただけるとぐっと選挙に熱がはいりますよねとつぶやかせてください。
- 建設業の方々の話を聴かせていただきました @ 民主党参議院議員 ふじすえ健三公式サイト
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コメント
今晩は。木下敏之です。
昨日の建築基準法再改正を考える会では、色々と業界の生の声を教えていただき、誠に有難うございました。
昨日の会合は、私にとって、まだまだ日本人も捨てたものではないなということを再確認できて、とてもハッピーな会でした。
岐阜という町で開かれた会合に、全国各地から建設業界の方や建築基本法制定に取り組んでいる弁護士さんなど参加されれていたのですから。
KEN様の今後のご活躍をお祈りいたします。ではまた。
投稿: 木下敏之です。 | 2008.09.14 10:33 午後
木下さん、
コメントありがとうございます。
私もこころある方がいらっしゃるのだと、会に参加させていただき大変うれしくなりました。
ご著書も読ませていただきました。また、改めて建築屋の社長的観点から感想をご報告させていただきます。
とにもかくにもびっくりしたのは、人事評価、勤務評定が市役所などでほとんど行われていないという事実です。21世紀の日本の話とはとても思えません。まだそれだけお役所の労組は強いということなのでしょうね。ご苦労がしのばれます。
投稿: ひでき | 2008.09.14 11:05 午後
ブログへのトラックバックありがとうございました。
なんだか、勉強になりそうなブログですね。
わたしはこの分野素人なので、いろいろ教えてきただけるとありがたいです。
投稿: 海住恒幸 | 2008.09.15 07:01 午前
海住恒幸さん、おはようございます、
コメントありがとうございます。
私も木下さんの本を読んでいます。大変勉強になっています。
多くの市役所では人事評価、勤務評定がなされていないというのはほんとうなのでしょうか?びっくりしています。
投稿: ひでき | 2008.09.15 09:10 午前