建築構造の常識とは?
「建築の構造の常識」ってなんなのか日々自問自答しています。自分に問わざるを得ません。finalventさんのエントリーを拝読して、改めてこれは難しい問題だと思いました。
建築構造がどうあるべきかは、建築基準法に書いてあるだろう、と一般に言われます。確かに、建築基準法に建築構造の「基準」は示されています。しかし、あくまで大きな枠組みが示されているだけであって、特に詳細については今回の改正で多くの規則が導入される以前には、基準の詳細を民間の団体の基準を暖用していていました。官庁の側には建築構造の専門の方があまり在籍されていないこともあって、構造基準の解釈の多くの部分は、構造設計者の「常識」にまかされていました。それではいかんというので、適合性判定という新しい制度を導入してまで構造のチェックを行うようになりました。いまから考えれば、建築確認は確認にすぎないという立場を守るためには、従来の確認制度とは別の制度を作らないと、これまでの「確認」制度とはなんであったのか問われることになるという判断で新制度の導入になったのかもしれません。
大規模な超高層建築物ならともかく、私ふぜいが建築屋の社長としてかかわる規模の建物に関して、これまで新しい制度で経験してきた感想としては、新しい制度は時間がかかるわりには、建築物の質が格段に向上した感じがしないです。また、建築を依頼される方の多くは、新しい制度で指摘を受けるような構造のごくごく一部分の「こだわり」よりは、コストパフォーマンスのバランスに関心を向けていらっしゃるように感じます。つまりは、建築構造は大騒ぎになったわりには、構造をがちがちに向上させることに関心が向いていません。正直、構造基準をこれ以上厳格化してコストがあがり、建物がたてにくくなり、既存の建物が不適格の烙印をおされるのはもちろん、増改築が不可能になることは社会的な負担以外のなにものでもないのではないでしょうか。まして、今回の不況でますます建築コストへの要望が官庁も含めて強くなっているように感じています。
東京財団というところが、構造強度などを選択的に選べるようにすればよいという提言を出しています(参照)。質的なランク付けは住宅性能表示制度(参照)ですでに実現されているといえばされているといえます。これも私ふぜいがかかわる建築物では、住宅性能表示を使うことはまれです。質的向上へのインセンティブをという提言ですが、人々の関心がそちらへ向いているのでしょうか?
昔、構造設計者のトップに立った方が「英国では建築構造の基準について大きな議論と問題があり、結局政府レベルでの規制はやめた」と書かれた文章を読みましたが、その後ネットでいくら探してもそのような話は出てきていません。どちらかというと、英国、米国のregulationとか、codeとかを読んでいて感じるのは、「コストとの見合い」あるいは「コストダウン」というやはりどこへいっても建て主側の関心はコストパフォーマンスなのだということです。
正直に言いまして、地震という非常に予測しにくく、べき乗則的なふるまいをする現象に対して絶対安全な建物というのは存在しないと私は思っています。地震が右から来るのか、左から来るのか、横揺れか、縦揺れかでも違います。構造設計においても、一定のところから先は建物自体が非線形なふるまいをすることが知られています。先の構造設計者が英国に託して発言したこともよくわかるのです。この事実は、耐震実験の様子を見ていてもよくわかるのではないでしょうか。
元に戻って朝日新聞の社説のここの部分がなにを言いたいかよくわかります。
ホテルの1階は強度の強い壁がないピロティ構造だった。阪神大震災でこのタイプの多くのビルがつぶれた。2階から上は、真ん中の廊下を挟んで部屋が向かい合っている。壁が廊下で分断されていれば強度は落ちる。 (参照)
前回の建築士一級の試験でもこのままの構造体が問題として出題されていました。建築行政に関してこの手の建物を「常識はずれ」にする大きな動きがあることをよく示しています。しかし、このごく一部を問題にするよりも、建築全体として数多くの既存不適格建築物の問題や、密集地の問題、あるいは過疎によりメンテナンスできなくなる地域、コストパフォーマンスとしてみた場合の、ユーザーである建築主の利益をもっと大きなフレームで見る必要があるように私には思えてなりません。
改めて、建築構造の常識とはなんなのでしょうか?私もぜひこの問いをいろいろな方に聞いてみたいです。
■参照
「揺れるマンション」顛末記の中の方が書いていらっしゃることがとても救いです。
守るべきはあくまで市民生活であると私も思います。
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