構造計算の基本ってなに?
諸事情があって建築構造の勉強をし直しています。集中的にやるといままでばらばらであった構造力学と各種構造が一体のものだと感覚的なのですが、見えてきました。
ルート1とか2とか、限界耐力計算とか、梁と柱の接合など、いろいろな構造設計方法とその検証方法はあります。構造力学の基本を考えれば、さまざまな方法も次の3つの応用につきるのではないでしょうか?私は建築関係者とはいえ、構造設計そのものを経験しているわけではありません。以下の記述には間違いがあるかもしれません。その時は、そっとコメントなどでご指摘いただけるとうれしいです。
- A. たわみの公式 = モールの定理
- B. 軸力、せん断力、モーメント = N図、Q図、M図
- C. 全塑性モーメントと降伏ヒンジ = C=T
最初はモールの定理です。Wikipediaの記事は、英語版のWikidpediaから翻訳しました。記事のあたまに注意書きがあるように、まだ翻訳の途中ではあります。
Wikipediaの記述だけではわかりにくいかと思いますが、モールの定理とは基本的に梁に荷重がかかったときにどれくらいその梁たわむかを計算する方法です。Wikipedia に載っている各梁部材にせん断力、モーメント、たわみが順便に書いてあります。基本的にはてこの原理で、力とその作用点からの距離をかければそこにかかるモーメントが求められます。しかし、現実には梁の両端の固定具合によりたわみの仕方も変わります。そこで、力の作用点から各点への距離に応じた力の三角形のようなモーメント図を書くと、あらふしぎその面積がたわみ角になり、その図形の面積と図形の重心からの距離をかけるとたわみになるというのが基本的な考え方です。ほんとうに狐につままれたような話ですよね。たぶん、微分積分に明るい方は式を見るだけでなぜこういう式が求められるのか、おわかりになると思います。
私のわかりずらい解説よりも、こちらのサイトの非常に懇切丁寧な解説の方がよいと思います。
柱にしろ、梁にしろ、荷重がかかれば現実の部材はたわむわけです。このたわみをいかに許容範囲にするのかがまず第一の構造設計の課題。そして、地震や雪や風の力も力には違いありません。それらの力を、きちんとニュートンという力の単位であらわしてやればその建物が、たとえば各階別にどれくらいたわむかが求められます。この各階の層間変位といいます。これが何に役立つかというと、かなり複雑な許容応力度等計算とか水平体力計算とか限界体力計算などでも、結局はこの層間変位を200分の1とか、120分の1とかにコントロールするかに尽きるわけです。
(層間変形角) 第八十二条の二 建築物の地上部分については、第八十八条第一項に規定する地震力(以下この款において「地震力」という。)によつて各階に生ずる水平方向の層間変位を国土交通大臣が定める方法により計算し、当該層間変位の当該各階の高さに対する割合(第八十二条の六第二号イ及び第百九条の二の二において「層間変形角」という。)が二百分の一(地震力による構造耐力上主要な部分の変形によつて建築物の部分に著しい損傷が生ずるおそれのない場合にあつては、百二十分の一)以内であることを確かめなければならない。
@ 建築基準法施行令
この意味でモールの定理がすべての構造計算の第一歩なのではないでしょうか?
次に力をあらわすN図、Q図、M図です。
エクセルでささっとかいたものなので、非常にわかりずらいと思いますが、左から加わる力に対して、各柱にせん断力QがかかりモーメントMが生じるということを表しています。ここですごいのが、柱の上下にかかるモーメントを柱の高さでわるとせん断力Qが求められるということです。
(125kN・m+125kN・m) ÷ 5m = 50kN
50kN × 2本 = 100kN
もちろん実際は逆に力が二本の柱に等分にかかるので50kNのせん断力。そして、このせん断力からモーメントMとなるわけです。根本にかかる力とかいろいろあるのですが、単純化していってしまえばここに尽きます。
そして、梁に対してもどうように右と左で125kNずつかかるわけですから、梁のせん断力Qが梁の長さで割ってやればもとめられます。これでほぼすべてなのです。仮に梁の長さを8mとします。
(125kN・m+125kN・m) ÷ 8m = 31.25kN
ということは、梁に上下にかかるせん断力が31.25kNとなり、この力は接続しているさきほどの右、左の柱に伝わります。柱に伝わった力はそのまま柱の軸の方向に柱を押しますので、軸力となります。
かなり複雑な建物でも、この門型ラーメンにかかる力が求められればその組み合わせで求められます。先ほどのモールの定理とあわせて、かかった力が相互に作用して、モーメントがせん断力となり、せん断力が軸力となるわけです。あるいは柱と梁で拘束しあっているといってもいいかもしれません。つまりは、建物はお互いに力を掛け合うことによってバランスを保っているといってもいいかもしれません。
基本的には、この門型ラーメンの組み合わせでほとんどの建物に働く力が解析できるといってもいいかもしれません。そして、力が決まれば先ほどのモールの定理で部材の変形ができ、繰り返しますが層間変形角が求められます。
そして、最後の全塑性モーメントです。ひずみまでは柱や梁が破壊しないことを前提にしています。塑性状態とは、もはや元にはもどれないまでも接点を結びつけておけるとか、モーメントは伝えられなくとも軸力だけは伝えられるといった状態をいいます。これも外力と内力という門型ラーメンにかかった力とそれぞれの部材の全塑性モーメントを使って求めることができます。先ほどの門型ラーメンの各接点のよな剛な接点は、軸力も、モーメントも、せん断力も柱から梁、梁から柱へ伝えられます。塑性状態では、モーメントやせん断の力はもはや伝えられません。それでも、引っ張りと圧縮はつりあっているというのが大きなポイントです。これが大きな地震がかかった時に建物がどういう性状になるのかを求める二次計算の基本です。
耐震偽装事件で問題になったのもこの塑性状態になって、剛なままでは吸収し切れなかったエネルギーをヒンジが生成することで建物の骨組みが一時的には耐え、人の命は守るという考え方です。この三角形の部分は剛のままでは突然星印のところで崩壊してしまうところを、途中からヒンジができることによりこの台形の部分に移行して大きな変形にも耐えられるようにするというのが、当初数値ばかりが一人歩きしましたが、必要保有水平耐力、Qu/Qunというものの考え方です。
いつぞやこのブログでも、リンクを掲載したe-ディフェンスなどの動画を見るとヒンジと全塑性状態というものがどのようなものかご理解いただきやすいと思います。
構造の基本とはこの3つだということがおわかりいただけたでしょうか?あとは、求めたい建物にどのような力や荷重が働くかを求めれば、自然と構造設計、構造計算ができることになります。まだ、この程度だと仮定断面といわれる企画設計レベルをするのに必要な荷重や軸力、せん断力、モーメントまでしかもとめられませんが、複雑な構造計算も基本はここからです。この3つを理解できれば、あとは部材の設計の基本的な考え方も理解でき、構造プログラムの結果も読めるようになるはずです。
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